肋骨異常を伴う先天性側弯症(指定難病273)

ろっこついじょうをともなうせんてんせいそくわんしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
小児に発症する脊柱側弯症はその原因も様々で、その態様も個々の患者ごとで大変大きな差がある。成長期、特に思春期に悪化しやすいが、脊柱変形の悪化が少ないものは予後も良くQOL(生活の質)の観点からも大きな問題にはならないことが多い。一方、新生児、乳幼児期に発症する脊柱変形の中にはその変形悪化が著しい症例が少なからずあり、それに伴い胸郭変形も高度になり、胸郭容量の減少により肺成長が阻害され呼吸機能低下を来す。患者によっては成長に伴いさらに悪化して、最終的には拘束性換気障害、閉塞性換気障害などの病態を引き起こし、慢性呼吸不全の状態となる症例も存在する。このように脊柱変形など種々の原因で小児成長期に高度胸郭変形が発症する症例では、結果として正常な肺の成長やその呼吸機能をサポートできない病態を呈する。その治療としてVEPTR(Vertical Expandable Prosthetic Titanium Rib)と呼ばれる人工肋骨が開発されている。本症候群の中で、特に一次性としてまとめられているものは、椎骨と肋骨の両方の発生学的異常により形態的変化を来し脊柱変形のみならず胸郭変形とそれらの成長障害を引き起こし、最終的には呼吸器系の障害から生命にも重大な影響を与える。本疾患の自然経過や病態には未だ未解明なものが多々あるが、VEPTRを代表とした成長温存手術治療は、本疾患に罹患した小児患者の成長後の生活を改善させるのみならず、生命予後も改善させることが期待されている。
 
2.原因
重症タイプの患者が多い国もあると言われているが、いまだ、その原因は明確にされておらず、その原因因子は不明であるが、突然変異で生じると考えられている。
 
3.症状
症状は無症状から高度呼吸器障害により死に至るものまで様々な病態と症状を呈する。先天性脊椎奇形や肋骨異常は成長により悪化し脊柱側弯症や後弯症、胸郭変形を引き起こすため、初期は軽度な側弯や胸郭変形であることも少なくない。奇形椎のタイプや肋骨異常の範囲などによりその変形には大きな差があり、また、差が生じてくる。初期は風邪を引きやすい、身体が傾く、外見が非対称などであるが、高度になると呼吸障害として肺活量の減少が生じ、肺炎を頻回に引き起こし、努力性呼吸、呼吸数の増加、夜間無呼吸発作などが認められるようになる。一方、体幹の変形と短縮、一側胸郭の虚脱、立位や座位バランス不良、などが生じる。
 
4.治療法
根治的治療は未だない。以前は、脊柱変形の悪化に対する脊柱矯正固定術が早期より行われてきたが、成長をも止めてしまうため、高度悪化症例においては最終的には胸郭の発育不全から呼吸機能障害を予防することはできなかった。そのため、治療は対症療法としての呼吸管理であり、在宅酸素療法、BIPAP療法などが小児科医師により行われてきた。現在は胸郭と脊柱変形の悪化予防と変形矯正をVEPTRなどのインプラントを用いる成長温存手術が行なわれてきている。しかし、この方法は半年に一度の追加手術が必要であり、長期にわたって患者は入退院を繰り返す必要がある。最終的には成長がほぼ終了した、あるいは思春期になったところで脊柱固定術をおこなっているが、高度に変形した胸郭や脊柱の矯正には限界がある。一方、あまりに早期に高度な悪化を示す症例には時間稼ぎのために矯正ギプスや矯正装具を手術可能になるまで繰り返し行う保存的治療も行われている。
 
5.予後
症例により差が大きい。軽度な症例では体幹の変形が主症状であり、悪化症例では成人後に背部の疼痛や手術における脊柱固定状態により運動制限や就業制限などが必要になるものもある。高度な胸郭変形が生じた症例では、肺活量が減少し、拘束性喚起障害により慢性呼吸不全状態に陥り、体重減少、などから体力低下の状態から死亡する場合もある。生命予後は呼吸機能がどれだけ維持できるかで決まることが多く、たとえ重症な状態にはならなかったとしても、生活における行動制限や就業不可などの状態になりQOLの観点からみれば決して満足のいく状態にはならない症例も少なくない。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数
10歳以下の小児において、およそ2,000人以下。
2.  発病の機構
不明(遺伝子的要素も報告されているが、原因や発病のメカニズムは明らかでない。)
3.  効果的な治療方法
未確立(VEPTREなどの成長温存手術があるが、十分に確立されていない。)
4.  長期の療養
必要(未治療では胸郭変形と脊柱変形が悪化し、呼吸不全に陥り、最終的には人工呼吸管理を必要とする。 手術治療では半年に一度の追加手術が必要であり、成長終了まで長期の加療、療養を要する病態となる。)
5.  診断基準
あり(学会承認の診断基準あり。)
6.  重症度分類
modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。
 
○ 情報提供元
「平成23年度厚生労働省科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)事業実績報告書」
研究代表者 国家公務員共済組合連合会名城病院 院長補佐、脊椎脊髄センター長 川上紀明
 
 
<診断基準>
年齢と変形の程度からみた基準—肋骨異常を伴う先天性(後)側弯症。 
画像診断にて先天性脊椎奇形と肋骨異常を合併し、下記のいずれかの項目にあてはまるもの。
ここで言う肋骨異常とは、胸郭不全に関与すると判断される肋骨の形態、あるいは数的、又は量的な異常として定義する。
1.0~2歳未満
●立位(座位)X線写真で側弯が85度以上ある症例:(経過観察なしで唯一診断可能)。
●側弯が45度~85度の症例:年間10度以上の進行が認められた症例(原則として比較は立位か座位で測定)。
●側弯が45度以下の症例(下記の条件が必要、但し全てを含む必要はない)
①非侵襲的陽圧換気(Noninvasive Positive Pressure Ventilation:NPPV)が必要で、下記のうち少なくとも二項目の特徴を有する胸郭形態異常がある。
–   胸郭形態異常で両側rib-vertebral angleが90度以上。
–   第5胸椎での横径が第12胸椎での胸郭横径の50%以下の胸郭形態異常。
–   胸郭変形の中でジューヌ(Jeune)症候群と呼ばれるもの、又はSALが70%以下の胸郭形態異常。
②年間20度以上の悪化が認められた症例。
 
2.2歳以上~6歳未満
●少なくとも立位(又は座位)X線写真で側弯が85度以上ある症例
–   年間10度以上の側弯悪化が認められる症例。
●側弯が45度~85度の症例:
–   立位(又は座位)X線写真で年間10度以上の進行が認められ、かつSALが70%以下の症例。
–   上記以下の側弯でもNPPVが必要な症例。
 
3.6歳以上(10歳以下)
●少なくとも立位(座位)X線写真で側弯が85度以上ある症例 
–   年間10度以上の側弯悪化が認められる。
●立位(座位)X線写真で側弯が45~85度の症例
–   少なくとも6か月以上の保存的治療(ギプスや装具治療)でも5度以上の悪化が認められる。
 
 
<重症度分類>
○modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。
 

 

日本版modified Rankin Scale (mRS) 判定基準書

modified Rankin Scale

参考にすべき点

まったく症候がない

自覚症状及び他覚徴候がともにない状態である

症候はあっても明らかな障害はない:
日常の勤めや活動は行える

自覚症状及び他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である

軽度の障害:
発症以前の活動が全て行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える

発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態である

中等度の障害:
何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしに行える

買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要としない状態である

中等度から重度の障害:
歩行や身体的要求には介助が必要である

通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である

重度の障害:
寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを必要とする

常に誰かの介助を必要とする状態である

死亡

 
日本脳卒中学会版
 
食事・栄養 (N)
0.症候なし。
1.時にむせる、食事動作がぎこちないなどの症候があるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.食物形態の工夫や、食事時の道具の工夫を必要とする。
3.食事・栄養摂取に何らかの介助を要する。
4.補助的な非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)を必要とする。
5.全面的に非経口的栄養摂取に依存している。
 
呼吸 (R)
0.症候なし。
1.肺活量の低下などの所見はあるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.呼吸障害のために軽度の息切れなどの症状がある。
3.呼吸症状が睡眠の妨げになる、あるいは着替えなどの日常生活動作で息切れが生じる。
4.喀痰の吸引あるいは間欠的な換気補助装置使用が必要。
5.気管切開あるいは継続的な換気補助装置使用が必要。
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 
 

平成27年7月1日

情報提供者
研究班名 呼吸器系先天異常疾患の医療水準向上と移行期医療に関する研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和3年9月(名簿更新:令和6年6月)