完全大血管転位症(指定難病209)

かんぜんだいけっかんてんいしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 「完全大血管転位」とはどのような病気ですか

完全大血管転位症とは、右心室から大動脈が、左心室から肺動脈が起始する先天性心疾患です。心室中隔欠損のないI型(約50%)、心室中隔欠損を伴うII型(約30%)、心室中隔欠損に肺動脈狭窄を伴うIII型(約20%)に分類します(図1)。
 
 
図1:大血管転位症の分類(左:I 型、中央:II 型、右:III 型)

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

約4,000人から5,000人に1人の割合で発症し、先天性心疾患の約2%を占めると言われます。男女比は2:1です。新生児期早期にチアノーゼが見られる疾患の中では最も多いとされています。

3. この病気はどのような人に多いのですか

とくにどのような人に多いか、一般的な傾向はありません。

4. この病気の原因はわかっているのですか

正常の心臓が発生する過程では、大動脈と肺動脈は1本の総動脈幹に内部が円錐動脈幹中隔によりらせん状に分割され、大動脈が左心室へ、肺動脈が右心室へつながります。完全大血管転位症では、この中隔が直線的に発生し、大動脈が右室へ、肺動脈が左室へつながると考えられています。遺伝子変異を含めて病因の詳細は不明です。

5. この病気は遺伝するのですか

他の先天性心疾患と同様、多因子遺伝で、必ずしも遺伝するものではありません。
一般に先天性心疾患の親から子へ何らかの先天性心疾患が遺伝する確率は、父親で3-5%程度、母親で5-10%程度とされています。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

I型では生直後から強いチアノーゼが見られます。Ⅱ型では肺血流が増加するためにチアノーゼは軽く、多呼吸、哺乳困難、乏尿などの心不全症状が認められます。Ⅲ型は肺動脈狭窄の程度によりますが、一般的にチアノーゼが強いです。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

新生児期には、動脈管を開けるためにプロスタグランデインというお薬を使ったり、チアノーゼが強い場合には、バルーンカテーテルで心房中隔裂開術(BAS)を行うことがあります。外科治療としては、Ⅰ型、Ⅱ型では新生児期に動脈スイッチ手術を実施します。Ⅲ型では乳児期早期に体肺シャント手術を行った後に1-2歳頃にラステリ手術を行います(図2)。
 
図2:完全大血管転位症の手術。左:動脈スイッチ手術、右:ラステリ手術

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

治療介入なしでは1ヶ月で50%が、6ヶ月で85%が死亡します。Ⅰ型、Ⅱ型で動脈スイッチ術の遠隔期の予後は良好になってきました(生存率は90%以上)が、続発症として、末梢性肺動脈狭窄、バルサルバ洞拡大を伴う大動脈弁閉鎖不全、冠動脈狭窄などを合併することがあります。ラステリ手術後では、導管の狭窄や閉鎖不全が問題となります。一方、過去に行われた心房血流転換術(マスタード手術、セニング手術)後では、全身に血液を送る体心室が構造的に弱い右心室から成り立っていますので、成人期になって三尖弁閉鎖不全、右室不全、難治性不整脈をきたし、注意が必要です。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

新生児期に動脈スイッチ手術を受けた患者さんで術後経過が良好な場合、健常人と変わらない運動が可能なことが多いです。患者さんによっては、肺動脈狭窄や大動脈弁逆流、植え替えた冠動脈の狭窄が見られることがあり、定期受診が大切です。
幼児期に、ラステリ手術を受けた患者さんは、成長とともに右室からの導管が狭くなり、再手術が必要になることがあります。また、抜歯後などに、細菌性心内膜炎を起こすリスクがあり、抗生剤の予防内服が大切です。
心房内血流転換術を受けた患者さんでは、息切れ、動悸、浮腫などの症状に気を付けましょう。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

該当する病名はありません。

11. この病気に関する資料・関連リンク

① 小児・成育循環器学. 日本小児循環器学会編集. 診断と治療社, 2018.
② 先天性心疾患並びに小児期心疾患の診断検査と薬物療法ガイドライン(2018年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2018_Yasukochi.pdf
③ 成人先天性心疾患診療ガイドライン(2017年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/08/JCS2017_ichida_h.pdf
④ 先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン(2022年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/03/JCS2022_Ohuchi_Kawada.pdf

用語の解説 体肺シャント手術、ラステリ手術、心房血流転換術(マスタード手術、セニング手術)、バルサルバ洞
1. 体肺シャント手術:肺に流れる血液量が少ない先天性心疾患では、肺での酸素の取り込みが思うようにゆかず、肺から心臓に返ってくる血液の酸素の量は十分ではありません。そこで、大動脈から肺動脈にバイパスの血管を作る手術をします。鎖骨下動脈から肺動脈に短絡するとちょうど良い血液量になるので、この手術をブラロック・トーシッヒ短絡手術と呼びます。
2. ラステリ手術:右室流出路及び主肺動脈に強い狭窄を伴ったり、この部分が閉鎖している先天性心疾患では、右心室から肺動脈に合成繊維の布や化学処理した動物の血管でできた心外導管を使ってバイパスを作ります。ラステリ手術は、この手術方法です。
3. 心房血流転換術(マスタード手術、セニング手術):完全大血管転位症や修正大血管転位症において、右心房の血液を左心室へ、左心房の血液を右心室へ流すことにより、全身に酸素化された血液を送る手術です。マスタード手術では合成繊維の布を使って心房内に血流を入れ替えるトンネルを作ります。セニング手術では、右心房の壁と心室中隔の壁を立体的に折り畳んで、人工物を使わずにトンネルを作り、血液を入れ替えます。
4. バルサルバ洞:大動脈や肺動脈の根元で大動脈弁及び肺動脈弁が付着する部分のすぐ上にある脹らんだ部分を指します。大動脈ではこの部分から左右の冠動脈が起始します。


 

情報提供者
研究班名 先天性心疾患を主体とする小児期発症の心血管難治性疾患の救命率の向上、円滑な移行医療、成人期以降の予後改善を目指した総合的研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和5年1月(名簿更新:令和6年7月)