大理石骨病(指定難病326)
○ 概要
1.概要
大理石骨病は、破骨細胞の機能不全による骨吸収障害により、びまん性の骨硬化を呈する症候群である。破骨細胞機能不全をもたらす原因は多相であるため、遺伝的異質性の高い疾患であり、症状も早期に発症する重症の新生児型/乳児型、中等度の中間型、軽症の遅発型まで多様である。未熟骨(一次骨梁)の成熟骨(緻密骨)への置換が障害される結果、未熟骨で覆い尽くされた骨は硬化しているにもかかわらず脆い。また、過剰な未熟骨は骨髄腔の狭小化をもたらし、骨髄機能不全(貧血、易感染性、出血傾向、肝脾腫など)を引き起こす。頭蓋底の骨肥厚による脳神経症状(難聴、視力障害、顔面神経麻痺)を呈することもある。
2.原因
破骨細胞の形成や機能に関連する複数の遺伝子異常(TCIRG1、CLCN7、OSTM1、TNFSF11 (RANKL)、TNFRSF11A (RANK)、PLEKHM1、CA2、LRP5、IKBKG (NEMO)、FERMT3 (KIND3)、RASGRP2 (CalDAG-GEF1)、SNX10)が報告されている。新生児型/乳児型及び中間型は常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)、遅発型は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)である。
3.症状
新生児型/乳児型は早期より重度の骨髄機能不全、脳神経症状、水頭症、低カルシウム血症、成長障害などを呈する。汎血球減少となるため感染や出血を生じやすく、幼児期までの死亡率は高い。中間型は小児期に発症して骨折、骨髄炎、難聴、低身長、歯牙の異常など種々の症状を呈するが、骨髄機能不全は重篤ではない。遅発型では骨髄機能不全は認められず、病的骨折、下顎の骨髄炎、顔面神経麻痺などで診断されることが多い。このタイプでは他の理由で施行されたレントゲン検査によって偶然発見されることもある。X線所見としては、頭蓋底や眼窩縁の骨硬化像、長管骨骨幹端のundermodeling(Erlenmeyerフラスコ状変形)、椎体終板の硬化像(サンドイッチ椎体、ラガージャージ椎体)などを共通とする。
4.治療法
重症の新生児/乳児型では骨髄移植、造血幹細胞移植などが試みられているが、確立されたものはない。種々の症状に応じての対症療法が中心となるが、骨折に関しては著しい骨硬化により手術による固定材の刺入が極めて困難であり、また骨癒合も遷延化するため難治性となることが多い。特に成人期以降の骨折治療は極めて難渋する。骨髄炎は遷延化することが多く、長期にわたる薬物治療を要する。進行性の難聴に対しては補聴器が必要となる。
5.予後
新生児/乳児型では重度の貧血、出血、肺炎、敗血症などにより乳幼児期に死亡するものがある。中間型の長期予後に関しては不明な点が多い。遅発型の生命予後は良い。成人期以降では骨折の遷延治癒や偽関節、骨髄炎、進行性の難聴などが日常生活における問題となり、長期にわたる治療が必要となることがある。
○ 要件の判定に必要な事項
1. 患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満
2. 発病の機構
不明(破骨細胞の機能不全が関与しており、複数の責任遺伝子が同定されている。)
3. 効果的な治療方法
未確立(骨髄移植、造血幹細胞移植、インターフェロンやプレドニンによる薬物療法などが試みられている。)
4. 長期の療養
必要(新生児/乳児型は生命維持のための治療が必要である。軽症型でも骨折、骨髄炎、視力、聴力障害の危険性が生涯にわたり潜在する。)
5. 診断基準
あり(日本整形外科学会作成)
6. 重症度分類
新生児/乳児型では生命維持が問題となる。中間型及び遅発型では骨折、視力・聴力障害、骨髄炎などにより重症度が変化するためmodified Rankin Scale(mRS)を用いて3以上を対象とする。
○ 情報提供元
日本整形外科学会(小児整形外科委員会)
当該疾病担当者 名古屋大学整形外科 准教授 鬼頭浩史
日本小児科学会
当該疾病担当者 東京大学医学部附属病院リハビリテーション科 教授 芳賀信彦
<診断基準>
Definite、Probableを対象とする。
大理石骨病の診断基準
A.症状
1.病的骨折
2.肝脾腫
3.脳神経症状(視力・聴力障害、顔面神経麻痺など)
4.骨髄炎
5.歯牙形成不全
B.検査所見
1.血液・生化学的検査所見
①貧血(11.0g/dL以下)
②白血球減少(3,000/µL以下)
③血小板減少(10万/µL以下)
④低カルシウム血症(総血漿カルシウム濃度 8.0mg/dL以下)
2.画像検査所見
①びまん性骨硬化像
②頭蓋底や眼窩縁の骨硬化像
③長管骨骨幹端のErlenmeyerフラスコ状変形
④サンドイッチ椎体・ラガージャージ椎体
C.鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
濃化異骨症、骨斑紋症、流蝋骨症、骨線状症、カムラティ・エンゲルマン症候群(骨幹異形成症)、異骨性骨硬化症
D.遺伝学的検査
TCIRG1、CLCN7、OSTM1、TNFSF11 (RANKL)、TNFRSF11A (RANK)、PLEKHM1、CA2、LRP5、IKBKG (NEMO)、FERMT3 (KIND3)、RASGRP2 (CalDAG-GEF1)、SNX10いずれかの遺伝子変異を認める。
<診断のカテゴリー>
Definite:
(1)Aのうち3項目以上+Bのうち4項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの
(2)Aのうち1項目以上+Bのうち3項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外し、Dを満たすもの
Probable:Aのうち2項目以上+Bのうち3項目以上(ただし、Bの2のいずれかを含む。)を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの
<重症度分類>
modified Rankin Scale(mRS)の評価スケールを用いて、3以上を対象とする。
日本版modified Rankin Scale(mRS) 判定基準書 |
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modified Rankin Scale |
参考にすべき点 |
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0 |
全く症候がない |
自覚症状及び他覚徴候が共にない状態である |
1 |
症候はあっても明らかな障害はない: |
自覚症状及び他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である |
2 |
軽度の障害: |
発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態である |
3 |
中等度の障害: |
買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要としない状態である |
4 |
中等度から重度の障害: |
通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である |
5 |
重度の障害: |
常に誰かの介助を必要とする状態である。 |
6 |
死亡 |
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
- 厚生労働科学研究班
https://www.osteochondrodysplasia.com - 小児慢性特定疾病情報センター 大理石骨病
https://www.shouman.jp/disease/details/15_02_007/ - 調査報告書
澤村健太、鬼頭浩史、金子浩史、岩田浩志、北村暁子、服部義. 骨硬化性疾患群に対する全国調査結果. 日整会誌 94(11):1071-1073, 2020