スティーヴンス・ジョンソン症候群(指定難病38)
○ 概要
1.概要
スティーヴンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnson syndrome:SJS、皮膚粘膜眼症候群)は、高熱や全身倦怠感などの症状を伴って、口唇・口腔、眼、外陰部などを含む全身に紅斑、びらん、水疱が多発し、表皮の壊死性障害を認める疾患である。
2.原因
原因として薬剤性が多いが、マイコプラズマ感染や一部のウイルス感染に伴い発症することもある。発症機序について統一された見解はないが、薬剤やマイコプラズマ感染、ウイルス感染などが契機となり、免疫学的な変化が生じ、主として皮膚・粘膜(眼、口腔、陰部など)に重篤な壊死性の病変がもたらされると推定されている。
3.症状
全身症状としては、高熱、全身倦怠感、食欲低下などが認められ、皮膚病変では全身に大小さまざまな滲出性紅斑、水疱を有する紅斑~紫紅色斑が多発散在する。非典型的ターゲット(標的)状紅斑の中心に水疱形成がみられる。また、口唇・口腔粘膜、鼻粘膜には発赤、水疱が出現し、血性痂皮を付着するようになる。眼では結膜の充血、偽膜形成、眼表面上皮(角膜上皮、結膜上皮)のびらん(上皮欠損)などが認められ、重篤な眼病変では後遺症を残すことが多い。時に上気道粘膜や消化管粘膜を侵し、呼吸器症状や消化管症状を併発する。
SJSの本邦の診断基準では、水疱、びらんなどの表皮剝離体表面積は10%未満である。
4.治療法
早期診断と早期治療が大切である。SJSの治療として、まず感染の有無を明らかにした上で、被疑薬の中止を行い、原則として入院の上で加療する。いずれの原因においても発疹部の局所処置に加えて厳重な眼科的管理、補液・栄養管理、呼吸管理、感染防止が重要である。
治療指針としてはステロイド薬の全身投与を第一選択とする。重症例においては発症早期(発症7日前後まで)にステロイドパルス療法を含む高用量のステロイド薬を開始し、発疹の進展がないことを確認して減量を進める。さらにステロイド薬投与で効果がみられない場合には、免疫グロブリン製剤大量静注療法や血漿交換療法を併用する。眼後遺症に対して新規開発された輪部支持型角膜形状異常眼用コンタクトレンズは、疾患状態の悪化抑制に基づく視力改善、ドライアイ症状の緩和をもたらす。
5.予後
SJSでは多臓器不全、敗血症などを合併する。死亡率は約3%である。後遺症として皮膚粘膜移行部や粘膜の瘢痕化をきたし、失明に至る視力障害、瞼球癒着、ドライアイなどの眼後遺症を残すことが多い。また、閉塞性細気管支炎による呼吸器傷害や外陰部癒着、爪甲の脱落、変形を残すこともある。
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数
約1500人
2.発病の機構
不明(免疫学的な機序が示唆されている)
3.効果的な治療方法
未確立(根治的治療なし)
4.長期の療養
必要(しばしば後遺症を残す)
5.診断基準
あり(現行の特定疾患治療研究事業の診断基準)
6.重症度分類
スティーヴンス・ジョンソン症候群(SJS)および中毒性表皮壊死症(TEN)の重症度分類を用い、中等症以上を対象とする。
○ 情報提供元
「重症多形滲出性紅斑に関する調査研究班」
研究代表者 島根大学医学部 教授 森田栄伸
<診断基準>
(1)概念
発熱と眼粘膜、口唇、外陰部などの皮膚粘膜移行部における重症の粘膜疹を伴い、皮膚の紅斑と表皮の壊死性障害に基づく水疱・びらんを特徴とする。医薬品の他に、マイコプラズマやウイルスなどの感染症が原因となることもある。
(2)主要所見(必須)
1.皮膚粘膜移行部(眼、口唇、外陰部など)の広範囲で重篤な粘膜病変(出血・血痂を伴うびらん等)がみられる。
2.皮膚の汎発性の紅斑に伴って表皮の壊死性障害に基づくびらん・水疱を認め、軽快後には痂皮、膜様落屑がみられる。その面積は体表面積の10%未満である。ただし、外力を加えると表皮が容易に剥離すると思われる部位はこの面積に含まれる。
3.発熱がある。
4.病理組織学的に表皮の壊死性変化を認める*。
5.多形紅斑重症型(erythema multiforme [EM] major)**およびブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)を除外できる。
(3)副所見
1.紅斑は顔面、頸部、体幹優位に全身性に分布する。紅斑は隆起せず、中央が暗紅色のflat atypical targetsを示し、融合傾向を認める。
2.皮膚粘膜移行部の粘膜病変を伴う。眼病変では偽膜形成と眼表面上皮欠損のどちらかあるいは両方を伴う両眼性の急性角結膜炎がみられる。
3.全身症状として他覚的に重症感、自覚的には倦怠感を伴う。口腔内の疼痛や咽頭痛のため、種々の程度に摂食障害を伴う。
4.自己免疫性水疱症を除外できる。
診断のカテゴリー
副所見を十分考慮の上、主要所見5項目を全て満たす場合、SJSと診断する。初期のみの評価ではなく全経過の評価により診断する。
*慢性期(発症後1年以上経過)では眼瞼および角結膜の瘢痕化がみられる。慢性期で粘膜病変が眼瞼および角結膜の瘢痕化の場合、主要所見4は必須ではない。
ただし、医薬品副作用被害救済制度において、副作用によるものとされた場合は医療費助成の対象から除く。
<参考>
1)多形紅斑重症型との鑑別は主要所見1~5に加え、重症感・倦怠感、治療への反応、病理組織所見における表皮の壊死性変化の程度などを加味して総合的に判断する。眼瞼および角結膜の瘢痕化をきたすことはなく、慢性期の瘢痕化は鑑別の重要な所見である。
2)*病理組織学的に完成した病像では表皮の全層性壊死を呈するが、少なくとも200倍視野で10個以上の表皮細胞(壊)死を確認することが望ましい。
3)**多形紅斑重症型(erythema multiforme [EM] major)とは比較的軽度の粘膜病変を伴う多形紅斑をいう。皮疹は四肢優位に分布し、全身症状としてしばしば発熱を伴うが、重症感は乏しい。SJSとは別疾患である。
4)まれに、粘膜病変のみを呈するSJSもある。
<重症度分類>
中等症以上を対象とする。
スティーヴンス・ジョンソン症候群(SJS)および中毒性表皮壊死症(TEN)の重症度分類
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
- 重症多形滲出性紅斑に関する調査研究 http://takeikouhan.jp/index.html
- 日本皮膚科学会ホームページ http://www.dermatol.or.jp
- 医薬品医療機器総合機構ホームページ http://www.pmda.go.jp
- 眼障害の診療 http://eye.sjs-ten.jp/doctor/