遺伝性自己炎症疾患(指定難病325)

いでんせいじこえんしょうしっかん
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
遺伝性自己炎症疾患は、自然免疫系に関わる遺伝子異常を原因とし、生涯にわたり持続する炎症を特徴とする疾患群である。ここでは、成人患者が確認されている疾病のうち、既に指定難病に指定されている、クリオピリン関連周期熱症候群、TNF受容体関連周期性症候群、ブラウ症候群、家族性地中海熱、高IgD症候群、中條・西村症候群、化膿性無菌性関節炎・壊疽性膿皮症・アクネ症候群を除いた、NLRC4異常症、ADA2(Adenosine deaminase 2)欠損症、エカルディ・グティエール症候群(Aicardi-Goutières Syndrome:AGS)、A20ハプロ不全症を対象とする。
NLRC4異常症ではIL-1βとIL-18が過剰産生され、発熱、寒冷蕁麻疹、関節痛、乳児期発症腸炎、マクロファージ活性化症候群様症状など幅広い症状を呈する。ADA2欠損症では、主に中動脈に炎症が起こり、結節性多発動脈炎に類似した多彩な症状を呈する。エカルディ・グティエール症候群は重度心身障害をきたす早期発症型の脳症であり、頭蓋内石灰化病変と慢性的な髄液細胞数・髄液インターフェロン-α・髄液ネオプテリンの増加を特徴とする。A20ハプロ不全症はタンパク質A20の機能異常により、炎症性サイトカインであるTNF-α、IL-6、IL-1β等が過剰産生され、反復性口腔内アフタ、発熱、関節痛、消化管潰瘍等のベーチェット病類似症状を若年で発症する。
 
2.原因
NLRC4異常症はNLRC4分子の機能獲得変異により発症する。NLRC4は自然免疫に関わるインフラマソームの構成分子であるが、その機能獲得型変異によりカスパーゼ-1の恒常活性化が起こり、IL-1βとIL-18が過剰産生され炎症が惹起される。ADA2欠損症はADA2分子をコードするCECR1遺伝子変異により発症する常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)疾患である。患者では血漿中ADA2の濃度が低く、細胞外アデノシン濃度の慢性的な上昇が血管炎症を促進する可能性が推測されている。一方、ADA2には成長因子としての作用もあり、出血性脳梗塞の発症には成長因子作用の障害による血管内皮の統合性の低下も影響していると推測されている。エカルディ・グティエール症候群の責任遺伝子としてはTREX1、RNASEH2A、RNASEH2B、RNASEH2C、SAMHD1、ADAR、IFIH1の7つが報告されている。いずれも核酸の代謝や細胞質内の核酸認識に関与する遺伝子であり、I型インターフェロンの過剰産生により炎症が持続する。A20ハプロ不全症はTNFAIP3遺伝子がコードするA20の機能低下変異(ハプロ不全)により常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式で発症する。A20はTNF-αの細胞内シグナル伝達経路上に存在し、このシグナル伝達を抑制的に制御している分子である。A20ハプロ不全症においてはTNFAIP3遺伝子のヘテロ接合性変異によりA20の半量不全が生じ、TNF-αシグナル伝達の異常が起こり、種々の炎症性サイトカインが過剰産生され炎症が惹起される。
 
3.症状
NLRC4異常症では、長期にわたって継続する周期熱、寒冷蕁麻疹、関節痛、乳児期発症腸炎、脾腫・血球減少・凝固障害といったマクロファージ活性化症候群様兆候など、多彩な症状を呈する。ADA2欠損症では、繰り返す発熱、蔓状皮斑やレイノー症状等の皮膚症状、血管炎による麻痺や痺れなどの神経症状、眼症状(中心静脈閉塞や視神経萎縮、第3脳神経麻痺など)、胃腸炎症状、筋肉痛や関節痛、高血圧、腎障害等が認められ、長期にわたって継続する。エカルディ・グティエール症候群では、神経学的異常、肝脾腫、肝逸脱酵素の上昇、血小板減少といった先天感染症(TORCH症候群)類似の症状の他、易刺激性、間欠的な無菌性発熱、てんかんや発達退行を中心とした進行性重症脳症の臨床像を呈する。血小板減少、肝脾腫、肝逸脱酵素上昇、間欠的発熱などから不明熱として精査を受けることも多く、手指・足趾・耳などの凍瘡様皮膚病変や全身性エリテマトーデスに類似した自己免疫疾患の合併も認められる。いずれの疾患も生涯にわたり炎症が持続するため、高齢になるほど臓器障害が進行して重症となる。A20ハプロ不全症は、新生児期から20歳頃までの若年期に発症する。重症度は症例ごとに異なるが、周期性発熱あるいは遷延性の発熱、反復性口腔内アフタ、皮疹、関節痛に加え、外陰部潰瘍、消化管潰瘍、ぶどう膜炎といったベーチェット病様の症状を呈する。生涯にわたり炎症が持続し、臓器障害が進行する。また、橋本病や全身性エリテマトーデス、自己免疫性肝炎等の自己免疫疾患の併発もみられる。
 
4.治療法
いずれの疾患に対しても現時点で確立された治療法はないが、IL-1βやIL-18の過剰産生が推定されているNLRC4異常症では抗IL-1製剤の有効性が報告されている。ADA2欠損症に対しては、抗TNF療法の有効性を示す報告が増えている。また、骨髄移植による根治が期待され、実際に有効であった症例も報告されている。エカルディ・グティエール症候群に対してはJAK阻害薬であるバリシチニブによる症状と検査値の改善、逆転写酵素阻害薬による血液・髄液検査所見の改善が報告されている。A20ハプロ不全症は副腎皮質ステロイド全身投与、コルヒチン、抗TNF製剤などの使用が報告されているが、有効性は確立していない。一部の症例で、抗IL-1製剤、抗IL-6製剤、JAK阻害薬、治療抵抗性腸管炎症に対する外科的切除術、難治性自己免疫疾患に対する造血細胞移植の有効性が報告されている。
 
5.予後
NLRC4異常症では、関節炎や炎症性腸炎に加え、繰り返すマクロファージ活性化症候群を合併し生命の危険を伴う。ADA2欠損症では、血管炎症による脳梗塞や神経障害、視力障害、臓器梗塞による腎症などの病変を合併し予後不良である。エカルディ・グティエール症候群では、早発性脳症、てんかん、重症凍瘡様皮疹のため予後不良である。いずれの疾患も慢性の炎症が持続し、進行性の臓器障害を併発するため高齢になるほど症状が悪化する。A20ハプロ不全症は生涯にわたる全身炎症のために患者の生活の質は阻害される。治療抵抗例では眼症状による視力障害、自己免疫疾患による多臓器障害、が進行する。また、消化管出血による致死例などが報告されている。ただし、いずれの疾患も責任遺伝子の報告や疾患概念の確立から間がなく、長期的な予後には不明な部分が存在する。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満(すべて成人症例が存在する。)
2.  発病の機構
不明
3.  効果的な治療方法
未確立(いずれも対症療法のみ)
4.  長期の療養
必要(遺伝性疾患であり、進行性の臓器障害を来すため。)
5. 診断基準
あり(学会によって承認された診断基準あり。)
6. 重症度分類(重症例を助成対象とする。)
Barthel Indexを用いて、85点以下を対象とする。
 
 
○ 情報提供元
難治性疾患政策研究事業「自己炎症性疾患とその類縁疾患の全国診療体制整備、移行医療体制の構築、診療ガイドライン確立に関する研究」
研究代表者 久留米大学小児科 教授 西小森隆太
 
日本リウマチ学会、日本小児リウマチ学会
当該疾病担当者 久留米大学小児科 教授 西小森隆太
 

<診断基準>
 
1)NLRC4異常症の診断基準
Definite、Probableを対象とする。
 
A.症状
①紅斑、蕁麻疹様発疹
②発熱
③持続する下痢等の腸炎症状
 
B.検査所見
①炎症所見陽性
②血清IL-18高値  
③マクロファージ活性化症候群
 
C.遺伝学的検査
NLRC4遺伝子に疾患関連変異を認める。
 
<診断のカテゴリー>
Definite:Aの2項目+Bの2項目+Cを満たすもの
Probable:
(1)Aの2項目+Bの1項目+Cを満たすもの
(2)Aの1項目+Bの2項目+Cを満たすもの
(3)Aの1項目+Bの1項目+Cを満たすもの
 
<参考所見>
鑑別診断
他の自己炎症性疾患、全身型若年性特発性関節炎、慢性感染症、炎症性腸疾患、リウマチ・膠原病疾患、
家族性血球貪食性リンパ組織球症、X連鎖性リンパ増殖症を除外する。
2)ADA2欠損症の診断基準
Definite、Probableを対象とする。
 
A.症状
①繰り返す発熱
②蔓状皮斑やレイノー症状などの皮膚症状
③麻痺や痺れなどの神経症状
 
B.検査所見
①画像検査:虚血性(時に出血性)梗塞や動脈瘤の存在
②組織検査:血管炎の存在
③ADA2活性検査:血漿中ADA2酵素活性の明らかな低下
 
C.遺伝学的検査
CECR1遺伝子に機能喪失型変異をホモ接合又は複合型ヘテロ接合で認める。
 
<診断のカテゴリー>
Definite:Aの1項目+B①またはB②+B③またはCのいずれかを満たすもの
Probable:Aの1項目+B③またはCのいずれかを満たすもの
 
<参考所見>
鑑別診断
他の自己炎症性疾患、全身型若年性特発性関節炎、慢性感染症及びベーチェット病・高安動脈炎などの非遺伝性血管炎症候群を除外する。
 
3)エカルディ・グティエール症候群の診断基準
Definite、Probableを対象とする。
 
A.症状
①神経症状(早発性脳症、発達遅滞、進行性の小頭症、痙攣)
②神経外症状(不明熱、肝脾腫、凍瘡様皮疹)
 
B.検査所見
①髄液検査異常(ア~ウの1項目以上)
ア)髄液細胞数増多(WBC≧5/mm3、通常はリンパ球優位)
イ)髄液中インターフェロンα 上昇(>6IU/mL)
ウ)髄液中ネオプテリン増加(年齢によりカットオフ値は異なる)
②画像検査所見:頭蓋内石灰化(加齢による生理的変化を除く)
 
C.遺伝学的検査
TREX1RNASEH2BRNASEH2CRNASEH2ASAMHD1ADARIFIH1等の疾患原因遺伝子のいずれかに疾患関連変異を認める。
 
<診断のカテゴリー>
Definite:Aの①+B①およびB②+Cのいずれか を満たすもの
Probable:
(1)Aの1項目+B②+Cのいずれか を満たすもの
(2)Aの①+B①およびB② を満たすもの
 
<参考所見>
鑑別診断
他の自己炎症性疾患、全身型若年性特発性関節炎、慢性感染症、リウマチ・膠原病疾患、CMV・風疹・トキ
ソプラズマ・単純ヘルペス・HIVを含む出生前/周産期感染症、既知の先天代謝性疾患・脳内石灰化症・神経変性疾患を除外する。
 
4)A20ハプロ不全症の診断基準
Definite、Probableを対象とする。
 
A.症状
①反復性発熱
②反復性口腔内アフタ
③下痢、血便等の消化管症状
④外陰部潰瘍
⑤関節炎
⑥皮疹(毛嚢炎様皮疹、痤瘡様皮疹、結節性紅斑様皮疹など)
⑦眼症状(虹彩毛様体炎、網膜ぶどう膜炎など)
⑧自己免疫疾患症状(自己免疫性甲状腺炎、自己免疫性肝炎など)
 
B.検査所見
①炎症所見陽性
②便潜血陽性
③針反応試験陽性
 
C.遺伝学的検査
TNFAIP3遺伝子に疾患関連変異を認める。
 
<診断のカテゴリー>
Definite:Aの2項目+Bの1項目+Cを満たすもの
Probable:Aの1項目+Cを満たすもの
 
<参考所見>
鑑別診断
他の自己炎症性疾患(家族性地中海熱、クリオピリン関連周期熱症候群、TNF受容体関連周期性症候群、中條-西村症候群、PAPA症候群、Blau症候群/若年発症サルコイドーシス、高IgD症候群/メバロン酸キナーゼ欠損症、PFAPA症候群)、若年性特発性関節炎、慢性感染症、炎症性腸疾患、悪性新生物、リウマチ・膠原病疾患、ベーチェット病
 
 
<重症度分類>
機能的評価:Barthel Index 85点以下を対象とする。
 

 

質問内容

点数

1

食事

自立、自助具などの装着可、標準的時間内に食べ終える

10

部分介助(たとえば、おかずを切って細かくしてもらう)

5

全介助

0

2

車椅子からベッドへの移動

自立、ブレーキ、フットレストの操作も含む(歩行自立も含む)

15

軽度の部分介助または監視を要する

10

座ることは可能であるがほぼ全介助

5

全介助または不可能

0

3

整容

自立(洗面、整髪、歯磨き、ひげ剃り)

5

部分介助または不可能

0

4

トイレ動作

自立(衣服の操作、後始末を含む、ポータブル便器などを使用している場合はその洗浄も含む)

10

部分介助、体を支える、衣服、後始末に介助を要する

5

全介助または不可能

0

5

入浴

自立

5

部分介助または不可能

0

6

歩行

45m以上の歩行、補装具(車椅子、歩行器は除く)の使用の有無は問わず

15

45m以上の介助歩行、歩行器の使用を含む

10

歩行不能の場合、車椅子にて45m以上の操作可能

5

上記以外

0

7

階段昇降

自立、手すりなどの使用の有無は問わない

10

介助または監視を要する

5

不能

0

8

着替え

自立、靴、ファスナー、装具の着脱を含む

10

部分介助、標準的な時間内、半分以上は自分で行える

5

上記以外

0

9

排便コントロール

失禁なし、浣腸、坐薬の取り扱いも可能

10

ときに失禁あり、浣腸、坐薬の取り扱いに介助を要する者も含む

5

上記以外

0

10

排尿コントロール

失禁なし、収尿器の取り扱いも可能

10

ときに失禁あり、収尿器の取り扱いに介助を要する者も含む

5

上記以外

0

 
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6ヵ月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要な者については、医療費助成の対象とする。

令和6年4月1日

情報提供者
研究班名 自己炎症性疾患とその類縁疾患における、移行期医療を含めた診療体制整備、患者登録推進、全国疫学調査に基づく診療ガイドライン構築に関する研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和6年6月)