ロウ症候群(指定難病348)
1.「ロウ症候群」とはどのような病気ですか?
ロウ症候群は先天性白内障、中枢神経症状(発達の遅れやけいれん等)、腎症状(ファンコニー症候群:後述)を特徴とする遺伝性疾患です。特に腎機能障害が進行性であり、末期腎不全へと至ります。1952年にイギリスのLowe(ロウ)らによって初めて報告され、この病名が付けられました。
2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?
有病率は人口10万人に数人と推定されています。日本における患者数は、2015年に行われた全国調査の結果から、約120人と推定されています。
3. この病気はどのような人に多いのですか?
遺伝性疾患であり、どのような人に多いという特徴はありません。
4. この病気の原因はわかっているのですか?
OCRL遺伝子の異常により、この病気が発症することが分かっています。OCRL遺伝子はphosphatidylinositol (4,5) bisphosphate 5 phosphataseという酵素蛋白を産生します。OCRL遺伝子異常があると酵素活性が低下し、イノシトールリン脂質という物質が蓄積するため、細胞の骨格の維持や細胞膜での物質の輸送などに異常をきたすと考えられています。その結果、腎臓での物質の再吸収障害が起きます。眼症状や中枢神経症状を起こす機序については分かっていません。
5. この病気は遺伝するのですか?
この病気は「X染色体連鎖型遺伝」という形式の遺伝性疾患ですが、親から遺伝する場合とそうでない場合があります。X染色体連鎖型とは、変異した遺伝子がX染色体(性染色体の1つ)に存在することを言います。性染色体として、男性はX染色体とY染色体を持っており、女性はX染色体を2本持っています。女性は片方のX染色体に変異を持っていても発症しません(保因者と言います)。男性はX染色体を1本しか持っていないため、それに変異があると発症します。保因者の女性の子が男の子なら50%の確率で変異が遺伝し発症します。女の子なら50%の確率で保因者となります。また、X染色体に変異を持っている男性の子が男の子なら発症せず、女の子なら100%の確率で保因者となります。一方、親に変異がなく、子ども(男の子)だけが変異をもっている場合があります。その場合、次子が発症する、あるいは保因者になる可能性はきわめて低くなります。
6. この病気ではどのような症状がおきますか?
眼・中枢神経・腎臓に症状が現れます。眼症状としては、生まれつきの白内障が特徴的です。また、半数程度の患者さんに重度の緑内障がみられます。中枢神経症状としては、運動発達や精神発達の遅れ、強迫的な行動異常、けいれんが見られます。腎症状としては、体にとって必要な物質(カルシウムやリン、重炭酸など)が漏れてしまう状態(ファンコニー症候群と言います)となります。また、低分子蛋白(β2ミクログロブリン)も大量に漏れるため、この病気では尿中β2ミクログロブリンが異常高値となります。腎臓の石灰化・尿路結石を起こすことがあります。腎機能障害が徐々に進行し30〜40歳代で末期腎不全に至ることが多いです。歯列の異常や、歯肉増殖、顎の発育不全、噛み合わせの異常がみられることがあります。女性の保因者は症状がありませんが、眼の水晶体に微細な白濁がみられます。
7. この病気にはどのような治療法がありますか?
眼症状に関しては先天性白内障に対して生後早期に手術を行います。視力障害に対しては眼鏡の処方が行われます。緑内障がある場合はその治療を行います。中枢神経症状としてけいれん、行動異常が日常生活で問題となる場合は抗けいれん薬をはじめとした薬剤による治療を行います。精神発達遅滞に対しては言語療法・作業療法が勧められます。腎症状に関して、ファンコニー症候群による重炭酸、リン等の喪失に対しては内服により補充します。徐々に進行する腎不全をくい止める治療は確立しておらず、腎機能が低下した場合は、腎不全により生じた症状に対して対症療法(薬剤投与など)を行います。末期腎不全に至った場合は腎代替療法(血液透析・腹膜透析・腎移植)の検討が必要ですが、腎代替療法を実施した症例の報告は乏しく、個々の患者さんそれぞれの状態に応じて考慮する必要があります。歯列の異常に対しては口腔ケアや歯列矯正が考慮されます。
8. この病気はどういう経過をたどるのですか?
長期でみると、徐々に進行する腎不全が生命を規定する因子となります。腎代替療法(透析や腎移植)に関しては前述したとおり報告が乏しく、どういう方法をとるのが良いのか統一した見解はありません。また、呼吸器感染症やけいれん発作による死亡や突然死も報告されています。
9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか?
けいれん発作は日常生活で起こり得るため注意が必要です。また、視力障害がみられますので眼鏡の装用をはじめとした注意が必要です。多臓器にわたる異常が見られますので継続した医療機関受診、内服の継続が重要と考えられます。
10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。
眼・脳・腎症候群
11. この病気に関する資料・関連リンク
厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 小児腎領域の希少・難治性疾患群の全国診療・研究体制の構築 ロウ症候群
https://pckd.jpn.org/disease/lowe-syndrome.html
小児慢性特定疾病情報センターホームページ ロウ症候群
https://www.shouman.jp/disease/details/02_21_051/