多脾症候群(指定難病188)
※こちらの内容は以下の難病共通になります。
多脾症候群(指定難病188)
無脾症候群(指定難病189)
○ 概要
1.概要
内臓が左右対称性に形成される臓器錯位症候群のうち右側相同又は左側相同を呈する症候群。それぞれを無脾症候群又は多脾症候群という。ここでは、内臓が左右反転する内臓逆位は含まないものとする。無脾症候群では、通常脾臓は欠損している。50~90%に先天性心疾患を合併する。合併心奇形は、単心房、共通房室弁、単心室、総肺静脈還流異常、肺動脈閉鎖(狭窄)などが多い。多脾症候群では通常脾臓は分葉して複数認め、50~90%に先天性心疾患を合併する。合併心奇形は、奇静脈結合、下大静脈欠損、心房中隔欠損、両大血管右室起始症などが多い。
重症細菌性感染症(特に肺炎双球菌)に罹患しやすく、感染症での突然死もある。合併する心奇形によるが、単心房、単心室、肺動脈狭窄の組み合わせが多く高度のチアノーゼを呈し、生涯、心不全が持続し、予後が悪い。
2.原因
多くは原因不明。connexin遺伝子、ホメオボックス遺伝子などの関与が考えられている。
3.症状
無脾症候群では心内合併奇形として、両側上大静脈、単心房、共通房室弁、単心室、心房中隔欠損、心内膜床欠損、肺動脈狭窄、両大血管右室起始症、総肺静脈還流異常、動脈管開存など多彩なものを認める。多脾症候群では、両側上大静脈、下大静脈欠損、単心房、単心室、心房中隔欠損、心内膜床欠損、肺動脈狭窄、両大血管右室起始症、肺高血圧など多彩なものを認める。
症状は、主として合併する心奇形によるが、当初は肺血流の状況に大きく影響される。肺血流減少型が多く、その場合チアノーゼが高度。共通房室弁逆流で、高度心不全を来すことがある。肺血流増加型は、肺高血圧となる。
無脾症候群では、肺炎球菌、インフルエンザ桿菌による髄膜炎、敗血症に罹患しやすく、ときに致命的で、突然死となる。感染性心内膜炎のリスクも高い。腸回転異常、総腸間膜症などによる腸閉塞、胆道閉鎖などを合併することもある。
多脾症候群では、合併する心奇形によるが、当初は肺血流の状況に大きく影響される。すなわち肺血流増加型では多呼吸・ほ乳不良などを認め、早期に肺高血圧を来す。肺血流減少型ではチアノーゼを呈する。心内奇形なしの場合や心房中隔欠損のみの場合があるが、その場合には無症状である。洞徐脈、房室解離、発作性上室性頻脈などの不整脈を呈することも多い。腸回転異常、総腸間膜症などによる腸閉塞、胆道閉鎖などを合併することもある。
4.治療法
根治療法はない。合併心奇形に対する治療を行う。最終的には2心室修復は困難で、Fontan手術となることが多い。細菌感染症に対するワクチン接種を行う。
多脾症候群では、洞機能不全などの不整脈に対する治療も必要となる。
5.予後
生命予後は合併心奇形による影響が大きい。重症感染症も大きな予後規定因子である。予後不良の疾患である。
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満(無脾症候群)
100人未満(多脾症候群)
2. 発病の機構
不明
3. 効果的な治療方法
未確立(手術も含め対症療法のみである。)
4. 長期の療養
必要(ずっと症状は持続する。)
5. 診断基準
あり
6. 重症度分類
New York Heart Association分類を用いてII度以上を対象とする。
○ 情報提供元
「内臓錯位症候群研究班」
研究代表者 東京女子医科大学 教授 中西敏雄
<診断基準>
それぞれDefiniteを対象とする。
無脾症候群の診断基準
A.
両側上大静脈、単心房、共通房室弁、単心室、心房中隔欠損、房室中隔欠損、肺動脈狭窄、両大血管右室起始症、総肺静脈還流異常、動脈管開存などの先天性心疾患を有する。心臓以外では、両側右肺、無脾、対称肝、腸管回転異常などがみられる。
B.
1.胸部X線:対称肝を呈する。両肺野ともに小葉間裂を認める。気管支は両側eparterial bronchus(肺動脈が気管支と並走する)となる。
2.血液像:末梢赤血球にHowell-Jolly小体を認める。
3.心エコー検査:下大静脈と腹部下行大動脈の並走を認める。
4. 心臓カテーテル・造影検査:心房造影による心耳形態(両側右心耳構造)、肺動脈造影により肺動脈と気管支の 位置関係(両側eparterial bronchus)を確認できる。
5.MSCTまたはMRI検査:肺動脈と気管支の位置関係(両側eparterial bronchus)を確認する。脾臓を認めない。
<診断のカテゴリー>
Definite:Aを満たし、Bのうち1項目以上を満たすもの。
多脾症候群の診断基準
A.
両側上大静脈、下大静脈欠損、単心房、単心室、心房中隔欠損、房室中隔欠損、肺動脈狭窄、両大血管右室起始症などの先天性心疾患や、徐脈性不整脈(洞不全症候群、完全房室ブロック)、肺高血圧などを有する。心臓以外では、両側左肺、多脾、正中肝などがみられ、腸管回転異常、門脈還流異常、胆道閉鎖を合併することもある。
B.
1.胸部X線:気管支は両側hyparterial bronchus(肺動脈が気管支を乗り越える)となる。
2.心エコー検査:下大静脈欠損兼奇静脈結合を認める。
3.心臓カテーテル・造影検査:心房造影による心耳形態(両側左心耳構造)、肺動脈造影により肺動脈と気管支の位置関係(両側hyparterial bronchus)を確認できる。
4.MSCTまたはMRI検査:肺動脈と気管支の位置関係(両側hyparterial bronchus)を確認できる。
5.画像診断で、複数の脾臓を認める。
<診断のカテゴリー>
Definite:Aを満たし、Bのうち1項目以上を満たすもの。
<重症度分類>
New York Heart Association(NYHA)分類を用いてII度以上を対象とする。
NYHA分類
I度 |
心疾患はあるが身体活動に制限はない。 |
II度 |
軽度から中等度の身体活動の制限がある。安静時又は軽労作時には無症状。 |
III度 |
高度の身体活動の制限がある。安静時には無症状。 |
IV度 |
心疾患のためいかなる身体活動も制限される。 |
NYHA: New York Heart Association
NYHA分類については、以下の指標を参考に判断することとする。
NYHA分類 |
身体活動能力 |
最大酸素摂取量 |
I |
6METs以上 |
基準値の80%以上 |
II |
3.5~5.9METs |
基準値の60~80% |
III |
2~3.4METs |
基準値の40~60% |
IV |
1~1.9METs以下 |
施行不能あるいは |
※NYHA分類に厳密に対応するSASはないが、
「室内歩行2METs、通常歩行3.5METs、ラジオ体操・ストレッチ体操4METs、速歩5~6METs、階段6~7METs」をおおよその目安として分類した。
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
- 小児・成育循環器学. 日本小児循環器学会編集. 診断と治療社, 2018.
- 先天性心疾患並びに小児期心疾患の診断検査と薬物療法ガイドライン(2018年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2018_Yasukochi.pdf - 成人先天性心疾患診療ガイドライン(2017年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/08/JCS2017_ichida_h.pdf - 日本成人先天性心疾患学会ホームページ総合・連携認定施設一覧
https://www.jsachd.org/specialist/list-facility/ - 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン(2018年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/06/JCS2018_akagi_ikeda.pdf
研究班名 | 先天性心疾患を主体とする小児期発症の心血管難治性疾患の救命率の向上、円滑な移行医療、成人期以降の予後改善を目指した総合的研究班 研究班名簿 |
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情報更新日 | 令和6年4月(名簿更新:令和6年7月) |