原発性免疫不全症候群(指定難病65)
1.原発性免疫不全症候群とはどのような病気ですか
正常なヒトでは体内に細菌やウイルスなどの病原体が侵入すると、これらを排除する 防衛反応 が生じます。この仕組みが免疫系です。 原発性 免疫不全症候群は、先天的に免疫系のいずれかの部分に欠陥がある疾患の総称であり、後天的に免疫力が低下するエイズなどの後天性免疫不全症候群と区別されます。障害される 免疫担当細胞 (たとえば、好中球、T細胞、B細胞)や補体などの種類により400以上の疾患に分類されます。
原発性免疫不全症候群で問題となるのは、感染に対する抵抗力の低下です。重症感染のため 重篤 な肺炎、中耳炎、 膿瘍 、髄膜炎などを繰り返します。時に生命の危険を生じることもあり、中耳炎の反復による難聴、肺感染の反復により気管支拡張症などの後遺症を残すこともあります。
上記の易感染性のほかにも悪性腫瘍(がん)、自己免疫疾患、自己炎症性疾患、アレルギーを合併しやすいという特徴があります。
2. この病気の患者さんはどれくらいいるのですか
疾患により異なりますが、出生1万に対して毎年1人ぐらいの割合で生まれます。比較的頻度の高いX連鎖無ガンマグロブリン血症と 慢性肉芽腫症 は日本全国ではともに少なくも300人は存在すると推定されます。最も重症な重症複合免疫不全症は、アメリカ・台湾などで 新生児マススクリーニング が行われており、出生約5万人に1人の発症率であることが明らかになっており、日本では全国で1年間に20人近くが生まれていると考えられます。日本でも一部の都道府県で拡大新生児スクリーニングが始まっており、無症状で見つかる患者さんも増えてきています。
3. この病気はどのような人に多いのですか
X連鎖無ガンマグロブリン血症、X連鎖重症複合免疫不全症、X連鎖高IgM症候群、X連鎖慢性 肉芽腫 症、ウイスコット・アルドリッチ症候群など、X連鎖の遺伝形式をとる疾患は多く、これらは基本的に男児にのみ発症します。常染色体潜性(劣性)の疾患や常染色体顕性(優性)の疾患では男女ほぼ同数です。発症年齢は、抗体欠乏を主徴とするX連鎖無ガンマグロブリン血症では胎盤移行抗体のなくなる生後3か月過ぎから2歳頃に発症し、好中球やT細胞機能の異常による免疫不全症では生後早期から発症する傾向があります。
4. この病気の原因はわかっているのですか
多くは免疫系に働く蛋白の設計図となる遺伝子の変異です。代表的な原発性免疫不全症候群の原因遺伝子はほとんど解明されており、確定診断や治療に役立っています。まれな原発性免疫不全症の原因遺伝子も次々と発見されており、その数は400以上になっています。一方、乳児 一過性 低ガンマグロブリン血症や自己免疫性好中球減少症のように一時的な免疫系の未熟性によると思われる疾患もあります。
5. この病気は遺伝するのですか
基本的には遺伝性の病気ですが、家族に同様の患者のいない例も多くみられます。X連鎖の遺伝形式の疾患では、母親が 保因者 の場合、生まれてくる男児は2分の1の確率で発症します。女児は2分の1の確率で保因者となります。常染色体潜性遺伝(劣性遺伝) 形式の場合では、父母が保因者であり、子が4分の1の確率で患者になります。突然 変異 の場合、次世代へは1/2の確率で遺伝する 常染色体顕性遺伝(優性遺伝) 形式を取ります。常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式の疾患では必ずしも同様の症状をとるとは限らず、発症年齢も異なることもあります。
6. この病気ではどのような症状がおきますか
主な症状は 易感染性 です。つまり、風邪症状(咳や膿性鼻汁など)がなかなか治らなかったり、何度も発熱したりし、入院治療が必要です。重症のタイプでは感染が改善せず、致死的となることもあります。好中球や抗体産生の異常による疾患では細菌感染が多く、T細胞などの異常ではウイルス感染が多い傾向があります。また、易感染性を呈さず、 炎症 、湿疹、自己免疫症状、リンパ節腫大、悪性腫瘍(がん)、アレルギーなどを呈する疾患も多数発見されています。
7. この病気にはどのような治療法がありますか
疾患・重症度により治療法が選択されます。
細菌感染症が問題になる軽症例では、抗菌薬の予防内服はかなり効果があります。抗体欠乏を主徴とする免疫不全症では、月1回ほどの静注用ヒト 免疫グロブリン 製剤、あるいは1-2週に1回の皮下注用ヒト免疫グロブリン製剤の定期補充により感染はほぼ予防できます。
重症複合免疫不全症などの重症なタイプでは、早期に 臍帯血 や骨髄による 造血細胞 移植が選択されます。ドナーがみつからない場合、海外では、疾患によって遺伝子治療が考慮されます。
疾患によっては、免疫抑制薬やステロイドなどの治療が必要になる場合もあります。
8. この病気はどういう経過をたどるのですか
疾患や重症度によりかなり異なります。軽症例では抗菌薬の予防内服やヒト免疫グロブリンの定期補充療法などにより通常の日常生活が送ることができます。それに対し、重症複合免疫不全症では造血細胞移植を行わないと多くは2歳以上まで生存できません。また、慢性肉芽腫症などは予防内服をしていても、30歳以上になるとかなり 予後 不良となりますので、造血細胞移植が行われることもあります。原発性免疫不全症候群はまれな疾患であるため、専門の施設での診断、治療、経過観察が大切です。
9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか
感染症に罹患しないように、手洗い、うがいなどが必要です。また、風邪や感染症に罹患している人には会わないようにしてください。生肉、生魚、生卵の摂取は通常避けてください。疾患によって注意の程度が異なりますので、主治医とよく相談してください。疾患によっては、泥遊びや滅菌していない水を飲んだり、プールに入ったり、直射日光を浴びたり、CT検査を受けたりするのを避けた方がいい場合もありますので、主治医に確認して下さい。
10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。
原発性免疫不全症候群は、障害される免疫担当細胞(例えば、好中球、T細胞、B細胞)などの種類により多くの疾患があります。
原発性免疫不全症候群に含まれる病名は、「概要・診断基準(厚生労働省作成)」を参照してください。
なお、原発性免疫不全症候群が疑われる場合は、主治医をとおして診断、治療について専門家(専門施設)に相談してください。
〇専門施設 (一社)日本免疫不全・自己炎症学会ホームページ内 JSIAD連携施設
https://www.jsiad.org/pidj/
〇症例相談 (一社)日本免疫不全・自己炎症学会ホームページ内 一般医が専門医の助言を求めることができます。
https://www.jsiad.org/consultation
11. この病気に関する資料・リンク
・NPO法人PIDつばさの会:http://npo-pidtsubasa.org
・一般社団法人 日本免疫不全・自己 炎症 学会HP:https://www.jsiad.org
・一般社団法人日本補体学会:http://square.umin.ac.jp/compl/
研究班名 | 原発性免疫不全症候群の全国診療体制確立、移行医療体制構築、診療ガイドライン確立に関する研究班 研究班名簿 |
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情報更新日 | 令和5年11月(名簿更新:令和6年6月) |