巨大動静脈奇形(頚部顔面又は四肢病変)(指定難病280)

きょだいどうじょうみゃくきけい(けいぶがんめんまたはししびょうへん)
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 「巨大動静脈奇形(頸部顔面・四肢)」とはどのような病気ですか

動静脈奇形は、胎児期に血管が作られる過程で、動脈と静脈の間に異常なつながりができてしまう病気です。動脈や静脈が絡み合う部分は「ナイダス」と呼ばれ、動脈を流れる血液が静脈側にすり抜ける短絡(シャント)という現象が起こります。全身のあらゆる部位に発生しますが、なかでも高流速のシャントが広範囲に及ぶ巨大動静脈奇形(頚部顔面・四肢)は、様々な症状や機能障害により生活に与える影響が重大です。また、心不全や致死的出血など生命の危険に晒されることもあります。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

厚生労働省の全国調査では、約700名と推測されています。

3. この病気はどのような人に多いのですか

動静脈奇形が発生しやすい明らかな体質素因や危険因子はわかっていません。また、病気の発生頻度について男女差はありません。

4. この病気の原因はわかっているのですか

動静脈奇形は胎児期に偶発的に起こる血管の形成や成熟過程の異常で 先天性 疾患と考えられています。MAP2K1遺伝子やKRAS遺伝子などの変異により、細胞の増殖や分化、生存に関わるRAS/MAP/ERKシグナル経路の働きが活発になっていることがわかってきました。動静脈奇形では、細胞、血管の形成に重要な体細胞のRAS/MAP/ERKシグナル経路の遺伝子変異が原因や病態に関与していることが一部の患者さんの病変組織の解析から見つかっています。

5. この病気は遺伝するのですか

動静脈奇形は基本的には遺伝しませんが、ごく稀に家族内発生の報告があります。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

シャント血流が少ない初期の段階では、患部の赤味や温感のみで症状が目立たない場合があります。シャント血流が増えるにつれて、次第に拍動や膨らみが明瞭になります。さらに、患部の皮膚・粘膜や軟部組織が、シャント血流による血行障害に長期間晒されると、徐々に色調悪化や痛みを伴い、進行すると皮膚潰瘍や 壊死 を来たします。これらの病状の進行に伴い大量出血や感染を生じる可能性があります。また、シャント血流の著しい増加は心臓に大きな負荷がかかり心不全を来たす恐れがあります。特に頚部顔面の巨大動静脈奇形では、咬む、飲み込む、喋る、まばたき等の動作の不自由、鼻出血、視力障害、聴力障害、平衡感覚障害、呼吸困難などの症状を呈します。顔面の著しい変形は、就学・就職・結婚など社会生活への影響も大きくなります。一方、四肢の巨大動静脈奇形では、持続的疼痛、筋肉の萎縮、関節や骨の変形などによる運動機能障害を生じ、進行例では機能廃絶にいたります。また、骨盤部に病変が及ぶと、生殖機能の障害や腸管・膀胱への 浸潤 による下血や血尿などの症状を呈します。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

保存療法 として、弾性ストッキングや包帯による圧迫療法があります。しかし、圧迫によりかえって疼痛が悪化することもあり、圧迫の継続はしばしば困難です。日常的な疼痛や感染などの症状には、鎮痛剤・抗菌薬による一般的な対症療法が行なわれます。侵襲的治療として、血管内治療(塞栓術・ 硬化療法 )及び外科的切除があります。血管内治療はしばしば多数回の反復を要しますが、治療効果は一時的かつ限定的です。病変が主要血管や神経を巻き込んでいることが多いため、外科的切除も大量出血や神経損傷による機能障害のリスクが高くなります。広範囲の切除では、欠損部を修復するために身体の他の部位(腹壁など)から採取した組織を移植する必要があります。MAP2K1阻害薬を使用した薬物療法は国外でその試みが始まっています。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

動静脈奇形は先天性の病気と考えられていますが、出生時には必ずしもはっきりしません。幼少期に出現し、学童期から思春期にかけて成長とともに増大・進行する傾向があります。進行には個人差がありますが、増悪因子として、思春期や妊娠によるホルモン変化、外傷・手術など物理的な要因が挙げられます。巨大動静脈奇形(頚部顔面・四肢)では、罹患部位に応じて、経年的に呼吸・ 嚥下 ・構音・視力・聴力・疼痛・運動などの機能障害が進行し、社会的自立を困難にします。また、難治性潰瘍に伴う動脈性出血や、高拍出性心不全の増悪は生命にも影響を及ぼします。外科的切除や血管内治療などの積極的治療は、病状の一時的制御にとどまり、対症療法も含めて生涯にわたる長期的な通院管理が必要です。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

皮膚に傷や潰瘍ができると出血や感染の原因になります。患部への衝撃や荷重を避けるため保護が大切です。心不全の兆候として 労作時 息切れや疲れやすいなどの自覚症状に注意が必要です。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

動静脈血管腫
動静脈ろう
蔓状血管腫
動脈蔓状血管腫

11. この病気に関する資料・関連リンク

 

日本血管腫血管奇形学会
http://plaza.umin.ac.jp/~jssva/index.html
 
血管腫・脈管奇形・血管奇形・リンパ管奇形・リンパ管腫症診療ガイドライン2022
https://issvaa.jp/wp/wp-content/uploads/2023/05/5a0c3123c7066f4f0f6978789816197b.pdf
 
国際血管腫・血管奇形学会(ISSVA)
http://www.issva.org/
 
血管腫・血管奇形IVR研究会
http://www.marianna-u.ac.jp/avm/
 
混合型脈管奇形の会
http://www.myakkankikei.com/
 
血管腫・血管奇形の患者会
http://www.pava-net.com
 
血管奇形ネットワーク
http://kekkankikeinw.web.fc2.com/

 

情報提供者
研究班名 難治性血管腫・脈管奇形・血管奇形・リンパ管奇形(リンパ管腫)・リンパ管腫症および関連疾患についての調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和5年11月(名簿更新:令和6年6月)