メビウス症候群(指定難病133)

めびうすしょうこうぐん
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1.メビウス症候群とはどのような病気ですか

メビウス症候群は 先天性 の病気で,病状は進行しません。報告したドイツの神経科医の名前です。
脳神経は12本あります。6番目の外転神経(眼球を外に動かす神経)と7番目の顔面神経(顔の筋肉を動かす神経)に生まれつき麻痺を認めるときメビウス症候群と言います。
新生児期は顔面神経麻痺や外転神経麻痺に気付かれないこともあります。「泣いたり笑ったりしているのに表情が変わらない」,「まばたきをしない」,「ものを追うときに眼が外に向かない」といった症状があります。
他の脳神経症状を伴うこともあります。脳幹は食べたり,呼吸をしたりする機能を調節しています。メビウス症候群は哺乳障害や呼吸障害を合併することがあり,新生児集中治療室に入院することもあります。
症状に差があることがメビウス症候群の特徴でもあります。日常生活に支障のない方から医療的ケアが必要な方までいます。

2.この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

オランダの報告では50,000出生に1人とされています。日本ではメビウス症候群の正確な 疫学調査 はありませんが,神奈川県立こども医療センター受診症例数と神奈川県先天異常モニタリング調査から,10万人に1人ぐらいと推定できます。しかしながら,軽症の方は小児専門病院に紹介されない可能性も考えるとオランダの数値は妥当かもしれません。

3.この病気の原因はわかっているのですか

原因は不明ですが,仮説は2つあります。1つは胎生早期(妊娠10週前後)の 虚血 説,もう1つは小脳・脳幹の発達異常説です。病理検査でも脳幹に虚血病変を認めたとする報告があります。頭部CT検査で脳幹部に対称的な点状の石灰化病変を2割ぐらいの患者さんで認めます。この画像所見はメビウス症候群に特徴的です。メビウス症候群の虚血説は現時点でも支持されています。最近,海外で2つ原因遺伝子が明らかにされましたが,日本人の患者さんでは,その遺伝子の変異は報告されていません。

4.この病気は遺伝するのですか

メビウス症候群の報告のほとんどが孤発例です。きょうだい例の報告も稀にあるようですが,全国調査ではきょうだい例や親子例はありませんでした。ごく一部は遺伝子変異の可能性があります。他の病気の可能性もあるため遺伝子を調べることは有用と考えられます(遺伝子解析は研究として行われることがあります)。

5.この病気ではどのような症状がおきますか

先天性の顔面神経麻痺と外転神経麻痺が共通した症状です。顔面神経麻痺は,表情に乏しい,まばたきがない,笑っているのに表情が変わらない等で気づかれます。顔面神経は「涙を流す」役割もあるため泣いても涙が出にくいことがあります。一方,「食事中に涙が出る」ことがあります。これは顎を動かす神経と涙腺が誤ってつながってしまったためです。外転神経麻痺は目が外向きに動かないことで気づかれます。
哺乳や 嚥下 に問題が生じることもあります。開口制限(口が大きく開けられない),舌の動きが悪いことが原因です。下顎神経や舌神経の麻痺によります。
呼吸の問題を伴うこともあります。吸気性の 喘鳴 は喉頭軟化症の可能性があります。泣いたときに喘鳴が強くなる場合は,声帯開大不全(反回神経麻痺)が疑われます。稀に過換気や浅い多呼吸を認めることがあります。呼吸が速いのに二酸化炭素が蓄積したりします。不完全な換気により逆に二酸化炭素を排気できない状態であり,人工呼吸器が必要となります。
ドライアイや角膜の 炎症 を伴うことも多いです。これは涙の分泌量やまばたきが少ないことが原因です。
胃食道逆流症を伴うことが稀にあります。嘔吐,コーヒー残渣様嘔吐,鉄欠乏性貧血,喘息様症状,体重増加不良で気づかれます。

6.この病気にはどのような治療法がありますか

【呼吸障害】新生児期より呼吸障害がある場合,新生児集中治療室に入院して集中治療を受けます。呼吸障害が改善しない場合, 在宅酸素療法 ,気管切開,在宅人工呼吸管理を必要とすることがあります。
【哺乳・ 嚥下障害 】哺乳障害や嚥下障害に対して経管栄養を行います。長期に必要となる場合, 胃瘻 をつくることもあります。摂食訓練により徐々に経口摂取が可能となることもあります。
【眼科】斜視の治療が必要となることがあります。ドライアイに対して点眼薬を使用します。
【耳鼻咽喉科】滲出性中耳炎に対して治療が必要になることがあります。喉頭軟化症の評価を行うために内視鏡で観察することもあります。気管切開を行った場合は定期的な検査が必要です。
【整形外科】内反足を合併する場合,ギブス固定や手術を行います。ポーランド奇形(手の低形成・大胸筋低形成)に対して整形外科や形成外科で手術をすることがあります。
【リハビリテーション】低緊張,外反扁平足,運動発達遅滞等に対して装具の作成やリハビリテーションを行います。
【急性疾患】乳幼児期は気道感染で入院することがあります。
【予防接種】通常通り行うことができます。

7.この病気はどういう経過をたどるのですか

【発育】低身長や体重増加不良を認めることがあります。栄養の評価や摂食訓練等を行います。
【発達】発達の遅れを認めることが多いので,乳幼児期は定期的な発達の評価を行い,3歳で知能検査を行います。発達レベルや知能検査の結果に基づき就学に向けての準備を行います。知能が正常な場合,普通級で教育を受けますが,摂食の問題等があれば給食の食形態等に工夫をします。
【医療的ケアからの離脱】新生児期や乳幼児期に医療的ケア(経管栄養,気管切開,人工呼吸管理等)を必要とするお子さんでも,成長に従って,医療的ケアからの離脱ができることがあります。

8.この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

適切な医療的ケアを行えば,日常生活は普通にできます。

9.次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

該当する病名はありません。

10.この病気に関する資料・リンク

メビウス症候群の全国調査に基づく診断基準と健康管理指針作成班ホームぺージ
https://w.kawasaki-m.ac.jp/dept/ms/index.html

 

情報提供者
研究班名 患者との双方向的協調に基づく先天異常症候群の自然歴の収集とrecontact可能なシステムの構築班
研究班名簿 
情報更新日 令和6年2月(名簿更新:令和6年6月)