サルコイドーシス(指定難病84)

さるこいどーしす
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1.サルコイドーシスとはどのような疾患なのでしょうか?

この病気は約100年以上も前に、イギリスで皮膚の病気として発見されました。その後研究が進み、この病気は、おもに類上皮細胞やリンパ球などの集合でできた「 肉芽腫 」という 結節 が、リンパ節、目、肺、心臓などの、全身のさまざまな臓器にできてくる病気であることがわかりました。「サルコイド」はラテン語で「肉のようなもの」という意味で、「サルコイドーシス(以下「サ症」という。)」とはそれが全身にできてくる疾患であることを意味しています。

2.サルコイドーシスの疫学はどのような特徴がありますか?

世界中にある病気ですが、人間しか罹らないといわれています。また、地域や人種のちがいによって、発生率や重症度にちがいがあり、たとえばヨーロッパでは南欧より北欧に多くみられ、アメリカでは黒人が白人の数倍もかかりやすく、かつ重症です。
日本では過去8回全国調査が行われました。2004年度は臨床調査個人票で調査して、人口10万人対1.7人(組織診断は1.0人)の発生率でしたが、個人票を提出していない軽症の人もいるので実際にはもっと多いと思います。性別では女性が男性の2倍自覚症状で発見されるものが多い。年齢別では、男女ともに20歳代と50歳代以降に2峰性に多く、とくに男性は若年者、女性は高齢者に多くみられます。近年、社会の高齢化に伴って、この2峰性が高齢側にシフトしていると言われています。

3.難病の公費補助について。

サ症は、 自然寛解 することが多い反面、1~2割は難治化するため、厚生労働省の特定疾患(指定難病)に指定されており、重症度Ⅲ、Ⅳの場合には、公費から医療費補助を受けることができます。ステロイドなどの全身治療を受けている場合には多くが医療費補助の対象になります。

4.どのような症状になるのでしょうか?

地域や人種で症状や重症度も異なるのがこの病気の特徴のひとつです。従来、日本の患者さんは、あまり自覚症状がなくて、健康診断のときにたまたま胸部X線検査で偶然に発見されることが多かったのですが、最近は、病気の発生する部位によって、いろいろな自覚症状で見つかることが多くなっています。
大きく分けると、侵された臓器ごとの「 臓器特異的 症状」と、侵された臓器とは無関係におこるいわゆる「 非特異的 全身症状」があります。侵される部位で多いのは、リンパ節と肺と眼と皮膚で、それ以外に、心臓、神経・筋肉、骨、関節などがあります。はじめに「臓器 特異的 症状」から説明します。

5.臓器によってどのような症状がでるのでしょうか?


  • 胸部X線写真で両側 肺門 部リンパ節の腫大(Bilateral Hilar Lymphadenopathy; BHL)が健診などで偶然発見される場合が多いです。この場合には、自覚症状はほとんどありません。また、若くてBHLだけで見つかって、あまり症状もないという患者さんでは、8割がた自然になおってしまいます。それから、病気が肺の中まで進んできて胸部X線写真でびっくりするほどの陰影があってもあまり自覚症状がないのが、この病気の特徴のひとつです。逆にいうと、肺のサ症は病気がすすんでもあまり症状がなくて、進展度が自分ではわからないわけですから、定期的に医療機関で胸部X線写真を検査し続けることが必要です。
    それでも肺の陰影が長く続くと、進行して「肺線維症」という状態になって、せきや息切れがでてくることがあります。自然になおってしまう患者さんがいる一方、肺線維症になって、肺の機能が低下して肺移植の適応になる方もおられるわけです。あまり進行する前に治療を開始する必要があります。
     

  • 日本では欧米に比べて、眼症状をきっかけに眼科を受診し、サ症が発見されることが多いのが特徴です。ほとんどの場合、眼の虹彩、毛様体、脈絡膜(あわせてぶどう膜とよびます)に 炎症 (ぶどう膜炎)がおこります。自覚症状としては、かすむ感じ(霧視)や飛蚊症のほか、充血やまぶしさといった症状がでることもあります。ぶどう膜炎自体でも視力が低下することが多いですが、黄斑浮腫、白内障、緑内障などの合併症による視力低下や視野の障害をきたすこともあります。
     ぶどう膜炎の原因となる病気は数多くありますが、この20年間ではサ症が最も多くみられます。眼科で「ぶどう膜炎」と診断されたら、その原因を調べるために眼科での詳しい検査に加えて、血液検査や画像検査などの全身検査をおこない、サ症が疑わしい場合には内科や皮膚科などを受診して頂くことがあります。サ症とすでに診断されている方は、自覚症状がなくても眼科を受診することが勧められます。治療の基本はステロイド薬と散瞳薬の点眼治療ですが、炎症が強い場合は眼周囲注射やステロイド薬内服をおこなう場合もあります。サ症のぶどう膜炎は慢性に経過するため、いったん炎症が落ちついても、再度炎症が出ることも少なくありません。適切な治療を受けるためにも定期的な受診を続けることが大切です。
     
  • 皮膚
    わが国では福代先生の分類があります。サ症の皮膚病変は皮膚サルコイド、瘢痕 浸潤 、結節性紅斑に分類され、皮膚サルコイドには結節型、局面形成型、皮下型、びまん浸潤型、その他があります。皮膚サルコイドは、生検をするとサ症に特徴的な類上皮細胞肉芽腫が認められるものです。瘢痕浸潤は膝などに昔すりむいた痕にできてくる皮疹で、やはり肉芽腫が生検で認められます。結節性紅斑は病気のはじめに下肢にできる紅斑で、生検しても肉芽腫は認められず、ほとんど早期に消えてしまいます。皮膚サルコイドがよくできる場所は、鼻の横、額、頬、上下肢、胸や背中、腹部や臀部などで、痛くも痒くもない赤い斑点ができるのが一番多いパターンで、皮下型は皮膚の下にコリコリ触れるものです。型によって、なおりやすいのもあれば治りづらいのもありますが、多くはゆっくりと治っていくものと思ってください。女性で両方の頬に赤くできてきた場合が美容上も困るわけですが、塗り薬などではとても治りませんので、早く良くしたければ、一時期を我慢してやや多めのステロイドを服用したほうが良いでしょう。抗菌薬であるミノサイクリンやドキシサイクリンが有効な例もありますが治療法として確立されたものではありません。
     
  • 心臓
    日本には眼病変が多いと話しましたが、心臓病変も多いのが特徴です。日本人サ症の20%以上に心臓病変があるとされ、大きく分けて2種類の病態があります。1つは刺激伝導系が侵されて不整脈がおこる場合、もう1つは心臓を収縮させる筋肉が侵されて心不全にいたる場合です。前者は、偶然心電図で発見されたり、患者さんが不整脈を自覚されたり、あるいは高度の房室ブロックなど徐脈性不整脈のために心臓の実質的ポンプ機能が低下して、意識消失(失神)で緊急受診となったりします。高度の房室ブロックでは、ペースメーカーが挿入されて急場をしのぐことが多いでしょう。後者の場合は、放置すると心臓の拍出力が次第に落ちてきて動くと息切れや動悸がする、足がむくむ、といった慢性心不全になってきます。また、生命に係わる心室性不整脈や突然死をきたす場合もありますので、診断がなされたら、できるだけ早めに適切な治療(薬物および非薬物療法)を開始する必要があります。
     欧米のサ症の死因で最も多いのは肺の病気による呼吸不全ですが、日本でもっとも多いのは、心臓病変によるものです。ですから、サ症の患者さんでは、落ちついておられても、定期的に心臓の検査を行います。
     他の臓器に明らかな病変がないのに、心臓病変のみが存在する場合を心臓限局性サルコイドーシスと言います。他臓器に病変がある場合と比較して、病状は同等か、それ以上に悪いことが分かってきました。心臓限局性サルコイドーシスの診断は必ずしも容易ではありませんが、定められた診断基準に基づいて、できるだけ早期に適確に診断して治療を行うことが大切です。
     心臓病変(心臓サルコイドーシス)のより詳細に関しては、日本循環器学会の「心臓サルコイドーシスの診療ガイドライン」を参照して下さい。
     
  • 神経
    神経サルコイドーシスは脳や髄膜や脊髄や 末梢神経 のどこにでもできる可能性があって、侵される部位によっていろいろな神経症状をきたします。多いのは、顔面神経麻痺で口がゆがむ、下垂体に腫瘤ができておこる尿崩症で多量の尿がでる、脊髄にサ症ができて痛みがでるなどです。顔面神経麻痺などの末梢神経障害はステロイド治療を適切に行えば治りやすいのですが、尿崩症はなおりづらく、抗利尿ホルモン剤を点鼻で長く使用します。治りづらい場合にはステロイドを多めに、長く使用せざるをえません。
    また、サ症では手足のしびれや、体の痛みや、自律神経障害を訴える方が多いのですが、この原因が「小径線維」という、非常に細い末梢神経の障害によるものであることがわかってきました。これに対する特効薬はなくて、普通の痛み止めやステロイドもあまり有効ではないとされ、クロナゼパンなどのテンカンの薬を使用したりします。最近、抗TNFα阻害薬(関節リウマチの薬。サ症には 保険適用 なし)や大量のステロイド治療が有効であった例も報告されています。
     
  • 筋肉
    サ症が筋肉を侵した場合には、ほとんどが腫瘤(コブ)を形成してきます。多いのはふくらはぎの筋肉ですが、稀に腕や大腿などがあります。多くは痛みもなく生活に支障がないので、そのまま自然に治るのを待ちますが、痛みなどの症状が強ければステロイドなどで治療をすることになります。慢性のサルコイド筋炎は稀ですが近位筋の筋力低下がおこります。
     

  • 手指骨、足趾骨が侵されやすいのが特徴で、多くが痛みを訴えますが、ときに全く無症状のこともあります。握手をしたときにボキッと指の骨が折れて気がつく場合が多く、これを「握手徴候」と呼ぶことがあります。骨に病変があるかどうかは骨のレントゲンを撮れば 嚢胞 形成や骨梁減少があってわかります。自然に治ることもありますが、ステロイドが効きやすいので、痛みが強い場合には治療をうけたほうがよいでしょう。
     
  • 表在リンパ節
    表在のリンパ節が痛みもなく腫れてくることがあります。生検でサ症と診断をつけることができます。また、放置しても長く待てばほとんどが無くなってきます。
     
  • 肝臓、脾臓
    肝臓や脾臓にサ症ができていることはかなり多いのですが、症状を呈してくることは極めて稀です。脾臓病変でまれに血小板減少をきたし、出血傾向をきたすことがあります。腹部圧迫症状を呈するほど肝臓が腫大する場合を除けば、仮に病変が見つかってもそのまま自然に治るのを待てばよいでしょう。
     
  • 上気道
    一番多いのは鼻腔内にサ症病変ができる場合で鼻づまり症状がおこります。ただ、耳鼻科専門医が鼻腔の中をみても、しっかりとした腫瘤があれば別ですが、鼻腔内病変があっても「肥厚性鼻炎」としか言えない場合が多いので診断が難しいのが現状です。その他、上咽頭腫瘤、副鼻腔炎、歯肉病変などがあります。
     
  • 胃と腸
    まれに胃や腸にサ症病変ができることがあります。報告は少ないですが、胃の検査で偶然みつかってくる患者さんもおられるので、詳しく調べればかなり多いかもしれませんが、正確なところは分かっておりません。腸閉塞症状になって手術した例もありますが、そのまま自然に治った例もあります。
     
  • 乳房
    乳房にコリコリとした腫瘤ができて、乳がんと間違われることがあります。皮下型の皮膚サ症が乳房にできたものです。
     
  • 精巣
    精巣にサ症ができて、無精子症になった症例がありますが、稀です。

6.非特異的全身症状について

今まで述べてきたのは、「臓器特異的症状」で、その臓器が侵されるとどのような症状になるかということですが、サ症を語るときに忘れてはならないのは「臓器非特異的な全身症状」です。サ症では説明のつかない全身症状を訴えられる方が非常に多いことがわかっています。訴えられる症状で多いのは、「疲れ」「息切れ」「痛み」「発熱」などです。医療者にとって大切なことは、患者さんにそのような症状が無いか積極的に聞くことと、患者さんがそれらの症状を訴えられた時にそれがサ症に伴う症状であることを認識してあげることです。
たとえば、眼にぶどう膜炎があって、肺にBHLがあって、皮疹があって、サ症を疑われて受診しても、医師は「ああ、サ症でしょう」ということでいろいろな検査をするばかりで何も症状を聞かないで終わってしまう場合があります。患者さんも医師に何も聞かれなければ、「この倦怠感や痛みの症状はサ症とは関係ないのか」と思ってしまうわけです。いわゆる「臓器特異的症状」がよくなっても、これらの「全身症状」に悩まれている患者さんはとても多いのが現状です。医療者も聞いてあげる必要がありますし、患者さんも積極的にその症状を医師に訴えることが必要です。

7.非特異的全身症状は具体的にどのようなものですか。

  • 疲れと息切れ
    「疲れ」と「息切れ」は、大体セットで訴える患者さんが多いです。臓器病変としてはBHLしかなくて、医師から「咳も痰もないでしょう。放っておけば自然に治りますよ」と言われて、悶々と「疲れて息が切れて」という症状に悩まれている方がいます。こちらから聞くと、「とくに階段で息がきれる」「疲れてともかく横になってしまう」などといわれます。この「疲れと息切れ」の原因ははっきりわかっていませんが、最近の研究でサ症の患者さんでは、呼吸筋を中心とする筋肉の力が低下している人が多いことがわかってきました。そのために動くと息が切れて、また疲れがでるのだと思われます。
     
  • 痛み
    痛みもサ症の患者さんがよく訴えられる全身症状です。私の経験では、一番多い痛みは胸痛です。米国胸部疾患学会と欧州呼吸器学会、それから世界サ症と肉芽腫性疾患学会の合同で作成した「サ症に関する合同ステートメント」というものがありますが、その中にも「胸痛は胸骨下に局在するが、普通胸郭の漫然としたしめつけ感のみである。ただ、時に激烈で心臓痛と区別できないこともある」(日本サ症/肉芽腫性疾患学会雑誌編集委員会訳)と書かれてあります。痛みが強いときは患者さん自身が訴えてくれますが、医師が「サ症では胸痛がおこることがある」ことを知らずにいると、心臓が原因の痛みかどうかだけ調べて、異常がなければ「サ症の病気とは関係ない」という結論で終わってしまうかもしれません。また、軽度から中等度の痛みでは患者も訴えづらいし医師も関心をもたない、となるでしょう。もっとも、胸の痛みの訴えは、はじめは強くても次第に弱くなってきて、そのうちほとんど気にならない程度になるのが普通です。中には、非常に強い胸痛だけを訴えられる場合もあります。ステロイドはあまり効果がなく、モルヒネなどの麻薬を使うこともあります。
    胸痛以外では、関節痛、頭痛、背部痛、筋肉痛などがあります。
    関節痛は関節リウマチに似た、多くは左右対称性の痛みです。サ症の関節病変というものはありますが、その場合は関節の腫脹や変形、骨の破壊などを伴いますので、レントゲン写真などで異常が認められます。しかし、「全身症状」としての関節痛は、腫脹、変形、XPでも骨の変化はなく、ただ痛みだけを訴えられます。ガリウムシンチグラムや骨シンチグラムで陽性所見を呈することもあります。ステロイドが有効なことが多いのですが、減らすと再発することが多く辛抱強くつきあうしかありません。
    頭痛は脳内のサ症病変や髄膜炎所見がないか、背部痛は脊髄病変がないか、筋肉通は筋肉内サ症病変がないか、を調べる必要があります。しかし、そのような臓器特異的な所見がなくても、頭痛、背部痛、筋肉痛などという、いわゆる全身症状としての痛みを訴える患者さんは多くおられます。
     
  • 発熱
    発熱を訴えるサ症患者さんはそれほど多くはありませんが、ときに遭遇します。あまり強い炎症所見はなく、高熱は少なくて微熱が多く、それほど長くは続かずに自然におさまるのが一般的です。
     
  • 耳鳴、難聴
    耳鳴や難聴を訴える患者さんも多く、「これはサ症が聴神経に浸潤したためである」と書かれた論文もあります。これは耳鼻咽喉科で対応していただくしかありません。
     
  • 手足などのシビレ、温痛覚の低下、自律神経障害
    患者さんの訴えの中には、手足のシビレ、温痛覚の低下、排尿障害、自律神経障害などもあります。これは、詳しく調べてみるとかなり頻度の高いもののようで、約40%にこのような症状があるという論文もあります。この原因は、「小径線維神経障害」といって、神経線維の中でも非常に細い末端の知覚神経や自律神経が侵されたための障害であることがわかっています。サ症では血管の障害もおこることがわかっていますので、この小径線維ニューロパチーは、血流障害によってさらに細い神経の障害がおこってきているものと推測されます。治療としては、末梢神経炎の薬やテンカンの薬、三叉神経痛の薬、うつ病の薬などが使われます。最近、抗TNF阻害薬(関節リウマチの治療薬。サ症には保険適用なし)や、大量のステロイドパルス治療が有効であったとする論文もあります。
    今までに述べた、疲労感や息切れ、からだのアチコチの痛み、耳鳴などは、すべてこの小径線維ニューロパチーによるものだろう、とする論文もありますが、確かなことはわかっていません。
    どちらにしても、サ症の患者さんでこれらのいわゆる「全身症状」を訴える方は非常に多いのですが、医師も患者さんもそういう病気であることを認識しててなくて、患者さんも訴えずに医師も対応できないということがあります。ときにステロイドが有効なことがありますので試してみるのも一法です。

8.出産は大丈夫でしょうか。また、遺伝するのでしょうか。

サ症の女性が妊娠すると、ホルモン作用によって一時的に症状が改善することが知られていますが、逆に、多くの例が出産後は悪化します。出産後は、約一年間は慎重に経過をみてもらうべきで、必要があれば、母乳を人工乳に替えてステロイド治療を行なうこともあります。
遺伝性は少しあって、ときに家族発生の例があります。

9.原因は何でしょうか?

今まで、結核菌説、溶連菌説、ウイルス説など、たくさんの説がありました。
なんらかの物質がリンパ球、とくにTリンパ球(T細胞)の活動を活発にし、この細胞がつくりだす物質によって、 マクロファージ 細胞が刺激されるために、肉芽腫病変ができるわけです。現在では、東京医科歯科大学の江石先生たちの研究によって、キューティバクテリウム アクネス(旧名プロピオニバクテリウム アクネス、通称アクネ菌)によるという説が最も有力です。しかし、海外では依然として結核菌感染説を支持している人もいます。

10.どのように検査、診断を行っていくのでしょうか。

サ症の特徴として、血液中のアンギオテンシン変換 酵素 (ACE)やリゾチームという酵素が増えて、蛋白分画中のガンマグロブリンや血中・尿中カルシウムが高値になるというということがありますが、すべての患者さんでそれらが増加するわけではありません。しかし、はじめに増加していれば、病態が改善するとともにそれらの値も低下してきます。
ツベルクリン反応が陽性(赤くなる)であったのが、サ症に罹患するとその反応が弱くなり、多くは陰転化することも重要な手がかりになります。
病変の広がりや活動性をみるためには、ガリウムシンチグラムで全身の検査を行います。1日目にガリウムを注射して3日目に撮影しますが、罹患している部分に集積してきます。最近はさらに感度の高いFDG- PET検査 も同じ意味で行われています。
また、気管支鏡で 肺胞 洗浄を行なうと、洗浄液中の総細胞数やCD4陽性Tリンパ球が増加している所見が認められ、診断の参考になります。
しかし、サ症の確定診断のためには、生検によって、病巣の組織の中に類上皮細胞肉芽腫を見つけることが必要です。皮膚や筋肉や表在リンパ節などは外来でも生検ができますが、目、心臓、肝臓、脳・脊髄などの体の奥にある臓器の生検は難しくなります。
呼吸器内科では、気管支鏡で肺の生検を行うことが一般的で(経気管支的肺生検)、前述の肺胞洗浄とあわせて行います。

11.治療はどのように行なうのでしょうか。

現在のところ、治療薬はステロイドと免疫抑制薬(メトトレキセートなど)で治療するのが一般的です。メトトレキセートは関節リウマチの治療でよく使われている治療薬ですが、実はサ症には保険適応がありません。しかし、海外ではサ症に一般的に使われていて、日本でも使う先生が増えてきました。
サ症は自然に改善することが多い疾患ですので、症状の軽い例では自然改善を期待して経過をみるのが一般的です。しかし、強い症状のある場合、病状が進行してきた場合、検査値で大きく異常がある場合には、積極的な治療が必要です。とくに心臓病変があるときには必ず治療が必要です。肺に病変があってもあまり症状が出ないという特徴がありますので、経過をみて悪化して、医師が治療必要と判断したときには、あまり症状がなくとも治療をうけたほうがよいのです。眼の治療は眼科医しか行えませんが、心臓の治療は循環器内科と呼吸器内科で共同して治療を行います。すなわち、不整脈の薬や心臓保護の薬は循環器内科で処方して、ステロイドや免疫抑制薬は呼吸器内科医が処方するというものです。顔にできた皮膚病変も十分なステロイドを使用しないといけない場合が多いので、呼吸器内科で処方したほうがよいでしょう。その他、骨、関節、腎臓、上気道なども同じです。
「薬の副作用が怖いから」といって飲み薬の治療を拒否する患者さんがおられますが、治療が必要と判断されたら、早めに治療を始めたほうがよいでしょう。ただし、妊娠を希望している場合には、男女とも早めに主治医に相談してください。
最近ではアクネ菌を標的にして、抗菌薬による治療も行われてきていますが、有効率はそれほど高くありません。その理由は、肉芽腫内に生きたアクネ菌がほとんど残っていないからだろうと思われます。しかし、理由はわかりませんが、抗菌薬がとても有効な例があるのも事実です。

12.日常生活で注意することはありますか?

ビタミンDがサ症の病態を悪化させるので、ビタミンDを多く含む食物や日光をできるだけ避けたほうがよいと主張している人がいますが定かではありません。
自覚症状がなければ半年に1度の経過観察でよいでしょう。心臓に変化がないか、心電図の検査を続けることは大切です。
女性の患者さんは、出産後にサ症が悪化することがあり、注意が必要です。また、ステロイドを使っている場合は、妊娠してよいか医師に相談することをおすすめします。メトトレキサートなどを使用している場合には、中止後6か月間は妊娠をしないようにします。
発病して症状があれば、無理をせず、ストレスをさけて、規則正しい生活でともかく心身を休めることが大切です。

13. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

該当する病名はありません。

 

情報提供者
研究班名 びまん性肺疾患に関する調査研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和4年12月(名簿更新:令和6年6月)