表皮水疱症(指定難病36)

ひょうひすいほうしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1.表皮水疱症とは?

皮膚は、外側から内側に向かって表皮と真皮の2層からなりたっています。表皮はお城の石垣のように重なる表皮細胞から成り立ち、その一番外側で皮膚の角層(角質)を作って私たちの体のバリアーを形成しています。一方真皮はI型コラーゲン線維を主成分とする組織で、水分を豊富に含み、皮膚に弾力と、引っ張る力(張力)に抵抗する強さを与えています。真皮の下には皮下組織があり、これは主に皮下脂肪からなるエネルギー貯蔵庫です。
私たちの皮膚は、体の一番外側にあるため、常に外界からの刺激や力が加わる宿命にあります。日常生活で皮膚に加わる力に抵抗し、皮膚が壊れることなく私たちの内部(内臓)を守るために、私たちの皮膚では表皮細胞同士、あるいは表皮と真皮がしっかりと接着しています。表皮細胞同士、あるいは表皮と真皮の接着に必要なノリの役目を担っている物質(タンパク質)のことを、接着構造分子と呼んでいます。
たくさんの細胞で出来ている表皮がゼラチン状の柔らかな真皮にしっかりと固定されるために、表皮の一番下にある表皮基底細胞は自分の下に基底膜と呼ばれるシートを作って自分をその上に固定しています。即ち、表皮基底細胞と基底膜が連結し、基底膜が真皮と連結することで、皮膚は剥がれずに私たちの体を守っています。
表皮水疱症は、表皮~基底膜~真皮の接着を担っている接着構造分子が生まれつき少ないか消失しているため、日常生活で皮膚に加わる力に耐えることができずに表皮が真皮から剥がれて水ぶくれ(水疱)や皮膚潰瘍を生じてしまう病気です。そのうち、表皮が千切れて水疱ができる病型を単純型表皮水疱症、表皮と基底膜の間で剥がれて水疱ができる病型を接合部型表皮水疱症、基底膜と真皮の間で剥がれる病型を栄養障害型表皮水疱症と呼びます(図1)。尚、最近これらの三大病型に加えて、いずれの部位でも水疱を形成することがあるキンドラー症候群が新たに表皮水疱症に認定されています。
図は表皮水疱症の三大病型を示している

2.この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?

世界的に10~20万人の人口にひとりの割合で患者さんがおられます。人口が約1億人の日本国内には、約500~1000人の患者さんがおられると予想されます。

3.この病気はどのような人におおいのですか?

特定の人や地域に偏って生じる病気ではありません。

4.この病気の原因はわかっているのですか?

この病気は、表皮、基底膜、真皮が互いに剥がれないようにつなぎとめている接着構造分子が生まれつき少ないか、消失していることが原因であることを既に述べましたが、表皮基底細胞~基底膜~真皮の連結を維持する接着構造分子を詳しく説明します。表皮基底細胞の骨組み( 細胞骨格 )はケラチン5とケラチン14の二つのケラチン線維で作られています。このケラチン線維が表皮基底細胞の底面のヘミデスモゾームという構造上にプレクチンで固定されており、さらにプレクチンは表皮基底細胞膜の内側でα6β4インテグリン(α6インテグリンとβ4インテグリンの二つのインテグリンから成り立っています)および17型コラーゲン(BP180とも呼ばれています)と連結しています。α6β4インテグリンおよび17型コラーゲンは基底細胞の底面で細胞膜を貫通して細胞外でアンカリングフィラメントと呼ばれる線維を形成して基底膜まで手を伸ばし、基底膜成分であるラミニン332(ラミニンα3鎖、ラミニンβ3鎖、ラミニンγ2鎖の三つのラミニンから構成されています)と連結しています。そして、基底膜内でラミニン332は、7型コラーゲンと連結し、7型コラーゲンは真皮内でアンカリングフィブリルという線維を形成し、1型コラーゲンを縫うようにして基底膜と真皮をつなげています(図2)。
それ故、細胞内のケラチン5、ケラチン14、あるいはプレクチンに異常が生じると表皮細胞骨格の機能が破綻して表皮基底細胞が千切れるように水疱が生じる単純型表皮水疱症を発症します。細胞膜上のα6およびβ4インテグリン、17型コラーゲン、基底膜上のラミニンα3鎖、β3鎖、γ2鎖のいずれかに異常が生じると表皮と基底膜の接着機能が破綻して表皮と基底膜の間で水疱ができる接合部型表皮水疱症を発症します。真皮内の7型コラーゲンに異常が生じると基底膜と真皮の接着機能が破綻して基底膜と真皮の間で水疱ができる栄養障害型表皮水疱症になります(図2)。尚、最近新たに表皮水疱症に認定されたキンドラー症候群は、表皮細胞の基底膜への接着に関わるキンドリン1の遺伝子変異により発症しますが、表皮内、表皮・基底膜間、真皮内のいずれでも水疱を生じることから、単純型、接合部型、栄養障害型とは区別しています。
それでは、なぜこれら接着分子の変異が生じるのでしょうか?私たちの体は、父親と母親から精子と卵子を介して受け継いだ遺伝子という命の設計図によって作られています。遺伝子とはタンパク質を作るための設計図(暗号)で、私たちの体を構成する数十兆個のすべての細胞の核の中に詰め込まれているDNA(デオキシリボ核酸)という物質からできています。DNAにはアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4種類の塩基と呼ばれる化学構造が並んでおり、核の中では二本のDNAが30億個並んだA、T、G、Cで互いにつながっています(AとT、CとGがその表面の+と-の電気的引力で互いに引き合います)。そして、DNAのところどころに異なる蛋白を暗号している遺伝子があり(DNA上に約2万5千個の遺伝子が並んでおり、遺伝性全体でDNAの約10%の領域を占めています)、それぞれの遺伝子に書かれてある暗号(A、G、C、Tが並ぶ順番で、塩基配列といいます)に従って、どの種類のアミノ酸がどんな順番でつながってどんなタンパクが作られるかが決まります。たとえばA、T、Gの順番で塩基が並んでいれば、それはメチオニンというアミノ酸の暗号で、そのあとにG、G、Cと塩基が並んでいれば、メチオニンにグリシンというアミノ酸がつながります。もしT、G、Aと塩基が並んでいれば、それはアミノ酸の連結は終わりという暗号です。そして、17型コラーゲン遺伝子から17型コラーゲンタンパクがつくられ、7型コラーゲン遺伝子から7型コラーゲンタンパクがつくられるのです。私たちヒトのDNA上には、全部で約2万5千種類の遺伝子が並んでいますから、私たちの体を作っているタンパク質は約2万5千種類あることになります。これらの遺伝子の中に、ケラチン遺伝子、プレクチン遺伝子、BP230遺伝子、α6インテグリン遺伝子、β4インテグリン遺伝子、17型コラーゲン遺伝子、ラミニンα3遺伝子、ラミニンβ3遺伝子、ラミニンγ2遺伝子、7型コラーゲン遺伝子があり、そのどれか一つの遺伝子で塩基配列に変異が生じることで、表皮の細胞骨格機能、表皮と基底膜の接着機能、基底膜と真皮の接着機能が破綻することが、表皮水疱症の原因です。
拡大版はこちら。図は皮膚基底膜領域の接着構造分子と表皮水疱症の病型を示している  

5.この病気は遺伝するのですか?

私たちの遺伝子暗号が書かれたDNAは、父親の精子と母親の卵子から子供に伝わっています。このように、遺伝子が親から子供に伝えられることを「親から子に遺伝する」と言います。もし遺伝したDNAの中に、塩基配列の変異を持った遺伝子が含まれていた場合、その変異遺伝子によって子供に病気が生じることがあり、この病気を遺伝病と呼びます。基本的には、各遺伝子は精子と卵子によって父と母それぞれから一つずつ、合計二つ子供に伝わります。父および母由来の二つの遺伝子のうち、片方の遺伝子に変異があればもう片方の遺伝子が正常でも病気になる場合、その病気を顕性遺伝(優性遺伝)病と呼びます。顕性遺伝(優性遺伝)病を持つ父または母から子供に病気が遺伝する確率は、二つの遺伝子のうち片方の変異遺伝子が受精した精子または卵子に含まれている確率なので、50%です。また、片方の遺伝子の変異だけでは病気にならず、父由来および母由来の両方の遺伝子変異で初めて病気になる場合、その病気を潜性遺伝(劣性遺伝)病と呼びます。潜性遺伝(劣性遺伝)病の子供の両親は二つの遺伝子のうち片方が正常の場合が殆どで、その場合両親は病気ではないけれど、変異遺伝子の キャリア ーとなります。両親がキャリアーの場合、子供が潜性遺伝(劣性遺伝)病になる確率は、受精卵を作った精子と卵子の両方に変異遺伝子が含まれる確率なので、50%×50%=25%となります。また、潜性遺伝(劣性遺伝)病の患者さんが将来子供を作った場合、結婚した相手がキャリアーでなければ、生まれてくる子供の二つの遺伝子のうち一つは必ず正常なので、子供は病気にはなりません(キャリアーになります)。
顕性遺伝(優性遺伝)病と潜性遺伝(劣性遺伝)病のどちらになるかは遺伝子の種類によって決まります。表皮水疱症の場合、ケラチン5遺伝子、ケラチン14遺伝子の変異による単純型表皮水疱症は顕性遺伝(優性遺伝)病、プレクチン遺伝子変異による単純型表皮水疱症は潜性遺伝(劣性遺伝)病、接合部型表皮水疱症は全て潜性遺伝(劣性遺伝)病となります。7型コラーゲンの遺伝子変異による栄養障害型表皮水疱症は、その塩基配列変異の種類によって潜性遺伝(劣性遺伝)病になる場合と顕性遺伝(優性遺伝)病になる場合があります。尚、潜性遺伝(劣性遺伝)病のキャリアーは数百人に1人と推定されるため、キャリアー同士が偶然結婚する確率はおおよそ10~20万人に1人程度と推定されます。
それでは、なぜ遺伝子に変異が生じるのでしょうか。生命は、精子と卵子がくっついて出来る1個の細胞(受精卵)から始まります。その後、細胞は分裂を始め、1個から2個、2個から4個、4個から8個、8個から16個と、細胞が分裂するたびに2倍に増えていきます。細胞分裂の際には命の設計図であるDNAも2倍に増えて(DNAの複製といいます)、複製されたDNAは分裂により新たに出来た細胞の核の中にしまわれなくてはなりません。しかし、受精卵が数十兆個の細胞にまで分裂を繰り返す間に、DNA複製のミスが生じ、偶然どれかの遺伝子で塩基配列に変異が生じる可能性があります。そして、父親の体の中で精子が、母親の体の中で卵子が作られるときに、もしも精子や卵子のどれかでDNAに表皮水疱症の原因となる遺伝子の塩基配列変異が含まれていると、その遺伝子変異を持つ精子あるいは卵子によって作られた受精卵は異常な塩基配列を持つことになり、結果としてその受精卵から生まれてくる子供の細胞は表皮水疱症あるいはそのキャリアーとなる遺伝子変異を持つことになるのです。

6.この病気ではどのような症状がおきますか?

表皮水疱症は単純型、接合部型、栄養障害型のどの病型でも、生まれた直後、あるいは生まれて間もなく、皮膚に水疱や潰瘍が生じます。症状の程度は遺伝子塩基配列変異の種類によってある程度決定されますが、生活環境、生活習慣、栄養状態、治療状況によっても左右されます。大きな潰瘍が多発すると、皮膚の感染や 炎症反応 を繰り返し、皮膚から浸出液と共にタンパク質が喪失し、低栄養、鉄欠乏性貧血を合併します。
また、成長と共に、それぞれの病型で特徴的な合併症が生じます。以下に、各病型の割合と特徴的な合併症を記します。
1)単純型表皮水疱症:表皮水疱症全体の約4割を占めます
ケラチン5あるいはケラチン14の遺伝子変異による顕性(優性)単純型は、軽症の場合は経過と共に症状が軽快することが多いのですが、重症の場合は掌や足の裏の皮膚の角質が厚く固くなり、場合によっては歩行困難となることもあります。単純型表皮水疱症の殆どがケラチン5あるいはケラチン14の遺伝子変異です。
プレクチン遺伝子変異による潜性(劣性)単純型では、経過と共に筋力が低下して筋ジストロフィー症状を合併しますが、国内ではまだ数例の報告しかありません。
2)接合部型表皮水疱症:表皮水疱症全体の約1割です。
ラミニンα3鎖、β3鎖、γ2鎖の遺伝子変異は極めて重症となり、全身の感染症で1歳を待たずに死亡することが殆どです。
α6インテグリンまたはβ4インテグリンの遺伝子変異では胃と小腸の結合部位(幽門)の閉鎖を合併し、手術を受けなければ食事摂取が出来ません。
17型コラーゲン遺伝子変異では、経過と共に歯のエナメル質形成異常、頭頂部の脱毛、皮膚の色素脱失が生じますが、命に係わる重症な合併症は生じません。
3)栄養障害型表皮水疱症:表皮水疱症全体の約5割と最も多い病型です。
殆どの場合、生直後から爪の変形や脱落を認めます。また、潰瘍部の真皮で 線維化亢進 して固くなる、いわゆる瘢痕形成と、その表面に大きさ1㎜程度の白い稗粒腫が生じることが特徴です。顕性遺伝(優性遺伝)型に比べて潜性遺伝(劣性遺伝)型の症状が強く、顕性遺伝(優性遺伝)型は経過と共に症状が軽くなることが多い一方、潜性遺伝(劣性遺伝)型では手指の癒着、開口障害、眼瞼癒着など、瘢痕に伴う皮膚・粘膜症状が進行する場合があります。重症な場合は成人以降に瘢痕癌を合併する場合があり、また食道粘膜剥離による食道瘢痕 狭窄 、慢性炎症に伴う糸球体腎炎、心筋症など内臓の合併症にも注意が必要です。

7.この病気にはどのような治療法がありますか?

今のところ、表皮水疱症を根本的に治す治療はありません。水疱は注射針や清潔なハサミを用いて水疱の一部に穴をあけて水疱内容液を排出し、ガーゼ保護します。潰瘍面は、軟膏外用と創傷被覆材で保湿を維持し、感染が生じた場合は抗菌作用のある外用剤外用と抗生剤内服で治療します。それぞれの合併症に対しては、皮膚科、内科、外科、小児科、眼科、歯科等と連携して早めの治療開始が必要です。特に重症潜性(劣性)栄養障害型で成人後に生じる可能性がある有棘細胞癌については、早期の切除が大切です。
2019年から自家培養表皮細胞シートによる治療が保険適応となりました。患者さんの皮膚を2平方センチほど採取し、細胞を増やしてシート状にして移植することで、再発性、難治性の潰瘍を上皮化させることを目的とした治療です。
現在、この他にも表皮水疱症に対する治療法開発研究が進められています。今後数年以内にその安全性や有効性の情報が得られますので、その際にはこのホームページの情報を更新します。

8.この病気はどういう経過をたどるのですか?

顕性(優性)単純型、顕性(優性)栄養障害型は経過と共に症状が軽くなる場合がありますが、その他の病型では症状は変わらないか、重症例では経過と共に合併症が生じることが少なくありません。特にラミニン遺伝子変異による重症接合部型は生後1年以内に死亡することが多く、今のところ対症療法以外に治療の手立てはありません。また7型コラーゲン遺伝子変異による重症潜性(劣性)栄養障害型は手指の瘢痕癒着が進行し、また成人後に瘢痕癌を合併することが多いため、定期の診察が大変重要です。

9.この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか?

皮膚や粘膜が擦れることにより水疱や潰瘍が生じますので、皮膚や粘膜の保護が重要です。肘、膝、手、足、肩、臀部など、擦れて摩擦が生じやすい部位は、可能な限りガーゼや包帯で保護することで、水疱形成を予防します。水疱ができた場合は早めの処置(水疱内容液の除去)が潰瘍形成や潰瘍拡大を予防します。また、栄養管理が重要で、潰瘍面から水分やタンパク質などが漏出して栄養状態が悪化し、また慢性の炎症により鉄欠乏性貧血を合併する場合がありますので、医師と良く相談して栄養状態を定期的にチェックし、必要に応じて経口栄養剤を食事に追加すると共に、十分な水分摂取を心がけると良いでしょう。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

該当する病名はありません。

11. この病気に関する資料・関連リンク

稀少難治性皮膚疾患に関する調査研究班ホームページにて閲覧可能です。
https://kinan.info/
一般・患者さん向けパンフレット(2014年版)
https://kinan.info/Documents/hyohisuihosho_qa2014.pdf

 

情報提供者
研究班名 稀少難治性皮膚疾患に関する調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和5年11月(名簿更新:令和6年6月)