神経線維腫症Ⅱ型(指定難病34)
1.「神経線維腫症II型」とはどのような病気ですか
左右両側に聴神経腫瘍(正確には前庭神経鞘腫)が発生する遺伝性疾患です。脳神経・脊髄神経・ 末梢神経 に主として神経鞘腫が多発性に発生し、また、頭蓋内や脊髄に髄膜腫など多数の腫瘍が発生します。疾患名として、長年「神経線維腫」が用いられてきましたが(英語名:neurofibromatosi type 2)、本疾患では、主として「神経鞘腫」が多発性に生じることから、最近欧米では、名称をNF2-related shcwannomatosis、すなわち「NF2関連神経鞘腫症」と変更する動きがみられています。NF2遺伝子の異常に関連して、神経鞘腫が多発性に生じる疾患との意味を持つ用語です。現在、本疾患に関連する学会で、用語の改訂に向けた作業が始まっています。
造影MRI:両側に聴神経腫瘍がみられる
MRIあるいはCTで両側聴神経腫瘍が見つかれば診断が確定します。また、親・子供・兄弟姉妹のいずれかに神経線維腫症Ⅱ型の方がいる場合、本人に(1)片側性の聴神経腫瘍、または(2)神経鞘腫・髄膜腫・神経膠腫・若年性白内障のうちいずれか2種類が存在する場合にも診断が確定します。
また、家族歴がなくても、「(1)片側性聴神経腫瘍、(2)多発性髄膜腫、(3)神経鞘腫・神経膠腫・若年性白内障のうちいずれか一つ」、の3つの条件のうち2つが見られる場合には神経線維腫症Ⅱ型の可能性があります。
2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
外国の報告によれば、発生率は25,000〜60,000人に1人と言われています。日本でも同様の発生率と考えられますが、国内で2009年〜2013年に臨床調査個人票を提出した方は約800人でした。
3. この病気はどのような人に多いのですか
人種差や男女差はありません。また、家族歴以外に発症に関与する因子は報告されていません。発症年齢は10歳以下から40歳以上とまちまちですが、多くの方は10~20歳代で発症します。
4. この病気の原因はわかっているのですか
神経線維腫症Ⅱ型の原因は、体の細胞の中にある染色体のうち第22染色体長腕に存在する遺伝子の変異です。この遺伝子が作り出す蛋白質はMerlinと名付けられています。Merlinは細胞内の情報伝達などに重要であり、正常では腫瘍の発生を抑制する働きがあります。神経線維腫症Ⅱ型の方では、Merlinの遺伝子に変異が生じ、正常なMerlinができないために腫瘍が多発すると考えられています。ただ、どうしてこの遺伝子に変異が起こるのかは分かっていません。
5. この病気は遺伝するのですか
生殖細胞に遺伝子変異がある場合は遺伝します。対になった第22染色体のうち、変異のある方が伝わるとお子さんも神経線維腫症II型になります(常染色体顕性遺伝(優性遺伝)の遺伝性疾患といいます)。従って、両親のいずれか一方にこの病気があれば、50%の確率でこの病気になる可能性があります。
一方で、家族歴がない場合も半数以上で認められます。この場合、個人の胎内での発生過程でMerlin遺伝子に新たに変異が生じたと考えられます。これらの方の両親のMerlin遺伝子には変異が無く、従って、これらの方の兄弟姉妹には神経線維腫症Ⅱ型は遺伝しません。
6. この病気ではどのような症状がおきますか
この病気では、各種の中枢神経腫瘍が生じます。最も多い腫瘍は神経鞘腫で、聴神経鞘腫はほとんどの方に、脊髄神経鞘腫も多くの方に見られ、三叉神経鞘腫もしばしば伴います。また、髄膜腫は約半数の方に合併し、頭蓋内や脊椎管内に多発することがしばしばです。他に脊髄内神経膠腫も伴うことがあります。また、皮下や皮内の神経鞘腫も合併することがあります。
従って、最も多い症状は聴神経鞘腫による症状です。これには、難聴・めまい・ふらつき・耳鳴などがあります。次いで多いのは脊髄神経鞘腫の症状で、これには手足のしびれ・知覚低下・脱力などがあります。また、三叉神経鞘腫の症状として顔面のしびれや知覚低下もおこります。その他、痙攣や半身麻痺、頭痛を伴うことや、若年性白内障のため視力障害を伴うこともあります。
7. この病気にはどのような治療法がありますか
この病気に伴う腫瘍はほとんどが良性腫瘍ですが、腫瘍による症状が出現したら、治療を検討することが必要です。最も問題になるのは聴神経鞘腫の治療です。聴神経鞘腫を摘出せずに経過を見ると、いずれ聴力はなくなり(何年も変らず経過することもありますが)、腫瘍が大きくなると生命の危険があります。しかし、手術して腫瘍を摘出すると、多くの場合聴力はなくなり、顔面神経麻痺を合併することもあります。腫瘍が小さい内に手術すれば、術後顔面神経麻痺の可能性は低く聴力温存の可能性もありますが、無症状の聴神経鞘腫を手術すべきかどうかは経過をよく見て決める必要があります。腫瘍の成長が明らかな場合や、聴力が低下した場合には、治療が必要です。
外科手術の他に、 ガンマナイフ などの放射線治療も小さな腫瘍には有効で、多くの場合腫瘍の成長をコントロールすることができます。ただし、聴力の温存率は高くありません。
最近、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)に対する 抗体薬 であるベバシズマブの有効性が海外から報告されています。この薬を点滴すると、約半数の方で腫瘍の縮小や(有効聴力が残っているときには)聴力の改善がみられます。現在のところ保険適応がありません。これに対して、国内で治験が行われており結果が待たれます。さらに現在、国内でVEGF受容体に対するワクチン治療の開発が行われています。
8. この病気はどういう経過をたどるのですか
腫瘍の成長は、遅い場合と比較的速い場合があります。腫瘍があっても何年も無症状で経過することや、急速に難聴・めまい・ふらつきや手足のしびれ・脱力などの神経症状が進行することもあります。
経過中に、最も生活上で問題になるのは難聴です。難聴の治療は困難ですので、早めに手話や読唇術などの練習を行うことも必要になります。
両側聴神経鞘腫を放置した場合には、難聴の他に歩行障害や四肢麻痺が進行し、何れ生命の危険が高くなります。また、脊髄神経鞘腫を放置すると、腫瘍の部位に応じて両下肢麻痺や四肢麻痺が進行します。
症状の原因となっている腫瘍や、成長が明らかで症状を引き起こす可能性の高い腫瘍には、手術やガンマナイフ治療などが必要です。腫瘍が多発するため、何度も治療が必要になります。手術には危険性や後遺症が伴いますが、専門医と相談して適切な治療を続けることが病気による症状の進行を防ぐことに繋がります。
9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか
この病気に必要な日常生活での注意は、特にありません。毎年1~2回の定期検査が必要です。神経学的検査・聴力検査・頭部MRI・脊髄MRI・白内障検査などを受けてください。
遺伝性の病気ですので、家族の方も検査を受けることを勧めます。比較的若年で発症する家系と比較的晩年に発症する家系があります。家系の発症年齢時期には検査を専門病院で受けてください。発症年齢をかなり過ぎても異常が起こらなければ、遺伝の可能性は低いと言えます。
10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。
該当する病名はありません。
11. この病気に関する資料・関連リンク
脳神経外科学会のホームページ
http://jns.umin.ac.jp/
患者会などのホームページ
http://www.asebikai.com
http://forestgreennf2.blog129.fc2.com
https://nf-type2.sakura.ne.jp/ewp09380/
【用語解説】
聴神経腫瘍、前庭神経鞘腫:
脳神経のなかの聴神経から発生する良性腫瘍です。聴神経には音を聞く蝸牛神経と平衡感覚を伝える前庭神経がありますが、腫瘍は前庭神経から発生します。神経の鞘の細胞から発生するので、前庭神経鞘腫と名前がついています。
髄膜腫:
脳や脊髄を取り囲む髄膜から発生する良性腫瘍です。
染色体:
細胞の核内にあって遺伝情報の発現と伝達を担います。父と母から受け継いだ染色体が対になっており、私たちは22対の常染色体と1対の性染色体、計46本の染色体を持っています。
血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor、VEGF):
血管の新生や分枝伸長による血管形成に関与する糖タンパクです。腫瘍の血管増生にも関与していると考えられています。
研究班名 | 神経皮膚症候群および色素性乾皮症・ポルフィリン症の学際的診療体制に基づく医療最適化と患者QOL向上のための研究班 研究班名簿 研究班ホームページ |
---|---|
情報更新日 | 令和6年10月(名簿更新:令和6年6月) |