再発性多発軟骨炎(指定難病55)
さいはつせいたはつなんこつえん
再発性多発軟骨炎患者会(永松勝利代表)会報4巻(2014年10月)より抜粋
回答者
東京医科大学八王子医療センターリウマチ性疾患治療センター 岡 寛 教授
聖マリアンナ医科大学 呼吸器・感染症内科 半田 寛 講師
【症状編】
- CRP(C反応性蛋白)は、元々肺炎球菌がC多糖体と結合する蛋白の名称からきています。従って、細菌感染症では著明な増加を示しますが、ウイルス感染症や自己免疫疾患に伴う炎症では、軽度の上昇や正常範囲内のこともあります。特に炎症範囲が狭い時(例えば耳介の1部や関節の1部など)では、CRPが上昇しないことがしばしばあります。このような時は、他の炎症マーカーである血沈や白血球数の上昇や、軟骨の破壊のマーカーであるMMP-3を参考にします。
明らかに関節の痛みや呼吸の苦しさがありますが、検査ではCRPは正常値です。症状とCRPの上昇はイコールではないのでしょうか?
- RPの確定診断は、ご指摘の通り組織の生検になります。生検は、可能な限りステロイドの治療前に行うべきです。ステロイドの治療後に行うと、炎症細胞の浸潤がなくなって確定できないことがあります。生検する部位は、最も炎症がある耳介軟骨、鼻軟骨、気管軟骨などです。
なかなか診断がつきません。生検をすれば診断できると聞きましたが、生検のタイミングは?
【治療編】
- ステロイドの維持量10mg/日は確かに多く、自身のステロイドを産生する副腎に対して抑制がかかっています。併用されている免疫抑制剤の用量が不足しているか、その免疫抑制剤の効果がないことが考えられます。現在使用されている免疫抑制剤の量を増やすか、他の免疫抑制剤に変更する方法があります。RPで使用する免疫抑制剤は、メトトレキサート(MTX)、シクロスポリンA(CYA)、アザチオプリン(AZP)、ミゾリビン(MZB)などです。
ステロイドが10mgからなかなか減りません。免疫抑制剤も併用していますが、減量するとまた再燃します。免疫抑制剤の併用以外に、ステロイドを減量する方法は無いでしょうか?
- 免疫抑制剤にも維持量があります。例えば、シクロスポリンA(CYA)では、初期の治療の導入には2 mg/kg(体重あたり2 mg)以上で加療し、1 mg/kg(体重あたり1 mg)で維持します。60 kgの体重の方でしたら、初期の導入時にはCYAを125-150 mg/日、維持量は50〜75 mg/日になります(カプセルが25 mgと50 mgのため)。RPを初めとする自己免疫疾患の治療は、最短でも2年以上とお考え下さい。症状がなくなったからといって、早めに治療を中断すると再発を招くことがあります。ご注意下さい。
ステロイドは「維持量」があると聞きました。免疫抑制剤ではどうでしょうか?症状が収まっていても、減量なしで一定量の服用を継続する必要 がありますか?
- とりあえず使用してみるという方法はお薦めしません。免疫抑制剤を選択する時には、2つの要素があります。
ひとつは、標的となる臓器の病変です。例えば、関節が標的である場合は、メソトレキサート(MTX)が第1選択になります。肺が標的臓器の場合は、MTXでは副作用が起こりやすいため、通常シクロスポリン(CYA)を最初に選択します。
2つ目は、患者さんが持っている合併症です。例えば脂肪肝を合併していて、既に肝障害がある方には、MTXやアザチオプリン(AZP)はさらに肝障害を悪化する可能性があり、不適です。この場合は、CYAやミゾリビンがよいでしょう。このように免疫抑制剤の選択は、効果(標的臓器)と副作用のリスクを考慮して、選択していきます。特に女性では、卵巣機能の問題も重要ですので、経験の深い先生に診てもらうことがよいかと思います。
自分に合った免疫抑制剤を見つけるには、服薬以外に方法はないでしょうか?
- 非常に重要なご質問です。まず、がまんしません。痛みは、恐らく軟骨の炎症から由来していると思います。この際、内服のステロイドを増量することは確実性がありますが、最善策ではありません。ステロイドの維持量を増やせば、その分だけ副作用のリスクも上昇するからです。このような時は、リメタゾンのような炎症部位に標的されたステロイドを静脈注射するか、水溶性プレドニン10 mgを静脈注射して、患者さんの痛みや炎症反応がどうなるかを細かく観察し、本当にステロイドの増量が必要なのか、非ステロイド抗炎症剤(ロキソニンなど)でしのげるのかを見極める必要があります。
RPの症状と思われる我慢が出来る痛みがあった場合、ステロイドを増量した方がよいでしょうか、副作用が怖いので痛みを我慢した方がよいでしょうか。
【呼吸器編】
- 結論から言うと気管支軟骨の炎症後は線維化してしまうため、基本的には再生は難しいので早期に診断し炎症を取り除くことが重要です。
RPの気道狭窄は、気管支軟骨炎とその周囲の気道粘膜の炎症により浮腫により狭窄しますが、この段階であれば薬物治療(ステロイドや免疫抑制剤、生物学的製剤など)により狭窄を解除させ、進行予防も期待できます。しかし、慢性化してしまうと軟骨が線維化している病理所見が確認されているように、気管支軟骨が脆弱化してしまい気管気管支軟化症が発症してしまいます。一度軟骨がやられてしまうと再生は難しいと思います。そうなると薬物療法だけでコントロールが難しくなり、非侵襲的人工呼吸器、気管切開、気道ステントなどの治療が必要となってくるのが現状です。また、再生医療の分野で人工気管軟骨の作成などが試みられていますがまだまだといったところです。
気管軟骨の炎症による気道狭窄は、RPの症状が寛解した場合元に戻るのでしょうか?
- RP患者で気道病変がメインの方々はステロイドをほんの少し減量しただけで喘息様症状(咳、痰、ゼーゼーといった呼気狭窄音の聴取)が出現することがあります。また,上気道感染=風邪(ほとんどはウィルス性です)により増悪することも多く、ただの風邪と思って様子をみていると危険です。また、免疫抑制状態ですので口腔内カンジダ症(口腔内にカビが生えてしまう)も増悪の一因となりますのでうがい、手洗いなどの感染予防をしていただき、そのような症状がみられたらすぐに受診して診断および治療をすることが重要です。
また、喘息と同様に気候や気圧の変化がみられるとき(梅雨や台風の時期等)には呼吸器症状が悪化することはしばしば経験します。CRPなどの炎症マーカーが上昇していない場合でも気道病変の増悪していることもあります。
RPの症状と思われる、咳が激しくなるタイミングというものはありますか?
- ステロイドの減量の為に咳止めで過ごすのは危険と考えます。咳止めでそれほど気道炎症をマスクすることはないと思いますが、治療効果不十分な状態でいることはどんな疾患でも危険と思われます。
ステロイドの減量を目的に、ある程度の咳は咳止めを服用して過ごすという事は、危険な事でしょうか?
- この質問が一番難しいですね。はっきり申し上げると医師サイドが気管支喘息や風邪と見なされて治療しているのが現状ですが、難治性の咳もしくはコントロールに難渋する喘息に関しては一度胸部CTで気道病変の評価することが望ましいと思います。気道病変がないRPに罹患している方では呼吸機能検査でスクリーニングを行い異常があった場合にCTを確認するでもよろしいかと思います。
RPによる呼吸器病変には、何か他の疾患(喘息や風邪など)と違いはあるでしょうか?
研究班名 | 再発性多発軟骨炎の診断と治療体系の確立班 研究班名簿 |
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情報更新日 | 令和3年9月(名簿更新:令和6年6月) |