乳児発症STING関連血管炎(指定難病345)

にゅうじはっしょうすてぃんぐかんれんけっかんえん

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
自己炎症疾患は、自然免疫の制御異常による過剰な炎症性サイトカインの産生を特徴とする疾患で、様々な組織や臓器病変を呈する。2011年に遺伝性自己炎症疾患として、Ⅰ型インターフェロノパチーの概念が提唱された。乳児発症STING関連血管炎(Stimulator of interferon genes(STING)-associated vasculopathy with onset in infancy: SAVI)はⅠ型インターフェロノパチーに分類され、発症年齢は新生児期から成人期まで様々だが、通常乳児期早期から発症する。乳児期早期から全身性の炎症、皮膚血管炎、間質性肺疾患を特徴とする。2014年にSTINGをコードするSTING1遺伝子の機能獲得変異が原因であることが明らかになった。本疾患は、乳児期早期からの症状に対して治療介入が求められるが、従来の免疫抑制薬や副腎皮質ステロイドによる治療効果は限定的であり、呼吸器合併症に関連して致命的な経過をとることが多い。現在、新たな治療法が開発されている。
 
2.原因
インターフェロン(IFN)遺伝子刺激因子(Stimulator of interferon genes:STING)は、STING1遺伝子によってコードされるタンパクで、Ⅰ型IFNシグナルの活性化に介在する。STINGは通常、ウイルスや細菌由来の二本鎖DNAを細胞質内で感知するセンサーの補助因子として作用する。細胞がウイルスの侵入やサイトカインの刺激を受けると、STINGを介してⅠ型IFNが産生され、周辺の細胞ではIFN誘導性遺伝子(IFN-stimulated genes:ISGs)の転写が促進され、抗ウイルス活性が誘導される。乳児発症STING関連血管炎では、STINGの機能獲得変異によってI型インターフェロン産生が亢進する。STINGの恒常的な活性化によって血清インターフェロンαが上昇すると、T細胞ではSTAT1のリン酸化が亢進しISGsの転写が誘導される。乳児発症STING関連血管炎の大半はSTING1のヘテロ接合性機能獲得変異が原因となるが、ホモ接合性変異によって、慢性的にSTINGが活性化する症例も存在するため、遺伝子型と表現型についてさらなる検討を要する。
 
3.症状
乳児発症STING関連血管炎では、一般的に乳児期早期から全身性の炎症が遷延し、様々な臓器が障害される。乳児期から間質性肺疾患を発症し、肺線維症や肺気腫を合併することがある。間質性肺疾患は本疾患の約85%にみられ、生命予後に影響する重篤な合併症である。皮疹は、約80%に合併し、手指や足指など指趾先端に紅斑や紫斑がみられ、潰瘍や指趾壊疽、爪欠損を伴うことがある。また、耳や鼻、頬部など顔面に紅斑や紫斑が現れ、中央部が潰瘍化することもある。Ⅰ型IFNの持続的な過剰産生のため微熱を繰り返し、高熱を伴うこともある。約半数の症例でみられるが、症状は多様であり、発熱のトリガーや熱型などの詳細はわかっていない。関節炎は、約35%の症例でみられ、5歳あるいはそれ以前の早い時期に発症する。また、その他の症状として、肺炎や皮膚感染症などの感染症は約26%の頻度で報告されており、臓器障害あるいは全身性の免疫異常、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬による医原性など複数の原因が疑われるが、詳細な機序は不明である。自己免疫との関連が示唆される症状として、それぞれ10%未満の頻度で自己免疫性甲状腺炎、腎炎、筋炎がみられる。肝炎や胆管炎などの肝胆管異常が約4%で報告されている。
 
4.治療法
現時点で、SAVIに対する治療法は確立されていない。副腎皮質ステロイドや免疫調節薬、免疫グロブリン療法、アスピリンなどによる治療は、無効あるいは部分的な改善にとどまる。JAK阻害薬(Baricitinib)は、細胞内でSTAT1のリン酸化を抑制し、ISGsの転写を低下させる分子標的薬である。本剤によって、発熱発作の軽減、皮膚所見の著明な改善、間質性肺疾患の疾患活動性の低下が報告されている。
 
5.予後
発症月齢の中央値は約8.5ヶ月であり、生涯にわたり治療を要する。間質性肺疾患により、在宅酸素療法や呼吸器管理が必要になることもある。
 
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数(令和3年度医療受給者証保持者数)
10人未満
2.発病の機構
不明(STINGの機能獲得変異によってI型インターフェロン産生が亢進する)
3.効果的な治療方法
未確立(対症療法のみである)
4.長期の療養
必要
5.診断基準
あり(研究班作成)
6.重症度分類
研究班作成のものを用い、重症例を対象とする。
 
○ 情報提供元
難治性疾患政策研究事業「自己炎症性疾患とその類縁疾患における、移行期医療を含めた診療体制整備、患者登録推進、全国疫学調査に基づく診療ガイドライン構築に関する研究」
研究代表者 久留米大学小児科 教授 西小森隆太
 
 
<診断基準>
Definiteと Probable を対象とする。

A.症状・臨床所見
1.原因不明の間質性肺疾患または肺線維症
2.皮膚症状(凍瘡様皮疹、紅斑)または爪の欠損/形成異常(爪床毛細血管の不整や毛細血管係蹄の消失がみられる。)
3.乳児期から繰り返す発熱

B.検査所見
炎症反応(CRPまたは赤血球沈降速度)が施設基準値以上

C.遺伝学的検査
STING1に疾患関連遺伝子変異を認める
 
D.鑑別診断
他のⅠ型インターフェロノパチー、若年性特発性関節炎、特発性間質性肺炎、全身性強皮症、若年性皮膚筋炎、混合性結合組織病、全身性エリテマトーデス、サルコイドーシス、サイトメガロウイルス肺炎、ランゲルハンス細胞組織球症、リンパ脈管筋腫症など

<診断のカテゴリー>
Definite:Aの2項目以上を認め、BとCを満たす
Probable:Aの1もしくは2を認め、Cを満たし、Dを除外出来る
 
<参考事項>
・関節炎、甲状腺炎、糸球体腎炎、脳血管障害を伴うこともある。
・末梢血で、IgG高値、自己抗体抗核抗体、抗リン脂質抗体)陽性、I型IFN高値などがみられる。
・間質性肺疾患は両側性に認められ、蜂巣肺や傍気管リンパ節の腫脹を伴うこともある。本疾患に合併する間質性肺疾患に特徴的なCT所見はないが、膠原病に関連する間質性肺疾患や既知の遺伝性間質性肺疾患(サーファクタント代謝異常やマクロファージ機能異常に伴う間質性肺疾患、肺胞蛋白症)を除く。

<重症度分類>
以下のいずれかに該当する症例を対象とする。
1) modified Rankin Scale(mRS)が3以上
2) 呼吸評価スケールが3以上
3) 皮膚障害評価スケールが3以上

日本版modified Rankin Scale (mRS) 判定基準書

modified Rankin Scale

参考にすべき点

0

まったく症候がない

自覚症状および他覚徴候がともにない状態である

1

症候はあっても明らかな障害はない:
日常の勤めや活動は行える

自覚症状および他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である

2

軽度の障害:
発症以前の活動がすべて行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える

発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態である

3

中等度の障害:
何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしに行える

買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要としない状態である

4

中等度から重度の障害:
歩行や身体的要求には介助が必要である

通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である

5

重度の障害:
寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを必要とする

常に誰かの介助を必要とする状態である

6

死亡


呼吸評価スケール
0.症候なし
1.肺活量の低下などの所見はあるが、社会生活・日常生活に支障ない
2.呼吸障害のために軽度の息切れなどの症状がある
3.呼吸症状が睡眠の妨げになる、あるいは着替えなどの日常生活動作で息切れが生じる
4.喀痰の吸引あるいは間欠的な換気補助装置使用が必要
5.気管切開あるいは継続的な換気補助装置使用が必要

皮膚障害評価スケール
0.症候なし
1.手指・足趾、その他の皮膚に凍瘡様皮疹を認める
2.手指・足趾に潰瘍形成を認める
3.手指・足趾に壊疽、爪の欠損を認める
4.手指・足趾の壊疽、爪の欠損を10指趾以上に認める
5.すべての手指・足趾に、壊疽、爪の欠損を認める



※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。


 
令和7年4月1日

情報提供者
研究班名 自己炎症性疾患とその類縁疾患における、移行期医療を含めた診療体制整備、患者登録推進、全国疫学調査に基づく診療ガイドライン構築に関する研究班
研究班名簿
情報更新日 令和7年4月(名簿更新:令和6年6月)