好酸球性消化管疾患(新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎)(指定難病98)
○ 概要
1.概要
消化管を主座とする好酸球性炎症症候群(Eosinophilic Gastro-Intestinal Disorder:EGID)は、新生児~乳児における食物蛋白誘発胃腸炎 (ここでは日本における Food-Protein Induced Enterocolitis Syndrome という意味でN-FPIESと呼ぶ。)、幼児~成人における好酸球性食道炎(EoE)、好酸球性胃腸炎(EGE)の総称である。特に新生児期~乳児期の患者は、1990年台末から急激に増加していると考えられている。また、EGEは本邦に特に患者が多い。診断法、治療法が確立していないことから、多くの患者が苦しんでいる。
新生児~乳児における食物蛋白誘発胃腸炎(N-FPIES)では10%の患者は、生命にかかわる重大な合併症を引き起こすため、緊急の治療が必要となる。治療困難症例の場合、症状は一生続く。
幼児~成人における好酸球性食道炎(EoE)では、嚥下障害のために日常生活が障害されるとともに、長期経過例では、食道狭窄を起こし観血的な治療が必要となる。
幼児~成人における好酸球性胃腸炎(EGE)は胃-大腸に至る重要な臓器が障害されるが、欧米では症例数が少ないこともあり、診断治療研究が進んでいない。多くの患者を抱える我が国で研究を進歩させる必要がある。60%程度の例で再発を繰り返し、慢性化してステロイド依存性となるなどして薬剤治療にともなう様々な副作用が問題となる。日本では好酸球性胃腸炎(EGE)は、以前から症例報告が多いが、好酸球性食道炎(EoE)は少ない。逆に欧米では好酸球性食道炎(EoE)が多く、EGEは少ない。世界的にEGE の診断治療法に関する研究は遅れている。
2.原因
免疫反応の異常により、消化管で炎症が起きることが原因である。この免疫学的異常についての詳細は明らかになっていないが、消化管において好酸球の著明な浸潤が見られることが特徴である。
3.症状
新生児~乳児における食物蛋白誘発胃腸炎(N-FPIES)は、主に反復する嘔吐、下痢、血便、体重増加不良が見られ、10%の重症者は腸閉塞、腸破裂、低蛋白血症、発達遅滞、ショック(循環不全)などを合併する。
幼児~成人における好酸球性食道炎(EoE)は、食道のみに炎症が見られ、食物が飲み込みにくい、つかえ感などを生じる。
好酸球性胃腸炎(EGE)は、全消化管に炎症が及ぶ可能性があるが、食欲不振、嘔吐、腹痛、下痢、血便、体重減少、腹水などが見られる。また、重症者では、消化管閉塞、腸破裂、腹膜炎を起こすことがある。
4.治療法
新生児~乳児における食物蛋白誘発胃腸炎(N-FPIES)は、炎症の引き金となっている食物を同定できた場合は、これを除去することで改善することが多い。しかし、この同定は困難な場合も多く、これが不可能な場合、炎症は持続する。
好酸球性食道炎(EoE)については、食道のみに効果を与える局所ステロイド薬が効果を示すが、中止すると再発することが多い。
好酸球性胃腸炎(EGE)は、全身性のステロイド薬が使用されることが多い。しかし、根本的に炎症を寛解させることが難しいため、長期にわたって使用せざるを得ないステロイド薬の副作用、つまり糖尿病、骨粗鬆症、うつ状態などに苦しむことが多い。
5.予後
腸閉塞、腸破裂、腹膜炎、低蛋白血症、発達遅滞、ショック(循環不全)などがある。
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
830人
2.発病の機構
不明(好酸球の活性化に関与するサイトカインの影響が示唆されている。)
3.効果的な治療方法
未確立(根本的治療法なし。)
4.長期の療養
必要(食道や胃腸の正常な機能が障害、慢性炎症が持続。)
5.診断基準
あり(研究班の診断基準等)
6.重症度分類
中等症以上を対象とする。
○ 情報提供元
「乳児~成人の好酸球性消化管疾患、良質な医療の確保を目指す診療提供体制構築のための研究」
研究代表者 国立成育医療研究センター 好酸球性消化管疾患研究室、アレルギーセンター
室長 野村 伊知郎
<診断基準>
以下の3疾患と診断されたものを対象とする。
1.新生児乳児食物蛋白誘発胃腸炎N-FPIES
Step3で対象とする。
診断と治療の手順
以下の5つのステップに分かれている。
Step1.症状から本症を疑う
Step2.検査による他疾患との鑑別
Step3.治療乳へ変更し症状消失を確認
Step4.1か月ごとに体重増加の確認
Step5.確定診断及び離乳食開始のための負荷試験
Step1.症状から本症を疑う:新生児期、乳児期早期に哺乳開始後、不活発、腹部膨満、嘔吐、胆汁性嘔吐、哺乳力低下、下痢、血便のいずれかの症状が見られた場合に疑う。
また、体重増加不良、活動性低下など非特異的な症状のみで、消化器症状が見られない場合も10%以上あり、注意が必要である。血便のみが見られ、全身状態が良好な群はFood-protein induced proctocolitis という病名で呼ばれ、緊急性は低い。
Step2.検査による他疾患との鑑別:血液検査(血算、血液像、凝固能、血液生化学スクリーニング、血液ガス、補体、CRP、総IgE、牛乳特異的IgE)、便粘液細胞診、便培養、寄生虫卵検査、画像診断、場合によってはファイバースコープ、腸生検組織診を行い、以下の疾患を鑑別する。
壊死性腸炎
消化管閉鎖
細菌性腸炎
偽膜性腸炎
溶血性尿毒症症候群
寄生虫疾患
乳糖不耐症
新生児メレナ
メッケル憩室症
中腸軸捻転
腸重積
幽門狭窄症
ヒルシュスプルング病
クローン病
潰瘍性大腸炎
本症は検査に以下の特徴があるが、現時点では有症状期の確定診断が難しいため、とりあえず治療を開始(栄養の変更)して症状改善を観察すべきと思われる。
a) 質の高いリンパ球刺激試験で基準値を越える値
b) 便粘液細胞診にて、好酸球が石垣状に見られる
c) 腸粘膜組織検査で多数の好酸球を認める (400xで20個以上、視野数22)
d) 末梢血好酸球増加、平均+3SD以上の高値では診断価値が高い
e) 牛乳特異的IgE 抗体 (FPIES の初発時陽性率は32.1%である10)
f) (パッチテスト、プリックテストは研究段階にある。)
a)~c)のいずれかが陽性の場合は単独で検査から“強い疑い症例”とする。a)~c) が陰性又は検査が行えない場合、d)、e)が共に陽性の場合にも“強い疑い症例”とする。d)、e)のいずれかひとつが陽性の場合“疑い症例”とする。a)~e)全てが陰性であっても本症を否定することはできない。このときも負荷試験で確定診断が可能である。
末梢血好酸球は平均+3SD以上(簡単にいえば30%以上)の高値では単独で強い疑いとするべきである(後述)。
Step3.治療乳への変更:以上から本症を疑い、治療乳に変更する。同症であればすみやかに症状が改善することが多い。牛由来ミルクで発症した場には母乳、母乳で発症した場合は加水分解乳、アミノ酸乳を選択する。炎症が慢性化している場合は、数週間症状が遷延する場合もある。加水分解乳においてもアレルギー症状を示す症例が少なからず存在する。重症感のある場合は、最初からアミノ酸乳とすべき場合もある。
Step4.体重増加の確認:治療乳にて1か月ごとに、症状が見られず、体重増加が良好であることを確認する。同時に保護者の疑問、不安に答えて、自信を持って養育できるように導く必要がある。
Step5.確定診断のための負荷試験:症状寛解後2週間~5か月で、確定診断のためにミルク負荷テストを行う。発症時の症状から重症であるとみなされる場合、保護者が望まない場合は負荷を延期したり、行わないこともある。事前にプリックテスト、特異的IgE 検査により、I 型アレルギーの危険性を予測しておく。負荷試験の詳細は後述する。
また、本症は米、大豆、小麦などに対しても反応を起こすことがあるため、離乳食に備えてこれらの負荷テストを家庭などで行うとよい。
2.好酸球性食道炎
1.症状(嚥下障害、つかえ感等)を有する。
2.食道粘膜の生検で上皮内に15/HPF以上の好酸球が存在している。
(生検は食道内の数か所を行うことが望ましい。)
3.内視鏡検査で食道内に白斑、縦走溝、気管様狭窄を認める。
4.CTスキャンまたは超音波内視鏡検査で食道壁の肥厚を認める。
5.末梢血中に好酸球増多を認める。
6.男性
1と2を満たすものを対象とする。 これら以外の他の項目は参考とする。
3.好酸球性胃腸炎
1.症状(腹痛、下痢、嘔吐等)を有する。
2.胃、小腸、大腸の生検で粘膜内に好酸球主体の炎症細胞浸潤が存在している。
(20/HPF以上の好酸球浸潤、生検は数か所以上で行い、また他の炎症性腸疾患を除外することを要する)
3.腹水が存在し腹水中に多数の好酸球が存在している。
4.喘息などのアレルギー疾患の病歴を有する。
5.末梢血中に好酸球増多を認める。
6.CTスキャンで胃、腸管壁の肥厚を認める。
7.内視鏡検査で胃、小腸、大腸に浮腫、発赤、びらんを認める。
8.グルココルチコイドが有効である。
1と2又は3を満たすものを対象とする。これら以外の項目は参考とする。
<重症度分類>
- N-FPIES新生児~乳児食物蛋白誘発胃腸炎の重症度分類
中等症以上を対象とする。
I.重症:以下に挙げる重度の症状を伴う場合
・腸穿孔
・腸閉塞
・外科手術が必要となった
・重度のショック
・成長障害
・低蛋白血症
II.中等症:QOLの低下があり、疾患最盛期の症状スコア(別表)が20点以上の場合
III.軽症:QOLの低下を伴わない場合
少量の血便が持続しているなど
N-FPIES症状スコア表
40点以上重症 20~39点中等症 19点以下軽症
西暦 年 月 日
全身状態
□ 調子良く、活動制限なし 0
□ 月齢相応の活動が、通常より制限される 6
□ 状態不良でしばしば活動制限あり 12
□ 発達の明らかな遅れあり 18
体重、SD
□ -1SD 以上 0
□ -1SD 未満 3
□ –2SD 未満 12
□ –3SD 未満 18
嘔吐
□ 嘔気なし 0
□ 1~2回/日の嘔吐 6
□ 3~5回/日の嘔吐 12
□ 6回/日以上の嘔吐 16
食欲不振
□ 食欲はある 0
□ 食欲がないことがある 6
□ 食欲はいつもない 12
□ 食欲はほとんどなく、経管栄養などを必要とする 16
下痢
□ 0~1回/日の水様便まで 0
□ 2~5回/日の水様便。月に7日以上 6
□ 6回以上/日の水様便。1日以上 12
□ 脱水を起こし、点滴を必要とした 16
血便
□ 血便なし 0
□ 少量の血が混じる程度。月に4日以上 6
□ 明らかな血便。月に4日以上 12
□ 大量の血便。月に4日以上 16
- EGE、EoE、好酸球性胃腸炎、好酸球性食道炎(2~19歳対象)
重症度
抗炎症薬の使用の程度により、ステップアップさせる。
I.重症:以下に挙げる重度の症状を伴う場合
・腸穿孔
・腸閉塞
・外科手術が必要となった
・重度のショック
・成長障害
・低蛋白血症
・ステロイド長期使用による副作用
II.中等症:QOLの低下がある場合
一年間で最も重症であった時期の症状スコア(別ページ)が15点以上の場合
III.軽症:QOLの低下を伴わない場合
一年間で最も重症であった時期の症状スコア(別ページ)が15点以下の場合
EGE、 EoEの2~19歳における症状スコア採点表 (N-FPIESのスコア表は、一部が異なる)
●好酸球性食道炎、好酸球性胃腸炎の重症度分類
疾患最盛期の症状スコア(成人EGID重症度評価票)
計82点 40点以上重症 15~39点中等症 14点以下軽症
中等症以上を対象とする。
上部消化管を代表する症状(1) 嘔吐 |
末梢血好酸球割合(最大値をお選びください) |
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
- 新生児-乳児消化管アレルギー診断治療指針,厚生労働省難治性疾患研究班作成;毎年更新,最新のものを参照のこと。
http://nrichd.ncchd.go.jp/imal/FPIES/icho/pdf/fpies.pdf - 日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会編,食物アレルギー診療ガイドライン2012,第10章,82-7.
研究班名 | 好酸球性消化管疾患、診療ガイドラインの改訂と、国際的な疾患サブグループ名の整備に関する研究班 研究班名簿 |
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情報更新日 | 令和6年4月(名簿更新:令和6年6月) |