類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む。)(指定難病162)

るいてんぽうそう(こうてんせいひょうひすいほうしょうをふくむ。)
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
表皮基底膜構成タンパクに対する自己抗体(IgG)によって、表皮下水疱をきたす自己免疫性水疱症。全身の皮膚及び粘膜に、水疱やびらんを生じる。類天疱瘡には、水疱性類天疱瘡(主に皮膚に症状)と粘膜類天疱瘡(主に粘膜に症状)の亜型が存在する。後天性表皮水疱症は、水疱性類天疱瘡と臨床症状が類似しており、病理学的所見、蛍光抗体法所見から両疾患を鑑別することは困難であり、現時点では同一の疾病として取り扱う。
 
2.原因
表皮-真皮間はヘミデスモゾーム構成タンパクと関連分子によって強固に結合しており、その接合を担うタンパクに対し自己免疫反応が生じることで、発症する。水疱性類天疱瘡ではBP180やBP230、粘膜類天疱瘡ではBP180やラミニン332、後天性表皮水疱症ではVII型コラーゲンを標的とする自己抗体が検出され、水疱形成に関与すると考えられている。これら自己抗体が産生される機序は未だ不明である。
 
3.症状
水疱性類天疱瘡は高齢者に発症することが多く、体幹四肢などに瘙痒を伴う浮腫性紅斑や緊満性水疱、びらんが多発する。粘膜疹の頻度は高くないが、約20%の患者は口腔等に水疱やびらんを生じる。粘膜類天疱瘡では主に眼粘膜や口腔粘膜に水疱やびらんが生じるが、咽頭や喉頭、食道、鼻腔内、外陰部、肛囲の粘膜が侵されることもある。びらんが上皮化した後に瘢痕を残すことがある。後天性表皮水疱症は、四肢の外力のかかる部位を中心に水疱、びらんを生じることが多いが、水疱性類天疱瘡と鑑別することは困難である。水疱、びらんが上皮化した後に、瘢痕形成や稗粒腫の形成をきたし、爪の脱落が見られることもある。
 
4.治療法
重症度により治療方針を決定する。中等症以上では副腎皮質ステロイドの全身投与を要する。症状がコントロールされた後、投与量を緩徐に減量する。難治例では、免疫抑制薬の併用や、血漿交換、ステロイドパルス療法などを要する。
 
5.予後
副腎皮質ステロイド全身投与に対する反応は比較的良好であるが、治療抵抗性で難治の場合もある。副腎皮質ステロイドの減量に伴う再燃もしばしばみられ、長期間にわたる治療が必要となる。
 
 
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数
約7,100人(類天疱瘡:約6,850人、後天性表皮水疱症:約250人)
2.  発病の機構
不明(表皮基底膜部タンパクに対する自己抗体が検出されるが、その産生が誘発される機構は不明。)
3.  効果的な治療方法
未確立(根治療法は確立されていない。)
4.  長期の療養
必要(再燃を繰り返すことが多い。)
5.  診断基準
あり(研究班作成の診断基準あり。)
6.  重症度分類
BPDAI(Bullous pemphigoid disease area index)を用いて中等症以上を対象とする。
 
○ 情報提供元
「稀少難治性皮膚疾患調査研究班」
研究代表者 慶應義塾大学医学部 教授 天谷雅行
「皮膚の遺伝関連性稀少難治性疾患群の網羅的研究」
研究代表者 久留米大学皮膚細胞生物学研究所 教授 橋本隆
 
 
<診断基準>
Definiteを対象とする。
 
類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)の診断基準
 
A.臨床的診断項目
1.  皮膚に多発する、瘙痒性紅斑
2.  皮膚に多発する、緊満性水疱及びびらん
3.   口腔粘膜を含む粘膜部の非感染性水疱及びびらん
 
B.検査所見
1.   病理組織学的診断項目
1)表皮下水疱を認める。
2.   免疫学的診断項目
1)蛍光抗体直接法により、皮膚の表皮基底膜部にIgG、あるいは補体の沈着を認める。
2)蛍光抗体間接法により、血中の抗表皮基底膜部抗体(IgG)を検出する。あるいはELISA(CLEIA)法により、血中の抗BP180抗体(IgG)、抗BP230抗体(IgG)あるいは抗VII型コラーゲン抗体(IgG)を検出する。
 
C.鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
表皮水疱症、虫刺症、蕁麻疹様血管炎、ポルフィリン症、多形紅斑、薬疹、アミロイド―シス、水疱型エリテマトーデス
 
<診断のカテゴリー>
Definite:以下の①又は②を満たすもの
①:Aのうち1項目以上かつB-1と、さらにB-2のうち1項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの
②:Aのうち1項目以上かつB-2の2項目を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの
 
 
 
<重症度分類>
BPDAIを用いて中等症以上を対象とする。
 

 

皮膚

びらん/水疱

膨疹/紅斑

部位

点数

点数

頭部・顔面

0・1・2・3・5・10

0・1・2・3・5・10

頚部

0・1・2・3・5・10

0・1・2・3・5・10

胸部

0・1・2・3・5・10

0・1・2・3・5・10

左上肢

0・1・2・3・5・10

0・1・2・3・5・10

右上肢

0・1・2・3・5・10

0・1・2・3・5・10

0・1・2・3・5・10

0・1・2・3・5・10

腹部

0・1・2・3・5・10

0・1・2・3・5・10

陰部

0・1・2・3・5・10

0・1・2・3・5・10

背部・臀部

0・1・2・3・5・10

0・1・2・3・5・10

左下肢

0・1・2・3・5・10

0・1・2・3・5・10

右下肢

0・1・2・3・5・10

0・1・2・3・5・10

0・1・2・3・5・10

0・1・2・3・5・10

合計

/120

/120

粘膜

びらん/水疱

部位

点数

0・1・2・5・10

鼻腔

0・1・2・5・10

頬粘膜

0・1・2・5・10

硬口蓋

0・1・2・5・10

軟口蓋

0・1・2・5・10

上歯肉

0・1・2・5・10

下歯肉

0・1・2・5・10

0・1・2・5・10

口腔底

0・1・2・5・10

口唇

0・1・2・5・10

後咽頭

0・1・2・5・10

外陰部

0・1・2・5・10

合計

/120

 
 
 
皮膚: びらん/水疱
0点        = なし
1点        = 1~3個 かつ 長径1cm以上の皮疹はない
2点        = 1~3個 かつ 長径1cm以上の皮疹が1個以上
3点        = 4個以上 かつ 長径2cm以上の皮疹はない
5点        = 4個以上 かつ 長径2cm以上の皮疹が1個以上
10点      = 4個以上 かつ 長径5cm以上の皮疹が1個以上又は領域の全体に認める
注:上皮化した部分は含まない
 
皮膚: 膨疹/紅斑
0点        = なし
1点        = 1~3個 かつ 長径6cm以上の皮疹はない
2点        = 1~3個 かつ 長径6cm以上の皮疹が1個以上
3点        = 4個以上 あるいは 長径10cm以上の皮疹が1個以上
5点        = 4個以上 かつ 長径25cm以上の皮疹が1個以上
10点      = 4個以上 かつ 長径50cm以上の皮疹が1個以上又は領域の全体に認める
注:炎症後の色素沈着は含まない
 
粘膜: びらん/水疱
0点        = なし
1点        = 1個
2点        = 2~3個
5点        = 4個以上 又は 長径2cm以上の粘膜疹が2個以上
10点      = 領域の全体に認める
 
下記①~③でそれぞれ判定を行い、最も高い重症度を採用する。
①皮膚:びらん/水疱の合計スコア
1.軽 症 ≦14点
2.中等症 15~34点
3.重 症 ≧35点
②皮膚:膨疹/紅斑の合計スコア
1.軽 症 ≦19点
2.中等症 20~34点
3.重 症 ≧35点
③粘膜:びらん/水疱の合計スコア
1.軽 症 ≦9点
2.中等症 10~24点
3.重 症 ≧25点
 
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続す
ることが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

平成27年7月1日

情報提供者
研究班名 稀少難治性皮膚疾患に関する調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和6年10月(名簿更新:令和6年6月)