胆道閉鎖症(指定難病296)
1. 「胆道閉鎖症」とはどのような病気ですか
胆道閉鎖症は、生まれて間もない赤ちゃんに発症する肝臓および胆管の病気です。胆汁は肝臓で作られ胆管を通って十二指腸に流れ、ここで食物と混じって栄養素の吸収を助けます(図上段)。胆汁の通り道である胆管が、生まれつきまたは生後間もなく完全につまってしまい、胆汁を腸管内へ排泄できないのがこの病気の原因です。腸管内では胆汁は有効に作用しますが、肝臓内に溜ると 黄疸 を引き起こし、さらに肝臓の組織が壊され線維が溜って硬くなる「胆汁性肝硬変症」という状態になるともう治ることはありません。胆管の閉塞部位によってI(およびI cyst)、II、III型に分類され(図下段)、肝臓のすぐ外側の胆管が閉塞するIII型(図下段右端)がもっとも重症で、全体の9割近くがこの型に属します。この胆管の閉塞を解除する手術が成功すると黄疸が改善しますが、成功しないと胆汁性肝硬変さらに肝不全へと進行します。そしてこの状態になった患者さんでは肝移植が唯一の救命手段となります。
(濃緑色部分は閉塞部位)
2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
日本ではこれまで出生10,000人に1人の発生頻度といわれてきましたが、これよりやや頻度が高いことがわかってきました。現在国内に少なくとも5,000名ほどの患者さんがいて、このうち2,000名程度が自己肝で成人期に達しています。
3. この病気はどのような人に多いのですか
男女比は0.6対1と女児に多く発生しています。合併奇形の頻度は他の 先天性 小児外科疾患より低く、全体で約10%程度の割合で合併がみられます。特に頻度の高い合併疾患に脾臓の異常(多脾症候群)があります。
4. この病気の原因はわかっているのですか
原因はいまだ不明ですが、お母さんの胎内で内臓が作られる経過中のトラブルで生じる他の先天性疾患と異なり、胎内で一度作られた胆管が、ウイルス感染やその他の何らかの原因による 炎症 で閉塞するものが多いと考えられています。
5. この病気は遺伝するのですか
遺伝性は明らかではありません。一般的には遺伝しない疾患と考えられますが、親子、兄弟等家族内に発生した例があり、その頻度は偶然に発生するよりやや高いため、何らかの素因が働いている可能性が考えられています。
6. この病気ではどのような症状がおきますか
赤ちゃんの皮膚や眼球結膜(白目)の黄染(黄疸)と白っぽい色の便(灰色がかった白色、クリーム色やレモン色のこともあります)、濃い黄色の尿がみられ、病気が進むとお腹の右上に肝臓が硬く触るようになります。またお腹の左上にある脾臓も徐々に大きくなり、外から触れるようになります。胆汁が腸管内へ排泄されないと、脂肪の吸収が悪くなり、これと一緒に吸収されるはずのビタミンにも欠乏が起こります。ビタミンKが欠乏すると出血しやすくなり、脳出血などを起こすこともあり、この症状で見つかる場合もあります。
この病気を早く見つけるため、現在、母子健康手帳に便色カードが挟み込まれています。このカードの色見本(1~7番)と赤ちゃんの便の色と見比べて、もし1から3番に近かったら、すぐに専門医を受診することが勧められています。
7. この病気にはどのような治療法がありますか
手術法には胆管の閉塞部を取り除いて胆汁の流出をはかる方法と肝臓自体を取り替える肝移植術がありますが、まず患者さんの胆汁流出をはかる方法を行うのが一般的です。この病気の胆管閉塞にはいろいろなタイプがあり、肝臓からの胆汁の出口となっている胆管(肝管)が十分開いているような場合は、これと腸管とをつなぐ手術が行われます。しかし、多くの場合には肝臓からの出口で胆管が既に閉塞していて、肝臓の外の胆管をすべて取り除き、肝臓側の断端を腸管で被うように、肝臓そのものと腸管とを 吻合 する方法(葛西手術)が行われます。腸管を用いて胆汁の流れ道を作る方法を胆道再建と呼びますが、この胆道再建方法の基本はRoux-en Y型空腸吻合術(図左)という方法です。一部の施設では、手術後肝臓の中の胆管に細菌感染が生じることによる胆管炎という合併症を防ぐ目的で、腸内容が肝臓方向への逆流を防ぐための弁を同時に作成する手術(図右)が行われています。
8. この病気はどういう経過をたどるのですか
わが国の主な小児外科専門施設の最近の成績を総合すると、手術を受けた患者さんの約60%が術後1年目で肝移植を行うことなく黄疸なく生存しています。手術により良好な胆汁排泄が得られ、肝臓の病変の進行が食い止められれば、その後の正常と変わらない生活ができますが、手術後きわめて長期間を経過したあとでの合併症出現もありますので、定期的な通院によるチェックが必要です。一方で手術後も黄疸がなくならない場合や黄疸がなくなっても肝臓が徐々に硬くなるような場合には、やがて肝硬変となり、さらに肝不全に進みます。このような場合は腹水が溜ったり、栄養状態が悪くなって成長できなくなったりしますので、現段階では肝臓移植以外には治療の方法がありません。成人に達するまでの間に半数程度の患者さんで肝移植が必要となります。
9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか
手術後長い期間にわたって気をつけなければならない主な合併症として、肝臓の中の胆管に細菌感染が生じることによる胆管炎と肝臓に線維が溜まって硬くなり血液の流れが滞って生じる門脈圧 亢進 症があります。門脈圧亢進症には肝臓を迂回した血液が食道の壁内を通るため生じる食道静脈瘤と脾臓が腫れて血液の成分、とくに血小板が壊され出血が止まりにくくなる脾機能亢進症などがあります。それぞれ重症な場合には個別に治療が行われます。これら以外にも、肝内結石症や、まれながら肝がんなどの発生も知られていますので、生涯に渡って定期通院を行うことが勧められます。
また胆汁うっ滞に伴い、ビタミンKやビタミンDなどの吸収障害を来すことがあり得ます。ビタミンDの吸収障害により骨軟化症などの症状を呈することがあり得ます。
10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。
該当する病名はありません。
11. この病気に関する資料・関連リンク
日本胆道閉鎖症研究会のホームページ
http://jbas.net/biliary-atresia/
今回示した図はすべてこのホームページから引用しました。
日本小児外科学会のホームページ
http://www.jsps.or.jp/
胆道閉鎖症の子どもを守る会のホームページ
http://tando.lolipop.jp/
胆道閉鎖症診療ガイドライン
Minds ガイドラインライブラリHPのトップページで検索してください。
https://minds.jcqhc.or.jp/
【用語解説】
黄疸(おうだん):肝臓の働きが悪かったり、胆汁の肝臓から腸への流れがスムースでないと、血液にビリルビンという黄色い色素が溜まり、皮膚や白眼(球結膜)が黄色くなります。これを「黄疸」と呼びます。便が黄色いのは、ビリルビンが胆汁として腸内に排泄されることによります。胆道閉鎖症では胆汁の流れが完全にせき止められているので、黄疸が生じ便色も薄いのですが、手術で胆汁の流れが回復すると、便が黄色くなり黄疸が消えます。しかし、胆管炎などで胆汁の流れが妨げられると、また便の色が薄くなり、黄疸が出てきます。
脾臓(ひぞう):お腹の左上にある臓器で、感染を防いだり、古くなった血液成分の壊すなどの働きがあります。普通は一つですが、胆道閉鎖症では生まれつき「脾臓」の数が多いことがあり、多脾症候群と呼ばれます。
胆管炎(たんかんえん):胆道閉鎖症の手術のあとに急に熱が出て、黄疸が再発した場合に真っ先に疑われるのが「胆管炎」です。肝臓内にある胆管の中で細菌感染が生じることが原因で、手術後まもなくこの状態に陥ると胆汁の流れが停止することがあります。成人期になっても胆管炎を生じる患者さんがまれではなく、生涯にわたって注意が必要です。
吻合術(ふんごうじゅつ):通常は腸や血管など管同士を縫ってつなぐことを「吻合術」と呼びます。胆道閉鎖症では管同士ではなく、肝臓の組織と腸をつなぐ特殊な「吻合術」(葛西術)が行われます。
肝移植術(かんいしょくじゅつ):肝臓が十分に働けなくなり、回復不能な状態になったときに、患者さんの肝臓を他人の肝臓(またはその一部)と取り替える手術が必要となります。これが「肝移植術」です。日本では両親など家族の肝臓を部分的に用いる手術(生体肝移植術)が多く行われています。