脊髄空洞症(指定難病117)
1. 「脊髄空洞症」とはどのような病気ですか
脳や脊髄は液体の中に浮かんで、外部からの衝撃から守られています。この液体を脳脊髄液といいます。脊髄空洞症では、脊髄の中にこの脳脊髄液がたまった大きな空洞ができ、脊髄を内側から圧迫することによって、いろいろな神経症状や全身症状をきたす病気です。
2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
1991年~1992年の脊髄空洞症の全国疫学アンケート調査では全国の患者数は2,000名前後でした。2008年~2009年にかけて、12カ月の調査期間に病院を受診した患者数について全国 疫学調査 が行われました。その結果、推定患者数は2,500人前後と推定されました。但し、この調査より以前に既に脊髄空洞症と診断されていた患者さんで、症状が変わらない、あるいは治療を受けて改善した等の理由で、調査期間中に病院を受診していない方は含まれていません。実際の患者数は、今回の調査で推定された数より多いと予想されますが、正確に把握することは難しいのが実状です。
3. この病気はどのような人に多いのですか
男女差なく20歳から30歳代の発症が多いのですが、あらゆる年齢層にみられます。学童期の検診では側弯症をきっかけに、空洞症が早期診断される場合があります。
4. この病気の原因はわかっているのですか
脊髄に空洞のできる原因はたくさんあります。脊髄とそれを取り巻く組織の 炎症 、腫瘍、脊髄の 梗塞 や出血などの血管障害、外傷、そしていろいろな”奇形”がありますが、その中でも、生まれつき小脳の一部が脊柱管に落ち込んでいるキアリ奇形が代表的なものです。しかし原因の特定できないものもあります。
5. この病気は遺伝するのですか
多くの場合、この病気は遺伝することはありません。ただ、一部には血縁者に発病をみることが知られています。このことは、空洞症の原因の一部に、体質もしくは遺伝が関わっているもののあることを示しています。その詳細は、まだよくわかっていません。
6. この病気ではどのような症状がおきますか
片側の腕の感覚障害もしくは脱力で発病することが多く、重苦しい、痛み、不快なしびれ感ではじまることがあります。また特徴的な感覚障害として温度や痛みがわからなくなる障害をきたすことがあります。この障害は、たとえば腕を強くつねられても触れられているという感覚はあるのに、痛みを感じない、あるいは火傷をしても熱さを感じないことです。病気が進み空洞が大きくなると、しびれ、筋肉のやせ、手足の脱力、つっぱりがみられてきます。これらの症状が体のどこに出るかは、空洞のできた場所と広がりにより違います。その例としては、脊髄の上の部分(頸髄)に空洞がある例では、しびれや筋肉のやせは手や腕にみとめられます。空洞が拡大するにつれて、他の部分に症状が広がっていきます。延髄まで空洞が広がると、脳神経障害や球症状がみられることがあります。関節が障害されたり、手足が異常に大きくなることや、汗の異常(初めは多く、進行すると汗をかかなくなります)、爪の伸びが遅い、立ちくらみなどがみられることもあります。
7. この病気にはどのような治療法がありますか
しびれなどの症状にあわせた薬剤による治療のほか、手術による( 後頭蓋窩減圧術 、空洞ーくも膜下腔短絡術、など)が、症状の進行予防および改善目的で行われます。
8. この病気はどういう経過をたどるのですか
まれに症状が進行した後、まれに停止あるいは改善することがあります。しかし、適切な治療を行わないと、多くの場合は、空洞が大きくなるにつれて、症状が徐々に進行します。空洞症の診断を受けた後は、専門医を定期的に受診して、今後の治療など助言を得ることが大切です。
9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか
定期的に適切な頻度で医療機関に受診することが重要です。生活環境によって病気の発症を防ぐことは困難ですが、筋力低下や筋萎縮に対しては適度な運動療法を考慮する必要があります。咳やくしゃみにより、ビリッとする痛みが誘発されることがあります。これは脳脊髄液の圧が急に高くなったことによるものです。このような動作は、空洞が広がる誘因となることも考えられますので、避けるようにしたいものです。手足で、特に痛みや熱さの感覚が鈍い場合には、外傷や火傷を受けやすいので注意しましょう。
10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。
キアリ奇形
脊髄髄膜瘤
11. この病気に関する資料・関連リンク
日本脊髄外科学会
http://square.umin.ac.jp/jsss-hp/patient/hollow.html
神経変性疾患領域における基盤的調査研究班
http://plaza.umin.ac.jp/neuro2/