レノックス・ガストー症候群(指定難病144)

れのっくすがすとーしょうこうぐん
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1.「レノックス・ガストー症候群」とは、どのような病気ですか

レノックス・ガストー症候群は、アメリカとフランスのてんかん学の大家、William G Lennox(レノックス)とHenri JP Gastaut(ガストー)により、特徴がまとめられ報告されたてんかん症候群です。幼児期から小児期に発症し、何種類ものてんかん発作がみられ、脳波検査ではこの疾患に特徴的ないくつかの所見を認めます。発作は難治に経過することが多く、知的障がいがほぼ全員にみられます。

2.この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

正確な人数はわかっていません。理由は、どのような患者さんをレノックス・ガストー症候群と診断するのかということが、研究によって違っていたためです。しかし、小児のてんかんの患者さんのうち、0.6~4%程度と言われています。てんかんの患者さんは、一般人口の0.5~1%程度と言われますので、レノックス・ガストー症候群の患者さんは、10万人あたり20-30人程度はいるだろうと考えられます。

3.この病気はどのような人に多いのですか

レノックス・ガストー症候群は、はっきりとした原因がわかる場合とわからない場合があります。生まれつき脳の形に異常がある脳形成障害と呼ばれる病気や水頭症、生まれる前後や乳幼児期に脳に酸素・血流がいかずに脳に障害が残った状態(低酸素性 虚血 性脳症)、交通事故や転落などで頭に大きなけがをして脳に損傷が生じた状態(外傷性脳損傷)、あるいは脳腫瘍などを原因として、レノックス・ガストー症候群となることがあります。しかし、こうしたはっきりした原因がなくてもレノックス・ガストー症候群になる人もいて、診察や検査をしても原因がわからないことも少なくありません。
さて近年、技術の革新によりヒトの設計図である「遺伝子」を、一度にたくさん調べる研究が行われるようになってきています。このような研究の成果として、レノックス・ガストー症候群の患者さんで、脳形成障害を認めた人に、DCXGPR56といった遺伝子の変化が報告されました。また、TSC1遺伝子、TSC2遺伝子の変化による結節性硬化症やMECP2遺伝子の変化によるレット症候群やMECP2重複症候群といった神経や発達の病気でも、レノックス・ガストー症候群になる患者さんがいます。そして、そうした特別の病気ではないレノックス・ガストー症候群の患者さんで、GABRB3ALG13SCN8ASTXBP1DNM1FOXG1CHD2といった遺伝子の変化が見つかる人も報告されました。ヒトの遺伝子は、細胞の中で染色体と呼ばれる塊になって存在しています。レノックス・ガストー症候群の患者さんの中には、染色体の細かな欠失や重複を持つ人がいることもわかってきており、CGHアレイという検査でわかる人もいます。
乳児期に発症する別の難治性てんかんであるウエスト症候群の患者さんが、レノックス・ガストー症候群になることは有名ですが、ウエスト症候群の患者さんのうち、30~60%が後にレノックス・ガストー症候群に変化し、逆に、レノックス・ガストー症候群の患者さんのうち、20~60%はウエスト症候群から変化した患者さんと言われています。

4.この病気の原因はわかっているのですか

3.で紹介したように、背景となる病態・疾患は様々です。それなのに、なぜ、ほぼ同じような発作や脳波を生じるのかは、研究途上です。最近、脳波変化と脳血流変化を同時に計測する研究で、レノックス・ガストー症候群の患者さんでは、皮質・視床・脳幹といった広い脳の範囲を結ぶ経路に異常が生じており、神経のネットワークの異常により生じるてんかんであるとして、二次性ネットワークてんかんという概念が生まれています。それが、こうした同一の症状の原因となっていると考えられています。

5.この病気は遺伝するのですか

家族例の報告は、かなり稀です。一部の遺伝性の神経疾患で、てんかんとしてレノックス・ガストー症候群を発症することがあります。こうした疾患の患者さんでは、家族内にレノックス・ガストー症候群の患者さんが複数いる可能性はありえます。

6.この病気ではどのような症状が起きますか

症状としては、強直発作や非定型欠神発作などの多彩なてんかん発作、知的障がいがおきます。
診断する上で、最も重要なてんかん発作は、睡眠中に起こることが多い全般強直発作、その次に重要な発作は、覚醒時に起こる非定型欠神発作と脱力発作です。強直発作は、単に身体を強直させる発作なら何でも良いということではなく、決まった症状と脳波の特徴がある発作で、ほぼ左右対称に体の緊張が高くなる発作です。ごく軽いものでは、睡眠中に目が開いて眼球が上転したり、口を開いたりするだけ、あるいは少し頭を起こすだけにとどまります。発作が強くなるにしたがって、両腕が上がったり、うなり声が出たり、さらに強い発作では体全体を反り返らせたりと言ったことが起こります。非定型欠神発作は、始まりと終わりが不明瞭な、ややボーッとする発作です。知的障がいのある患者さんが多いので、発作の始まりと終わりは、よりわかりにくいものとなります。脱力発作は、身体を支えている筋肉の緊張が突然、前触れなく失われるもので、座ったり立ったりしていると突然倒れます。倒れるときは一瞬で、手で支えたり手をついたりできないので、頭や顔にけがをしたり、歯を折ってしまったりする危険な発作です。他の発作では、ミオクロニー発作、非けいれん性てんかん重積、てんかん性スパスムなどがあります。ミオクロニー発作は筋肉の電撃的な収縮により体が一瞬びくっとする発作です。非けいれん性てんかん重積は、少しボーッとしながらも、なんとなく日常生活を過ごせるようなものから、反応性が乏しくなって食事もとれなくなるようなものまで、様々な程度のものが出現し、持続時間も数分から数カ月続くものまで、様々です。てんかん性スパスムは、ウエスト症候群で認める発作で、典型的なものは、両上肢をキュッと万歳するように持ち上げながら、頭を前方にカクンと前屈する発作を、何度も繰り返す発作になります。
知的障がいはほぼ全例に認めます。知的障がいが重度の場合には、発語もなく、コミュニケーションを取ることができないこともあります。また、軽症であっても、成人してから自立しての生活は困難なことが少なくありません。

7.この病気にはどのような治療法がありますか

この病気ではいくつもの種類の発作があり、どれも抗てんかん薬が効きにくいため、何種類かの抗てんかん薬を多めに使う必要があることが多いです。よく使われるのは、バルプロ酸やクロバザム、ラモトリギンです。脱力発作にはラモトリギンやトピラマート、強直発作にはルフィナミド、非定型欠神発作にはエトサクシミドなどが有効なことがありますが、必ず有効と言うことはありません。また、有効とされている薬でも、実際には無効だったり副作用が生じたりする可能性があります。薬のために発作が悪化すること、覚醒度や認知が悪化することもあります。複数の種類の薬を併用することが多いので、薬同士の相互作用で血中濃度が不安定になることもあります。薬を調整したら、眠気や認知に悪影響が出ていないか、効果がきちんとあるかを、その都度確認し、投薬が多くなりすぎないことにも注意します。
特殊な治療として、てんかん外科手術やケトン食療法があります。てんかん外科手術では、脳梁離断術や迷走神経刺激術が脱力発作に有効なことがあります。
発作の起こり方は、1-2か月に数回、発作が増加して不調な時期もありますが、そのまま様子を見ていると、特に治療を変えなくてもまた元に戻るというパターンとなる人も多いです。こうした場合、発作が起きたら即座に薬を変える対応をしていると、薬を変えたから改善したのか、変えなくても良くなっていたのかがわかりません。少し長い目で発作の状態を評価して、薬を変更せずに1-2か月、時に数か月というスパンで、発作回数や普段の状態を評価して、薬の効果を判定した方が良くなります。また、体調や疲労、天候の影響を受けたり、女性の場合には生理の時などに、発作や状態が悪化したり改善したりすることもあります。薬を増やせば良くなるというものでもないので、発作や体調が変動しても、それに振り回されすぎないことも大事です。
知的障がいを改善する治療は、残念ながらありません。てんかん発作を完全に止めることは難しいので、抗てんかん薬を使いすぎることなく、必要な薬はきちんと使って、体調や発作の変動の幅が少なくなり、安定した生活を送れることを目指して治療することが現実的な目標になります。そして、知的障害による社会面・生活面での課題については、主に福祉的な枠組みで対応することになります。

8.この病気はどういう経過をたどるのですか

てんかん発作はなかなか止まらないことが多く、成人になってもてんかん発作が残ることがほとんどです。レノックス・ガストー症候群の特徴が消えて、他のてんかん症候群に変化することも多いですが、それでも難治です。ただ、発作の回数は小児期に比べると減ります。知的障がいが80-90%以上、重度知的障がいは40-60%の患者さんでみられます。

9.この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

一般的に知られているてんかんの方に推奨されていることと、大きく変わることはありません。規則正しい生活を守ること、決められた薬をきちんと飲むこと、睡眠不足に気をつけることです。転倒する発作がある場合には、ヘッドギアを装着して頭部を保護することも有用です。ただ、顔面の受傷については防御しきれないこともあり、また、知的障がいや感覚過敏のために保護具を装着できない人もいます。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

発達性てんかん性脳症
症候性全般てんかん(旧分類)
潜因性全般てんかん(旧分類)

11.この病気に関する資料・関連リンク

日本てんかん学会ホームページ
http://square.umin.ac.jp/jes/
日本てんかん学会専門医一覧
http://square.umin.ac.jp/jes/senmon/senmon-list.html
日本小児神経学会ホームページ
https://www.childneuro.jp/
日本小児神経学会小児神経専門医名簿
https://www.childneuro.jp/modules/about/index.php?content_id=10

情報提供者
研究班名 稀少てんかんの診療指針と包括医療の研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和5年11月(名簿更新:令和6年6月)