マリネスコ・シェーグレン症候群(指定難病112)

まりねすこしぇーぐれんしょうこうぐん
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
マリネスコ・シェーグレン症候群は、小脳失調、精神発達遅滞、先天性白内障、ミオパチーを特徴とする乳幼児期発症の難治性疾患である。
 
2.原因
SIL1遺伝子変異によるものが多いが、変異の認められない例もある。
 
3.症状
白内障は学齢期前に発症し、かつ急激に増悪する。斜視も半数以上に認められる。
小脳症状は筋緊張低下の他、体幹失調を含めた運動失調が多い。精神発達面では軽度から重度の精神発達遅滞が認められる。有意語は全例獲得しているが、独語を獲得する時期が1~3歳と乳児期からの発達の遅れが認められる。
筋力低下は近位筋優位あるいは全身性で、頸定は4~18か月、座位は10~36か月と運動発達の遅れが認められる。独歩獲得は約35%で獲得年齢は平均7歳である。
 
4.治療法
白内障に対して手術が必要となる。その他の症状に対して、根治療法はなく対症療法のみとなっている。
 
5.予後
成人期以降も呼吸機能、心機能、嚥下機能は保たれ、生命予後は比較的良好と考えられるが各種合併症に対する長期療養が必要となる。
 
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数
100人未満
2.  発病の機構
不明(SIL1遺伝子変異によることが多い。)
3.  効果的な治療方法
未確立(根治療法はなく、対症療法のみ。)
4.  長期の療養
必要(進行性である。)
5.  診断基準
あり(研究班作成の診断基準あり。)
6.  重症度分類
modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが
3以上を対象とする。
 
○ 情報提供元
「希少難治性筋疾患に関する調査研究班」
研究代表者 東北大学神経内科 教授 青木正志
 
 
マリネスコ・シェーグレン症候群の診断基準
<診断基準>
Definite及びProbableを対象とする。
 
常染色体劣性遺伝形式あるいは孤発性
遺伝子座:5q31  原因遺伝子 SIL1(Gene ID:64374)
 
A.臨床症状
【主要項目】
1.乳幼児期発症
2.白内障:幼児期に発症、両側性、急速進行性
3.精神運動発達遅滞
4.筋緊張低下
5.小脳症状:運動失調が目立つ
6.全身性あるいは近位筋優位の筋力低下
【補助項目】
1.低身長
2.骨格異常(脊柱変形、外反扁平足、短趾症)
3.斜視
4.性腺機能低下
B.頭部画像所見:小脳萎縮
C.筋生検:乳幼児期より縁取り空胞の存在
D.遺伝子検査
SIL1にホモ接合性又は複合へテロ接合性変異
(ただしSIL1変異の認められない例もある)
 
診断のカテゴリー
Definite:A(主要項目のうち1を含む4項目以上)+Dを満たすもの
Probable:A(主要項目のうち1を含む4項目以上)+Bを満たすもの
:A(主要項目のうち1を含む4項目以上)+Cを満たすもの
 
鑑別疾患

  •        Congenital cataracts, facial dysmorphism, and neuropathy(CCFDN)
  •        Ataxia-microcephaly-cataract syndrome
  •        Cataract-ataxia-deafness-retardation syndrome
  •        VLDLR-associated cerebellar hypoplasia
  •        Familial Danish dementia

<重症度分類>
modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが
3以上を対象とする。
 

日本版modified Rankin Scale(mRS)判定基準書

modified Rankin Scale

参考にすべき点

全く症候がない

自覚症状及び他覚徴候が共にない状態である

症候はあっても明らかな障害はない:
日常の勤めや活動は行える

自覚症状及び他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である

軽度の障害:
発症以前の活動が全て行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える

発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態である

中等度の障害:
何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしに行える

買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要としない状態である

中等度から重度の障害:
歩行や身体的要求には介助が必要である

通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である

重度の障害:
寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを必要とする

常に誰かの介助を必要とする状態である

死亡

 
日本脳卒中学会版
 
食事・栄養(N)
0.症候なし。
1.時にむせる、食事動作がぎこちないなどの症候があるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.食物形態の工夫や、食事時の道具の工夫を必要とする。
3.食事・栄養摂取に何らかの介助を要する。
4.補助的な非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)を必要とする。
5.全面的に非経口的栄養摂取に依存している。
呼吸(R)
0.症候なし。
1.肺活量の低下などの所見はあるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.呼吸障害のために軽度の息切れなどの症状がある。
3.呼吸症状が睡眠の妨げになる、あるいは着替えなどの日常生活動作で息切れが生じる。
4.喀痰の吸引あるいは間欠的な換気補助装置使用が必要。
5.気管切開あるいは継続的な換気補助装置使用が必要。
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続す
ることが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

平成27年7月1日

情報提供者
研究班名 希少難治性筋疾患に関する調査研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和3年9月(名簿更新:令和6年6月)