アッシャー症候群(指定難病303)

あっしゃーしょうこうぐん
 

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○ 概要
 
1.概要
アッシャー(Usher)症候群は、難聴に網膜色素変性症を伴う症候群性の疾患である。難聴の程度は中等度~重度難聴までと幅広く、先天性に発症する例がほとんどを占める。また網膜色素変性は遅発性に発症し、徐々に視野狭窄が進行して社会的失明となる例が多い。
 
2.原因
アッシャー(Usher)症候群は常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)形式をとる疾患である。原因遺伝子としては現在までに9つが同定されている。タイプ1はMYO7A、USH1C、CDH23、PCDH15、USH1Gであり、タイプ2はUSH2A、ADGRV1 (GPR98)、WHRN (DFNB31)、タイプ3はCLRN1である。
病態に関しては感音難聴と網膜色素変性症を伴うことから、その障害部位は内耳(特に有毛細胞)と網膜(特に桿体細胞)の障害であると考えられており、内耳と網膜に共通する疾患発症メカニズムと内耳特有の疾患発症メカニズムの組み合わせによる発症が推定されているが、その詳細は不明である。
 
3.症状
症状の程度とその発症時期によって3つのタイプに分類されている。視覚症状は夜盲にはじまり、その後視野狭窄が進行していく経過をとる例がほとんどである。
 
アッシャー(Usher)症候群 タイプ1
先天性の高度~重度難聴を呈する。両側前庭機能障害を伴う例が多く、視覚症状は10歳前後より生じる。
アッシャー(Usher)症候群 タイプ2
先天性の高音障害型難聴を呈する。視覚症状は思春期以降に生じることが多い。前庭機能は正常である例が多い。
アッシャー(Usher)症候群 タイプ3
進行性の難聴を呈し、前庭機能障害の有無、及び視覚症状の発症時期は様々である。
 
4.治療法
難聴に対する治療法
現時点では疾患そのものを治療する有効な治療法は無い。
難聴の程度に応じて、補聴器や人工内耳によって聴力を補う治療が行われている。
 特に先天性の高度難聴を呈するアッシャー(Usher)症候群タイプ1症例に対しては補聴器での聴取は困難でありその効果は限定的であると考えられるため、早期からの人工内耳装用が望ましい。また、将来的に網膜色素変性症が進行し、社会的失明となることを予測し、早期からの両側人工内耳装用により聴覚情報を担保することがQOL向上のために有用であると考えられる。
 
 網膜色素変性症に対する治療法
網膜色素変性に対する有効な治療法も確立されていない。網膜色素変性症の進行を抑えることを期待し、ビタミンA、循環改善薬などの内服薬が用いられるがその効果は証明されていない。また、遮光眼鏡の使用が暗順応障害や進行予防に有効との報告もあるがその効果も証明されていない。
 
5.予後
いずれのタイプにおいても根治的治療法が確立されておらず、重複障害によりQOLが著しく低下する。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満
2.  発病の機構
不明(複数の遺伝子の関連が明らかとなっている。)
3.  効果的な治療方法
未確立(対症療法のみである。)
4.  長期の療養
必要(聴力障害・視覚障害の改善は見込めない。)
5.  診断基準
あり
6.  重症度分類
高度難聴以上を対象とする。
 
○ 情報提供元
「難治性聴覚障害に関する調査研究班」
研究代表者 信州大学医学部 人工聴覚器学講座 特任教授 宇佐美真一
 
 
<診断基準>
アッシャー症候群診断基準 (アッシャー(Usher)症候群に関する調査研究班による)
 
1.自覚症状
A.夜盲、視野狭窄、視力低下などの視覚障害(網膜色素変性症)。
B.両側性感音難聴、めまいなどの耳症状(蝸牛・前庭症状)。
 
2.臨床検査所見
A.網膜色素変性症に関する所見(以下のうち、網膜電位を含めて2つ以上を満たす。)
(1)眼底所見:網膜血管狭小、粗造胡麻塩状網膜、骨小体様色素沈着、多発する白点など
(2)網膜電位の異常(振幅低下、又は消失)
(3)蛍光眼底造影所見で網膜色素上皮萎縮による過蛍光又は低蛍光
(4)光干渉断層像で中心窩におけるIS/OSの異常(不連続又は消失)
B.感音難聴に関する所見(以下の全てを満たす)
(1)純音聴力閾値検査(気導・骨導)の閾値上昇
(2)中枢性疾患、Auditory Neuropathy、伝音難聴が否定できる
 
3.疾患のタイプ分類
タイプ1:先天性の高度~重度難聴を呈する。両側前庭機能障害を伴う例が多く、視覚症状は10歳前後より生じる。
タイプ2:先天性の高音障害型の難聴を呈する。視覚症状は思春期以降に生じる。前庭機能は正常である例が多い。
タイプ3:難聴、視覚症状とも思春期以降に生じ、難聴は徐々に進行。
 
4.遺伝学的検査
原因遺伝子としては現在までに10遺伝子が同定されている。タイプ1はMYO7AUSH1CCDH23PCDH15USH1G、CIB2であり、タイプ2はUSH2A、ADGRV1 (GPR98)、WHRN (DFNB31)、タイプ3はCLRN1である。
 
<診断のカテゴリー>
「1-Aと2-A」及び「1-Bと2-B」の双方を満たす場合、もしくは「1-Aと2-A」又は「1-Bと2-B」のいずれかを満たし、4.遺伝学的検査により特異的な遺伝子変異を認める場合にアッシャー症候群と診断する。
 
 
 
<重症度分類>
1.聴覚障害
 
聴覚障害:以下の3高度難聴以上を対象とする。
0 25dBHL 未満(正常)
1 25dBHL以上40dBHL未満(軽度難聴)
2 40dBHL以上70dBHL未満(中等度難聴)
3 70dBHL以上90dBHL未満(高度難聴)
4 90dBHL以上(重度難聴)
※500、1000、2000Hzの平均値で、聞こえが良い耳(良聴耳)の値で判断。
 
2.視覚障害
診断基準により網膜色素変性症と診断された者のうち、重症度分類のII、III、IV度の者を対象とする。
 
厚労省調査研究班による網膜色素変性症の重症度分類
Ⅰ度:矯正視力0.7以上、かつ視野狭窄なし
II度:矯正視力0.7以上、視野狭窄あり
III度:矯正視力0.7未満、0.2以上
IV度:矯正視力0.2未満
注:矯正視力、視野ともに良好な方の眼の測定値を用いる。
 
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

令和6年4月1日

  • 平成22〜24年度厚生労働科学研究補助金(難治性疾患研究事業)
    Usher症候群に関する調査研究班
    /entry/3060
情報提供者
研究班名 難治性聴覚障害に関する調査研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和6年6月)