MECP2重複症候群(指定難病339)

えむいーしーぴー2ちょうふくしょうこうぐん
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
MECP2重複症候群は、2005年に初めて報告された疾患で乳児期早期からの筋緊張低下、重度の知的障害、運動発達遅滞、反復する感染症および薬剤抵抗性てんかんを特徴とする。
 
2.原因
X染色体上にあるMECP2遺伝子を含む領域の重複による。同じアレル上で重複することが多いが、転座例も報告されている。男性の浸透率は100%である。メカニズムの詳細は不明であるが、MECP2遺伝子領域の重複を含むX染色体アレルは偏った不活化を受けるため、女性では無症候性キャリアとなることが多い。一方、不均衡型転座やX染色体不活化異常による女性患者も報告されている。
 
3.症状
乳児期早期からの筋緊張低下、重度の知的障害と運動発達遅滞、自閉的行動特性、進行性痙性麻痺、反復性感染症(呼吸器感染症や尿路感染症など)および薬剤抵抗性てんかんを特徴とする。進行性痙性麻痺は、下肢優位で年齢に伴い進行する。てんかん発作は、幼児期以降に発症し、治療抵抗性であることが多い。
その他に、消化器症状(重度の便秘、胃食道逆流)や特徴的な顔貌(落ちくぼんだ目、眼間開離、広い鼻梁、小さな口、テント状の口、大きな耳)などを認める。免疫系の異常(IgA欠損症、IgG2欠乏症)が併存する例も知られている。
 
4.治療法
治療方法は確立しておらず、対症療法と療育が重要となる。てんかん発作に対しては、抗てんかん発作薬(抗発作薬)による薬物治療が行われるが、一部は薬剤抵抗性である。繰り返す感染症に対する治療、消化器症状に対する対症療法などが行われる。
 
5.予後
神経症状は進行性であり、てんかんの合併が神経学的予後に影響を及ぼす。繰り返す感染症が生命予後に影響する。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数
約50人
2.  発病の機構
不明(分子病態として、MECP2遺伝子の過剰発現があるが、その発症病態は不明である。)
3.  効果的な治療方法
未確立(各症状の対症療法のみ。)
4.  長期の療養
必要(重度な知的障害と運動発達障害に加えて、反復性感染症や薬剤抵抗性てんかんのため頻回な入退院を要する。また、成人では重症化し、死亡率が高い。)
5.  診断基準
あり
6.  重症度分類
Barthel Indexを用いて85以下を対象とする。
 

○情報提供元
難治性疾患政策研究事業「MECP2重複症候群及びFOXG1症候群、CDKL5症候群の臨床調査研究」研究班
研究代表者:国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 研究員 伊藤雅之

日本小児神経学会
当該疾病担当者:共同研究推進委員会 委員長 森本昌史
 
<診断基準>
Definite、Probableを対象とする。
 
A.症状
(主項目)
1.重度の知的障害
2.乳児期からの筋緊張低下
3.繰り返す感染(易感染性
4.幼児期以降の薬剤抵抗性てんかん
5.消化器症状(重度の便秘、嘔吐、胃食道逆流)
6.特徴的な顔貌(落ちくぼんだ目、眼間開離、広い鼻梁、小さな口、テント状の口、大きな耳)と身体(細長い指と細長い爪)

(副項目)
7.男児(男性)
8.アデノイド肥大
9.手・腕の常同運動
10. 進行性の痙性麻痺

B.鑑別診断
アンジェルマン症候群、レット症候群、CDKL5欠損症、FOXG1症候群、ATR-X症候群、L1症候群、Lowe症候群、Coffin-Lowry症候群、Allan-Dudley-Herndon 症候群、Renpenning症候群、Juberg-Marsidi症候群など他の精神運動発達遅滞を伴う疾患。

C. 遺伝学的検査
MECP2遺伝子を含む領域のゲノムコピー数の過剰(定量PCR、MLPA、アレイCGH、FISHのいずれかの検査による)。
 
<診断のカテゴリー>
Definite:Aの(主項目)のうち4項目以上かつBの鑑別疾患を除外し、Cを満たすもの。
Aの(主項目)のうち3項目かつ(副項目)のうち3項目以上かつBの鑑別疾患を除外し、Cを満たすもの。

Probable:Aの(主項目)のうち4項目以上かつBの鑑別疾患を除外したもの。
Aの(主項目)のうち3項目かつ(副項目)のうち3項目以上かつBの鑑別疾患を除外したもの。 
 
D.参考事項
血液・生化学的検査所見:低IgA血症、低IgG2血症。

<重症度分類>
Barthel Indexを用いて85点以下を対象とする。

質問内容 点数
1 食事 自立、自助具などの装備可、標準的時間内に食べ終える 10
部分介助(たとえば、おかずを切って細かくしてもらう) 5
全介助 0
2 車椅子からベットへの移動 自立、ブレーキ、フットレストの操作も含む(歩行自立も含む) 15
軽度の部分介助または監視を要する 10
座ることは可能であるがほぼ全介助 5
全介助または不可能 0
2 整容 自立(洗面、整髪、歯磨き、ひげ剃り) 5
部分介助または不可能 0
4 トイレ動作 自立(衣服の操作、後始末を含む、ポータブル便器などを使用している場合はその洗浄も含む) 10
部分介助、体を支える、衣服、後始末に介助を要する 5
全介助または不可能 0
5 入浴 自立 5
部分介助または不可能 0
6 歩行 45m以上の歩行、補助具(車椅子、歩行器は除く)の使用の有無は問わず 15
45m以上の介助歩行、歩行器の使用を含む 10
歩行不能の場合、車椅子にて45m以上の操作可能 5
上記以外 0
7 階段昇降 自立、手すりなどの使用の有無は問わない 10
介助または監視を要する 5
不能 0
8 着替え 自立、靴、ファスナー、装具の着脱を含む 10
部分介助、標準的な時間内、半分以内は自分で行える 5
上記以外 0
9 排便コントロール 失禁なし、浣腸、座薬の取り扱いも可能 10
ときに失禁あり、浣腸、座薬の取扱いに介助を要する者も含む 5
上記以外 0
10 排尿コントロール 失禁なし、収尿器の取り扱いも可能 10
ときに失禁あり、収尿器の取扱いに介助を要する者も含む 5
上記以外 0
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
令和6年4月1日

情報提供者
研究班名 レット症候群とその周辺疾患の臨床調査研究班
研究班名簿
情報更新日 令和6年10月(名簿更新:令和6年6月)