特発性血小板減少性紫斑病(指定難病63)

とくはつせいけっしょうばんげんしょうせいしはんびょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 「 特発性血小板減少性紫斑病 」とは

特発性血小板減少性紫斑病(Idiopathic thrombocytopenic purpura、以下ITPと略します)とは、血小板減少を来たす他の明らかな病気や薬剤の服薬がなく血小板数が減少し、出血しやすくなる病気です。病気が起こってから6ヶ月以内に血小板数が正常に回復する「急性型」は小児に多く、6ヶ月以上血小板減少が持続する「慢性型」は成人に多い傾向にあります。また、血小板数が10万/μL未満に減少した場合、この病気が疑われます。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

厚生労働省の難治性疾患克服研究事業「血液凝固異常症に関する調査研究」班において平成16年度~平成19年度の4年間の「特発性血小板減少性紫斑病」臨床個人調査票を集計、分析した結果、この病気を患っている患者さんの総数は約2万人であり、新たに毎年約3000人の患者さんがこの病気に罹ると考えられます。

3. この病気はどのような人に多いのですか

小児ITPでは急性型が約75~80%を占め、ウイルス感染や予防接種を先行事象として有する場合が多く認められます。慢性型は成人ITPに多く、原因は特定できないことがほとんどです。上記研究班が行なった平成16年度~平成19年度の4年間の調査では、20~40歳台の若年女性に発症ピークがありますが、これに加えて60~80歳でのピークが認められるようになってきています。20~40歳台では女性が男性の約3倍多く発症します。高齢者では男女差はありません。

4. この病気の原因はわかっているのですか

血小板に対する「 自己抗体 」ができ、この自己抗体により脾臓で血小板が破壊されるために、血小板の数が減ってしまうと推定されています。しかしながら、なぜ「自己抗体」ができるのかについては、未だはっきりとしたことはわかっていないのが現状です。

5. この病気は遺伝するのですか

ある特定の遺伝子変異によって発症するような疾患ではなく、今までに遺伝家系の報告はありません。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

血小板は、出血を止めるために非常に大切な細胞です。ですから、この数が減ると出血し易くなり、また出血が止まりにくくなり、次のような種々の程度の出血症状がみられます。
・点状や斑状の皮膚にみられる出血
・歯ぐきからの出血、口腔粘膜出血
・鼻血
・便に血が混じったり、黒い便が出る
・尿に血が混じって、紅茶のような色になる
・月経過多、生理が止まりにくい
・重症な場合は、脳出血

ただし、いずれの症状もこの疾患に 特異的 なものではありません。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

厚労省研究班では「成人ITP治療の参照ガイド2019年版」を公開しています(臨床血液60;:877-896,2019)。その大まかな内容は、ITPの患者さんでピロリ菌陽性である場合、抗菌剤でピロリ菌の除菌を行うと半数以上の患者さんで血小板数が増加することから、ピロリ菌が陽性の場合、まず除菌療法を行なうことを勧めています。一方、除菌療法の効果がない患者さんやピロリ菌陰性の患者さんでは、血小板数および出血症状に応じて、治療を行うべきかどうか判断します。ITPの治療の目標は、必ずしも血小板数を正常に戻すことにあるのではなく、危険な出血を防ぎ、かつ生活の質を向上することにあります。一般に血小板数が3万/μL以上で出血症状が軽度の場合は、治療は行わず経過をみます。2万/μL以下は治療適応となり、2~3万/μLではそれぞれの患者さんの出血リスクに応じて治療開始するかどうか判断します。治療としては、第一選択は副腎皮質ステロイドです。一般的には、プレドニゾロン0.5~1㎎/kgを6~8週間投与後、徐々に減量していきます。副腎皮質ステロイドが無効な場合や、副作用のために治療継続が難しい時には、血小板産生を促す作用をもつトロンボポエチン(TPO)受容体作動薬(経口薬であるエルトロンボパグと皮下注製剤であるロミプロスチムの2種類があります)、自己抗体を産生するリンパ球を減らすリツキシマブ、または手術で脾臓を摘出する(「脾摘」といいます)治療の中から、それぞれの患者さんの年齢、合併症、ライフスタイルなどを考慮して選択します。また最近では、チロシンキナーゼの一つ脾臓チロシンキナーゼ(Syk)の働きを抑えて自己抗体の産生と血小板の破壊を防ぐホスタマチニブ、血液の中から自己抗体を取り除いて血小板が壊れることを防ぐエフガルチギモドの二つの新しい治療薬も使用できるようになりました。その他の治療としては、アザチオプリンやシクロホスファミド、シクロスポリンなどの免疫抑制薬、ダナゾールなどを用いることがありますが、これらの薬剤は適応外での使用となります。重篤な出血をおこしている、あるいはおこす危険がある場合は、ガンマグロブリン大量療法(IVIG)や血小板輸血が行われることがあります。また手術や分娩時など血小板数を安全な値まで(通常、5万/μL以上)増加させる必要があり、その際にもIVIGが使われます。IVIGの有効率は高いですが、1ヵ月程度しかその効果は持続しません。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

小児ITPは大部分が急性型で、6~12ヶ月以内に自然に血小板数が正常に戻ることが多く、慢性型に移行するものは10%程度です。一方、成人ITPの多くは慢性型であり、副腎皮質ステロイドで治癒するのは20%程度です。従来は、ステロイド無効例では脾摘が積極的に行われていました。脾摘によりITPの約60%の方が薬を止めても血小板数が10万/μL以上を維持できるようになります。しかし、近年、TPO受容体作動薬やリツキシマブが使用可能となり、選択肢が広がっています。TPO受容体作動薬は有効率が高く、副作用も軽度ですが、通常、継続的な治療が必要です。リツキシマブの有効率は脾摘やTPO受容体作動薬よりやや劣りますが、治療は1ヶ月で終了します。これらの治療が無効である難治性症例も少数ですが存在し、ITPの診断の再確認が必要な場合があります。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

風邪などウイルス感染やワクチン接種を契機に出血症状が増悪する場合があるため、出血症状が増悪する場合は主治医に連絡してください。また鎮痛剤や解熱剤には血小板の機能を弱める成分が含まれるものが多いため、主治医に使用してよいかどうか確認してください。血小板数のみにとらわれずに、皮膚に 点状出血 が増えていないか、口腔内に血腫ができていないかを、患者さん自身で観察して、病気の状態を把握するように努めてください。また血小板数が低いときは、打撲するようなサッカーや剣道、柔道などのスポーツは避けるべきです。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

(一次性)免疫性血小板減少症
(一次性)免疫性血小板減少性紫斑病
自己免疫性血小板減少症
自己免疫性血小板減少性紫斑病

11. この病気に関する資料・関連リンク

「成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド2019年版」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rinketsu/60/8/60_877/_article/-char/ja/
「妊婦合併特発性血小板減少紫斑病診療の参照ガイド」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rinketsu/55/8/55_934/_article/-char/ja/

 

情報提供者
研究班名 血液凝固異常症等に関する研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和6年11月(名簿更新:令和6年6月)