線毛機能不全症候群(カルタゲナー症候群を含む。)(指定難病340)

せんもうきのうふぜんしょうこうぐん(かるたげなーしょうこうぐんをふくむ)
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
線毛機能不全症候群(primary ciliary dyskinesia:PCD)は、線毛に関連する遺伝子の病的バリアントで起こる遺伝性疾患であり、慢性鼻副鼻腔炎、気管支拡張症、内臓逆位の3徴候とするKartagener 症候群を含む。患者の多くは咳嗽を主訴とし、慢性鼻副鼻腔炎、滲出性中耳炎、気管支拡張症、不妊を発症し、呼吸器感染を繰り返して、時に呼吸不全をきたし、肺移植の適応となる。診断は運動線毛の電子顕微鏡検査、線毛に関連する遺伝学的検査、鼻腔一酸化窒素産生量測定などによりなされる。
 
2.原因
線毛の構造蛋白や線毛の組み立てなどに関連する遺伝子の病的バリアントを原因とする。この20年間に原因遺伝子が次々に解明され、現時点ではおよそ50の原因遺伝子が同定されている。これらの遺伝子の病的バリアントは線毛運動や線毛形成を障害し、気道、耳管の粘液線毛輸送機能を破綻させる。また、精子の鞭毛の運動障害をきたす。一部は胎児の一次線毛の運動障害を引き起こし、内臓逆位や先天性心疾患の原因となる。これまでに報告された遺伝子のバリアントは人種や国により多様である。同じ原因遺伝子を持つ患者でも、障害される臓器や重症度が異なる。
 
3.症状
主な症状は湿性咳嗽を主とする呼吸器症状である。発症年齢は出生直後からみられることも、生後数年でみられることもある。症状は年齢により若干異なる。線毛機能不全症候群を疑う徴候を以下に示す。
1.新生児では多呼吸、咳嗽、肺炎、無気肺がみられ、成人では気管支拡張症・細気管支炎をきたす。
2.さまざまな重症度の慢性鼻副鼻腔炎をきたす。
3.滲出性中耳炎あるいはその後遺症がみられる。
4.内臓逆位あるいは内臓錯位がみられることがある。
5.男性不妊症がみられる。
6.同胞に線毛機能不全症候群を疑う家族歴がある。
 
4.治療法
現在のところ根本的な治療法は無く、呼吸器の管理と呼吸器感染症に対する治療が中心となり、生涯気道クリアランス療法や運動療法を含む呼吸リハビリテーション、急性増悪を含む感染症管理、感染予防および喫煙を含めた環境改善の指導を継続する必要がある。治療の目標は,増悪を予防し、疾患の進行を遅らせることによりQOLを保つことである。このために、気道クリアランス療法(ACT)や運動療法などの呼吸リハビリテーション、急性増悪を含む感染症管理、感染予防および喫煙を含めた環境改善の指導を行う。重症化した場合には肺移植が必要となる。男性不妊に対しては、卵細胞質内精子注入法(intracytoplasmic sperm injection: ICSI、いわゆる顕微授精)を行うことにより高率に授精することが可能となる。
 
5.予後
重症度により異なる。適切に管理されれば呼吸機能障害の進行は阻止できるが、全体としてみると一秒率は年齢とともに徐々に低下する。呼吸器感染を繰り返して時に呼吸不全をきたし、重症例では肺移植の適応となる。診断困難で、かつ稀な疾患なので、専門の施設での診断、治療、経過観察が大切である。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数
約5000人未満
2.  発病の機構
不明(線毛に関連する遺伝子の病的バリアントが主な原因であるが、原因遺伝子不明で病態形成の機序に不明な部分も多い。)
3.  効果的な治療方法
未確立(対症療法のみである。)
4.  長期の療養
必要(進行性であり、生涯治療を継続する必要がある。)
5.  診断基準
あり
6.  重症度分類
重症度分類を用いて重症度III度以上を対象とする。
 
○情報提供元
「びまん性肺疾患に関する調査研究班」
 研究代表者 浜松医科大学内科学第二講座 教授 須田隆文
 日本鼻科学会「線毛機能不全症候群の診療の手引き作成委員会」
 委員長 三重大学大学院医学研究科耳鼻咽喉・頭頸部外科 教授 竹内万彦

「日本鼻科学会」
「日本呼吸器学会」
「日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会」
「日本小児呼吸器学会」
 
 
 
<診断基準>
Definite、Probableを対象とする。
 
A主要項目
1.新生児では多呼吸、咳嗽などの呼吸器症状、肺炎、無気肺のいずれか。
  成人では気管支拡張症、あるいは細気管支炎。
2.慢性鼻副鼻腔炎
3.滲出性中耳炎あるいはその後遺症
4.内臓逆位あるいは内臓錯位
5.男性不妊症
6.同胞に線毛機能不全症候群を疑う家族歴
7.線毛機能異常(鼻粘膜または気管支粘膜の生検で上皮細胞を採取して高速ビデオ顕微鏡で線毛の動きの異常を認めるか、あるいは電子顕微鏡で微細構造の異常を認める)

B遺伝学的検査
線毛機能不全症候群に関連する遺伝子(ARMC4、CCDC39、CCDC40、CCDC65、CCDC103、CCDC114、CCDC151、CCNO、CFAP57、CFAP221、CFAP298、CFAP300、DNAAF1、DNAAF2、DNAAF3、DNAAF4、DNAAF5、DNAH1、DNAH5、DNAH8、DNAH9、DNAH11、DNAI1、DNAI2、DNAJB13、DNAL1、DRC1、GAS2L2、GAS8、HYDIN、LRRC56、LRRC6、MCIDAS、NEK10、NME5、NME8、RSPH1、RSPH3、RSPH4A、RSPH9、SPAG1、SPEF2、STK36、TP73、TTC12、TTC25、ZMYND10)の両アレルに病原性変異を認める。あるいはFOXJ1では片アレルに病原性変異を認める。あるいはOFD1, PIH1D3, RPGRでは、女性では両アレルに、男性では1つのアレルに病原性変異を認める。
 
C鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
嚢胞性線維症、原発性免疫不全症候群
 
 
<診断のカテゴリー>
Definite:Aの1~6のうち少なくとも1つを満たし、かつBのうち少なくとも1つを満たし、かつCの鑑別すべき疾患を除外したもの
Probable:Aの1~6のうち少なくとも1つおよびAの7を満たし、かつCの鑑別すべき疾患を除外したもの
 
 
<重症度分類>
以下の重症度分類を用いて、重症度III度以上を対象とする。

重症度 対標準1秒量(%FEV1)*
I %FEV1≧90%
II 90%>%FEV1≧70%
III 70%>%FEV1≧40%
IV 40%>%FEV1
* 対標準1秒量(%FEV1)=予測1秒量に対する比率
 
18歳以上の成人では、各医療施設で汎用されている日本呼吸器学会肺生理専門委員会(2001)の予測式をもとに算出する。
予測1秒量 FEV1(L) の計算式は次の通り (H:身長 cm、A:年齢 歳)
男性: 0.036×H–0.028×A–1.178
女性: 0.022×H–0.022×A–0.005

6歳以上18歳未満の小児では日本小児呼吸器学会肺機能委員会が2008年に策定した日本人小児スパイログラム基準値をもとに算出する。
日本人小児のFEV1(L)の基準値は次の通り(A:年齢(歳)、H:身長(m))
男児:3.347-0.1174xA+0.00790xA2-4.831xH+2.977xH2 (自由度修正済み決定係数: 0.9189)
女児:1.842+0.00161xA2-3.354xH+2.357xH2 (自由度修正済み決定係数: 0.8572)
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
令和6年4月1日

情報提供者
研究班名 びまん性肺疾患に関する調査研究班
研究班名簿
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和5年6月)