特発性血栓症(遺伝性血栓性素因によるものに限る。)(指定難病327)

とくはつせいけっせんしょう(いでんせいけっせんせいそいんによるものにかぎる)

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

この病気はどのような検査で診断されるのでしょうか?

血液検査によって、血液中の凝固制御因子であるアンチトロンビン、プロテインC、プロテインSの活性を測定し、検査基準値の下限値よりも値が低い場合に欠乏症を疑います。最終的には活性が低下している血液凝固制御因子の遺伝子を調べて、変異が見つかった場合、この病気であると診断します。

兄弟や家族もこの病気が遺伝しているかどうかを調べた方が良いでしょうか?

この病気は、多くの場合1/2の確率で子供に遺伝します。特にアンチトロンビン欠乏症で血栓症を発症した人がいる家系では、同じ遺伝子の変異を持っている家系員も血栓症を発症しやすいと考えられているので、積極的に調べることをお勧めします。事前にこの病気であることがわかっていれば、長距離バス旅行やロングフライト(長距離飛行機旅行)、あるいは手術の際などにこまめな水分補給や下肢の屈伸運動、弾性ストッキング着用、血栓予防薬(抗凝固薬)使用など必要な対策をすることで、血栓を予防することができます。また妊娠を考えているご家族がいらっしゃる場合は、妊娠中に適切な抗凝固薬の投与により発症を予防することが可能な場合もあるため、積極的に調べることをお勧めします。

無症状の子供にこの病気が遺伝しているかどうかを検査したいのですが、いつ頃検査をしたらよいでしょうか?

アンチトロンビン、プロテインC、プロテインSは肝臓で作られる蛋白質です。産まれたばかりの子供はまだ肝臓でうまく蛋白質が作れないので、これらの血液凝固制御因子の活性値は大人の正常値の40%程度に低下しています。したがって、このような時期に血液検査を行っても、活性値から遺伝性を判断することが困難です。個人差はありますが1歳過ぎれば大人の80-100%程度にまで増加し、7歳頃になると大人と同等レベルにまで達します。ただし、遺伝子検査の場合は年齢に関係なくいつでも可能です。

ワルファリンを服用するときに注意する点は?

最も注意しなければいけないのは出血の副作用です。ワルファリンは、痛み止めや抗生物質、抗がん剤などと併用すると、薬の作用が強くなり過ぎてしまい、出血しやすくなります。お薬を処方してもらう時は、必ずワルファリンを服用していることを伝えましょう。
一方、納豆、青汁、クロレラなどのビタミンKが豊富な食品を食べると、ワルファリンの効果が弱くなってしまい血栓が再発しやすくなります。したがって、ワルファリンを服用している人は、これらの食品を食べてはいけません。

血栓予防のお薬はやめてもよいですか?

この病気は体質的に血栓ができやすい病気です。一度血栓を起こした方は、また血栓を起こす可能性が高いので、少なくとも3か月間は血栓予防薬(抗凝固薬)を内服し、それ以降は出血の副作用などとのバランスを考えながら、できれば長期間内服することをお勧めします。ただし、いつまで服用し続ければよいのかは、まだ明確には決まっていません。

遺伝性血栓性素因を持っている場合でも妊娠やお産はできますか?

遺伝性血栓性素因は不妊症の原因ではないので、妊娠は可能です。しかし、妊娠中やお産の後に様々な血栓症を発症することがあります。多くの場合は、再発性の静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症など)ですが、習慣流産(不育症)を来すこともあります。妊娠中はできるだけ安静を避け、水分補給に気を付け、日常生活の中で静脈血栓塞栓症の発症に注意することが大切ですが、予防的に抗凝固薬を使用することもあります。またもし、妊娠中に静脈血栓塞栓症を発症しても抗凝固薬で治療をすれば妊娠の継続、そしてお産は可能です。なお、習慣流産の場合でも、適切な治療により妊娠を維持することは可能です。

妊娠中やお産の後はどのような治療が行われるのですか?

妊娠中は日常生活の中で血栓症の発症に注意することが基本ですが、抗凝固療法として妊娠初期から分娩後まで低用量未分画ヘパリンの予防的皮下注射を行うことが推奨されます。アンチトロンビン欠乏症妊婦では、基本的なヘパリン投与に加え、静脈血栓塞栓症を合併している場合はアンチトロンビン活性が70%以上になるように、アンチトロンビン製剤を適宜投与します。しかし、静脈血栓塞栓症を合併していない場合の併用投与に関する見解は一致していないので、臨床症状で判断することになります。プロテインS欠乏症およびプロテインC 欠乏症妊婦もアンチトロンビン欠乏症妊婦と同様、ヘパリン投与が基本です。静脈血栓塞栓症を合併した場合は活性化プロテインC濃縮製剤も使用可能ですが、半減期が短く高価なため、臨床的にはヘパリン投与が推奨されます。なお、習慣流産の場合は、ヘパリン投与に加え低用量アスピリンを併用すると良いとされています。

用語解説

習慣流産
妊娠は成立するものの、続けて3回以上の自然流産をくりかえす場合。

補充療法
足りない成分(血液因子製剤など)を補う治療法。

下大静脈フィルター
下肢の静脈の血栓(血のかたまり)が肺の血管に移動して肺血栓塞栓症という重大な合併症を起こすのを防ぐために、下大静脈という腹部の大きな静脈に留置する円錐型もしくは箱型の金属の金網。この金網によって血栓を捕まえ、肺に移動するのを防ぐ。

半減期
薬の全体量が体の中で半分になるまでの時間。例えば、半減期が2時間の薬の場合、この薬を服用して2時間経つと、体の中の薬の量が半分に減る。


情報提供者
研究班名血液凝固異常症等に関する研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日令和5年1月(名簿更新:令和6年6月)