肺胞蛋白症(自己免疫性又は先天性)(指定難病229)
1. 「肺胞蛋白症(自己免疫性又は先天性)」とはどのような病気ですか
肺胞 蛋白症とは肺胞に蛋白様物質が貯留する病気です。肺は酸素を血液中に吸収し、二酸化炭素を血液から放出する臓器です。酸素と二酸化炭素をガス交換する(これを呼吸と言います)場所が肺胞となります。肺胞は一人あたり3~6億個あり、そのガス交換する表面積は約100m2(テニスコート半面程度)になります。肺胞蛋白症の患者さんの肺を顕微鏡でみると、この肺胞に「蛋白」のように見える物質が貯まっていたため、肺胞蛋白症という病名がつけられました。現在、その蛋白様物質は、サーファクタントと呼ばれる表面活性物質などであることがわかっています。サーファクタントの働きや肺胞蛋白症の原因については後述します。本来、空気が出入りする場所にサーファクタント由来の物質が異常に貯留していることにより、酸素と二酸化炭素のガス交換が出来なくなり、血液中の酸素が不足し、息切れや呼吸困難などの症状が現れます。また、貯留物質は、目で見ると乳白色をしているので、白色の痰が出るのも特徴です。自己免疫性又は先天性については下段をご参照下さい。
2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
肺胞蛋白症は、原因により自己免疫性肺胞蛋白症、続発性肺胞蛋白症、 先天性/肺胞蛋白症(生まれた時や生後まもなくに病気になる場合には先天性肺胞蛋白症、原因の遺伝子変異がわかっている場合や遺伝性に病気になる場合は遺伝性肺胞蛋白症と呼んでいます)、および未分類肺胞蛋白症に分類されます。肺胞蛋白症のうち自己免疫性肺胞蛋白症が90%を占め、続発性肺胞蛋白症が9%、先天性/肺胞蛋白症が1%以下と推定されています。1999年〜2006年までの日本での調査では、自己免疫性肺胞蛋白症の患者数は発症率が100万人あたり0.24人で、罹患率が2.04人でした。最近の調査では、それぞれ100万人あたり0.49人、6.2人でした。2018年米国で保険請求のデータを用いた推定で100万人あたり6.87人、2019年の特殊な統計手法を用いた推定では100万人あたり26.6人、2020年韓国の調査では100万人あたり2.27-4.44人と報告されています。
3. この病気はどのような人に多いのですか
特定地域での発症の偏りはみられません。自己免疫性肺胞蛋白症が診断された時の平均年齢は39〜50歳と報告があり、男女比は、2.1:1.0とやや男性に多いです。57%の患者さんに喫煙歴(その半分が診断時にも喫煙している)があり、26%に粉塵吸入歴がありました。
4. この病気の原因はわかっているのですか
肺胞蛋白症は肺胞にサーファクタント由来物質が異常に貯留した病気です。ガス交換する場所として重要な肺胞はサーファクタントという表面活性物質によってガス交換の空間を維持しています。サーファクタントは肺胞の一部の細胞で産生されると同時に、別の細胞で分解処理されるため、肺胞内のサーファクタントはちょうど適切な量に調整されています。処理する側を主に担当しているのが肺胞 マクロファージ と呼ばれる細胞です。マクロファージは「肺内での清掃屋」の役割を果たしています。この肺胞マクロファージの働きが悪いと、サーファクタントの処理が滞り、肺胞の中にサーファクタントが溜まるようになり、肺胞蛋白症を発症します。この肺胞マクロファージの働きを悪くさせる原因が肺胞蛋白症の原因と考えられています。
肺胞マクロファージが正常に成熟するには、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子 :granulocyte/macrophage colony-stimulating factor (GM-CSF)と呼ばれる物質が必要です。このGM-CSFを働かせなくする物質(抗GM-CSF 自己抗体 )が肺胞蛋白症の患者さんの肺の中に多量に認められることが日本の研究者により発見されました。このように、抗GM-CSF自己抗体により肺胞マクロファージが機能しなくなり、肺胞内のサーファクタントの処理ができず、貯留することによっておこる肺胞蛋白症が自己免疫性肺胞蛋白症です。なぜ、抗GM-CSF自己抗体ができるかについては、まだわかっていません。
続発性肺胞蛋白症は、他の病気に合併して生じる病態で抗GM-CSF自己抗体が陰性の肺胞蛋白症です。日本では骨髄異形成症候群や白血病など血液疾患に合併したものが約90%と最も多いです。
先天性/肺胞蛋白症は、生まれた時や生後まもなくに病気になる場合には先天性肺胞蛋白症とよばれ、原因の遺伝子変異がわかっている場合や遺伝性に病気になる場合は遺伝性肺胞蛋白症と呼ばれています。なお、成人で発症する遺伝性肺胞蛋白症も報告されています。
5. この病気は遺伝するのですか
自己免疫性肺胞蛋白症については、遺伝するという報告はありません。先天性/遺伝性肺胞蛋白症については、一部に遺伝するものもあります。
6. この病気ではどのような症状がおきますか
近年、日本で行われた自己免疫性肺胞蛋白症の全国調査では、31%が無症状であり、健康診断で偶然、発見されていました。症状で最も多いのが、 労作時呼吸困難 (39%)、次いで呼吸困難と咳の合併(11%)、咳のみ(10%)、呼吸困難と咳と痰(2%)でした。まれな症状としては、体重減少や発熱などがみられています。
先天性肺胞蛋白症では、初期から 重篤 な呼吸不全をみられることもあります。
7. この病気にはどのような治療法がありますか
自己免疫性肺胞蛋白症に対する標準的治療として、全身麻酔下で肺を水で洗う全肺洗浄術とGM-CSF吸入療法があります。患者さんの病状によっては気管支鏡下肺洗浄を行うこともあります。その他の薬物療法としては去痰薬の内服、吸入治療、低酸素血症がみられる場合は 在宅酸素療法 があります。GM-CSFとしてサルグラモスチム(医師主導治験)とモルグラモスチム(国際共同治験)の2種類の吸入療法の治験が行われ、最近わが国でサルグラモスチムが自己免疫性肺胞蛋白症の治療薬として承認されました。モルグラモスチムは現在治験中で結果が期待されています。
先天性肺胞蛋白症では、現在のところ、遺伝子変異そのものに対する治療法は確立していません。遺伝子変異によっては肺移植や骨髄移植(造血幹細胞移植)が唯一の治療法のこともあります。病態、診断、治療とも多くがまだ解明されていないため、今後も新しい知見がでるにつれ変化していくと考えられます。
8. この病気はどういう経過をたどるのですか
自己免疫性肺胞蛋白症では、自然に改善することがあり、比較的 予後 良好です。しかしながら、肺線維症や繰り返す感染症等により呼吸不全にいたり、死亡するといった経過の患者さんもいます。ひと昔前の海外の報告では、2年生存率78.9%、5年生存率74.7%、10年生存率68.3%でしたが、最近はもう少し改善しています。自己免疫性肺胞蛋白症のうち約8%〜50%が自然に改善すると報告されています。近年の日本の報告では、約30%が自然に改善すると報告されています。
先天性/遺伝性肺胞蛋白症は、遺伝子変異によって治療法も経過も異なります。担当医に十分に説明を受けてください。
9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか
自己免疫性肺胞蛋白症の患者さんには、喫煙者や粉塵吸入歴のある人が多いです。科学的に証明されたとは言えませんが、喫煙や粉塵吸入による肺胞蛋白症増悪の可能性も否定できません。したがって、禁煙は当然のことですが、粉塵吸入の可能性のある職業の方は、防塵マスクなどを着用し、粉塵吸入を避けるように注意が必要だと考えられます。
また、低酸素血症の割に、自覚症状が乏しい患者さんがみられます。高度の低酸素血症においては、意識消失や不整脈、心停止など起こる可能性がありますので、低酸素血症がみられる場合は、必ず医師の指示に従ってください。
10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。
• 先天性肺胞蛋白症
• 遺伝性肺胞蛋白症
• 先天性/遺伝性肺胞蛋白症
先天性肺胞蛋白症は、遺伝子検査が行われて遺伝子が同定された場合に遺伝性と呼ぶ事が多くなっています。一方遺伝性でも成人発症があり、また多くの場合は遺伝子が同定されない場合も少なくありません。2022年日本呼吸器学会肺胞蛋白症診療ガイドラインでは先天性/遺伝性肺胞蛋白症と記載されています。
尚、これまで抗GM-CSF抗体を測定出来ていない場合、特発性肺胞蛋白症の病名を使用していました。測定は2024年時点で保険適応ではありませんが、検査会社で測定できる事になったため、2022年の診療ガイドラインでは特発性肺胞蛋白症の病名は使用しない事になりました。指定難病の診断基準(認定するための認定基準)では、移行期として、特発性肺胞蛋白症の病名が残っていますが、順次ガイドラインと整合性が取られる予定です。抗GM-CSF抗体の束敵も保険適応が求められています。
11. この病気に関する資料・関連リンク
日本肺胞蛋白症患者会
http://pap-net.jp
研究班名 | びまん性肺疾患に関する調査研究班 研究班名簿 |
---|---|
情報更新日 | 令和6年10月(名簿更新:令和6年6月) |