先天性ミオパチー(指定難病111)
○ 概要
1.概要
先天性ミオパチーは、骨格筋の先天的な構造異常により、新生児期ないし乳児期から筋力、筋緊張低下を示し、また筋症状以外にも呼吸障害、心合併症、関節拘縮、側弯、発育・発達の遅れ等を認める疾患群である。経過は緩徐ながら進行性の経過をたどる。検査所見は、血清クレアチンキナーゼ値の正常から軽度上昇を、筋電図では正常ないし筋原性変化を示し、骨格筋画像では萎縮、脂肪変性を認める。しかし、これら所見のみでは、先天性筋ジストロフィー、先天性筋強直性ジストロフィー及び代謝性ミオパチーの一部との区別がつかない。そのため、確定診断には筋生検による筋病理検査が行われる。
骨格筋の筋病理像に基づき、特徴的な所見からネマリンミオパチー、セントラルコア病、マルチミニコア病、ミオチュブラーミオパチー、中心核病、先天性筋線維タイプ不均等症といった病型分類がなされる。しかし、中には特徴的病理所見を示さず、非特異的筋原性変化を示すのみで分類不能な非特異的な先天性ミオパチーも存在する。各病型で複数の遺伝子の関与が認められているが、重症度と病理像、遺伝子変異とに必ずしも相関があるわけではない。
2.原因
骨格筋の筋病理に基づいた先天性ミオパチーの病型分類と現在知られている遺伝子を下記(参考)に示す。各病型で複数の遺伝子が認められているが、その多くは、骨格筋蛋白の欠損や機能異常に関連している。病態の詳細については全てが明らかになっているわけではなく、未解明な点も多い。
病型のなかではネマリンミオパチーとセントラルコア病の頻度が高いが、前者ではACTA1、NEB、KLHL40などの複数の遺伝子が原因となるものもあれば、後者のようにRYR1の遺伝子変異が90%を占める病型もある。病理像で典型的な病型であっても遺伝子変異が認められないこともあり、先天性ミオパチー全体では、少なくとも半数以上の例で遺伝子変異が確定できていない。
(参考) 代表的な先天性ミオパチーの病型と現在知られている遺伝子変異
ネマリンミオパチー:
ACTA1、NEB、KLHL40、KLHL41、TPM3、TPM2、TNNT1、CFL2、KBTBD13、LMOD3
セントラルコア病、ミニコア病:
RYR1、SEPN1
ミオチュブラーミオパチー、中心核ミオパチー:
MTM1、DNM2、BIN1、RYR1、CCDC78、MYF6、SPEDG
先天性筋線維タイプ不均等症:
TPM3、RYR1、ACTA1
3.症状
①新生児期ないし乳幼児からの筋力、筋緊張低下(フロッピーインファント)、又は発育、発達の最中に認める運動発達の遅れと筋力低下、②深部腱反射の減弱又は消失、といった筋症状を主とした先天性ミオパチーに共通の症状のほか、③顔面筋罹患、高口蓋、④呼吸障害、⑤心筋症、不整脈等の心合併症、⑥関節拘縮、脊椎変形(側彎等)、⑦哺乳障害、摂食障害等の症状を認める。③~⑦に関しては、各病型により認めやすいものとそうでないものがある。さらに、⑧知的障害やてんかんを合併する病型もある。
また、重症度も、出生時から呼吸障害のため、気管切開、人工呼吸器管理を余儀なくされ、また哺乳障害のため経管栄養や胃瘻造設を要する重症例から、乳幼児期以降、小児から思春期頃に極端な運動能力の低下から気づかれ診断に至るような軽症例まで幅が広い。しかし、これら症状は生涯にわたり継続又は緩徐ながら進行し各症状に対する対症療法を長期にわたり必要とする。
4.治療法
特異的な根治的治療は存在しない。筋力・筋緊張低下、関節拘縮、側彎等の脊柱変形に対するリハビリテーションや手術、また呼吸障害に対しての人工呼吸器管理、心筋症や不整脈に対して内科的治療、その他には栄養管理といった全身管理が必要となる。各症状をいかに早くに見出し対症療法を導入するかが、各個人のADL拡充、QOLを高めるために重要である。
5.予後
合併する症状の重症度により異なる。出生直後から呼吸不全を呈し、気管切開、人工呼吸器を常時使用する重症例では、これらの適切な治療介入が無ければ予後不良となる。一方、明らかな筋症状が乳幼児期には目立たず、運動発達の遅れ、運動能力の低下を自覚することから診断に至り、重度合併症を伴わない例では、生命的な予後のみ見れば良好である。
○ 要件の判定に必要な事項
1. 患者数
約1,000人
2. 発病の機構
不明(遺伝子異常によるものが多いとされている。)
3. 効果的な治療方法
未確立(対症療法のみ)
4. 長期の療養
必要(緩徐進行性の経過をたどる。)
5. 診断基準
あり(研究班作成の診断基準あり。)
6. 重症度分類
modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが
3以上を対象とする。
○ 情報提供元
「難治性疾患克服研究事業」
研究代表者 東北大学神経内科 教授 青木正志
<診断基準>
I.臨床症状
1.筋力低下
新生児期:自発運動の低下
乳幼児:運動発達の遅れ
学童~成人:徒手筋力テストで複数筋が4以下
2.筋緊張低下
3.腱反射の低下又は消失
II.検査所見
1.筋生検で特徴的な病理所見を認める。
2.先天性ミオパチーで既報の原因遺伝子に変異が同定されている。
(家族で同症を呈し遺伝子が確定している例も可)
(参考) 代表的な先天性ミオパチーの病型と現在知られている遺伝子変異
ネマリンミオパチー:
ACTA1、NEB、KLHL40、KLHL41、TPM3、TPM2、TNNT1、CFL2、KBTBD13、LMOD3
セントラルコア病、ミニコア病:
RYR1、SEPN1
ミオチュブラーミオパチー、中心核ミオパチー:
MTM1、DNM2、BIN1、RYR1、CCDC78、MYF6、SPEDG
先天性筋線維タイプ不均等症:
TPM3、RYR1、ACTA1
III.その他の所見
1.骨格筋画像(CT又はMRI)で萎縮・異常信号輝度を認める。
2.呼吸機能障害があり人工呼吸器を要する。
3.経鼻胃管又は胃瘻による経管栄養を要する。
4.側弯又は関節拘縮を認める。
5.顔面筋罹患又は高口蓋、眼瞼下垂、外眼筋麻痺を認める。
6.家族歴あり。
【診断のカテゴリー】
1) Iのいずれかを満たし、かつIIのいずれかの検査で所見を認める。
2) Iのいずれかを満たし、IIは未実施又は所見なしだが、IIIを3つ以上認める。
※2)の場合は、20歳以下で診断したもので、①中枢神経病変の否定、②骨格筋画像、針筋電図または遺伝子検査で筋炎や神経原性疾患の除外、③染色体異常の否定、④CK値低下~軽度上昇、が必須。
<重症度分類>
modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが
3以上を対象とする。
日本版modified Rankin Scale(mRS)判定基準書 |
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modified Rankin Scale |
参考にすべき点 |
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0 |
全く症候がない |
自覚症状及び他覚徴候が共にない状態である |
1 |
症候はあっても明らかな障害はない: |
自覚症状及び他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である |
2 |
軽度の障害: |
発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態である |
3 |
中等度の障害: |
買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要としない状態である |
4 |
中等度から重度の障害: |
通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である |
5 |
重度の障害: |
常に誰かの介助を必要とする状態である |
6 |
死亡 |
日本脳卒中学会版
食事・栄養(N)
0.症候なし。
1.時にむせる、食事動作がぎこちないなどの症候があるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.食物形態の工夫や、食事時の道具の工夫を必要とする。
3.食事・栄養摂取に何らかの介助を要する。
4.補助的な非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)を必要とする。
5.全面的に非経口的栄養摂取に依存している。
呼吸(R)
0.症候なし。
1.肺活量の低下などの所見はあるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.呼吸障害のために軽度の息切れなどの症状がある。
3.呼吸症状が睡眠の妨げになる、あるいは着替えなどの日常生活動作で息切れが生じる。
4.喀痰の吸引あるいは間欠的な換気補助装置使用が必要。
5.気管切開あるいは継続的な換気補助装置使用が必要。
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
研究班名 | 希少難治性筋疾患に関する調査研究班 研究班名簿 |
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情報更新日 | 令和3年9月(名簿更新:令和6年6月) |