先天性魚鱗癬(指定難病160)
1. 「先天性魚鱗癬」とはどのような病気ですか
先天性 魚鱗癬は、先天的異常により皮膚の バリア機能 が障害され、胎児の時から皮膚の表面の角層が非常に厚くなる病気です。出生時、あるいは、新生児期に、全身または広範囲の皮膚が厚い角質に覆われます。
2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
約200人です。
3. この病気はどのような人に多いのですか
特にかかりやすい人があるわけではありません。病型により遺伝形式は異なりますが、 常染色体潜性遺伝(劣性遺伝) 性 の病型では、血族結婚で発症率が高くなります。
4. この病気の原因はわかっているのですか
この病気の原因は、皮膚最表面の表皮を作っている細胞(表皮細胞)の分化異常、脂質の産生、代謝、輸送の異常です。それらにより、皮膚のバリア機能が障害されることで、皮膚表面の角層が著明に厚くなります。病因となる異常は病型により異なり、病因遺伝子としては、ABCA12、TGM1、ALOX12B、ALOXE3、CYP4F22、NIPAL4、PNPLA1、CERS3、KRT1、KRT10、KRT2、ALDH3A2 (FALDH)、ABHD5 (CGI-58)、SUMF1、SPINK5、ERCC2、ERCC3、GJB2、STS、MBTPS2、EBP、NSDHLがあります。
5. この病気は遺伝するのですか
はい、遺伝性の病気です。病型によって、常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)、常染色体顕性遺伝(優性遺伝)、X連鎖性潜性遺伝(劣性遺伝)、X連鎖性顕性遺伝(優性遺伝)などの遺伝形式をとります。
6. この病気ではどのような症状がおきますか
出生時から新生児期に、全身、または、広い範囲で皮膚表面が非常に厚い角質物質に覆われます。重症例では、眼瞼、口唇がめくれ返り、耳介の変形も認められます。皮膚に水疱形成がある例、皮膚以外の臓器に異常を認める例もあります。
7. この病気にはどのような治療法がありますか
現在のところ、根治療法はありません。皮膚症状に対しては、保湿剤やワセリン等の外用による対症療法を行います。重症例では、新生児期は、輸液・呼吸管理、正常体温の維持、皮膚の感染のコントロール等の保存的治療を行います。新生児期からのレチノイド全身投与を行うこともあります。
8. この病気はどういう経過をたどるのですか
ごく一部の重症例で新生児期、乳幼児期に死亡することがあります。学童期に至るまでに症状が軽快する例もありますが、多くの症例で生涯にわたり症状は持続します。
9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか
発汗障害があるため高体温になりやすく、特に夏季には体温の異常な上昇に注意が必要です。室温、衣服のこまめな調節が重要です。
鱗屑 として失われる蛋白量を考慮して、十分な栄養を摂取するように気をつけましょう。
本症の病態の本質は、皮膚バリア不全であることを理解し、保湿に努めることも大切です。厚く堆積した鱗屑は剥がしたり、こそげ落とすことにより、整容上、機能上、有益な場合もありますが、無理には剥がさないようにしてください。2次的に細菌感染をおこす場合も多いので、毎日の入浴で、皮膚表面を清潔に保ち、かつ、入浴により弱まる皮膚バリア機能を入浴後の保湿剤などの外用で補うようにしましょう。
10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。
ケラチン症性魚鱗癬、表皮融解性魚鱗癬(顕性遺伝・潜性遺伝(優性遺伝・劣性遺伝))、表在性表皮融解性魚鱗癬、常染色体潜性(劣性)先天性魚鱗癬、道化師様魚鱗癬、先天性魚鱗癬様紅皮症、葉状魚鱗癬、魚鱗癬症候群、ネザートン症候群、シェーグレン・ラルソン症候群、KID(keratitis-ichtyosis-deafness)症候群、ドルフマン・シャナリン症候群、中性脂肪蓄積症、多発性スルファターゼ欠損症、X連鎖性潜性(劣性)魚鱗癬症候群、ichthyosis, brittle hair, impaired intelligence, decreased fertility and short stature(IBID)、Trichothiodystrophy、毛包性魚鱗癬、CHILD(congenital hemidysplasia, ichthyosiform erythroderma or nevus, and limb defects)症候群、Conradi-Hünermann-Happle症候群
11. この病気に関する資料・関連リンク
関連資料
1 日本皮膚科学会診療ガイドライン 水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症 池田志斈、他、日皮会誌:118 (3) , 343-346, 2008
2 魚鱗癬と魚鱗癬症候群 秋山真志、日皮会誌:121 (4) , 667-673, 2011
リンク
1 一般・患者さん向けパンフレット(2014年版)
https://kinan.info/Documents/gyorinsen_qa2014.pdf
2 日本皮膚科学会ホームページ
https://www.dermatol.or.jp/
用語解説
皮膚バリア不全:皮膚の最も重要な働きは外界から私たちの体を守るバリア機能です。魚鱗癬では、このバリア機能が弱く(バリア不全)、皮膚表面からの水分の蒸発量が多く、皮膚乾燥の原因となります。また、魚鱗癬患者の皮膚では、その弱いバリアを補うかの様に、皮膚表面が厚くなります。