ベーチェット病(指定難病56)

べーちぇっとびょう
 

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○ 概要
 
1.概要
口腔粘膜のアフタ性潰瘍、皮膚症状、眼のぶどう膜炎、外陰部潰瘍を主症状とし、急性炎症性発作を繰り返すことを特徴とする。
 
2.原因
病因はいまだ不明であるが、本病は特定の遺伝素因に何らかの外的環境要因が作用して発症する多因子疾患と考えられている。遺伝素因の中では、人種を超えHLA-B51との強く相関するが、近年、免疫機能分子をコードする多数の疾患感受性遺伝子が同定されている。
 
3. 症状
 (1)主症状
ア 口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍
境界鮮明な浅い有痛性潰瘍で、口唇粘膜、頬粘膜、舌、更に歯肉などの口腔粘膜に出現する。初発症状のことが多く、再発を繰り返し、ほぼ必発である。
イ 皮膚症状
下腿に好発する結節性紅斑、皮下の血栓性静脈炎、顔面、頚部、背部などにみられる毛嚢炎様皮疹又は痤瘡様皮疹など。
ウ 眼症状
両眼性に侵されるぶどう膜炎が主体。症状は再発性、発作性に生じ、結膜充血、眼痛、視力低下、視野障害などを来す。
エ 外陰部潰瘍
有痛性の境界鮮明なアフタ性潰瘍で、男性では陰嚢、陰茎、女性では大小陰唇に好発する。
(2)副症状
関節炎、精巣上体炎、消化器病変、血管病変及び中枢神経病変がある。関節炎および関節痛の頻度は50%を越え、それ以外の副症状の出現頻度は多くないものの、特に腸管型、血管型、神経型ベーチェット病は生命に脅威をもたらしうる警戒すべきものであり、特殊病型に分類されている。
消化器病変は典型的には回盲部潰瘍で、炎症性腸疾患との鑑別がしばしば問題になる。血管病変は動静脈系、肺血管系に分布し、動脈瘤や動・静脈血栓を来す。中枢神経病変は、髄膜炎、脳幹脳炎を発症する急性型と、進行性の小脳症状や認知症などの精神症状をきたす慢性進行型に大別される。
 
4.治療法
 (1)生活指導
齲歯予防などの口腔内ケア。疲労、ストレスの回避。
(2)薬物治療
①眼症状:軽度の前眼部発作時は副腎皮質ステロイドと散瞳薬の点眼を用い、重症の場合は副腎皮質ステロイドの結膜下注射を行う。網膜ぶどう膜炎型には、副腎皮質ステロイドの後部テノン囊下注射を行い、副腎皮質ステロイドの全身投与を行う場合もある。眼発作予防にはコルヒチンを第一選択とし、効果不十分の場合、シクロスポリン、TNF阻害薬を使用する。視力予後不良と考えられる重症例にはTNF阻害薬を早期に導入する。
②皮膚粘膜症状:副腎皮質ステロイド外用薬の局所療法とコルヒチンが基本的な治療である。また、口腔内アフタ性潰瘍にはアプレミラスト、結節性紅斑にはミノサイクリンやDDS、毛包炎様皮疹には抗菌薬を使用するほか、難治例には副腎皮質ステロイド、免疫抑制薬を検討する。
③関節炎:急性関節炎には非ステロイド性消炎薬で効果不十分の場合、副腎皮質ステロイドの短期投与を行う。新たな発作予防にはコルヒチンを用い、より重症例にはメトトレキサート、アザチオプリン、インフリキシマブの使用を検討する。
④血管病変:副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬を主体とするが、深部静脈血栓症を併発した場合にはワルファリンなどの抗凝固療法を併用する。難治性の場合はインフリキシマブを使用する。また、大動脈病変、末梢動脈瘤、動脈閉塞には手術を考慮するが、このさい免疫抑制療法を併用する。
⑤腸管病変:軽症から中等症にはサラゾスルファピリジンを含む5―アミノサリチル酸製剤、中等症から重症例には副腎皮質ステロイド、TNF阻害薬の使用や栄養療法を考慮する。副腎皮質ステロイド無効例、依存例やTNF阻害薬無効例などの難治例にはチオプリン製剤の併用を考慮し、腸管穿孔、高度狭窄、膿瘍形成、大量出血では外科手術を行う。
⑥中枢神経病変:脳幹脳炎、髄膜炎などの急性型の炎症には副腎皮質ステロイドを使用し、その後、再発予防目的でコルヒチンを投与する。一方、精神症状、人格変化などを主体とした慢性進行型にはメトトレキサートを投与する。治療抵抗例、再発反復例にはインフリキシマブが適応となる。なお、シクロスポリンは急性型神経の発作を誘発することがあり、この病型には禁忌である。

5.予後
眼病変は、かつては中途失明に至る主要な疾患の一つであったが、TNF阻害薬の導入により、視力予後は大きく改善している。腸管型、血管型、神経型に対してもTNF阻害薬が使用され、全体的な治療成績は向上しているが、未だに治療抵抗例も少なからず存在し、視機能低下例や手術を繰り返す腸管型症例や若年にして認知症の進行した神経型症例も見られる。これらの重症病型がなく、皮膚粘膜病変に留まる例の予後は一般に悪くないが、口腔内アフタ性潰瘍をはじめ、患者QOLには大きな障害となっており、今後も対策を検討していく必要がある。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
14,736人
2.発病の機構
不明(遺伝素因と環境因子(外因)の関連が示唆されている。)
3.効果的な治療方法
未確立
4.長期の療養
必要(各種臓器合併症を有する。)
5.診断基準
あり
6.重症度分類
ベーチェット病の重症度基準を用いて、II度以上を対象とする。

○ 情報提供元
難治性疾患政策研究事業 「ベーチェット病に関する調査研究」
研究代表者 日本医科大学武蔵小杉病院 リウマチ膠原病内科  岳野光洋
 
 
 
<診断基準>
厚生労働省ベーチェット病診断基準 (2010年小改訂)
完全型、不全型及び特殊病変を対象とする。
1.主要項目
(1)主症状
①口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍
②皮膚症状
(a)結節性紅斑様皮疹
(b)皮下の血栓性静脈炎
(c)毛嚢炎様皮疹、痤瘡様皮疹
参考所見:皮膚の被刺激性亢進(針反応)
③眼症状
(a)虹彩毛様体炎
(b)網膜ぶどう膜炎(網脈絡膜炎)
(c)以下の所見があれば(a) (b) に準じる。
(a) (b) を経過したと思われる虹彩後癒着、水晶体上色素沈着、網脈絡膜萎縮、視神経萎縮、併発白内障、続発緑内障、眼球癆
④外陰部潰瘍
 
(2)副症状
①変形や硬直を伴わない関節炎
②精巣上体炎
③回盲部潰瘍で代表される消化器病変
④血管病変
⑤中等度以上の中枢神経病変
 
(3)病型診断のカテゴリー
①完全型:経過中に(1)主症状のうち4項目が出現したもの
②不全型:
(a) 経過中に(1)主症状のうち3項目、あるいは(1)主症状のうち2項目と(2)副症状のうち2項目が出現したもの
(b) 経過中に定型的眼症状とその他の(1)主症状のうち1項目、あるいは(2)副症状のうち2項目が出現したもの
③疑い:主症状の一部が出現するが、不全型の条件を満たさないもの、及び定型的な副症状が反復あるいは増悪するもの
④特殊型:完全型又は不全型の基準を満たし、下のいずれかの病変を伴う場合を特殊型と定義し、以下のように分類する。
(a)腸管(型)ベーチェット病―内視鏡で病変部位を確認する。
(b)血管(型)ベーチェット病―動脈瘤、動脈閉塞、深部静脈血栓症、肺塞栓のいずれかを確認する。
(c)神経(型)ベーチェット病―髄膜炎、脳幹脳炎など急激な炎症性病態を呈する急性型と体幹失調、精神症状が緩徐に進行する慢性進行型のいずれかを確認する。
 
2.検査所見
 
参考となる検査所見(必須ではない。)
(1)皮膚の針反応の陰・陽性
20~22G の比較的太い注射針を用いること
(2)炎症反応
赤沈値の亢進、血清CRPの陽性化、末梢血白血球数の増加、補体価の上昇
(3)HLA-B51の陽性(約60%)、A26(約30%)。
(4)病理所見
急性期の結節性紅斑様皮疹では、中隔性脂肪組織炎で、浸潤細胞は多核白血球と単核球である。初期に多核球が多いが、単核球の浸潤が中心で、いわゆるリンパ球性血管炎の像をとる。全身的血管炎の可能性を示唆する壊死性血管炎を伴うこともあるので、その有無をみる。
(5)神経型の診断においては、髄液検査における細胞増多、IL-6増加、MRIの画像所見(フレア画像での高信号域や脳幹の萎縮像) を参考とする。
 
3.参考事項
(1)主症状、副症状とも、非典型例は取り上げない。
(2)皮膚症状の(a) (b) (c) はいずれでも多発すれば1項目でもよく、眼症状も(a) (b)どちらでもよい。
(3)眼症状について
虹彩毛様体炎、網膜ぶどう膜炎を経過したことが確実である虹彩後癒着、水晶体上色素沈着、網脈絡膜萎縮、視神経萎縮、併発白内障、続発緑内障、眼球癆は主症状として取り上げてよいが、病変の由来が不確実であれば参考所見とする。
(4)副症状について
副症状には鑑別すべき対象疾患が非常に多いことに留意せねばならない(鑑別診断の項参照)。鑑別診断が不十分な場合は参考所見とする。
(5) 炎症反応の全くないものは、ベーチェット病として疑わしい。また、ベーチェット病では補体価の高値を伴うことが多いが、γグロブリンの著しい増量や、自己抗体陽性は、むしろ膠原病などを疑う。
(6)主要鑑別対象疾患
(a)粘膜、皮膚、眼を侵す疾患
多型滲出性紅斑、急性薬物中毒、ライター(Reiter)病
(b)ベーチェット病の主症状の1つを持つ疾患
口腔粘膜症状 : 慢性再発性アフタ症、急性外陰部潰瘍(Lipschutz潰瘍)
皮膚症状 : 化膿性毛嚢炎、尋常性痤瘡、結節性紅斑、遊走性血栓性静脈炎、単発性血栓性静脈炎、スイート(Sweet)病
眼症状 :サルコイドーシス、細菌性および真菌性眼内炎、急性網膜壊死、サイトメガロウイルス網膜炎、HTLV-1関連ぶどう膜炎、トキソプラズマ網膜炎、結核性ぶどう膜炎、梅毒性ぶどう膜炎、ヘルペス性虹彩炎、糖尿病虹彩炎、HLA-B27関連ぶどう膜炎、仮面症候群
(c)ベーチェット病の主症状及び副症状とまぎらわしい疾患
口腔粘膜症状:ヘルペス口唇・口内炎(単純ヘルペスウイルス1型感染症)
外陰部潰瘍 :単純ヘルペスウイルス2型感染症
結節性紅斑様皮疹:結節性紅斑、バザン硬結性紅斑、サルコイドーシス、Sweet病
関節炎症状 :関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症などの膠原病、痛風、乾癬性関節症
消化器症状 :急性虫垂炎、感染性腸炎、クローン病、薬剤性腸炎、腸結核
精巣上体炎 :結核
血管系症状 :高安動脈炎、バージャー(Buerger)病、動脈硬化性動脈瘤、感染性動脈瘤
中枢神経症状:感染症・アレルギー性の髄膜・脳・脊髄炎、全身性エリテマトーデス、脳・脊髄の腫瘍、血管障害、梅毒、多発性硬化症、精神疾患、サルコイドーシス
 
<重症度分類>
II度以上を医療費助成の対象とする。


ベーチェット病の重症度基準

Stage   内 容

I

眼症状以外の主症状(口腔粘膜のアフタ性潰瘍、皮膚症状、外陰部潰瘍)のみられるもの

II

StageⅠの症状に眼症状として虹彩毛様体炎が加わったもの

StageⅠの症状に関節炎や精巣上体炎が加わったもの

III

網脈絡膜炎がみられるもの

IV

失明の可能性があるか、失明に至った網脈絡膜炎及びその他の眼合併症を有するもの

活動性、ないし重度の後遺症を残す特殊病型(腸管ベーチェット病、血管ベーチェット病、神経ベーチェット病)である

V

生命予後に危険のある特殊病型ベーチェット病である

慢性進行型神経ベーチェット病である

 

注1 StageI・IIについては活動期(下記参照)病変が1年間以上みられなければ、固定期(寛解)と判定するが、判定基準に合わなくなった場合には固定期から外す。

 

2 失明とは、両眼の視力の和が0.12以下又は両眼の視野がそれぞれ10度以内のものをいう。

 

3 ぶどう膜炎、皮下血栓性静脈炎、結節性紅斑様皮疹、外陰部潰瘍(女性の性周期に連動したものは除く。)、関節炎症状、腸管潰瘍、進行性の中枢神経病変、進行性の血管病変、精巣上体炎のいずれかがみられ、理学所見(眼科的診察所見を含む。)あるいは検査所見(血清CRP、血清補体価、髄液所見、腸管内視鏡所見など)から炎症兆候が明らかなもの。

 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 

令和6年4月1日

情報提供者
研究班名 ベーチェット病に関する調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和6年6月)