顕微鏡的多発血管炎(指定難病43)

けんびきょうてきたはつけっかんえん
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1.「顕微鏡的多発血管炎」とはどのような病気ですか

顕微鏡的多発血管炎は、腎臓、肺、皮膚、神経などの臓器に分布する小型血管(顕微鏡で観察できる太さの細小動・静脈や毛細血管)の血管壁に 炎症 をおこし、出血したり血栓を形成したりするために、臓器・組織に血流障害や 壊死 がおこり臓器の働きが損なわれる病気です。とくに、腎臓の糸球体と呼ばれる毛細血管および肺の 肺胞 を取り囲む毛細血管の壊死をともなう炎症が特徴的です。免疫の異常が病気の成り立ちに重要な役割を果たしていると考えられています。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

年間発症率は100万人あたり18人と報告されています。欧米に比べて我が国に多い 血管炎 です。この疾患で医療受給者証をお持ちの方は、10,626人(令和3年度)です。

3. この病気はどのような人に多いのですか

高齢者に多く発症し、難治性血管炎に関する調査研究班のデータベースでは、発症時の平均年齢は71歳でした。男性と女性で同じ程度の頻度と言われています。

4. この病気の原因はわかっているのですか

原因はいまだに不明です。しかし、好中球の細胞質に含まれる 酵素 (タンパク質)であるミエロペルオキダーゼ(MPO)に対する 自己抗体 (抗好中球細胞質抗体;ANCA)が高率に検出されることから、他の膠原病と同様に自己免疫異常が背景に存在すると考えられています。MPO-ANCAは好中球を活性化し、各種の障害因子を放出することで血管炎を引き起こすと考えられています。また、好中球が細菌などの外敵と戦うときに使用する好中球細胞外トラップ(NETs)と呼ばれる仕組みが、この病気の発症にかかわることも分かってきました。

5. この病気は遺伝するのですか

遺伝性の病気ではありませんが、病気の発症に影響する遺伝子の変異(遺伝子多型)が複数見つかっています。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

発熱、食欲不振、 全身倦怠感 、体重減少などの全身症状とともに、腎糸球体や肺胞の小型血管の障害による症状や検査異常がよくみられます。腎臓の障害により血尿、尿検査異常(尿潜血反応陽性、蛋白尿、赤血球円柱など)、腎機能低下がおこり、肺の障害により肺胞出血や間質性肺炎(胸部レントゲン検査やCT検査でみつかります)がおこり、喀血、血痰、空咳、息切れの症状がみられます。また、関節痛、筋痛、皮疹(紫斑、皮下出血、皮膚潰瘍など)、 末梢神経 症状(手足のしびれや筋力低下)などもみられます。全身症状にともない腎臓や肺の障害が短期間に進行する場合が多いのですが、ときに尿検査での血尿の持続や肺線維症などが慢性に経過し、他の症状を伴わない場合もあります。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

治療の目標は、副腎皮質ステロイド(ステロイド)や免疫抑制薬、生物学的製剤、補体阻害薬を用いて、血管の炎症を完全に消失させて( 寛解 導入治療)、その状態を維持する(寛解維持治療)ことです。寛解導入治療では、中等量から高用量のステロイドと免疫抑制薬のシクロホスファミドを併用します。シクロホスファミドの代わりに、リンパ球の表面にある特殊なたんぱく質(CD20)を標的とする抗体製剤(生物学的製剤)であるリツキシマブを併用することもあります。発症年齢が比較的高齢なため、さまざまな合併症を伴う場合も多く、身体の状態に合わせて、治療の強さを調節します。また、補体成分のC5aの働きを抑えるアバコパンを併用することもあります。重症な腎障害を合併する場合などには 血漿 交換も追加されます。診断後速やかに治療が開始されれば約3~6か月で寛解に至ることが期待できます。寛解に至った場合、ステロイドを減量し、副作用の弱い免疫抑制薬(アザチオプリン)や生物学的製剤(リツキシマブ)による寛解維持治療を少なくとも1~2年間は継続します。このほか、メトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチル(ともに 保険適用 外)を使用する例もあります。治療により感染症がおこりやすくなりますので、治療を成功させるためには感染症の予防・早期診断・早期治療が特に大切です。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

治療が行われないと生命に危険がおよぶ病気です。出来るだけ早い時期に診断し、病気の初期にしっかりと治療すれば、8割以上の患者さんの血管炎症状は治まります(寛解)。一方、治療が遅れたり、治療の反応が良くなかったりすると、寛解導入までに時間がかかり、臓器の機能障害が残ってしまうことがあります。広範な肺胞出血を起こすと、一時的に人工呼吸器を必要とする場合もあります。腎不全になった場合には 血液透析 が必要になります。末梢神経炎に伴うしびれや痛みは、しばしば残存します。また、この病気自体で亡くなられる方は少ないのですが、敗血症や肺感染症、呼吸不全など合併症が原因で亡くなられる方がいらっしゃいます。最近では、早期に診断して、早期に治療を開始できる例が増えるに従い、患者さんの予後は改善してきています。また、病気は再燃することがありますので、定期的に専門医の診察を受け、きちんとお薬を継続して下さい。この際、この病気の活動を知るめやすとして、症状、CRPなどの炎症反応、血液中のMPO-ANCAの値などの推移が参考になります。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

治療中は、感染症に対する注意が最も重要です。帰宅時には、手洗い・うがいを欠かさずに実行してください。新型コロナワクチン、インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチン、帯状疱疹ワクチンの接種も可能な限り受けましょう。規則正しい生活と食事を維持してください。ステロイドによる生活習慣病を防ぐためには、体重管理が重要です。ステロイド内服中は、定期的に緑内障・白内障を含む目のチェックを受けてください。骨密度も年に1度は測定してもらいましょう。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症(指定難病44)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(指定難病45)の3つの血管炎をあわせてANCA関連血管炎と呼びます。

11. この病気に関する資料・関連リンク

(資料)
ANCA関連血管炎診療ガイドライン2023 診断と治療社
市民公開講座「血管炎についてもっと知ろう:それぞれの病気の特徴と療養に役立つ知識」5)顕微鏡的多発動脈炎 https://www.vas-mhlw.org/html/shiminkoukaikouza.html
(関連リンク)
日本リウマチ学会 疾患の解説を提供
日本薬学会 知っておきたい薬の常識等一般向けに役立つ情報を提供
日本薬剤師会 くすりに関する最新情報や過去の緊急安全性情報、副作用情報、くすりQ&A(薬局で買った薬の有効期限 他)等を提供

 

情報提供者
研究班名 難治性血管炎の医療水準・患者QOL向上に資する研究班 
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和5年11月(名簿更新:令和6年6月)