シェーグレン症候群(指定難病53)
○ 概要
1.概要
慢性唾液腺炎と乾燥性角結膜炎を主徴とし、多彩な自己抗体の出現や高ガンマグロブリン血症を来す自己免疫疾患の一つである。乾燥症が主症状となるが、唾液腺、涙腺だけでなく、全身の外分泌腺が系統的に障害されるため、autoimmune exocrinopathyとも称される。
シェーグレン症候群は他の膠原病の合併がみられない一次性と関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの膠原病を合併する二次性とに大別される。さらに、一次性シェーグレン症候群は、病変が涙腺、唾液腺に限局する腺型と病変が全身諸臓器に及ぶ腺外型とに分けられる。
様々な自己抗体の出現や臓器に浸潤した自己反応性リンパ球の存在により、自己免疫応答がその病因として考えられている。ポリクローナルな高ガンマグロブリン血症のほか、抗核抗体、リウマトイド因子、抗SS‐A抗体、抗SS‐B抗体などの自己抗体が出現する。
2.原因
詳細は不明であるが、自己免疫疾患と考えられている。
3.症状
(1)乾燥症状(眼、口腔、気道乾燥、皮膚乾燥、腟乾燥など)
(2)唾液腺・涙腺腫脹
(3)関節症状(関節痛、関節炎)
(4)甲状腺(甲状腺腫、慢性甲状腺炎)
(5)呼吸器症状(間質性肺炎、慢性気管支炎、嗄声など)
(6)肝症状(原発性胆汁性胆管炎、自己免疫性肝炎)
(7)消化管症状(胃炎)
(8)腎症状(遠位尿細管性アシドーシス、低カリウム血症による四肢麻痺、腎石灰化症)
(9)皮膚症状(環状紅斑、高ガンマグロブリン血症による、下肢の網状皮斑や紫斑)
(10)その他(レイノー現象、筋炎、末梢神経炎、血管炎、悪性リンパ腫など)
4.治療法
乾燥症状に対しては、対症療法が中心となる。眼乾燥症には人工涙液、ヒアルロン酸ナトリウム、ジクアホソルナトリウム、レバミピドの点眼が行われる。強度の眼乾燥症に対しては、涙点プラグが有効である。口腔乾燥症には人工唾液の噴霧が行われる。また頻回のうがいはう歯の予防に有用である。室内の湿度を保つことも乾燥感の軽減に有効である。内服薬では唾液分泌促進薬であるセビメリン塩酸塩、ピロカルピン塩酸塩が用いられる。約60%の患者で有効であるが、約30%の患者で消化器症状や発汗などの副作用が出現する。その他、麦門冬湯、ブロムヘキシン塩酸塩なども用いられる。また、免疫抑制薬のミゾリビンの有効性が報告されている。腺外病変を伴う場合はその治療を行う。関節痛や関節炎には非ステロイド抗炎症薬が功を奏する。甲状腺機能低下の場合には、甲状腺ホルモンの補充療法が行われる。尿細管性アシドーシスでは、重曹の投与によるアシドーシスの是正とカリウムの補給が行われる。原発性胆汁性胆管炎に対しては、ウルソデオキシコール酸の投与が第1選択である。悪性リンパ腫を合併した場合には、速やかに化学療法の適応となる。他膠原病を合併した場合には、その治療を優先する。
5.予後
一般に慢性の経過を取るが、予後は良好である。乾燥症のために患者のQOLは必ずしも良好とはいえなかったが、唾液分泌促進薬や新規点眼薬(ジクアホソルナトリウム、レバミピド)の登場でQOLが改善してきている。生命予後を左右するのは、活動性の高い腺外症状や悪性リンパ腫の併発、合併した他の膠原病による。
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
16,022人(研究班による)
2.発病の機構
不明(自己免疫性の機序が示唆される。)
3.効果的な治療方法
未確立(根治的治療なし。)
4.長期の療養
必要(一般に慢性の経過である。)
5.診断基準
あり(研究班の診断基準等あり。)
6.重症度分類
厚労省研究班において国際基準を基盤として作成。
重症(5点以上)を対象とする。
○ 情報提供元
「自己免疫疾患に関する調査研究班」
研究代表者 東京医科歯科大学 生涯免疫難病学講座 教授 森 雅亮
<診断基準>
シェーグレン症候群(SjS)改訂診断基準
(厚生労働省研究班、1999年)
1.生検病理組織検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
A)口唇腺組織でリンパ球浸潤が4mm2当たり1focus 以上
B)涙腺組織でリンパ球浸潤が4mm2当たり1focus 以上
2.口腔検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
A)唾液腺造影で stage I(直径 1mm未満の小点状陰影)以上の異常所見
B)唾液分泌量低下(ガムテスト10分間で10mL以下、又はサクソンテスト2分間2g以下)があり、かつ唾液腺シンチグラフィーにて機能低下の所見
3.眼科検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
A)シルマー(Schirmer)試験で5mm/5min以下で、かつローズベンガルテスト(van Bijsterveld スコア)でスコア3以上
B)シルマー(Schirmer)試験で5mm/5min以下で、かつ蛍光色素(フルオレセイン)試験で陽性(角膜に染色あり)
4.血清検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
A)抗SS-A抗体陽性
B)抗SS-B抗体陽性
診断のカテゴリー
以上1、2、3、4のいずれか2項目が陽性であればシェーグレン症候群と診断する。
<重症度分類>
ESSDAI(EULAR Sjögren’s Syndrome Disease Activity Index)による重症度分類
重症(5点以上)を対象とする。
領域 |
重み |
活動性 |
点数 |
健康状態 |
3 |
無0□ 低1□ 中2□ |
|
リンパ節腫脹 |
4 |
無0□ 低1□ 中2□ 高3□ |
|
腺症状 |
2 |
無0□ 低1□ 中2□ |
|
関節症状 |
2 |
無0□ 低1□ 中2□ 高3□ |
|
皮膚症状 |
3 |
無0□ 低1□ 中2□ 高3□ |
|
肺病変 |
5 |
無0□ 低1□ 中2□ 高3□ |
|
腎病変 |
5 |
無0□ 低1□ 中2□ 高3□ |
|
筋症状 |
6 |
無0□ 低1□ 中2□ 高3□ |
|
末梢神経障害 |
5 |
無0□ 低1□ 中2□ 高3□ |
|
中枢神経障害 |
5 |
無0□ 低1□ 高3□ |
|
血液障害 |
2 |
無0□ 低1□ 中2□ 高3□ |
|
生物学的所見 |
1 |
無0□ 低1□ 中2□ |
|
ESSDAI |
|
0点~123点 |
|
一次性SS、二次性SSともにESSDAIにより軽症、重症に分類する。
ESSDAI≧5点→重症
ESSDAI<5点→軽症
付記
ESSDAIにおける各領域の評価基準
領域 |
評価基準 |
健康状態 |
0 以下の症状がない |
リンパ節腫脹 |
0 以下の症状がない |
腺症状 |
0 腺腫脹なし |
関節症状 |
0 現在、活動性の関節症状なし |
皮膚症状 |
0 現在、活動性の皮膚症状なし |
肺病変 |
0 現在、活動性の肺病変なし |
腎病変 |
0 現在、活動性腎病変なし(蛋白尿<0.5g/dL、血尿なし、膿尿なし、かつアシドーシスなし)あるいは不可逆的な障害による安定した持続性蛋白尿 |
筋症状 |
0 現在、活動性の筋症状なし |
末梢神経障害 |
0 現在、活動性の末梢神経障害なし |
中枢神経障害 |
0 現在、活動性の中枢神経障害なし |
血液障害 |
0 自己免疫性血球減少なし |
生物学的所見 |
0 下記の生物学的所見なし |
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
- 日本シェーグレン症候群学会
-
- 文献
- Tsuboi H, Asashima H, Takai C, Hagiwara S, Hagiya C, Yokosawa M, et al. Primary and secondary surveys on epidemiology of Sjögren’s syndrome in Japan. Mod Rheumatol. 2014 May;24(3):464-70.
- Sumida T, Tsuboi H, Iizuka M, Hirota T, Asashima H, Matsumoto I. The role of M3 muscarinic acetylcholine receptor reactive T cells in Sjögren’s syndrome: a critical review. J Autoimmun. 2014 Jun;51:44-50.
- Fujibayashi T, Sugai S, Miyasaka N, Hayashi Y, Tsubota K. Revised Japanese criteria for Sjögren’s syndrome (1999): availability and validity. Mod Rheumatol. 2004 Dec;14(6):425-34.
- Tsuboi H, Hagiwara S, Asashima H, Umehara H, Kawakami A, Nakamura H, et al. Validation of different sets of criteria for the diagnosis of Sjögren’s syndrome in Japanese patients. Mod Rheumatol. 2013 Mar;23(2):219-25.
- Seror R, Ravaud P, Bowman SJ, Baron G, Tzioufas A, Theander E, et al. EULAR Sjogren’s syndrome disease activity index: development of a consensus systemic disease activity index for primary Sjogren’s syndrome. Ann Rheum Dis. 2010 Jun;69(6):1103-9.
- Seror R, Bootsma H, Saraux A, Bowman SJ, Theander E, Brun JG, et al. Defining disease activity states and clinically meaningful improvement in primary Sjögren’s syndrome with EULAR primary Sjögren’s syndrome disease activity (ESSDAI) and patient-reported indexes (ESSPRI). Ann Rheum Dis. 2014 Dec 5. pii: annrheumdis-2014-206008. doi: 10.1136/annrheumdis-2014-206008. [Epub ahead of print]
- Tsuboi H, Matsumoto I, Hagiwara S, Hirota T, Takahashi H, Ebe H, et al. Efficacy and safety of abatacept for patients with Sjögren’s syndrome associated with rheumatoid arthritis: Rheumatoid Arthritis with Orencia Trial toward Sjögren’s syndrome Endocrinopathy (ROSE) trial-an open-label, one-year, prospective study-Interim analysis of 32 patients for 24 weeks. Mod Rheumatol. 2014 Sep 11:1-7.
研究班名 | 自己免疫疾患に関する調査研究班 研究班名簿 |
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情報更新日 | 令和6年4月(名簿更新:令和6年6月) |