ミオクロニー欠神てんかん(指定難病142)
○ 概要
1.概要
主症状はミオクロニー欠神発作(意識は曇り、両上肢を中心とする四肢の律動的なミオクロニー性攣縮と強直性収縮を特徴とする特異な発作型)であり、強直間代発作も認める場合がある。てんかんの平均発症年齢は7歳(11か月~12歳6か月)で、特徴的な脳波異常を伴う。様々な程度の知的障害や行動障害を伴うことがある。
2.原因
原因は不明であり、遺伝子異常の報告もあるが,疾患特異的なものはない。
3. 症状
① ミオクロニー欠神発作:発作開始と終了は突然で、持続時間は10~60秒程度とされる。頻度は日に数回からしばしば何十回となる。程度が様々の意識のくもりと律動性の強いミオクロニーが明らかな強直性収縮を伴うことが特徴で、ミオクロニーは主に肩、上肢に強く、時に下肢にもみられることもある。付随する強直性収縮のために、腕のミオクロニーでは段付きに上肢が挙上する。立位の場合、姿勢により転倒することもある。呼吸の変化や尿失禁などの自律神経症状もみられることがある。
② 希に全般性強直間代発作を伴う。
③ 様々な程度の知的障害(70%)や発達障害、行動障害を伴うことがある。
4.治療法
バルプロ酸、エトスクシミド、ラモトリギンをはじめ種々の抗てんかん薬が用いられる。発作は、抑制される場合もあるが、おおむね難治であり、知的障害・行動障害については効果が無く、外科治療は無効である。
5.予後
治療抵抗性であるが、長期的には寛解する症例もある。しかし、発作が抑制されても、発達正常域の症例はいない。
○ 要件の判定に必要な事項
1. 患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満
2. 発病の機構
不明(現在のところ、共通した遺伝子異常等は知られていない。)
3. 効果的な治療方法
未確立(対症療法として抗てんかん薬治療が行われるが、奏功しない場合も多く、知的・行動障害には無効。)
4. 長期の療養
必要(生涯持続する。)
5. 診断基準
あり(研究班作成の診断基準あり。)
6. 重症度分類
精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分及び障害者総合支援法における障害支援区分における「精神症状・能力障害二軸評価」を用いて、以下のいずれかに該当する患者を対象とする。
「G40てんかん」の障害等級 |
能力障害評価 |
1級程度の場合 |
1~5全て |
2級程度の場合 |
3~5のみ |
3級程度の場合 |
4~5のみ |
○ 情報提供元
「希少てんかんに関する包括的研究」
研究代表者 国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター 客員研究員 井上有史
研究協力者 国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター 小児科医長 池田浩子
<診断基準>
ミオクロニー欠神てんかんの診断基準
A.症状
両側同期性、左右対称性の律動的な3Hz棘徐波複合の脳波に伴い、近位筋優位に上肢を中心とする四肢の律動的なミオクロニー性攣縮と強直性収縮を特徴とする特異なミオクロニー欠神発作をもつ。知的障害を伴う。
B.検査所見
1. 血液・生化学的検査所見:特異的所見なし。
2. 画像検査所見:特異的所見なし。
3. 生理学的所見:脳波とポリグラフ
発作間欠期脳波:背景活動は正常だが、まれに徐波化傾向を認める。全般性棘徐波がみられることもあるが、焦点性・多焦点性棘波もあり。
発作時脳波:3Hzの両側同期対称性の棘・徐波律動が典型的。ポリグラフではミオクロニーと棘波成分は時間的に一致しており、ミオクロニーは強直性筋収縮を伴う。
4. 病理所見:異常が指摘されたことはない。
C.鑑別診断
小児欠神てんかん、若年ミオクロニーてんかん、レノックス・ガストー症候群、環状20番染色体症候群などを鑑別する。
D.遺伝学的検査
背景疾患を評価するためにも、染色体検査を実施する。
<診断のカテゴリー>
A.症状から本疾病を疑い、B3発作時の脳波所見、及びCの鑑別を行い確定する。
<重症度分類>
精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分及び障害者総合支援法における障害支援区分における「精神症状・能力障害二軸評価」を用いて、以下のいずれかに該当する患者を対象とする。
「G40てんかん」の障害等級(※1) |
能力障害評価(※2) |
1級程度の場合 |
1~5全て |
2級程度の場合 |
3~5のみ |
3級程度の場合 |
4~5のみ |
「G40てんかん」の障害等級(※1)の等級を確認し、能力障害評価(※2)の該当性を確認する。
※1 精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分
てんかん発作のタイプと頻度 |
等級 |
ハ、ニの発作が月に1回以上ある場合 |
1級程度 |
イ、ロの発作が月に1回以上ある場合 |
2級程度 |
イ、ロの発作が月に1回未満の場合 |
3級程度 |
「てんかん発作のタイプ」
イ 意識障害はないが、随意運動が失われる発作
ロ 意識を失い、行為が途絶するが、倒れない発作
ハ 意識障害の有無を問わず、転倒する発作
ニ 意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作
※2 精神症状・能力障害二軸評価 (2)能力障害評価
○判定に当たっては以下のことを考慮する。
①日常生活あるいは社会生活において必要な「支援」とは助言、指導、介助などをいう。
②保護的な環境(例えば入院・施設入所しているような状態)でなく、例えばアパート等で単身生活を行った場合を想定して、その場合の生活能力の障害の状態を判定する。
1 |
精神障害や知的障害を認めないか、又は、精神障害、知的障害を認めるが、日常生活及び社会生活は普通に出来る。 |
2 |
精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に一定の制限を受ける。 |
3 |
精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に著しい制限を受けており、時に応じて支援 を必要とする。 |
4 |
精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に著しい制限を受けており、常時支援を要する。 |
5 |
精神障害、知的障害を認め、身の回りのことはほとんど出来ない。 |
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続す
ることが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
- Bureau M、 Genton P、 Dravet C、 Delgado-Escueta A、 Guerrini R, Tassinari CA、 Thomas P、 Wolf P編集、井上有史監訳。てんかん症候群-乳幼児・小児・青年期のてんかん学- 第6版 ミオクロニー欠神てんかん。中山書店、2021、pp326-330
- 藤原建樹、他:ミオクロニー欠神てんかん。清野昌一、他(編)、てんかん症候群 1998;283-287
- 池田浩子、他:ミオクロニー欠神てんかんの臨床症状と経過。脳と発達 43: 14-18、 2011。
池田浩子.ミオクロニー欠神発作を伴うてんかん.てんかん症候群 診断と治療の手引き.日本てんかん学会(編).メディカルレビュー社,2023;69-71.