高安動脈炎(指定難病40)

たかやすどうみゃくえん
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 高安動脈炎とは

高安動脈炎は大動脈やそこから分かれている大きな血管に 炎症 が生じ、血管が 狭窄 したり閉塞したり拡張したりして、脳、心臓、腎臓といった重要な臓器に障害を与えたり、手足が疲れやすくなったりする原因不明の 血管炎 です。炎症が生じた血管の部位によって様々な症状がでます。わが国の高安右人教授が1908年に初めて報告しましたので高安動脈炎と呼ばれています。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

2017年の研究班による全国疫学調査では、日本の患者数は約5,000名でした。厚生労働省の統計によると、毎年およそ200-300名程度の方が新たに発症しているようです。

3. この病気はどのような人に多いのですか

高安動脈炎の患者さんの9割は女性です。研究班の報告では15歳から35歳の若い女性の方に発症することが多いようです。最近は男性の発症数が増えているという報告があります。数は少ないのですが、10歳未満で発症する場合もあります。

4. この病気の原因はわかっているのですか

原因は残念ながらよくわかっておりません。しかし、遺伝的な要因を背景にして、なんらかの感染やストレスなどを契機にして発症し、血管の炎症が持続しているのではないかと考えられています。

5. この病気は遺伝するのですか

近年の研究の成果として、高安動脈炎発症と特定の遺伝子の変異が関係している可能性が示されています。しかし、家族内で遺伝するケースは非常に少なく、遺伝的要因と遺伝以外の要因の両者が発症に関与すると考えられています。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

高安動脈炎ではどの血管に障害が生じたかにより、症状はさまざまです。高安動脈炎の初期は、発熱や 全身倦怠感 、食欲不振、体重減少などの感冒のようなはっきりしない症状から始まることが多いようです。その後、炎症によって血管が狭窄や閉塞、あるいは拡張してきます。頭部を栄養する血管が障害を受けた場合は、めまいや立ちくらみ、失神発作や、ひどい場合には脳 梗塞 や失明を起こす場合もあります。難聴や耳鳴、歯痛、頸部痛もよく見られる症状です。また、上肢を栄養する血管が障害を受けると、腕が疲れやすい、 脈が触れない 、など多様な症状が出現します。また高安動脈炎の約3分の1の患者さんでは心臓の大動脈弁付近に障害を生じて弁膜症を発症し、程度によってはその後心臓の働きに問題が生じることがあります。また、腎臓の血管が障害されて、腎臓の働きが低下することもあります。さらに、下肢を栄養する血管が障害を受けて歩行が困難になる方もいます。血管が障害されるため、高血圧症はよく見られる症状です。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

まず、高安動脈炎による炎症を抑えることが基本になります。通常、プレドニゾロンなどの副腎皮質ステロイドを用います。また、血栓ができるのを予防する薬を使います。炎症が強く、なかなか副腎皮質ステロイドが減らせない場合は、免疫抑制薬や生物学的製剤のトシリズマブを使うこともあります。炎症が治まった後は、症状に応じてさまざまな薬を使いますが、炎症の結果、血流が低下して日常生活に大きく差し支える場合は、炎症が治まってから外科的に血管のバイパス手術をすることがあります。研究班の統計では約2割の方が手術を受けておられます。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

大部分の方はステロイドなどの薬で炎症を鎮静化させることができます。現在は様々な画像検査法や治療の進歩もあり、高安動脈炎の経過はとても良くなってきました。しかし、高血圧、心臓の弁膜症、大動脈瘤、腎機能障害などの合併症を生じた方の中には厳重な管理が必要になる場合があります。約7割の方に 再燃 がみられるので、定期的な受診が必要です。また、妊娠、出産を契機に高安動脈炎が再燃することもまれですが知られています。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか?

1)高安動脈炎は感染、怪我、ストレスなどが病状を悪化させることがあるため、体調管理に注意して、過度のストレスは避ける。
2)高安動脈炎は慢性的に血管炎症が動脈に生じる疾患ですので、動脈硬化が生じやすいと考えられています。動脈硬化の進行を予防するため、動脈硬化のリスクファクターである喫煙、肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症がある場合には、生活習慣を是正して、必要であれば薬物療法を行います。特に、脳や心臓へ血液を送る血管に病変がある場合には、注意が必要です。
(1)禁煙の励行
喫煙は血管炎症を促進して動脈硬化を進行させますので、禁煙は必須です。
(2)高血圧の対策
セルフチェックのため、家庭血圧を上肢で測定する。塩分は控えて、軽い運動をする。必要な場合には、主治医と相談して降圧剤での治療を受ける。
(3)糖尿病・脂質異常症の対策
主治医と相談して、適切な食事療法と運動療法をする。必要なら、薬物療法を受ける。
3)ステロイドによる治療を行うと、感染症、骨粗鬆症、骨壊死 などの副作用が生じる可能性があります。そのため、ステロイドによる副作用の予防と検査を定期的に受ける必要があります。
(1)感染の対策:うがい、手洗いを励行する。人込みを避けて、人込みではマスクを着用する。発熱時には早めに病院に行き、胸部X線等の検査を受けることなどが必要です。主治医の判断により、感染予防のための薬剤を内服することがあります。
(2)骨粗鬆症の対策:カルシウムの十分な摂取と軽い運動の励行。ステロイド性骨粗鬆症の進行を防ぐため、骨粗鬆症治療薬を内服する。
(3)骨壊死への対策:股関節や膝などに痛みが生じた場合は、病院を受診して画像検査で診断をする必要が有ります。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

大動脈炎症候群
脈なし病
高安病

11. この病気に関する資料・関連リンク

(資料)
2015-2016年度合同研究班による血管炎症候群の診療ガイドライン (日本循環器学会が公開しているガイドライン。高安動脈炎については9-28ページを参照)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2017_isobe_h.pdf
市民公開講座「血管炎についてもっと知ろう:それぞれの病気の特徴と療養に役立つ知識」2)高安動脈炎 https://www.vas-mhlw.org/html/shiminkoukaikouza.html
高安動脈炎のお話し(PDF 1.47MB)
あけぼの会講演「高安動脈炎」2014年11月30日(PDF 2.67 MB)
(関連リンク)
日本リウマチ学会 疾患の解説を提供
日本薬学会 知っておきたい薬の常識等一般向けに役立つ情報を提供
日本薬剤師会 くすりに関する最新情報や過去の緊急安全性情報、副作用情報、くすりQ&A(薬局で買った薬の有効期限 他)等を提供

 

情報提供者
研究班名 難治性血管炎の医療水準・患者QOL向上に資する研究班 
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和4年3月(名簿更新:令和6年6月)