イソ吉草酸血症(指定難病247)

いそきっそうさんけっしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 「イソ吉草酸血症」とはどのような病気ですか

イソ吉草酸は有機酸の一種で、酢酸(お酢)もその仲間です。酢酸は体のエネルギー源などになる有益な有機酸ですが、イソ吉草酸はエネルギー産生をじゃまする有害な有機酸です。通常、イソ吉草酸(厳密には体の中では“イソバレリル・コエンザイムA”として存在します)は 酵素 の働きによってすぐに有益な有機酸に変えられて(代謝されて)いきますが、イソ吉草酸血症の患者さんでは、この酵素の働きが生まれつき不充分であり、イソ吉草酸が体に蓄積して代謝機能不全による症状が惹起される遺伝病です。この酵素の変調は遺伝子の 変異 に起因しますが、その遺伝子変異は、全く症状が出ないような軽微なものから、生まれた直後(新生児期)から 重篤 な障害を引き起こすものまで、様々です。日本では“ 新生児マススクリーニング ”で早期発見することになっています。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

新生児マススクリーニングで見つかる患者さんの頻度から、日本ではおよそ50万人に一人の割合と考えられています。

3. この病気はどのような人に多いのですか

イソ吉草酸を代謝する酵素は、その設計図である遺伝子を基に作られます。ヒトは遺伝子を2つ持っていますが、患者さんは遺伝子の2つともに酵素機能不全を起こす変異があります。遺伝子は両親から受け継ぎますので、イソ吉草酸血症の患者さんの両親は変異のある遺伝子を1つ持っており、両親は 保因者 と呼ばれます。保因者の頻度はおよそ350人に一人と計算されます。

4. この病気の原因はわかっているのですか

イソ吉草酸を代謝する酵素の遺伝子の両方に変異があるのが原因です。遺伝子変異のため正常機能をもつ酵素が作られず、病気の症状がでます。

5. この病気は遺伝するのですか

遺伝する病気であり、保因者である両親から1/4の確率で患児が生まれます。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

イソ吉草酸が体に多量に蓄積すると脳にある嘔吐中枢が刺激され嘔吐が引き起こされます。さらに、体が酸性(代謝性アシドーシス)になることで代謝機能不全に陥ると、意識障害や運動機能障害が見られるようになります。特に、アンモニアなどの毒素が体に増えると脳に悪影響を及ぼし、重篤な後遺症を残すことがあります。
このような症状は、病気の重篤さ(重症度)によって変わります。イソ吉草酸血症には、重症型と、“慢性間歇型”と呼ばれる比較的軽症のタイプがあります。
重症型では、生まれて間もなくからイソ吉草酸が著しく増加し、嘔吐や意識障害がみられるようになります。アンモニアがひどく増加していたり、骨髄での造血機能が障害されて出血しやすくなったり感染防護機能が低下していたりするので、迅速に診断し適切に治療する必要がありますが、治療が奏効すれば後遺症を残すことなく回復します。
慢性間歇型では、風邪やその他の理由で充分食事が取れなくなった時に、急にイソ吉草酸が増加し、嘔吐などの症状が出ます。イソ吉草酸を処理する代謝経路は、タンパク質(ロイシンというアミノ酸)から体のエネルギーを作る働きをしています。そのため、食事量が減るとこちらの経路に負担がかかり、機能が十分でない患者さんの酵素はその役割を果たせなくなり、具合が悪くなるのです。ただし、重症型のような重度の症状が出ることはあまりなく、ブドウ糖の点滴で回復することがほとんどです。
新生児スクリーニングで見つかる非常に軽いタイプのイソ吉草酸血症の患者さんも知られています。このタイプでは、検査でイソ吉草酸が少しだけ増加していますが、治療しなくても生涯症状が見られないとされています。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

生まれて間もない時期に重篤な状態に陥っている重症型の患者さんには、特別の濃厚な治療が必要です。 血液浄化療法 、ブドウ糖やカルニチンの静脈内投与が有効で、この病気の治療のために作られた特殊ミルクも使用されます。
普段の悪化予防の治療には治療用特殊ミルク、カルニチン、あるいはグリシンなどが使われますが、食事が取れなくて症状が悪化した時にはブドウ糖の点滴で改善をはかります。特殊ミルクを飲む以外にも、高タンパクの食品を多く取らないようにする必要があります。
日本先天代謝異常学会 新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2019
http://jsimd.net/pdf/newborn-mass-screening-disease-practice-guideline2019.pdf)を参照してください。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

生後間もなく症状がでた重症型の患者さんでは、重度から軽度の脳障害により発達の障害が現れることがあります。治療により脳障害を免れた場合は、その後、慢性間歇型の経過をとることになります。即ち、適切な治療を続ければ、嘔吐などを伴う発作を繰りかえすことがあっても、発達に問題は生じないとされています。ただ、食事を含めた生活の乱れにより病状が悪化することがあるので注意が必要です。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

日頃から食事内容に注意し、病院で説明された治療を継続することが大切です。風邪などで食事が取れない時にはためらわず病院でブドウ糖点滴を受ける必要があります。ある種の抗生剤を服用するとカルニチンが欠乏して急に病状が悪化することがあります。定期的に病院で血液検査などを受ける必要があります。手術を受ける時は病名を申告し、適切な配慮を受ける必要があります。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

該当する病名はありません。

11. この病気に関する資料・関連リンク

日本先天代謝異常学会 新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2019
https://jsimd.net/pdf/newborn-mass-screening-disease-practice-guideline2019.pdf

 

情報提供者
研究班名 新生児スクリーニング対象疾患等の先天代謝異常症の成人期にいたる診療体制構築と提供に関する研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和5年1月(名簿更新:令和6年6月)