非ジストロフィー性ミオトニー症候群(指定難病114)

ひじすとろふぃーせいみおとにーしょうこうぐん
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 「非ジストロフィー性ミオトニー症候群」とはどのような病気ですか

我々が自分の体を動かそうとするとき、我々の意思は電気信号として、脳から脊髄、 末梢神経 、筋肉(骨格筋)へと伝わって、自分の思い通りの動きを実現します。この際、筋肉は、力を入れた時にはすばやく収縮し、力を抜いた時にはすばやく弛緩する必要があります。しかしながら、筋肉に存在する「あるタンパク質」の障害により、力を抜こうとしても筋肉が弛緩しにくい(収縮したままになってしまう)という症状が起きることが知られています。この症状のことを専門用語で「ミオトニー(筋強直)」と呼びます。この「ミオトニー」は、患者さんの実感としては、「筋肉がこわばる」と感じる方が多いです。このミオトニーをもつ患者さんの中には、筋肉が痩せていく病気の方と、筋肉の量はほとんど正常か逆に隆々と発達する病気の方と、大きく分けて二種類あります。前者は、筋ジストロフィーのひとつである「筋 強直性 ジストロフィー」と呼ばれる病気です。一方、後者の「ミオトニー」をもち、筋肉の量はほとんど正常か逆に発達する病気を「非ジストロフィー性ミオトニー症候群」と呼びます。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

我が国で確認されている患者さんの数はまだまだ少なく、正確な数はわかっていません。患者さんごとに症状の強さが違い、特に軽症の患者さんの場合には、「すこし筋肉のこわばりは感じることはあるがこんなものだろう」と、病気だと思われずに過ごしている方が多くいることが予想されます。ですので、実際の患者さんの数は、現在わかっている数よりも多い可能性があります。参考までに欧米では、1人/10万人以下という報告があります。

3. この病気はどのような人に多いのですか

現在のところ、特定の生活習慣や住んでいる地域などによる傾向などは知られていません。

4. この病気の原因はわかっているのですか

「非ジストロフィー性ミオトニー症候群」に関連の深い遺伝子がこれまでに2つわかっています。一つは、骨格筋型電位 依存性 塩化物イオンチャネルというタンパク質を作るCLCN1遺伝子、もう一つは骨格筋型電位依存性ナトリウムチャネルというタンパク質を作るSCN4A遺伝子です。いずれも骨格筋の電気信号の伝達に重要なタンパク質です。今までにわかっている患者さんはこれらの遺伝子に 変異 をもっていて、タンパク質の機能が通常とは変わってしまっていることが、病気の原因になると考えられています。少し込み入った話になりますが、「非ジストロフィー性ミオトニー症候群」は、原因がCLCN1遺伝子変異なのか、SCN4A遺伝子変異なのか、で詳しい病名の呼び方が異なります。CLCN1遺伝子変異が原因の場合には、「 先天性 ミオトニー」と呼ばれ、遺伝の形式によって更に「トムセン病」と「ベッカー病」とに分かれます。一方、SCN4A遺伝子変異が原因の場合には、「ナトリウムチャネルミオトニー」と「先天性パラミオトニー」と呼ばれる2つの病気に分けられます。「ナトリウムチャネルミオトニー」と「先天性パラミオトニー」とは、症状の特徴がすこし違う点があり、区別されます。ただ、一般には「非ジストロフィー性ミオトニー症候群」として、多くの共通点があるので、大きなくくりとしてはこの病名で理解頂くのがわかりやすいと思います。

5. この病気は遺伝するのですか

はい、遺伝性の病気と考えられています。上記4.で述べた患者さんで見つかるCLCN1遺伝子やSCN4A 遺伝子の変異 は、ご両親の少なくともどちらかから受け継いでいることが多いです。しかし、まれにご両親は変異を持っていないのに、突然変異として遺伝子変異をもつ患者さんもいます。いっぽう患者さんの子供さんに症状の出る確率は、ほとんどのタイプは 顕性遺伝(優性遺伝)性 ですので50パーセントの確率で子供さんに変異が伝わり、症状が出る可能性があります。ただし、ベッカー型先天性ミオトニーの場合は 潜性遺伝(劣性遺伝)性 ですので、お子さんには稀にごく軽い症状が出る可能性があるのみです。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

一般には、「筋肉のこわばり」が一番多い症状です。具体的には、「強く握った手が広げられない」、「まぶたが開けにくい」、「歩き出しがスムーズにできない」などの症状があります。また、その症状の出やすい「条件」や「状況」に特徴があります。「寒いとき」や「カリウムを多く含むもの(果物など)をたくさん食べたあと」、「運動を始めようとしたとき」、「繰り返して何度も目をつむったり開いたりする(手をにぎったり開いたりする)」、などで症状が出やすいことがあります。人によっては、このこわばりが大変痛いものである場合もあり、「ひどい筋肉痛」や「筋肉のつった感じ」を訴える方もいます。そのほか、患者さんによっては、運動をしていないのに筋肉が発達してたくましい体格になることがあります。時に、一時的に力がはいりにくい(麻痺)といった症状が出る場合もあります。
このような「筋肉のこわばり」は個人差も大きく、特に幼少期や学童期の患者さんでは、自分では症状を的確に訴えられずに、「なんとなく運動が苦手」とか「冬になると体が痛くて体育の授業が嫌い」などと感じている場合もあります。このようなケースでは、まわりに誤解されたり、いじめ・からかいの対象になりかねません。このようなことを避けるためにも、きちんと診断を受け、下記9.のように、日常生活上の対応を行うことは重要であると考えられます。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

残念ながら、根治的療法は現在のところなく、生涯を通して、ある程度「症状とうまくつきあっていく」ことが必要な病気です。上記6.の「筋肉のこわばり」やそれに関連した「痛み」については、保険適応にはなっていませんがメキシレチンという不整脈でも使用される薬や、そのほかにてんかんに使われる薬などが有効であることが知られています。それでも完全に「筋肉のこわばり」をなくすことは難しいとされています。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

上記5.でも触れましたが、遺伝性の病気であることから、多くの方は幼少期や若いころに既に何らかの症状を感じている場合が多いです。ただし、程度には個人差があります。また、年齢とともに症状の程度も変わることがあります。こわばりは思春期に強く、中年以降軽くなる傾向があります。
一般には、生命の危険が及ぶような病気ではありません。ただし、生活面や社会面などの「体の機能」としては医学的にサポートを必要とする状況が考えられます。そもそも「非ジストロフィー性」という名前は、「筋肉自体が痩せることはない」、という点で、ミオトニー症状を合併する筋強直性ジストロフィーと区別して付けられた名前ですが、実際には、長い経過の中で「筋肉の痩せ」が見られる患者さんも知られています。高齢になると「力が弱る」「こわばりが強かった部分の関節がかたくなってしまう(関節拘縮)」など、生活面で支障がでてくることが知られています。このような長期的な観点から、早期から治療にあたることで少しでも生活面の支障がでてくることを減らせるかどうか、今後も研究が必要だと考えられています。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

上記6.でも触れましたが、症状の出現や悪化にはある一定の「条件」や「状況」が関わっていると考えられています。症状の悪化する可能性のある食べ物を避ける、寒さに対する防寒に気を配る、など工夫することで症状を悪化させないようにすることは重要です。また、手術を受ける際には注意が必要です。「非ジストロフィー性ミオトニー症候群」の方の筋肉は、ある種に麻酔薬に対して相性が悪く、「筋肉のこわばり」が悪化したり、場合によっては筋肉が壊れて高熱が出る悪性高熱という病気を併発したりすることが稀ではありますが、知られています。そのような危険性を回避する意味でも、予め診断を受け、手術を受けられるときに万全な対策を麻酔科と連携して講じてもらうことが重要です。
妊娠時にこわばりが強くなることがよく経験され、それがきっかけとなり診断されることもあります。また、非常にまれですが、一部の新生児の患者さんで、出生時から呼吸ができないといった症状をもつ例が最近知られています。これは、呼吸をするための筋肉で強いこわばりが出るために上手く呼吸ができないためと考えられています。この場合でも予めご両親の診断がついていれば、適切な対処をすることが可能です。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

先天性ミオトニー、先天性パラミオトニー、ナトリウムチャネルミオトニー

11.  この病気に関する資料・関連リンク

1.筋チャネル病および関連疾患の診断・治療指針作成および新規治療法開発に向けた基盤整備のための研究班
http://square.umin.ac.jp/channel/index.html
 
2.佐々木 良元、先天性筋強直症:常染色体優性型(Thomsen病);新領域別症候群シリーズ;32、別冊 日本臨床 「骨格筋症候群(第二版)上」;192-196.
 
3.針谷 康夫、迫田 俊一、先天性筋強直症:常染色体劣性全身性筋強直症(Becker型先天性筋強直症);新領域別症候群シリーズ;32、別冊 日本臨床 「骨格筋症候群(第二版)上」;197-201.
 
4.久保田 智哉、古田 充、高橋 正紀、Naチャネルミオトニー(カリウム惹起性ミオトニー);新領域別症候群シリーズ;32、別冊 日本臨床 「骨格筋症候群(第二版)上」;202-206.
 
5.久保田 智哉、古田 充、高橋 正紀、先天性パラミオトニー;新領域別症候群シリーズ;32、別冊 日本臨床 「骨格筋症候群(第二版)上」;207-211.
 
6.Gene Review Japan 先天性ミオトニー(Myotonia congenita)
http://grj.umin.jp/grj/mc.htm

7.Sasaki R, et.al. Mutation spectrum and health status in skeletal muscle channelopathy in Japan. Neuromuscul Disord. 2020 Jul:30(7):546-553. doi: 10.1016/j.nmd.2020.06.001.

8.厚⽣労働省 難治性疾患政策研究事業 希少難治性筋疾患に関する調査研究班
筋チャネル病・遺伝性周期性四肢麻痺・非ジストロフィー性ミオトニー症候群診療の手引き
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdf/syounin_03.pdf

 

情報提供者
研究班名 希少難治性筋疾患に関する調査研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和4年12月(名簿更新:令和6年6月)