先天性魚鱗癬(指定難病160)
せんてんせいぎょりんせん
- 先天性魚鱗癬の原因は遺伝子の変異です。遺伝子は私たちの身体を形成したり、健康を維持するために必要なタンパク質を作るための、DNAによって書かれた設計図です。遺伝子は染色体に納められていますが、ヒトの染色体には、常染色体(1番から22番まで)と性染色体(XとY)があります。常染色体上の遺伝子について考えると、ヒトの細胞は一般に母親由来と父親由来の二つ(一対)を持っています。そのうち、どちらか一つの遺伝子に変異があると病気になる場合を、常染色体顕性遺伝(優性遺伝)と言います。他方、常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)の場合は片方の遺伝子の変異だけでは病気にならず、対の遺伝子の両方に変異があって初めて病気になります。片方の遺伝子だけに変異を持っているヒトは保因者(キャリアー)と呼ばれます。従って、母親も父親も病気ではないけれど、保因者であれば、子供に変異がある遺伝子が両親から伝わった場合、子供は両方の遺伝子に変異を持つ事になり、病気になります。もし、ご家族に魚鱗癬の方が全くいないのにお子さんに魚鱗癬が発症した場合は、ご両親が保因者で、お子さんは常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)性の魚鱗癬という可能性が有ります。ご両親のうち、片方にしか遺伝子の変異が無い場合でも、お子さんで突然変異がもう一つの遺伝子に生じて、常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)性の魚鱗癬になったり、また、ご両親の遺伝子に全く異常がない場合でも、突然変異によって常染色体顕性遺伝(優性遺伝)の魚鱗癬になる場合もあります。
家族に魚鱗癬の人がいないのに、どうして子供が魚鱗癬になったのでしょうか?
- あなたが常染色体顕性遺伝(優性遺伝)性の魚鱗癬である場合は、あなたのお子さんが魚鱗癬になる可能性は、一般的には、50%と考えられます。あなたが、常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)性の魚鱗癬である場合は、あなたの配偶者(夫、あるいは、妻)が魚鱗癬の遺伝子変異の保因者でなければ、あなたのお子さんが、病気の原因の遺伝子変異を母由来、父由来の両方の遺伝子に持つことは、一般的には、ありませんから、魚鱗癬になる可能性は常識的には、ないと考えられます。もし、仮に、あなたの配偶者(夫、あるいは、妻)が偶然、魚鱗癬の遺伝子変異の保因者であれば、お子さんに魚鱗癬が生じる可能性がありますが、一般的に、魚鱗癬の遺伝子変異の保因者は、人口300人に一人から数百人に一人と考えられますから、配偶者が偶然、保因者である可能性は、常識的には、心配する必要のない確率です。
私が魚鱗癬ですが、私の子供も必ず魚鱗癬になるのでしょうか?
- 残念ながら、今のところ、魚鱗癬の原因である遺伝子の変異を治す方法が実用化されていないので、根治的な治療法はありません。しかし、現在、世界中の研究者たちが魚鱗癬の根治的治療法を開発しようと、研究を精力的に進めていますから、将来、根治的治療法が開発されることが大いに期待できます。
根治的な治療法はあるのでしょうか?
- 魚鱗癬で軟膏を塗る第一の目的は、魚鱗癬の皮膚の弱いバリア機能を補って、皮膚からの水分の蒸発を減らし、皮膚の乾燥を和らげるためです。したがって、基本的には保湿剤やワセリン軟膏を用いることになります。保湿剤のなかでも、症状の程度や、体の部位、季節などによって、どの塗り薬が良いかは、それぞれ変わってきます。魚鱗癬の皮膚の厚い角層を薄くする作用がある、活性型ビタミンD3含有軟膏も用いられますが、大量に用いると血液中のカルシウム濃度が高くなりすぎることがありますので、使用量は、主治医と良く相談して決めてください。手の平、足の裏など、特に角質が厚いところには、角質溶解剤という角質を溶かす成分の入った軟膏を使うこともあります。また、細菌感染症が合併している部位には抗生物質や抗菌作用のある成分の入った軟膏を選んだり、痒みが強い部位には炎症を押さえる力のある軟膏を用いたりします。いずれにしろ、主治医と良く相談して症状にあった軟膏を選んでください。
どんな軟膏を選んだらいいでしょうか?
- かゆくて、掻いてしまうことは、先天性魚鱗癬を悪化させる要因の一つです。痒みを減らす内服薬はある程度効果があります。しかし、内服薬を用いても痒みはなかなか治まりません。日中は気が紛れて痒みを忘れていることがありますし、掻くのを我慢することもある程度できますが、夜、寝ている間に無意識に掻いてしまうことが多いようです。寝る前に掻いてしまう部分をガーゼや包帯で保護することは、手間はかかりますが、効果的です。我慢できない痒みに、冷たく冷やしたタオル等で痒い部分を冷やすことが有効な場合もあります。