先天性無痛無汗症(指定難病130)

せんてんせいむつうむかんしょう
 

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○ 概要
 
1.概要
先天性無痛無汗症は、全身の無痛を主症状とする疾患で、運動麻痺を伴わない。温痛覚障害に自律神経障害を合併する遺伝性疾患群を、遺伝性感覚自律神経ニューロパチーと呼ぶが、このうち4型と5型が先天性無痛無汗症に相当する(4型と5型は明確な区別が困難で臨床症状がオーバーラップすることも多いため、両者を含める)。4型は全身の温痛覚消失に、全身の発汗低下又は消失、様々な程度の精神発達遅滞を示す疾患であり、5型は全身の温痛覚消失を示すが発汗低下や精神発達遅滞を伴わない疾患である。しかし、4型と診断されても精神発達遅滞がごく軽度の患者、5型と診断されても軽度の発汗低下を示す患者もおり、近年これらはオーバーラップする疾患と考えられている。
 
2.原因
遺伝性疾患であり、常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)を示す。4型はNTRK1(Neuropathic Tyrosine Kinase Receptor Type 1)の遺伝子変異が証明されているが、この変異が症状に結びつく詳細なメカニズムは判明していない。5型はNGFB(Nerve Growth Factor Beta)の遺伝子変異があり、軽症の症状を示すヘテロ結合の患者も報告されている。いずれも末梢神経の小径有髄線維(Aδ 線維)および無髄線維(C線維)の減少が報告されているが、中枢神経系の症状の機序は不明である。前述のごとく、近年4型と5型はオーバーラップする疾患と考えられており、4型と考えられる患者でNGFBの遺伝子変異が証明されることがある。また5型とほぼ同一の表現型を示し、SCN9A(Sodium Channel, Voltage-gated, Alfa Subunit)の遺伝子変異を示す患者も報告されている。
 
3.症状
全身の温痛覚が消失することにより、様々な症状を引き起こす。温痛覚による防御反応が欠如するため、皮膚、軟部組織、骨関節に様々な外傷を受けやすく、また受傷に気付かずに重症化することもある。皮膚、軟部組織の外傷には、口腔粘膜や舌の損傷(咀嚼力の低下、齲歯、味覚障害等につながる。)、眼の角膜損傷(角膜潰瘍点状表層角膜症などから視力低下につながる。)、全身の熱傷や凍傷を含む。骨関節では、下肢を中心に骨折、脱臼、骨壊死、関節破壊(Charcot関節)などが多発し、下肢機能が廃絶し、移動機能が著しく低下する。特に4型で発汗低下がある場合は、体温コントロールがつかずに脳症を引き起こし、時に小児期に死に至る。発汗低下は、皮膚の潰瘍形成にもつながる。また、精神発達遅滞には適応障害、広汎性発達障害を合併することもあり、痛覚低下と相まって自傷行為が問題になることもある。また自分のみならず相手の痛みへの共感も欠如するために、社会性に問題を生じる。睡眠障害、および自律神経系の症状として、周期性嘔吐症を示す患者もいる。また機序は不明であるが、易感染性が存在すると考えられ、化膿性骨髄炎や関節炎、外科手術に伴う感染、蜂窩織炎などの合併が多い。
 
4.治療法
根本的な治療法はない。患者・家族の教育を通じて骨折・脱臼や熱傷などを予防し、またこれらの早期発見、早期治療を心掛ける。クッション性の高い足底装具などの装具で外傷を予防したり、繰り返す脱臼や既に発症した関節破壊に対して装具治療を行うことがある。舌や口腔粘膜の外傷等を予防するために、歯に保護プレートを装着することがある。発汗低下がある場合にはでは体温コントロールが重要であり、室温のコントロール、クールベストと呼ばれる着衣を必要とする。これらの患者ケアに関係する資料として、研究班が患者会に協力して作成したケアガイドやガイドラインがある(「先天性無痛症および無痛無汗症に対する総合的な診療・ケアのための指針(第2版)」、小児神経学会HP掲載)。
 
5.予後
生命予後に関する詳細は不明であるが、予後に関係するのは、四肢の皮膚潰瘍などからの感染症と、不十分な体温コントロールであると考えられる。小児期に脳症で死亡する患者、成人期に蜂窩織炎から敗血症性で死亡する患者を経験している。50歳を超える患者は極めて少ない。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満
2.  発病の機構
不明(遺伝子異常が関与しているが詳細は不明。)
3.  効果的な治療方法
未確立(根本的治療法はなく、合併症を防ぐための教育やケアにとどまっている。)
4.  長期の療養
必要(症状は一生涯続き、骨関節の障害などは徐々に進行する。脳症や感染症リスクも生涯継続する。)
5.  診断基準
あり(研究班作成の診断基準あり。)
6.  重症度分類
診断基準自体が概ね日常生活又は社会生活への支障の程度を表しているとする。
 
○ 情報提供元
「先天性無痛無汗症」
研究代表者 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科皮膚病態学分野 教授 室田浩之
研究分担者 島田療育センター 院長 久保田雅也
 
 
 
 
 
 
 
<診断基準>
先天性無痛無汗症は遺伝性感覚・自律神経ニューロパチーに属する疾患で、このうち4型と5型が相当する。
 
 
A.主要徴候
1.    先天性に全身の温痛覚消失又は低下
2.    先天性に全身の発汗消失又は低下
3.    精神発達遅滞
 
B.その他の徴候と所見
1.   乳児期からの不明熱(体温調節障害)
2.   乳児期からの咬傷
3.   幼児期以降の関節障害と骨折、骨の変形などの異常
 
C.重要な検査所見
1.   遺伝子解析(NTRK1遺伝子の変異)
2.   遺伝子解析(NGF遺伝子の変異*)
3.   遺伝子解析(SCN9A遺伝子の変異)
 
<診断のカテゴリー>
以下のいずれかの場合、遺伝性感覚・自律神経ニューロパチー4型と診断する。
〇Aの全てとBの1つ以上を満たす場合。
〇Aの1、2とBの1つ以上を満たす場合。
〇Aの1、2とCの1又は2を満たす場合。
 
以下のいずれかの場合、遺伝性感覚・自律神経ニューロパチー5型と診断する。
〇Aの1を満たすがAの2を満たさず、かつBの2又は3を満たす場合。
〇Aの1を満たすがAの2を満たさず、かつCの2又は3を満たす場合。
 
NGF遺伝子変異の種類により、4型又は5型となる。
 
 
 
 
 
 
 
 
<重症度分類>
診断基準自体を重症度分類等とし、診断基準を満たすものを全て対象とする。
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続す
ることが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 

令和6年4月1日

情報提供者
研究班名 発汗異常を伴う稀少難治療性疾患の治療指針作成、疫学調査の研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和6年6月)