アンジェルマン症候群(指定難病201)
○ 概要
1.概要
重度の精神発達の遅れ、てんかん、失調性運動障害、容易に引き起こされる笑いなどの行動を特徴とする疾患である。15,000出生に一人くらいの頻度で、日本では500~1,000人程度が確認されている。
2.原因
15番染色体q11-q13に位置する刷り込み遺伝子UBE3Aの機能喪失により発症する。UBE3Aは神経細胞では母由来アレルのみが発現しており、ゲノム刷り込み現象により発現が制御されている。UBE3A機能喪失の機序として、母由来染色体15q11-q13の欠失、15番染色体の父性片親性ダイソミー、刷り込み変異、UBE3Aの変異が知られている。UBE3Aは経験依存的シナプス可塑性に必須の蛋白と考えられており、経験依存的シナプス可塑性の障害が脳障害の主要な原因と考えられている。
3.症状
重度の精神発達の遅れ、てんかん、失調性運動障害、容易に引き起こされる笑いなどの行動異常、睡眠障害、低色素症、特徴的な顔貌(尖った下顎、大きな口)などを認める。
4.治療法
てんかん発作に対しては抗てんかん薬、睡眠障害に対しては睡眠薬などの対症療法が中心となる。包括的な療育が望まれる。
5.予後
主に難治性てんかんの併存が生命予後を左右する。
○ 要件の判定に必要な事項
1. 患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満
2. 発病の機構
不明(原因不明又は病態が未解明。)
3. 効果的な治療方法
未確立(本質的な治療法はない。種々の合併症に対する対症療法。)
4. 長期の療養
必要(発症後生涯継続又は潜在する。)
5. 診断基準
あり(学会承認の診断基準あり。)
6. 重症度分類
1.小児例(18歳未満)
小児慢性特定疾病の状態の程度に準ずる。
2.成人例
成人例は、1)~2)のいずれかに該当する者を対象とする。
1) 難治性てんかんの場合。
2) 気管切開、非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)、人工呼吸器使用の場合。
○ 情報提供元
「アンジェルマン症候群の病態と教育的対応の連携に関する研究班」
研究代表者 埼玉県立小児医療センター遺伝科 科長 大橋博文
「ゲノムインプリンティング異常症5疾患の実態把握に関する全国多施設共同研究」
研究代表者 東北大学大学院医学系研究科環境遺伝医学総合研究センター 教授 有馬隆博
「先天異常症候群の登録システムと治療法開発をめざした検体共有のフレームワークの確立」
研究代表者 慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センター 教授 小崎健次郎
「国際標準に立脚した奇形症候群領域の診療指針に関する学際的・網羅的検討」
研究代表者 慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センター 教授 小崎健次郎
「小児慢性特定疾患の登録・管理・解析・情報提供に関する研究」
研究代表者 国立成育医療研究センター 病院長 松井陽
「希少てんかんに関する包括的研究 」
研究代表者 国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター 客員研究員 井上有史
研究分担者 北海道大学病院小児科 講師 白石秀明
<診断基準>
Definiteを対象とする。
15番染色体の15q11.2-15q11.3領域に欠失・片親性ダイソミー・インプリンティング異常のいずれかを認める、ないし原因遺伝子(UBE3A遺伝子等)に変異を認め、下記の症状3及び4を伴う場合、アンジェルマン症候群と診断が確定する。
Ⅰ.主要臨床症状
1.容易に引き起こされる笑い
2.失調性歩行
3.下顎突出を含む特徴的な顔貌
4.精神発達遅滞
5.てんかん発作
<重症度分類>
1.小児例(18歳未満)
小児慢性特定疾病の状態の程度に準ずる。
2.成人例
1)~2)のいずれかに該当する者を対象とする。
1)難治性てんかんの場合:主な抗てんかん薬2~3種類以上の単剤あるいは多剤併用で、かつ十分量で、2年以上治療しても、発作が1年以上抑制されず日常生活に支障を来す状態(日本神経学会による定義)。
2)気管切開、非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)、人工呼吸器使用の場合。
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
- 江川 潔. アンジェルマン症候群. In: 日本てんかん学会, ed. てんかん症候群 診断と治療の手引き. 東京: メディカルレビュー社, 2023: 247-250.
- Angelman syndrome foundation
http://www.angelman.org - エンジェルの会
http://angel-no-kai.com/