アルポート症候群(指定難病218)

あるぽーとしょうこうぐん
 

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○ 概要
 
1.概要
アルポート症候群は進行性遺伝性腎炎であり、約9割がX連鎖型遺伝形式を示し、その重症例では男性で10代後半から20代前半に末期腎不全に進行する。若年透析導入の主因である。糸球体基底膜に電子顕微鏡で特徴的網目状変化を認め診断に有用である。皮膚基底膜や糸球体基底膜のIV型コラーゲン蛋白の異常の検出が確定診断に有用である。遺伝子解析も可能で、確定診断に有用である。
 
2.原因
アルポート症候群では糸球体基底膜に特徴的な変化が見られ、その病因は糸球体基底膜を構成するIV型コラーゲンの遺伝子変異である。X連鎖型アルポート症候群の原因遺伝子はXq22遺伝子座に存在するIV型コラーゲンα 5(IV)鎖遺伝子(COL4A5)、常染色体劣性アルポート症候群の原因遺伝子は第2染色体上のIV型コラーゲンα 3(IV)鎖遺伝子(COL4A3)とα 4(IV)鎖遺伝子(COL4A4)である。腎炎進行機序の詳細は不明で、その解明が今後の課題である。
 
3.症状
病初期には血尿が唯一の所見である。蛋白尿は進行とともに増加してゆきネフロ−ゼ症候群を呈することもよくある。進行性の慢性腎炎であり、小児期には通常腎機能は正常で、思春期以後、徐々に腎機能が低下しはじめ、男性患者では10代後半、20代、30代で末期腎不全に至るものが多い。X連鎖型の女性患者は一般に進行が遅く、腎不全に進行することは稀でキャリアーになることが多い。主な合併症として、神経性難聴、特徴的眼病変(前円錐水晶体、後嚢下白内障、後部多形性角膜変性症、斑点網膜など)がある。
 
4.治療法
現在疾患病態機序特異的治療法はなく今後の課題である。腎不全進行予防のためアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の投与がされ一定の効果を認める。一部にシクロスポリンが有効との報告があるが、議論のあるところである。末期腎不全に至れば透析・移植が必要となる。
 
5.予後
進行性の慢性腎炎であり一般に予後不良である。小児期には通常腎機能は正常であるが、思春期以後徐々に腎機能が低下し、X連鎖型男性患者では10代後半、20代、30代で末期腎不全に至るものが多い。X連鎖型女性患者は一般に進行が遅く、腎不全に進行することは稀である。常染色体性では男女差はなく、X連鎖型男性患者と同様に予後不良である。IV型コラーゲンの発現有無や遺伝子変異の種類と予後に相関が認められる。
 
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数
約1,200人
2.  発病の機構
未解明(腎炎進行の機序が不明。)
3.  効果的な治療方法
未確立(腎保護、尿蛋白減少を期待してアンジオテンシン変換酵素阻害薬などを使用。)
4.  長期の療養
必要(進行性である。)
5.  診断基準
あり(研究班作成の診断基準。)
6.  重症度分類
腎機能、聴力、視力のいずれかの重症度をみたすものを対象とする。
 
○ 情報提供元
「腎・泌尿器系の希少・難治性疾患群に関する診断基準・診療ガイドラインの確立」
研究分担者 和歌山県立医科大学医学部小児科 講師 中西浩一 (アルポート症候群担当)
 
 
<診断基準>
診断例のみを対象とし、疑い例、無症候性キャリアは対象としない。
 
アルポート症候群診断基準
 
●主項目に加えて副項目の1項目以上を満たすもの。
●主項目のみで副項目がない場合、参考項目の2つ以上を満たすもの。
 
※主項目のみで家族が本症候群と診断されている場合は「疑い例」とする。
※無症候性キャリアは副項目のIV型コラーゲン所見(II-1かII-2)1項目のみで診断可能である。
※いずれの徴候においても、他疾患によるものは除く。例えば、糖尿病による腎不全の家族歴や老人性難聴など。
 

I.主項目:

I-1 持続的血尿 注1)

II.副項目:

II-1 IV型コラーゲン遺伝子変異 注2)

II-2 IV型コラーゲン免疫組織化学的異常 注3)

II-3 糸球体基底膜特異的電顕所見 注4)

III.参考項目:

III-1 腎炎・腎不全の家族歴

III-2 両側感音性難聴

III-3 特異的眼所見 注5)

III-4 びまん性平滑筋腫症

 
注1)3か月は持続していることを少なくとも2回の検尿で確認する。まれな状況として、疾患晩期で腎不全が進行した時期には血尿が消失する可能性があり、その場合は腎不全などのしかるべき徴候を確認する。
 
注2)IV型コラーゲン遺伝子変異:COL4A3又はCOL4A4のホモ接合体又はヘテロ接合体変異、又はCOL4A5遺伝子のヘミ接合体(男性)又はヘテロ接合体(女性)変異をさす。
 
注3)IV型コラーゲン免疫組織化学的異常:IV型コラーゲンα 5鎖は糸球体基底膜だけでなく皮膚基底膜にも存在する。抗α 5鎖抗体を用いて免疫染色をすると、正常の糸球体、皮膚基底膜は線状に連続して染色される。しかし、X連鎖型アルポート症候群の男性患者の糸球体、ボーマン囊、皮膚基底膜は全く染色されず、女性患者の糸球体、ボーマン囊、皮膚基底膜は一部が染色される。常染色体劣性アルポート症候群ではα 3,4,5鎖が糸球体基底膜では全く染色されず、一方、ボーマン囊と皮膚ではα 5鎖が正常に染色される。注意点は、上述は典型的パターンであり非典型的パターンも存在する。また、全く正常でも本症候群は否定できない。
 
注4)糸球体基底膜の特異的電顕所見:糸球体基底膜の広範な不規則な肥厚と緻密層の網目状変化により診断可能である。良性家族性血尿においてしばしばみられる糸球体基底膜の広範な菲薄化も本症候群においてみられ、糸球体基底膜の唯一の所見の場合があり注意を要する。この場合、難聴、眼所見、腎不全の家族歴があればアルポート症候群の可能性が高い。また、IV型コラーゲン所見があれば確定診断できる。
 
注5)特異的眼所見:前円錐水晶体(anterior lenticonus)、後嚢下白内障(posterior subcapsular cataract)、
後部多形性角膜変性症(posterior polymorphous dystrophy)、斑点網膜(retinal flecks)など。
 
 
<重症度分類>
腎機能、聴力、視力のいずれかの重症度を満たすものを対象とする。
○腎機能
CKD重症度分類ヒートマップで赤の部分を対象とする。

 

 
 
○聴力
中等度以上を対象とする。
0 25dBHL未満(正常)
1 25~40dBHL未満(軽度難聴)
2 40~70dBHL未満(中等度難聴)
3 70~90dBHL未満(高度難聴)
4 90dBHL以上未満(重度難聴)
※500、1000、2000Hzの平均値で、聞こえが良い耳(良聴耳)の値で判断。
 
○視力
視覚障害: 良好な方の眼の矯正視力が0.3未満
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

平成27年7月1日

情報提供者
研究班名 小児腎領域の希少・難治性疾患群の全国診療・研究体制の構築班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和3年9月(名簿更新:令和6年6月)