特発性間質性肺炎(指定難病85)

とくはつせいかんしつせいはいえん
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 「特発性間質性肺炎」とはどのような病気ですか

私たちが吸った空気(吸気)は、気道(気管や気管支など)を通過し、最終的に肺の奥にある「 肺胞 」と呼ばれる風船のような部屋に運ばれます。この肺胞には薄い壁があり(肺胞壁、あるいは間質)、その中に毛細血管が流れています。そこで、吸気中の酸素が血液に取り込まれ、同時に血液中の二酸化炭素が肺胞の中に排出されます(図1左)、間質性肺炎は、さまざまな原因からこの肺胞壁に 炎症 や損傷がおこり、肺胞壁が厚く硬くなり( 線維化 )、ガス交換がうまくできなくなる病気です(図1右)。また、線維化が進んで肺が硬く縮むと、気道が代償性に拡張して蜂巣肺といわれる蜂の巣に似た穴(のう胞)だらけの肺になってしまいます。これは、胸部CTで確認することができます(図2)。
主な症状としては、痰を伴わない咳(乾性咳嗽)と労作時にみられる呼吸困難があります(労作時呼吸困難)。労作時呼吸困難は、安静時には問題なくとも、坂道や階段、平地歩行中や入浴・排便などの日常生活の動作の中で呼吸困難を感じることです。病気が進行してくると、安静時にも呼吸困難を感じるようになります。また、経過中、急激に呼吸困難が悪化することがあります。これは「特発性間質性肺炎の急性増悪」と呼ばれています。
間質性肺炎の原因には、関節リウマチや皮膚筋炎などの膠原病(自己免疫疾患)、職業上や生活上での粉塵(ほこり)や、カビやトリなどの抗原の慢性的な吸入(じん肺や慢性過敏性肺炎)、病院で処方される薬剤・漢方薬・サプリメントなどの健康食品(薬剤性肺炎)、特殊な感染症など様々あることが知られていますが、いろいろ詳しく調べても原因がわかららない間質性肺炎を「特発性間質性肺炎」といいます。
特発性間質性肺炎には経過や治療法などが異なる9つの間質性肺炎が含まれています。これらは大きく、「主要な特発性間質性肺炎」、「まれな特発性間質性肺炎」、「分類不能型特発性間質性肺炎」の3つに分類されます。主要な特発性間質性肺炎は病態の異なる6つの病型からなりますが、頻度からすると「特発性肺線維症 (IPF)」が最も多く、「特発性非特異性間質性肺炎 (NSIP)」、「特発性器質化肺炎 (COP)」を含めた3つの疾患のいずれかに診断されることがほとんどです。その診断は、既往歴・職業歴・家族歴・喫煙歴などを含む詳細な問診、肺機能検査、血液検査からなる臨床情報、高分解能コンピューター断層画像(HRCT)の画像情報、そして肺生検からえられる病理組織情報から総合的に行います。

図1 正常肺と間質性肺炎の肺

図2 肺組織の比較

 

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

最近の国のデータベースと用いた研究では特発性間質性肺炎は10万人あたり100人程度といわれていおり、経年的な患者数の増加が示されています。わが国における特発性肺線維症の発症率と 有病率 には、2003年から2007年における北海道での全例調査では、特発性肺線維症(IPF)の年間の発症率は10万人対2.23人、有病率は10万人対10.0人でした。また、全国データベースの検討では、2019年の発症率は人口10万人対約6.5人、有病率は人口10万人対約23人と報告されています。国内で病型が確認できた特発性間質性肺炎症例のうち、特発性肺線維症(IPF)の患者さんが62%と最も多く、特発性非特異性間質性肺炎(NSIP)15%、特発性器質化肺炎(COP)12%ほどです。

3. この病気はどのような人に多いのですか

特発性間質性肺炎のうち治療が難しい特発性肺線維症は、50才以上の男性に多く、患者さんのほとんどが喫煙者です。喫煙は特発性肺線維症の「危険因子」であると考えられています。やはり喫煙者に多い「肺気腫」という、肺が壊れて拡がっていく病変と、肺線維症が合併した「気腫合併肺線維症」という病態が、喫煙歴があって息切れを自覚する患者さんに認められて問題になっています。特発性肺線維症(IPF)の「危険因子」として他には、加齢や逆流性食道炎なども挙げられています。明確な粉じん暴露による間質性肺炎は特発性間質性肺炎から除外されますが、原因として明らかではない場合には「危険因子」ととらえられます。

4. この病気の原因はわかっているのですか

特発性間質性肺炎の原因はわかっていませんが、複数の原因遺伝子群と環境因子が影響している可能性が考えられています。実際に原因候補遺伝子はいくつか報告されておりますが、必ずしもそれらで全て間質性肺炎の原因を説明しきれないことも知られています。また、特発性肺線維症(IPF)は、近年では未知の原因による肺胞上皮細胞の繰り返す損傷とその修復・治癒過程の異常が主たる病因・病態と考えられています。

5. この病気は遺伝するのですか

特発性間質性肺炎とそっくりな病態で家族発生があることが知られています。しかし家族発生が明らかな場合には 家族性 肺線維症として区別します。肺胞を拡げる作用があるサーファクタント蛋白の遺伝子変異の家系に見られる肺線維症の発症年齢は若い傾向がありますが、小児から50歳以降まで病態の程度に応じて様々です。また、上述したように、環境因子に反応しやすい体質は遺伝する可能性もあるので、ご家族に患者さんがいらっしゃったら、喫煙を含めた危険因子は可能な限り避けることが薦められます。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

間質性肺炎が存在していても病初期には多くは無症状です。早期発見のために、年1回は検診でのレントゲン検査をお勧めします。乾性咳嗽と呼ばれる痰を伴わない空咳で受診する患者さんもいます。日常生活での労作時呼吸困難などを自覚するときには病気はある程度進行している可能性があるため、早めに専門施設に紹介してもらうことが重要です。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

特発性肺線維症(IPF)の場合、抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテダニブ)が使用されます。特発性肺線維症(IPF)は進行性の経過をとりますが、治療薬による治癒が困難なために、進行抑制が現実的な目標となります。いくつかの臨床試験で、抗線維化薬は進行(肺活量の経年的低下)を半分に抑える結果が示され、国内外の特発性肺線維症(IPF)のガイドラインにおいて抗線維化薬の使用が提案(条件付きで推奨)されました。また、抗線維化薬は進行抑制だけでなく急性増悪の抑制効果も示されており、特発性肺線維症の生存期間を延長することが期待されています。ごく軽症で息切れなどの自覚症状がない場合は、喫煙者であればすぐ禁煙し、病態進行の程度を数ヶ月観察することもあります。
一方、特発性肺線維症以外の特発性間質性肺炎では、例えば特発性非特異性間質性肺炎(NSIP)や特発性器質化肺炎(COP)では、ステロイド薬などの炎症を抑える薬がまず使われます。特発性非特異性間質性肺炎(NSIP)などにおいて、ステロイド薬を使っても病気が進行する場合は、抗線維化薬の投与が考慮されます。
また、年齢が比較的若いにも関わらず、呼吸不全に至るような患者では、一定の厳しい基準を満たすことを確認した上で、肺移植の適応も検討されます。さらに、病気が進行し、酸素を十分取り込めないようになった場合には、 在宅酸素療法 といって日常生活で酸素を吸入する治療法が実施します。また、必要であれば 呼吸リハビリテーション も行われます。さらに肺病変の影響で心臓の負担が増加している場合( 肺高血圧、右心不全など )にはその治療もあわせて行います。

8.この病気はどういう経過をたどるのですか

特発性肺線維症(IPF)の経過は個々の患者さんにより様々であるといわれています。一般的には慢性経過で肺の線維化が進行する疾患で、平均生存期間は、欧米の報告では診断確定から28-52ヶ月、わが国の報告では初診時から61-69ヶ月と報告されていますが、患者さんごとにその差は大きく、経過の予測は困難です。また、風邪の様な症状のあと数日内に急激に呼吸困難が進行する急性増悪が経過を悪化させることがあります。そのほかの特発性非特異性間質性肺炎(NSIP)や特発性器質化肺炎(COP)は一般に治療に良く反応しますが、中には軽快と増悪を繰り返し、徐々に悪化していく場合もあります。また、発症当初は特発性間質性肺炎と診断されても、しばらくしてから膠原病などの原因疾患が明らかになり、原因疾患に対する治療法で間質性肺炎が軽快することもあります。
喫煙歴のある間質性肺炎の患者さん、特に肺気腫を合併した肺線維症の患者さんには肺がんができやすいことが知られていますので、間質性肺炎の病状が安定していても定期的な検査を受けることをお勧めします。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

日常生活では、禁煙とともに、過労・睡眠不足など体に対する負担を減らすような生活を行うよう心がけてください。一方で呼吸リハビリテーションも重要ですので、適度な運動を定期的に続けるよう心掛けてください。過食・体重増加は呼吸困難が増強する可能性があり、適正体重を保つことも重要です。一方、間質性肺炎が進行すると体重が減少し、経過が不良となることからバランスのとれた食事により体重を維持してください。
また、感染予防はきわめて重要で、間質性肺炎の急性増悪は上気道感染(風邪のような症状)がきっかけとなることも多いので、冬季においては外出時のマスク着用や手洗い・うがいの励行、感染症対策としてのインフルエンザや、肺炎球菌、新型コロナなどの予防接種を受けることも重要です。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

特発性肺線維症(IPF)、非特異性間質性肺炎(NSIP)、急性間質性肺炎(AIP)、特発性器質化肺炎(COP)、剥離性間質性肺炎(DIP)、呼吸細気管支炎関連間質性肺炎(RB-ILD)、リンパ球性間質性肺炎(LIP)

11. この病気に関する資料・関連リンク

1)日本呼吸器学会 びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編:特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き2022 改訂第4版 南江堂 2022.
2) Raghu G, et al. Idiopathic Pulmonary Fibrosis (an Update) and Progressive Pulmonary Fibrosisis in Adults. An Official ATS/ERS/JRS/ALAT Clinical Practice Guideline. Am J Respir Crit Care Med. 205(9): e18-e47, 2022.
3) Travis WD. et al. An Official American Thoracic Sosiety/European Respiratory Society Statement: Update of the International Multidisciplinary Classification of the Idiopathic Interstitial Pneumonias 188: 733-748, 2013.
4)Natsuizaka M, et al. Am J Respir Crit Care Med. 190: 773-779, 2014.

 

情報提供者
研究班名 びまん性肺疾患に関する調査研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和5年10月(名簿更新:令和6年6月)