メープルシロップ尿症(指定難病244)

めーぷるしろっぷにょうしょう
 

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○ 概要
 
1.概要
メープルシロップ尿症(MSUD)は分枝鎖アミノ酸(BCAA:バリン、ロイシン、イソロイシン)由来の分枝鎖ケト酸(BCKA)の酸化的脱炭酸反応を触媒する分枝鎖ケト酸脱水素酵素(BCKDH)の障害に基づく先天代謝異常症である。遺伝子異常が明らかにされており、常染色体劣性遺伝形式を示す。新生児期発症の急性期では元気がない、哺乳力低下、不機嫌、嘔吐などで発症する。進行すると意識障害、けいれん、呼吸困難、筋緊張低下、後弓反張などが出現し、治療が遅れると死亡するか重篤な神経後遺症をのこす。慢性症状としては発達障害、精神運動発達遅滞、失調症、けいれんなどがみられる。新生児マススクリーニングの対象疾患であり、ほとんど全ての患者はこのスクリーニングによって発見される。わが国での頻度は出生約50万人に1人と考えられている。
 
2.原因
血中に増加したBCAA及びBCKAの中枢神経障害と二次的な代謝性アシドーシス、低血糖症による臓器障害が出現する。MSUDの中枢神経障害はロイシンの濃度に相関することが知られており、ロイシン及びそのアミノ基転移産物であるα ケトイソカプロン酸が直接、脳神経細胞の発達抑制、ミエリン合成障害を来すことが知られている。さらに高濃度のロイシンは他の中性アミノ酸の脳内転送を抑制し、アミノ酸やその由来の神経伝達物質の欠乏を来すものと考えられている。
 
3.症状
新生児期発症の急性期では元気がない、哺乳力低下、不機嫌、嘔吐などで発症する。進行すると意識障害、けいれん、呼吸困難、筋緊張低下、後弓反張などが出現し、治療が遅れると死亡するか重篤な神経後遺症をのこす。慢性症状としては発達障害、精神運動発達遅滞、失調症、けいれんなどがみられる。
 
4.治療法
急性期は適切なカロリー(80kcal/kg以上)と電解質輸液、ビタミン投与(B1反応型もある)、蛋白制限を行う。アシドーシスが強く、アルカリ療法の効果がなければ、血液ろ過透析を行う。慢性期は分枝鎖アミノ酸の制限食が中心となり、特殊ミルクを使用する。
 
5.予後
わが国のMSUDは新生児マススクリーニングで発見治療されているが、マススクリーニングの対象疾患の中で最も死亡率が高く、神経学的予後も良好とは言えない。欧米の報告でも同じような予後成績であったが、早期に診断、治療することにより、新生児期の初回急性増悪を抑えることができれば良好な経過が期待される。さらに肝臓移植により良好の経過が得られることが判明している。早期発見、早期治療、肝臓移植により予後は良好になることと考えられる。今後我が国においても脳死肝移植が普及することによって、本疾患の予後は改善するものと期待される。
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数
約100人
2.  発病の機構
不明(病態推定はできている。)
3.  効果的な治療方法
未確立(進行性である。)
4.  長期の療養
必要(進行性のものがある。)
5.  診断基準
あり(研究班作成)
6.  重症度分類
先天性代謝異常症の重症度評価を用いて、中等症以上を対象とする。
 
○ 情報提供元
研究代表者 熊本大学大学院生命科学研究部小児科学 教授 遠藤文夫
<診断基準>
Definiteを対象とする。
 
診断基準
血中ロイシン値が4mg/dL(300µmol/L)以上であれば本症の診断を進める。
診断の根拠となる検査の①かつ②、もしくは①かつ③を認めるものをDefiniteとする。
 
鑑別診断
ケトーシスやチアミン(ビタミンB1)欠乏で分枝鎖ケト酸の上昇を認める。
低血糖に伴って分枝鎖アミノ酸の上昇を認める。
いずれも、血中・尿中アミノ酸分析と尿中有機酸分析によって鑑別が可能である。
 
診断の根拠となる検査
①    血中・尿中アミノ酸分析
診断に必須の検査である。ロイシン、イソロイシン、バリンの増加、アラニンの低下を認める。
 
②    尿中有機酸分析
分枝鎖α ケト酸、分枝鎖α ヒドロキシ酸の増加を認める。
 
③酵素活性
酵素診断においてはリンパ球、皮膚線維芽細胞、羊水細胞、絨毛細胞などを用いた分枝鎖ケト酸脱水素酵素の酵素活性の測定を行う。
患者では酵素活性は正常対照の20%以下である。
病型分類においては5%未満の場合は古典型、5~20%の場合は中間型あるいは間欠型である。
 
④遺伝子解析
複合体を形成するそれぞれの酵素について解析が必要であり、日本人に特異的な変異も認められていないため、診断には用いられていない。
 
⑤(参考)アロイソロイシンの出現も特徴的である(質量分析計によるアミノ酸分析では測定できない)。
 
 
<重症度分類>
中等症以上を対象とする。

 

先天性代謝異常症の重症度評価(日本先天代謝異常学会)

点数

I

薬物などの治療状況(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

治療を要しない

b

対症療法のために何らかの薬物を用いた治療を継続している

c

疾患特異的な薬物治療が中断できない

d

急性発作時に呼吸管理、血液浄化を必要とする

II

食事栄養治療の状況(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

食事制限など特に必要がない

b

軽度の食事制限あるいは一時的な食事制限が必要である

c

特殊ミルクを継続して使用するなどの中程度の食事療法が必要である

d

特殊ミルクを継続して使用するなどの疾患特異的な負荷の強い(厳格な)食事療法の継続が必要である

e

経管栄養が必要である

III

酵素欠損などの代謝障害に直接関連した検査(画像を含む)の所見(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

特に異常を認めない        

b

軽度の異常値が継続している    (目安として正常範囲から1.5SDの逸脱)  

c

中等度以上の異常値が継続している (目安として1.5SDから2.0SDの逸脱)      

d

高度の異常値が持続している    (目安として2.0SD以上の逸脱)

IV

現在の精神運動発達遅滞、神経症状、筋力低下についての評価(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

異常を認めない         

b

軽度の障害を認める  (目安として、IQ70未満や補助具などを用いた自立歩行が可能な程度の障害)

c

中程度の障害を認める (目安として、IQ50未満や自立歩行が不可能な程度の障害)   

d

高度の障害を認める  (目安として、IQ35未満やほぼ寝たきりの状態)    

V

現在の臓器障害に関する評価(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

肝臓、腎臓、心臓などに機能障害がない

b

肝臓、腎臓、心臓などに軽度機能障害がある
(目安として、それぞれの臓器異常による検査異常を認めるもの)

c

肝臓、腎臓、心臓などに中等度機能障害がある
 (目安として、それぞれの臓器異常による症状を認めるもの)

d

肝臓、腎臓、心臓などに重度機能障害がある、あるいは移植医療が必要である 
(目安として、それぞれの臓器の機能不全を認めるもの)

VI

生活の自立・介助などの状況(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

自立した生活が可能     

b

何らかの介助が必要      

c

日常生活の多くで介助が必要  

d

生命維持医療が必要     

総合評価

IからVIまでの各評価及び総点数をもとに最終評価を決定する。

(1)4点の項目が1つでもある場合    

重症

(2)2点以上の項目があり、かつ加点した総点数が6点以上の場合  

重症

(3)加点した総点数が3-6点の場合  

中等症

(4)加点した総点数が0-2点の場合   

軽症

注意

診断と治療についてはガイドラインを参考とすること

疾患特異的な薬物治療はガイドラインに準拠したものとする

疾患特異的な食事栄養治療はガイドラインに準拠したものとする

 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 

平成27年7月1日

情報提供者
研究班名 新生児スクリーニング対象疾患等の先天代謝異常症の成人期にいたる診療体制構築と提供に関する研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和4年3月(名簿更新:令和6年6月)