混合性結合組織病(指定難病52)

こんごうせいけつごうそしきびょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 「混合性結合組織病」とはどのような病気ですか

混合性結合組織病(Mixed Connective Tissue Disease;MCTD)は、1972年にアメリカのSharpらにより、膠原病の代表的疾患である全身性エリテマトーデス(SLE)様、全身性強皮症様、多発性筋炎/皮膚筋炎様の症状が混在し、血液の検査で抗U1-RNP抗体が高力価陽性となる疾患として提唱されました。わが国では1993年に厚生労働省が特定疾患に指定したこともあり、MCTDの病名は広く受け入れられています。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

個人調査票を基準とした調査では平成20年では8600人程度でしたが、令和3年度の医療受給者証保持者数は10009人です。

3. この病気はどのような人に多いのですか

性別では圧倒的に女性に多い病気です。男女比は1:13〜16とされています。
年齢では30〜40歳代の発症が多いようですが、小児から高齢者まであらゆる年齢層に発症します。

4. この病気の原因はわかっているのですか

この病気の方の血液中に自身の身体の成分と反応する抗U1-RNP抗体という 抗核抗体自己抗体 )が検出されることから、自己免疫疾患と考えられています。しかし、他の膠原病と同様になぜこのような自己抗体ができてしまうのか分かっていません。また、抗U1-RNP抗体が自身の身体を障害している証拠は得られておらず、MCTDの病態がどのように形成されるのかなどまだまだ解明すべきことがたくさん残されています。

5. この病気は遺伝するのですか

MCTDの原因は不明ですが、その発症には遺伝的素因が関与すると考えられています。しかし、MCTDそのものが遺伝するわけではなく、「この病気になりやすい体質が引き継がれる。」程度に考えてよいと思います。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

1) レイノー現象
寒冷刺激や精神的緊張により血管が収縮して、手指が蒼白化し、その後暗紫色、紅潮を経て元の色調に戻ります。これをレイノー現象と呼びます。血管の収縮は可逆的であり、数分から数10分の経過です。末梢の血流が減ることにより生じますので冷感やしびれ感を伴うことがあります。MCTDのほぼ全例で認められ、初発症状として表れることが多いとされています。
2) 手指・手背の腫脹
手指から手背にかけて腫れぼったくなり、指輪が入りにくくなります。ソーセージ様腫脹と呼ばれます。80〜90%に見られ、MCTDに特徴的な症状で病気の経過を通して見られます。
3) SLE様症状
SLEによく似た症状として、多発関節炎(約80%)、リンパ節腫脹(約30%)、顔面紅斑(約30%)、心膜炎・胸膜炎(それぞれ10%前後)が見られます。関節炎は、時に関節リウマチと区別のつきにくい関節の変形を伴う場合があります。腎炎(蛋白尿や血尿など)は20%程度に見られますが、SLEに比べて軽症でネフローゼ症候群や腎不全に至ることは少ないとされています。
4) 全身性強皮症様症状
全身性強皮症によく似た症状として、手指に限局した皮膚硬化(約60%)、間質性肺疾患(約30%)、食道機能の低下(約25%)などが見られます。肘を越える皮膚硬化はまれです。また、食道病変も含む消化管病変全体の頻度は60〜80%に見られます。自覚症状としては食道病変があると、胸焼けや食べ物を飲み込む時のつかえ感が生じますし、腸の病変があると、便秘や下痢を起こしやすくなります。また、間質性肺疾患では痰を伴わない乾いた咳や動いた時の動悸や息切れを感じることがあります。
5) 多発性筋炎/皮膚筋炎様症状
多発性筋炎によく似た症状として、躯幹に近い腕や脚の筋力の低下(約40%)を認めることがありますが、筋肉痛を自覚することは少ないようです。階段の昇降に苦労する、しゃがんだら立ち上がれない、腕に力が入らず髪の毛をとかすこともできない、今まで持てていた物が持てないなどの症状が出てくることがあります。しかし、全く立てなくなったり、寝たきりになってしまったりするほど重症になることはまれです。
6) 肺動脈性肺高血圧症
MCTDの10%程度に合併します。生命に影響をおよぼす重篤な合併症です。疲れやすい、動いた時に動悸や息切れを感じるなどが初発症状となることが多いです。早期に発見して早期に治療することが重要ですので、MCTDと診断された場合には肺動脈性肺高血圧症の症状がなくても、定期的に心臓超音波検査を受けて下さい。
7) 無菌性髄膜炎
頭痛、嘔気が主な症状で、発熱を伴うこともあります。イブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬の使用で誘発されることがあります。イブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬の使用は避け、必要な場合はアセトアミノフェンを使用することをおすすめします。また、MCTDの病気自体が無菌性髄膜炎を引き起こすこともあります。
8) 三叉神経障害
MCTDの10%程度に見られます。他の膠原病で生じることは珍しく、MCTDに比較的特徴的な症状です。顔の下の方に出やすく片側性です。ピリピリした知覚過敏や味覚障害が見られます。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

1) 治療の基本方針
MCTDは原因が不明ですので、原因に基づく治療を行うことができません。その患者さんが有する最も重篤な病態に対して、グルココルチコイド(副腎皮質ステロイド)などの免疫抑制療法が行われます。
2) 軽症から中等症
胸膜炎や筋炎など中等症には副腎皮質ステロイド[プレドニゾロン換算(PSL)30mg/日程度]、発熱や関節炎など軽症にはPSL 20mg/日以下が用いられますが、適応や用量は慎重に判断する必要があります。免疫抑制薬としてはアザチオプリンがしばしば併用され、関節炎にはメトトレキサート(保険適応外)が有効とされます。SLEによく似た症状を伴う際には、ヒドロキシクロロキンが強く推奨されます(SLEに保険適応)。
3) 重症
出血傾向を伴う血小板減少症、ネフローゼ症候群、重症筋炎、間質性肺疾患急性増悪、中枢神経症状など重症の病態に対しては、体重1kgあたりPSL約1mg/日の副腎皮質ステロイド大量投与が行われます。しかし、このような症例は比較的稀です。重篤で速やかな効果の発現が求められる場合は、ステロイドパルス療法(原則的にはメチルプレドニゾロン125mg〜1g/日を1〜3日間連続投与)が行われることもあります。
免疫抑制薬としてはシクロホスファミドの点滴静注療法(2〜4週毎に数回繰り返します)やミコフェノール酸モフェチル(保険適応外)がしばしば併用されます。SLE、全身性強皮症、関節リウマチの基準にも合致する患者さんでは、これらの病気に使用される生物学的製剤などの治療薬を症状に応じて使用する場合もあります。
4) レイノー現象など末梢循環障害
冷やさないことが大事です。これは手足だけでなく、身体全体を冷やさないように気を付けて下さい。たばこは血管を収縮させて症状を悪化させますので禁煙が必要です。症状がひどい場合には血管拡張薬(カルシウム拮抗薬、プロスタグランジン製剤)や抗血小板薬が用いられます。
5) 肺動脈性肺高血圧症
肺血管拡張薬として、プロスタサイクリン製剤(内服、持続点滴、吸入)、エンドセリン受容体拮抗薬(内服)、PDE5阻害薬(内服)、グアニル酸シクラーゼ刺激薬(内服)など作用機序の異なる薬剤を併用することで治療成績が向上しています。
また、MCTD自体の疾患活動性を伴う場合、肺動脈性肺高血圧症が発症して間もない場合には、副腎皮質ステロイドやシクロホスファミドなどの免疫抑制療法が効果を示す場合があります。
6) 間質性肺疾患
進行性肺線維化を伴う間質性肺疾患、全身性強皮症に伴う間質性肺疾患には、抗線維化薬であるニンテダニブが使用されます。
7) 無菌性髄膜炎
非ステロイド性抗炎症薬など無菌性髄膜炎の誘発原因と疑われる薬剤が存在する場合は、薬剤の中止のみで軽快することもありますが、多くで副腎皮質ステロイドによる治療が行われます。多くは中等量の副腎皮質ステロイドに反応し、速やかな減量が可能です。
8) 三叉神経障害
副腎皮質ステロイドの有効性は低いと考えられています。特発性三叉神経痛に準じて、カルバマゼピン、フェニトイン、プレガバリンなどが用いられます。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

MCTDの経過を追うと、SLEや多発性筋炎様症状は治療で良くなりますが、レイノー現象や手指腫脹、全身性強皮症様症状は副腎皮質ステロイドが効きにくいため最後まで残ることが多いとされています。また、副腎皮質ステロイドなどの減量中に 再燃 を認めることもあります。なお、欧米では副腎皮質ステロイドについては、免疫抑制薬などを用いながら一定期間の少量維持療法の後に中止します。また、軽症では副腎皮質ステロイドを使用しないことも少なくありません。患者さんにより異なりますので、主治医によくご相談ください。
MCTDは 生命予後 が良好な疾患とされていましたが、1997年の調査で5年生存率が93.7%と生命 予後 の不良な方が存在することが明らかになりました。死因としては感染症、中でも呼吸器感染症が最も多いのですが、肺動脈性肺高血圧症は死亡リスクを4.5倍以上に高めることが分かっています。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

よくある質問に記載してありますのでご参照下さい。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

該当する病名はありません。

11. 用語解説

抗核抗体
細胞の中にある核の成分と反応する自己抗体。多くの膠原病患者さんで陽性となる。健常人でも少数ながら陽性で、年齢とともに陽性率は上昇する。しかし、値が高い時には膠原病を疑う大きな根拠となるが、低い値の時には病気と関係がないことも多い。

自己抗体
自身の身体の構成成分と反応してしまう抗体。本来、抗体は体内に侵入した外敵に対して作られ身体を守っているのですが、その調節が乱れると自己抗体が出現し、身体に不都合な反応がおこってしまう。これを自己免疫疾患と言う。

レイノー現象
手指などの血管が寒冷刺激などにより、けいれんを起こしたように縮み、血液の流れが途絶する。その結果、「血の気」が失せて指の色が真っ白になったり暗紫色になったりする。程なくして、血管のけいれん状の収縮が収まると元に戻る。

重篤
病状が著しく重いこと。

無菌性髄膜炎
細菌以外の原因でおこる髄膜炎。ウイルス性髄膜炎を念頭に用いられることが多いが、他の病原体の場合もある。また、膠原病など感染症以外の疾患で起こることもある。

間質性肺疾患
肺には肺胞という酸素と二酸化炭素を交換する部屋があり、間質性肺疾患ではこの肺胞の壁に炎症や損傷が起こり、壁が厚く硬くなり(線維化)、酸素と二酸化炭素の交換がうまくできなくなる。

肺動脈性肺高血圧症
心臓から肺に血液を送るための血管である肺動脈の圧力(血圧)が異常に上昇する状態を、肺動脈性肺高血圧症という。肺の細い血管が異常に狭くなり、また硬くなるために、血液の流れが悪くなって圧力が上昇する。その結果心臓に多大な負担がかかり、結果として全身への酸素供給がうまくいかなくなる。

難治性
治療に反応しないあるいは反応に乏しいこと。

特発性
特別な原因が見当たらないのに発病してくるもの。原因不明のもの。

再燃
慢性的な疾患で、完全ではないが一旦治まっていた病気が、再び悪化、出現してくること。再発は完全に治っていた病気が再び出現した場合に用いる。

生命予後
病気が生命に与える影響。病気になった後の寿命の予測。

 

情報提供者
研究班名 自己免疫疾患に関する調査研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和5年12月(名簿更新:令和6年6月)