エーラス・ダンロス症候群(指定難病168)

えーらすだんろすしょうこうぐん
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
エーラス・ダンロス症候群(Ehlers-Danlos syndrome:EDS)は、皮膚、関節、血管など全身的な結合組織の脆弱性に基づく遺伝性疾患である。その原因と症状から、13の病型(古典型、類古典型、心臓弁型、血管型、関節(過可動)型、多発関節弛緩型、皮膚脆弱型、後側彎型、脆弱角膜症候群、脊椎異形成型、筋拘縮型、ミオパチー型、歯周型)に分類されており、全病型を合わせた推定頻度は約1/5,000人とされている


病型
遺伝形式
原因遺伝子
頻度
古典型EDS(Classical EDS; cEDS)
AD
COL5A1, COL5A2等 1/20,000
類古典型EDS(Classical-like EDS; clEDS)
AR
TNXB
心臓弁型EDS(Cardiac-valvular EDS; cvEDS)
AR
COL1A2
血管型EDS(Vascular EDS; vEDS)
AD
COL3A1 1/50,000
関節(過可動)型EDS(Hypermobile EDS; hEDS)
AD
不明 1/5,000-20,000
多発関節弛緩型EDS(Arthrochalasia EDS; aEDS)
AD
COL1A1, COL1A2
皮膚脆弱型EDS(Dermatosparaxis EDS; dEDS)
AR
ADAMTS2
後側彎型EDS(Kyphoscoliotic EDS; kEDS)
AR
PLOD1, FKBP14
脆弱角膜症候群(Brittle cornea syndrome; BCS)
AR
ZNF469, PRDM5
脊椎異形成型EDS(Spondylodysplastic EDS; spEDS)
AR
B4GALT7, B3GALT6, SLC39A13
筋拘縮型EDS(Musculocontractural EDS; mcEDS)
AR
CHST14, DSE
ミオパチー型EDS(Myopathic EDS; mEDS)
AD, AR
COL12A1
歯周型EDS(Periodontal EDS; pEDS)
AD
C1R, C1S

表:2017年に発表されたエーラス・ダンロス症候群(EDS)の国際分類・命名法。AD:常染色体顕性遺伝(優性遺伝)、AR:常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)。

2.原因
コラーゲン分子又はコラーゲン成熟過程に関与する酵素の遺伝子変異に基づく。古典型EDSはV型コラーゲン遺伝子(COL5A1COL5A2)、Ⅰ型コラーゲン遺伝子(COL1A1)、AEBP1遺伝子の変異により、類古典型EDSはテネイシン遺伝子(TNXB)変異、心臓弁型EDSはI型コラーゲン遺伝子(COL1A2)変異、血管型EDSはIII型コラーゲン遺伝子(COL3A1)変異より、多発関節弛緩型EDSはI型コラーゲン遺伝子(COL1A1COL1A2)変異により、皮膚脆弱型EDSはプロコラーゲンI N-プロテイナーゼ遺伝子(ADAMTS2)変異により、後側彎型EDSはコラーゲン修飾酵素リジルヒドロキシラーゼ遺伝子(PLOD)変異またはFKBP14遺伝子変異、脆弱角膜症候群はZNF469遺伝子またはPRDM5遺伝子変異、脊椎異形成型EDSはB4GALT7遺伝子、B3GALT6遺伝子、またはSLC39A13遺伝子変異、筋拘縮型EDSはデルマタン4-O-硫酸基転移酵素遺伝子(CHST14)またはデルマタン硫酸エピメラーゼ遺伝子(DSE)変異、ミオパチー型EDSはⅫ型コラーゲン遺伝子(COL12A1)変異、歯周型EDSはC1R遺伝子またはC1S遺伝子変異により発症する。しかし、それぞれの遺伝子変異がどのような機序で多系統の合併症を引き起こすのか、治療につながる詳細な病態は不明である。原因遺伝子が同定されていない関節型EDSの病態は全くわかっていない。

3.症状
 古典型EDSにおいては、皮膚の脆弱性(容易に裂ける、萎縮性瘢痕を来す)、関節の脆弱性(柔軟、脱臼しやすい)、血管の脆弱性(内出血しやすい)、心臓弁の逸脱・逆流、上行大動脈拡張を呈する。類古典型EDSにおいては、柔らかい感触の皮膚、萎縮性瘢痕を伴わない皮膚過伸展性、全身関節過可動、易出血性を呈する。心臓弁型EDSにおいては、重度進行性の心臓弁異常、皮膚過伸展性、萎縮性瘢痕、薄い皮膚、易出血性、関節過可動を呈する。血管型EDSにおいては、動脈解離・瘤・破裂、腸管破裂、子宮破裂といった重篤な合併症を呈するとともに、小関節の弛緩、特徴的顔貌、皮下静脈の透見などの身体的特徴がある。関節型EDSにおいては、関節の脆弱性が中心(脱臼・亜脱臼、慢性疼痛)である。多発関節弛緩型EDSにおいては、先天性両側股関節脱臼、反復性(亜)脱臼を伴う重度全身関節過可動、皮膚過伸展性を呈する。皮膚脆弱型EDSにおいては、皮膚裂傷を伴う皮膚脆弱性、手首・足首の皮膚弛緩、手掌の皺、重度易出血性、臍ヘルニア、四肢短縮を伴う成長障害、組織脆弱性に関連した出生前後の合併症を呈する。後側彎型EDSにおいては、先天性筋緊張低下、先天性・早期発症側彎、(亜)脱臼を伴う全身関節過可動を呈する。脆弱角膜症候群においては、薄い角膜、早期発症進行性円錐角膜・球状角膜、青色強膜を呈する。脊椎異形成型EDSにおいては、低身長、筋緊張低下、四肢彎曲を呈する。筋拘縮型EDSにおいては、進行性結合組織脆弱性(皮膚過伸展・脆弱性、全身関節弛緩・慢性脱臼・変形、巨大皮下血腫、心臓弁の逸脱・逆流、難治性便秘、膀胱拡張、眼合併症など)及び発生異常(顔貌の特徴、先天性多発関節拘縮など)を伴う特徴的な症状を呈する。ミオパチー型EDSにおいては、先天性筋緊張低下・筋萎縮、近位関節拘縮、遠位関節過可動を呈する。歯周型EDSにおいては、早期発症重度難治性歯周炎、歯肉欠損、脛骨前面斑を呈する。

4.治療法
古典型EDSにおける皮膚、関節のトラブルに対しては、激しい運動を控えることやサポーターを装着するなどの予防が有用である。皮膚裂傷に対しては、慎重な縫合を要する。関節型EDSにおいては、関節を保護するリハビリテーションや補装具の使用、また疼痛緩和のための鎮痛薬の投与を行う。血管型EDSの動脈病変については、定期的な画像検査・発症時の慎重な評価と治療を行う(できる限り保存的に、進行性の場合には血管内治療を考慮。)。最近、β遮断薬セリプロロールの動脈病変予防効果が期待されている。腸管破裂の発症時には、迅速な手術が必要である。筋拘縮型EDSにおいては、定期的な骨格系(側彎、脱臼)の評価、心臓血管の評価、泌尿器系、眼科の評価、必要に応じた整腸剤・緩下剤内服などが考慮される。他病型においても、同様に合併症に対する対症療法を行う。

5.予後
患者は、小児期・若年成人期から生涯にわたり、進行性の結合組織脆弱性関連症状(皮膚・関節・血管・内臓の脆弱性、疼痛など)を有し、QOLの低下を伴う。古典型EDSでは、反復性皮膚裂傷、全身関節脱臼、疼痛によりQOLが低下する。関節型EDSでは、時に進行性の全身関節弛緩による運動機能障害、反復性脱臼、難治性疼痛、自律神経失調症、過敏性腸炎症状、慢性呼吸不全により、著しいQOLの低下を伴う(車椅子、寝たきり)。血管型EDSでは、動脈解離・瘤・破裂を中心に、腸破裂、妊娠中の子宮破裂など臓器破裂による若年成人死亡の危険性が高い。欧米の大規模調査では、20歳までに25%が、40歳までに80%が生命に関わる重大な合併症を生じ、死亡年齢の中央値は48歳である。筋拘縮型EDSでは、進行性全身骨格変形による運動機能障害・反復性巨大皮下血腫により著しいQOLの低下を伴う(車椅子、寝たきり)。

○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
144人
2.  発病の機構
不明(コラーゲン分子・修飾酵素の遺伝子変異によるが全貌は不明、関節型では原因遺伝子も不明。)
3.  効果的な治療方法
未確立(対症療法が中心である。)
4.  長期の療養
必要(全病型において進行性である。)
5.  診断基準
あり(国際専門者会議による診断基準及び研究班作成の診断基準あり。)
6.  重症度分類
1.小児例(18歳未満)
小児慢性特定疾病の状態の程度に準ずる。
2.成人例
1)~4)のいずれかに該当する者を対象とする。
1)心疾患があり、薬物治療・手術によってもNYHA分類でII度以上に該当する場合。
2)(当該疾病が原因となる解離や梗塞などの)動脈合併症や消化管を含む臓器破裂を1回以上発症した場合。
3)患者の手拳大以上の皮下血腫が年間5回以上出現した場合。(ただし、同じ場所に出現した皮下血腫は一旦消失しないものについては1回と数えることとする。また、異所性に出現した場合に同時発症の際は2回までカウント可とする。)。
4)modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を 対象とする。
 
○ 情報提供元
「エーラス・ダンロス症候群(主に血管型および新型)の実態把握および診療指針の確立」(EDS班)
研究代表者 信州大学医学部附属病院遺伝子診療部 准教授 古庄知己
「デルマタン4-O-硫酸基転移酵素-1欠損に基づくエーラス・ダンロス症候群の病態解明と治療法の開発」
研究代表者 信州大学医学部附属病院遺伝子診療部 准教授 古庄知己
「国際標準に立脚した奇形症候群領域の診療指針に関する学際的・網羅的検討」
研究代表者 慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センター 教授 小崎健次郎 
 
<診断基準>
1.古典型エーラス・ダンロス症候群(常染色体顕性遺伝(優性遺伝))の診断基準
Definite、Probableを対象とする。

A.症状
<大基準>
1.皮膚過伸展性(※別表1参照)・萎縮性瘢痕(※別表1参照)、
2.関節過動性(※別表2参照)
<小基準>
1.易出血性
2.柔らかい皮膚
3.皮膚脆弱性(裂傷しやすい)
4.軟属腫様偽腫瘍
5.皮下球状物
6.ヘルニア
7.内眼角贅皮
8.関節過可動による合併症(捻挫、脱臼・亜脱臼、疼痛、扁平足)
9.家族歴

B.遺伝学的検査
COL5A1、COL5A2、COL1A1、AEBP1遺伝子等の病原性変異

<診断のカテゴリー>
Definite: A症状のうち2つ以上を認め※、Bに該当する場合
Probable: A症状のうち、大基準の全て、及び小基準のうち3つ以上を認める場合
 ※大基準、小基準のいずれの項目でも可とする。

2.類古典型エーラス・ダンロス症候群(常染色体潜性遺伝(劣性遺伝))の診断基準
Definiteを対象とする。

A.症状
<大基準>
1.ベルベット状の感触を伴うが萎縮性瘢痕を伴わない皮膚過伸展性
2.反復性関節脱臼(肩、足首など)を伴うこともあれば、伴わないこともある全身関節過可動
3.易出血性

<小基準>
1.足の変形(幅広く肉付きのよい足先、過剰皮膚を伴った短趾症、扁平足、外反母趾、圧迫性丘疹)
2.心不全を伴わない下肢の浮腫
3.軽度の遠位および近位筋力低下
4.軸索型ポリニューロパチー
5.手足の筋萎縮
6.早老症様の手、マレット指、屈指症、短指症
7.膣・子宮・直腸脱

B.検査所見
生化学所見:血清テネイシンの欠損

C.遺伝学的検査
TNXB遺伝子等の病原性変異

<診断のカテゴリー>
Definite1: A症状のうち2つ以上を認め※、Bに該当する場合
Definite2: A症状のうち2つ以上を認め※、Cに該当する場合
 ※大基準、小基準のいずれの項目でも可とする。

3.心臓弁型エーラス・ダンロス症候群(常染色体潜性遺伝(劣性遺伝))の診断基準
Definiteを対象とする。

A.症状
<大基準>
1.重度で進行性の心臓弁(大動脈弁、僧帽弁)に関する問題
2.皮膚過伸展性・萎縮性瘢痕・薄い皮膚・易出血性
3.関節過可動(全身性または小関節に限局)

<小基準>
1.鼠径ヘルニア
2.胸郭変形(特に漏斗胸)
3.関節脱臼
4.足変形(扁平足、外反扁平足、外反母趾)

B.遺伝学的検査
COL1A2遺伝子等の病原性変異

<診断のカテゴリー>
Definite: A症状のうち2つ以上を認め※、Bに該当する場合
 ※大基準、小基準のいずれの項目でも可とする。

4.血管型エーラス・ダンロス症候群(常染色体顕性遺伝(優性遺伝))の診断基準
Definiteを対象とする。

A.症状
<大基準>
1.若年性動脈破裂
2.腸管破裂
3.妊娠中の子宮破裂
4.頚動脈海綿静脈洞ろう
5.家族歴

<小基準>
1.易出血性
2.薄く静脈が透見される皮膚
3.顔貌上の特徴
4.特発性(血)気胸
5.末端早老症
6.先天性内反足
7.先天性股関節脱臼
8.小関節の過可動
9.腱・筋肉破裂
10.円錐角膜
11.歯肉後退・脆弱性
12.若年発症静脈瘤

B.検査所見
生化学所見:培養皮膚線維芽細胞中のⅢ型プロコラーゲン産生異常

C.遺伝学的検査
COL3A1遺伝子等の病原性変異

<診断のカテゴリー>
Definite1: A症状のうち2つ以上を認め※、Bに該当する場合
Definite2: A症状のうち2つ以上を認め※、Cに該当する場合
 ※大基準、小基準のいずれの項目でも可とする。

5.関節(過可動)型エーラス・ダンロス症候群(常染色体顕性遺伝(優性遺伝))の診断基準
Probableを対象とする。

基準1:全身関節過可動(※別表2参照)
基準2.以下の症状(A〜C)のうち2つ以上認める。
症状A:全身性の結合組織疾患を示す症状(合計5項目以上)
1.柔らかい皮膚
2.軽度の皮膚過伸展性
3.皮膚線条
4.踵における両側の圧迫性丘疹
5.反復性または多発性の腹壁ヘルニア(臍、鼠径部、前脛部など)
6.2か所以上の萎縮性瘢痕
7.骨盤臓器脱(直腸脱、子宮脱)
8.歯の叢生、高くまたは狭い口蓋
9.細長い手指(両側wrist sign陽性、両側thumb sign陽性)
10.長い腕
11.軽度以上の僧帽弁逸脱
12.大動脈基部拡張(Z score > +2)

症状B:家族歴(本診断基準を独立に満たす1人以上の一度近親罹患者を含む)

症状C:筋骨格系の合併症(少なくとも1項目が必須)
1.毎日繰り返され、最低3か月以上持続する四肢筋骨格系の疼痛
2.3か月以上持続する慢性で広範囲な疼痛
3.外傷のない状態での関節脱臼の反復または明らかな関節の不安定さ(aまたはb)
a. 同一関節における3回以上の非外傷性脱臼または2つの異なる関節において異なる時に生じた2回以上の非外傷性脱臼
b. 外傷とは無関係な2つの部位における医学的に確定した関節不安定性

基準3.以下全ての項目を満たす。
1.異常な皮膚脆弱性がないこと。あれば他病型を考慮する。
2.自己免疫性リウマチ性疾患を含め、他の先天性疾患または後天性の結合組織疾患を否定すること。後天性の結合組織疾患(全身性エリテマトーデス、リウマチ性関節炎など)の患者において、関節型EDSも有すると診断するためには、基準2の症状Aと症状Bを必要とする。この場合、基準2の症状Cは数えない。
3.筋緊張低下および/または結合組織弛緩による関節過可動をも含む鑑別診断を除外すること。例えば、神経筋疾患(ミオパチー型EDS、ベツレム型ミオパチーなど)、他の遺伝性結合組織疾患(他のEDS病型、ロイス・ディーツ症候群、マルファン症候群など)、および骨系統疾患(骨形成不全症など)など。これらの疾患の除外は、経過、身体所見、および/または分子遺伝学的検査に基づく。

Probable:基準1および基準2および基準3を満たす場合。

6.多発関節弛緩型エーラス・ダンロス症候群(常染色体顕性遺伝(優性遺伝))の診断基準
Definiteを対象とする。

A.症状
<大基準>
1.先天性両側股関節脱臼
2.多発(亜)脱臼を伴う重度の全身性関節過可動(※別表2参照)
3.皮膚過伸展性(※別表1参照)
<小基準>
1.筋緊張低下
2.後側彎
3.放射線学的に診断された骨密度低下
4.萎縮性瘢痕(※別表1参照)を含む組織脆弱性
5.易出血性
B.検査所見
生化学所見:培養皮膚線維芽細胞で確認されたI型プロコラーゲンプロセッシングの異常
C.遺伝学的検査
COL1A1、COL1A2遺伝子等の病原性変異

<診断のカテゴリー>
Definite1: A症状のうち2つ以上を認め※、Bに該当する場合
Definite2: A症状のうち2つ以上を認め※、Cに該当する場合
 ※大基準、小基準のいずれの項目でも可とする。

7.皮膚脆弱型エーラス・ダンロス症候群(常染色体潜性遺伝(劣性遺伝))の診断基準
Definiteを対象とする。

A.症状
<大基準>
1.先天性または出生後の皮膚裂傷を伴う顕著な皮膚脆弱性
2.出生時または乳児早期に明らかな、またはその後の小児期に生じる顔貌上の特徴
3.手首や足首における皮膚の折れ込みを生じるような弛緩した、ほとんどたるんだ皮膚
4.手掌の皺が増加
5.重度の易出血性を呈し、皮下血腫・出血の危険がある
6.臍ヘルニア
7.出生後の成長障害
8.短い四肢・手足
9.結合組織脆弱性による出生前後の合併症
<小基準>
1.柔らかい皮膚
2.皮膚過伸展性(※別表1参照)
3.萎縮性瘢痕(※別表1参照)
4.全身性関節過可動(※別表2参照)
5.臓器脆弱性に関連した合併症(膀胱破裂、横隔膜破裂、直腸脱)
6.運動発達遅滞
7.骨量減少
8.多毛
9.歯の異常
10.屈折異常(近視、乱視)
11.斜視

B.遺伝学的検査
ADAMTS2遺伝子等の病原性変異

<診断のカテゴリー>
Definite: A症状のうち2つ以上を認め※、Bに該当する場合
 ※大基準、小基準のいずれの項目でも可とする。

8.後側彎型エーラス・ダンロス症候群(常染色体潜性遺伝(劣性遺伝))の診断基準
Definiteを対象とする。
A.症状を複数認めることにより後側弯型エーラス・ダンロス症候群を疑い、BもしくはCに該当する場合、後側弯型エーラス・ダンロス症候群と確定診断される。

A.症状
<大基準>
1.先天性筋緊張低下
2.先天性または早期発症後側彎(進行性または非進行性)
3.(亜)脱臼を伴う全身性関節過可動(特に肩、股、膝)(※別表2参照)
<小基準>
1.皮膚過伸展性(※別表1参照)
2.易出血性
3.中等サイズの動脈破裂・瘤
4.骨量減少・骨粗鬆症
5.青色強膜
6.ヘルニア(臍、鼠径)
7.胸郭変形
8.マルファン症候群様体型
9.先天性内反足
10.屈折異常(近視、遠視)
<原因遺伝子特異的な小基準>
1.PLOD遺伝子
①皮膚脆弱性(易出血性、裂けやすい、創傷治癒不良、広い萎縮性瘢痕)
②強膜および眼球脆弱性・破裂
③小角膜
④顔貌上の特徴
2.FKBP14遺伝子
①先天性聴力障害(感音性、伝音性、混合性)
②毛包性角化症
③筋萎縮
④膀胱憩室

B.検査所見
生化学所見:尿中リジルピリジノリン/ヒドロキシリジルピリジノリン比上昇

C.遺伝学的検査
PLOD、FKBP14遺伝子等の病原性変異

<診断のカテゴリー>
Definite1: A症状のうち2つ以上を認め※、Bに該当する場合
Definite2: A症状のうち2つ以上を認め※、Cに該当する場合
 ※大基準、小基準のいずれの項目でも可とする。

9.脆弱角膜症候群(常染色体潜性遺伝(劣性遺伝))の診断基準
Definiteを対象とする。

A.症状
<大基準>
1.薄い角膜、破裂することもしないこともある(角膜中心部の厚さはしばしば<400μm)
2.早期発症進行性円錐角膜
3.早期発症進行性球状角膜
4.青色強膜
<小基準>
1.破裂の既往としての角膜摘出または角膜瘢痕
2.角膜間質の進行性欠損(特に角膜中心部)
3.強度近視、眼軸長は正常または中等度増加
4.網膜剥離
5.聾(しばしば伝音性・感音性両方の要素を有する混合性、進行性、しばしば高音部が低下)
6.張力に乏しい鼓膜
7.股関節の異形成
8.乳児期の筋緊張低下(有する場合も軽度)
9.側彎
10.細長い手指
11.遠位関節の過可動
12.扁平足、外反母趾
13.手指の軽度拘縮(特に第5指)
14.柔らかくベルベット状の皮膚、薄く透けた皮膚

B.遺伝学的検査
ZNF469PRDM5遺伝子等の病原性変異

<診断のカテゴリー>
Definite: A症状のうち2つ以上を認め※、Bに該当する場合
 ※大基準、小基準のいずれの項目でも可とする。

10.脊椎異形成型エーラス・ダンロス症候群(常染色体潜性遺伝(劣性遺伝))の診断基準
Definiteを対象とする。

A.症状
<大基準>
1.低身長(小児期に顕著)
2.筋緊張低下(先天性重症から晩期発症軽症まで)
3.四肢彎曲
<小基準>
1.皮膚過伸展性、柔らかい皮膚、薄く透けた皮膚
2.扁平足
3.運動発達遅滞
4.骨量低下
5.認知発達遅滞
<原因遺伝子特異的な小基準>
1.B4GALT7遺伝子
①橈尺骨癒合
②両側肘関節拘縮または肘関節可動域制限
③全身関節過可動
④手掌の単一屈曲線
⑤顔貌上の特徴
⑥重度の遠視
⑦角膜混濁
2.B3GALT6遺伝子
①後側彎(先天性または早期発症、進行性)
②関節過可動、全身性または遠位関節に限局、脱臼を伴う
③関節拘縮(先天性または進行性、特に手)
④手指の特徴(細長い、先細り、へら状、幅広い末節を伴う)
⑤先天性内反足
⑥顔貌上の特徴
⑦歯の脱臼・異形成
⑧特徴的X線所見
⑨特発性の多発骨折を伴う骨粗鬆症
⑩上行大動脈瘤
⑪肺低形成、拘束性肺疾患
3.SLC39A13遺伝子
①青色強膜を伴い突出した眼
②細かい手掌の皺
③母指球筋緊萎縮、先細りの手指
④遠位関節の過可動
⑤特徴的X線所見

B.遺伝学的検査
B4GALT7、B3GALT6、SLC39A13遺伝子等の病原性変異

<診断のカテゴリー>
Definite: A症状のうち2つ以上を認め※、Bに該当する場合
 ※大基準、小基準のいずれの項目でも可とする。

11.筋拘縮型エーラス・ダンロス症候群(常染色体潜性遺伝(劣性遺伝))の診断基準
Definiteを対象とする。

A.症状
<大基準>
①先天性多発関節拘縮、特に母指の内転・屈曲拘縮および/または内反足
②頭蓋顔面の特徴(大きい大泉門、眼間開離、眼瞼裂斜下、青色強膜、短い鼻、低形成の鼻柱、低位かつ後傾した耳介、高口蓋、長い人中、薄い上口唇、小さい口、小さく後退した下顎)、出生時または乳児早期に明らか
③特徴的皮膚所見、過伸展性、易出血性、萎縮性瘢痕を伴う脆弱性、手掌の過剰な皺
<小基準>
①反復性・慢性脱臼
②胸郭変形(平坦、漏斗胸)
③脊椎変形(側彎、後側)
④独特な手指の形態(先細り、細長い、円筒状)
⑤進行性足変形(外反足、扁平足、凹足)
⑥巨大皮下血腫
⑦慢性便秘
⑧結腸憩室
⑨気胸・血気胸
⑩腎結石・膀胱結石
⑪水腎症
⑫男児の停留精巣
⑬斜視
⑭屈折異常(近視、乱視)
⑮緑内障・眼圧上昇

B.検査所見
生化学所見:尿中デルマタン硫酸欠乏

C.遺伝学的検査
CHST14、DSE遺伝子等の病原性変異

<診断のカテゴリー>
Definite1: A症状のうち2つ以上を認め※、Bに該当する場合
Definite2: A症状のうち2つ以上を認め※、Cに該当する場合
 ※大基準、小基準のいずれの項目でも可とする。

12.ミオパチー型エーラス・ダンロス症候群(常染色体顕性遺伝(優性遺伝)または潜性遺伝(劣性遺伝))の診断基準
Definiteを対象とする。

A.症状
<大基準>
1.先天性筋緊張低下および/または筋萎縮、年齢に伴い改善
2.近位関節拘縮(膝、股、肘)
3.遠位関節過可動
<小基準>
1.やわらかい皮膚
2.萎縮性瘢痕
3.運動発達遅滞
4.筋生検でミオパチー所見

B.遺伝学的検査
COL12A1遺伝子等の病原性変異

<診断のカテゴリー>
Definite: A症状のうち2つ以上を認め※、Bに該当する場合
 ※大基準、小基準のいずれの項目でも可とする。

13.歯周型エーラス・ダンロス症候群(常染色体顕性遺伝(優性遺伝))の診断基準
Definiteを対象とする。

A.症状
<大基準>
1.早期発症(小児期または思春期)の重度かつ難治性の歯周炎
2.歯肉欠損
3.脛骨前面斑
4.家族歴、1度近親者の罹患(臨床的診断基準を満たす)
<小基準>
1.易出血性
2.関節過可動、ほとんどが遠位関節
3.皮膚過伸展性および脆弱性、異常な瘢痕形成(広く、萎縮性)
4.感染の頻度増加
5.ヘルニア
6.マルファン症候群様体型
7.末端早老症
8.血管が目立つ
B.遺伝学的検査
C1R、C1S遺伝子等の病原性変異

<診断のカテゴリー>
Definite: A症状のうち2つ以上を認め※、Bに該当する場合
 ※大基準、小基準のいずれの項目でも可とする。
 
別表1:皮膚過伸展評価

診断基準:
皮膚過伸展と萎縮性瘢痕を合計して4点以上を陽性とする。
 
なお、前腕皮膚過伸展テストを行う際は、下記の通り実施する。


別表2:関節過動性(Beightonによる関節可動性亢進 判定基準)

関節/所見

陰性

片側

両側

手関節の過伸展により手指と前腕が平行になる

拇指の過屈曲による前腕との接触

肘関節の10度以上の過伸展

膝関節の10度以上の過伸展

膝伸展位で脊柱を前屈させ手掌が床につく

5点以上で関節可動性亢進とみなされる。
 
 
<重症度分類>
1.小児例(18歳未満)
小児慢性特定疾病の状態の程度に準ずる。
2.成人例
1)~4)のいずれかに該当する者を対象とする。
1)心疾患があり、薬物治療・手術によってもNYHA分類でII度以上に該当する場合。
NYHA分類

I度

心疾患はあるが身体活動に制限はない。
日常的な身体活動では疲労、動悸、呼吸困難、失神あるいは
狭心痛(胸痛)を生じない。

II度

軽度から中等度の身体活動の制限がある。安静時又は軽労作時には無症状。
日常労作のうち、比較的強い労作(例えば、階段上昇、坂道歩行など)で疲労、動悸、呼吸困難、失神あるいは狭心痛(胸痛)を生ずる。

III度

高度の身体活動の制限がある。安静時には無症状。
日常労作のうち、軽労作(例えば、平地歩行など)で疲労、動悸、呼吸困難、失神あるいは狭心痛(胸痛)を生ずる。

IV度

心疾患のためいかなる身体活動も制限される。
心不全症状や狭心痛(胸痛)が安静時にも存在する。
わずかな身体活動でこれらが増悪する。

NYHA: New York Heart Association
 
NYHA分類については、以下の指標を参考に判断することとする。

NYHA分類

身体活動能力
(Specific Activity Scale:SAS)

最大酸素摂取量
(peakVO2

I

6METs以上

基準値の80%以上

II

3.5~5.9METs

基準値の60~80%

III

2~3.4METs

基準値の40~60%

IV

1~1.9METs以下

施行不能あるいは
基準値の40%未満

 
※NYHA分類に厳密に対応するSASはないが、
「室内歩行2METs、通常歩行3.5METs、ラジオ体操・ストレッチ体操4METs、速歩5~6METs、階段6~7METs」をおおよその目安として分類した。
 
2)(当該疾病が原因となる解離や梗塞などの)動脈合併症や消化管を含む臓器破裂を1回以上発症した場合。

3)患者の手拳大以上の皮下血腫が年間5回以上出現した場合。(ただし、同じ場所に出現した皮下血腫は一旦消失しないものについては1回と数えることとする。また、異所性に出現した場合に同時発症の際は2回までカウント可とする。)
 
4) modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を 対象とする。

日本版modified Rankin Scale(mRS)判定基準書

modified Rankin Scale

参考にすべき点

全く症候がない

自覚症状及び他覚徴候が共にない状態である

症候はあっても明らかな障害はない:
日常の勤めや活動は行える

自覚症状及び他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である

軽度の障害:
発症以前の活動が全て行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える

発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態である

中等度の障害:
何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしに行える

買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要としない状態である

中等度から重度の障害:
歩行や身体的要求には介助が必要である

通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である

重度の障害:
寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを必要とする

常に誰かの介助を必要とする状態である

死亡

食事・栄養(N)
0. 症候なし。
1. 時にむせる、食事動作がぎこちないなどの症候があるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2. 食物形態の工夫や、食事時の道具の工夫を必要とする。
3. 食事・栄養摂取に何らかの介助を要する。
4. 補助的な非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)を必要とする。
5. 全面的に非経口的栄養摂取に依存している。
呼吸(R)
0. 症候なし。
1. 肺活量の低下などの所見はあるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2. 呼吸障害のために軽度の息切れなどの症状がある。
3. 呼吸症状が睡眠の妨げになる、あるいは着替えなどの日常生活動作で息切れが生じる。
4. 喀痰の吸引あるいは間欠的な換気補助装置使用が必要。
5. 気管切開あるいは継続的な換気補助装置使用が必要。

 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 

令和6年4月1日

情報提供者
研究班名 患者との双方向的協調に基づく先天異常症候群の自然歴の収集とrecontact可能なシステムの構築班
研究班名簿 
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和6年6月)