原発性胆汁性胆管炎(指定難病93)

げんぱつせいたんじゅうせいたんかんえん
 

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○ 概要
 
1.概要
原発性胆汁性胆管炎(Primary biliary cholangitis:PBC。旧称:原発性胆汁性肝硬変(primary biliary cirrhosis))は病因が未だ解明されていない慢性進行性の胆汁うっ滞性肝疾患である。胆汁うっ滞に伴い肝実質細胞の破壊と線維化を生じ、最終的には肝硬変から肝不全を呈する。臨床的には胆汁うっ滞に伴うそう痒感、及び自己抗体の1つである抗ミトコンドリア抗体(Anti-mitochondrial antibodies:AMA)の陽性化を特徴とし、中年以後の女性に多い。臨床症状も全くみられない無症候性PBCの症例も多く、このような症例は長年無症状で経過し予後もよい。
なお、本疾患は以前、原発性胆汁性肝硬変(primary biliary cirrhosis)と呼ばれていた。本疾患概念が確立された当時は、大多数の症例が肝硬変まで進行した段階で発見されていたため「肝硬変」という語句が使用されていたが、診断・治療技術の進歩した現在では、ほとんどの患者が肝硬変の状態ではないことから、2016年に日本肝臓学会及び日本消化器病学会において「原発性胆汁性胆管炎」への病名変更が決定された。
 
2.原因
本症発症の原因はまだ不明であるが、自己抗体の1つであるAMAが特異的かつ高率に陽性化し、また、慢性甲状腺炎、シェーグレン症候群等の自己免疫性疾患や膠原病を合併しやすいことから、病態形成には自己免疫学的機序が考えられている。免疫組織学的に、自己免疫反応を特徴づける所見が認められることより、胆管障害機序には様々な細胞による免疫学的機序が重要な役割を担っていることが想定されている。
 
3.症状
症状は、(1)胆汁うっ滞に基づく症状、(2)肝障害・肝硬変及び随伴する病態に伴う症状、(3)合併した他の自己免疫疾患に伴う症状の3つのカテゴリーに分けて考えることができる。病初期は長期間無症状であるが、中期・後期になると本疾患に特徴的である胆汁うっ滞に基づく皮膚そう痒感が出現してくる。無症候性PBCでは合併した自己免疫性疾患の病態・症状が表面に出ていることも多い。特徴的な身体所見として、そう痒感に伴う掻き疵や高脂血症に伴う眼瞼黄色腫がみられる症例もある。肝臓は初期に腫大していることが多く、進行すれば、萎縮し、黄疸と共に、胃食道静脈瘤、腹水、肝癌等、肝硬変に伴う身体所見が現れる。
 
4.治療法
確立した根治的治療法はないため対症療法にとどまるが、病期・病態に応じた対策が必要である。初期から中期では免疫反応による炎症と胆汁うっ滞に対して、胆汁うっ滞が持続すると胆汁うっ滞に基づく症状と合併症に対して、肝硬変に至ると肝硬変に伴う門脈圧亢進症、腹水、脳症等の合併症に対しての治療が必要となる。
ウルソデオキシコール酸(UDCA)は現在第1選択薬とされており、初期から投与される。90%の症例では胆道系酵素の低下がみられるが、進行した症例では効果が期待できない。高脂血症薬の1つであるベザフィブラートにも生化学的改善効果が認められており、我が国ではしばしばUDCAの効果が不十分な症例に併用されているが、最近この併用には長期予後の改善効果があることが報告された。PBC-AIHオーバーラップ症候群で肝炎の病態が強い場合には副腎皮質ホルモンが併用される。
症候性PBCでは、胆汁うっ滞に基づく症状、特にそう痒、高脂血症とビタミンDの吸収障害による骨粗鬆症に対する治療が重要である。門脈圧亢進症を来しやすく、胃食道静脈瘤は肝硬変に至る前に出現することがあるので、定期的な観察が必要である。進行例では肝癌の併発にも留意する。肝硬変に進展した場合は、腹水、肝性脳症等の合併症に対する対応が必要となる。病期が進むと、内科的治療に限界が生じ肝移植の適応となるが、重症進行例では手術成績も低下するので、血清総ビリルビン値5mg/dLをめどに、肝臓専門医、移植専門医に相談する。移植成績は、5年で約80%と優れている。脳死移植が少ない我が国では既に生体部分肝移植が定着しており、移植成績も欧米の脳死肝移植例と同様に良好である。
 
5.予後
無症候性PBCは無症候性PBCにとどまる限り予後は大変よいが、約10~40%(5年間で約25%)は症候性PBCへ移行する。黄疸期になると進行性で予後不良である。5年生存率は、血清T.Bil値が2.0mg/dLでは60%、5.0mg/dLになると55%、8.0mg/dLを超えると35%となる。PBCの生存予測に関する独立因子としては、Mayoモデルでは年齢、ビリルビン、アルブミン、プロトロンビン時間、浮腫があげられている。一方、日本肝移植適応研究会では、ビリルビンとAST/ALTである。UDCA内服開始後の生命予後予測に関しては、UK-PBC スコアとGLOBE スコアが優れている。死因は、症候性PBCでは肝不全と食道静脈瘤の破裂による消化管出血が大半を占めるが、無症候性PBCでは肝疾患以外の原因で死亡することが多い。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
17,390人
2.発病の機構
不明(自己免疫の関与が示唆される。)
3.効果的な治療方法
未確立(根治的治療なし。)
4.長期の療養
必要(無症候性PBCの約10~40%(5年間で約25%)は症候性PBCへ移行する。)
5.診断基準
あり
6.重症度分類
原発性胆汁性肝硬変(PBC)の診療ガイドライン(2012年)「PBCの臨床病期」の症候性PBCを対象とする。
 
○ 情報提供元
「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究班」
研究代表者 帝京大学医学部内科学講座 教授 田中 篤
 
<診断基準>
(1)自覚症状
皮膚掻痒感で初発することが多い。黄疸は出現後、消退することなく漸増することが多く、門脈圧亢進症状が高頻度に出現する。原発性胆汁性胆管炎(primary biliary chlangitis:PBC)(原発性胆汁性肝硬変)は臨床上、症候性(symptomatic)PBCと無症候性(asymptomatic)PBCに分類され、皮膚掻痒感、黄疸、食道胃静脈瘤、腹水、肝性脳症など肝障害に基づく自他覚症状を有する場合は、症候性PBCと呼ぶ。これらの症状を欠く場合は無症候性PBCと呼び、無症候のまま数年以上経過する場合がある。
 
(2)血液・生化学検査所見
症候性、無症候性を問わず、血清中の胆道系酵素(アルカリホスファターゼ、γGTPなど)活性の上昇を認め、抗ミトコンドリア抗体(antimitochondrial antibody:AMA)が高頻度に陽性である。IgM値、総コレステロール値の上昇も伴うことが多い。
 
(3)組織学的所見
肝組織では中等大小葉間胆管ないし隔壁胆管に慢性非化膿性破壊性胆管炎(chronic non-suppurative destructive cholangitis:CNSDC)あるいは胆管消失を認める。
連続切片による検索で診断率は向上する。
 
(4)合併症
高脂血症が持続する場合に皮膚黄色腫を伴う。シェーグレン症候群、関節リウマチ、慢性甲状腺炎などの自己免疫性疾患を合併することがある。
 
(5)鑑別診断
慢性薬物起因性肝内胆汁うっ滞、肝内型原発性硬化性胆管炎、成人性肝内胆管減少症など
 
(6)診断
次のいずれか1つに該当するものをPBCと診断する。
①組織学的にCNSDCを認め、検査所見がPBCとして矛盾しないもの※
②AMAが陽性で、組織学的にはCNSDCの所見を認めないが、PBCに矛盾しない(compatible)組織像を示すもの※
③組織学的検索の機会はないが、AMAが陽性で、しかも臨床像(自覚症状、血液・生化学検査所見、合併症を総合したもの)及び経過からPBCと考えられるもの
※検査所見がPBCとして矛盾しない:血液所見で慢性の胆汁うっ滞所見(ALP、γGTP)
※PBCに矛盾しない組織像:胆管消失、肉芽腫など
 
 
 
 
 
<重症度分類>
原発性胆汁性肝硬変(PBC)の診療ガイドライン(2012年)における臨床病期症候性PBC(sPBC)を対象とする。
 
<臨床病期>
無症候性PBC(aPBC):肝障害に伴う自他覚症状を欠く。


症候性PBC(sPBC):肝障害に基づく自他覚症候を有し、
              s1PBC 総ビリルビン値2.0mg/dL未満のもの
              s2PBC 総ビリルビン値2.0mg/dL以上のもの
*肝障害に伴う自他覚症状:黄疸、皮膚掻痒感、食道胃静脈瘤、腹水、肝性脳症など
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 

情報提供者
研究班名 難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和6年6月)