眼皮膚白皮症(指定難病164)
○ 概要
1.概要
出生時より皮膚、毛髪、眼のメラニン合成が低下ないし消失することにより、全身の皮膚が白色調、青から灰色調の虹彩、視力障害、白から茶褐色あるいは銀色の頭髪を呈する。
2.原因
メラニン合成に関わる遺伝子変異によって発症する常染色体劣性遺伝性疾患である。非症候型の眼皮膚白皮症は7型、症候型のヘルマンスキー・パドラック(Hermansky-Pudlak)症候群は9型、チェディアック・東(Chediak-Higashi)症候群、グリセリ(Griscelli)症候群は3型まで原因遺伝子が同定されている。今後さらなる新規遺伝子の同定がなされると予想される。
3.症状
非症候型・症候型とも全身の皮膚が白色調、青から灰色調の虹彩、矯正不能な視力障害や眼振等の眼症状、そして白から茶褐色あるいは銀色の頭髪を呈する。さらに症候型はそれぞれの疾患に随伴する全身症状(出血傾向、免疫不全、神経症状など)があり、さらに中高年に高率に間質性肺炎や肉芽腫性大腸炎を合併する。
4.治療法
紫外線を遮光したり、サングラスを使用などの生活指導により症状の悪化を予防したり遅らせたりということは行うものの、確立された治療法は全くない。また、症候型ではそれぞれの随伴する症状に対する対症療法を行う。
5.予後
白色調の皮膚は光発がんを誘発しやすい。また、いくつかの遺伝子多型は悪性黒色腫(非露光部を含む。)の疾患関連遺伝子である。眼症状は網膜の障害により弱視に至りうる。症候型はそれぞれの疾患に随伴する全身症状(出血傾向、免疫不全、神経症状など)があり、それらにより予後が規定される。
○ 要件の判定に必要な事項
1. 患者数
約5,000人 (2,800~11,200人)
2. 発病の機構
不明(遺伝子異常によるものとされている。)
3. 効果的な治療方法
未確立(確立された治療法は全くない。)
4. 長期の療養
必要(発症後、生涯にわたって持続する。)
5. 診断基準
あり(研究班作成の診断基準あり)
6. 重症度分類
研究班作成の重症度分類を用いて、A.あるいはB.を満たす場合を重症とし、対象とする。
○ 情報提供元
「稀少難治性皮膚疾患に関する調査研究班」
研究代表者 慶應義塾大学医学部皮膚科 教授 天谷雅行
<診断基準>
Definite、Probableを対象とする。
I.眼皮膚白皮症の診断基準
A.症状
(皮膚症状)
1.皮膚が色白であり、日焼け(tanning)をしない。
2.生下時より毛髪の色調が白色、淡黄色、黄色、淡い茶色、銀灰色のいずれかである。
(眼症状)
3.虹彩低色素が観察される。
4.眼振が観察される。
B.検査所見
1.眼底検査にて、眼底低色素や黄斑低形成が観察される。
2.視力検査にて、矯正不可能な低視力がある。
C.鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
まだら症、脱色素性母斑、尋常性白斑、炎症後脱色素斑
D.遺伝学的検査
TYR、P、TYRP1、SLC45A2、SLC24A5、C10orf11、HPS1、AP3B1、HPS3、HPS4、HPS5、HPS6、DTNBP1、BLOC1S3、PLDN、LYST、MYO5A、RAB27A、MLPH遺伝子の変異
<診断のカテゴリー>
Definite:A-1、-2とB-1をすべて満たし、さらにA-3、-4、B-2のいずれか1つ以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外し、Dを満たすもの。
Probable:A-1、-2とB-1をすべて満たし、さらにA-3、-4、B-2のいずれか1つ以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの。
Possible:A-1、-2とB-1を満たすもの。
II.病型診断(眼皮膚白皮症のうちどの病型であるか)の診断基準
A.眼皮膚白皮症の診断基準で、Definiteか、Probableであること
B.出血傾向がある場合
1.血液検査により血小板機能異常を認める。
C.毛髪の色が銀灰色(silver-gray)の特異な光沢をしめす場合
1.白血球内部の巨大顆粒を認める。
2.皮膚病理組織で色素細胞に巨大メラノソームを認める。
D.遺伝子診断により以下のいずれかの遺伝子に病的変異が明らかであること
非症候型:TYR、P、TYRP1、SLC45A2、SLC24A5、C10orf11
症候型
ヘルマンスキー・パドラック症候群:HPS1、AP3B1、HPS3、HPS4、HPS5、HPS6、DTNBP1、BLOC1S3、PLDN、
チェディアック・東症候群:LYST
グリセリ症候群:MYO5A、RAB27A、MLPH
診断のカテゴリー:Aを満たし、さらに下記を満たす場合、病型を診断できる。
1.B-1を認める場合、あるいはDを満たす場合、ヘルマンスキー・パドラック症候群と診断する。
2.毛髪の色が銀灰色(silver-gray)の特異な光沢をしめし、C-1、-2をともに認める場合、あるいはDを満たす場合、チェディアック・東症候群と診断する。
3.毛髪の色が銀灰色(silver-gray)の特異な光沢をしめし、C-1、-2をいずれも認めない場合、あるいはDを満たす場合、グリセリ症候群と診断する。
4.BとCを共に認めない場合、あるいはDを満たす場合、非症候型の眼皮膚白皮症と診断する。
なお、眼皮膚白皮症は以下のように分類される。
非症候型(メラニン減少に伴う症状のみを呈するタイプ):眼皮膚白皮症(狭義)
症候型(全身症状を合併するタイプ):ヘルマンスキー・パドラック症候群、チェディアック・東症候群、グリセリ症候群
<重症度分類>
A.症候型の眼皮膚白皮症(ヘルマンスキー・パドラック症候群、チェディアック・東症候群、グリセリ症候群)と診断され、以下の症状のうち少なくとも一つを満たす場合。
1.ヘルマンスキー・パドラック症候群
矯正不能な視力障害(良好な方の眼の矯正視力が0.3未満)、血小板機能障害による出血、汎血球減少、炎症性腸疾患、肺線維症
2.チェディアック・東症候群
急性増悪状態(発熱と黄疸をともない、肝脾腫、全身のリンパ節腫脹、汎血球減少、出血傾向を来した病態)、繰り返す全身感染症、神経症状(歩行困難、振戦、末梢神経障害)
3.グリセリ症候群
てんかん、筋緊張低下、末梢神経障害、精神発達遅滞、汎血球減少、繰り返す全身感染症
B.非症候型の眼皮膚白皮症と診断され、さらに良好な方の眼の矯正視力が0.3未満である。
判定:
A.あるいはB.を満たす場合、重症とし、対象とする。
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続す
ることが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
- Genetics Home Reference:
http://ghr.nlm.nih.gov/condition/oculocutaneous-albinism