遅発性内リンパ水腫(指定難病305)

ちはつせいないりんぱすいしゅ
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
遅発性内リンパ水腫とは、陳旧性高度感音難聴の遅発性続発症として内耳に内リンパ水腫が生じ、めまい発作を反復する内耳性めまい疾患である。片耳又は両耳の高度感音難聴が先行し、数年から数十年の後にめまい発作を反復するが、難聴は変動しない。
 
2.原因
原因は不明である。先行した高度感音難聴の病変のため、長い年月を経て高度感音難聴耳の内耳に続発性内リンパ水腫が生じ、内リンパ水腫によりめまい発作が発症すると推定されている。
 
3.症状
先行する高度感音難聴には若年性一側聾が多いが、側頭骨骨折、ウイルス性内耳炎、突発性難聴による難聴のこともある。数年から数十年の後に回転性めまい発作を反復する。めまいの発作期には強い回転性めまいに嘔吐を伴い、安静臥床を要する。めまいは、初期には軽度の平衡障害にまで回復するが、めまい発作を繰り返すと平衡障害が進行して重症化し、日常生活を障害する。難聴は、陳旧性高度感音難聴のため不可逆性である。めまい発作を繰り返すと不可逆性の高度平衡障害が残存する。これが遅発性内リンパ水腫の後遺症期であり、患者のQOLを大きく障害する。
 
4.治療法
根治できる治療方法はない。遅発性内リンパ水腫のめまい発作を予防するためには、利尿薬などの薬物治療が行われる。発作の誘因となる患者の生活環境上の問題点を明らかにし、生活改善とストレス緩和策を行わせる。保存的治療でめまい発作が抑制されない難治性の遅発性内リンパ水腫患者には、次第に侵襲性の高い治療:中耳加圧療法、内リンパ嚢開放術、ゲンタマイシン鼓室内注入術などの選択的前庭機能破壊術を行う。
 
5.予後
治療によってもめまい発作の反復を抑制できない難治性遅発性内リンパ水腫患者では、すでに障害されている蝸牛機能に加えて、前庭機能が次第に障害され重症化する。後遺症期になると永続的な平衡障害と高度難聴が持続し、患者のQOLも高度に障害される。後遺症期の高齢者は平衡障害のため転倒しやすく骨折により長期臥床から認知症に至るリスクが高まる。さらに高度難聴によるコミュニケーション障害も認知症を増悪させる。
 
 
 
○ 要件の判定に必要な事項
1. 患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満
2.  発病の機構
不明(長い年月を経て高度感音難聴耳の内耳に生じる内リンパ水腫によると推定されている。)
3.  効果的な治療方法
未確立(対症療法のみで、根治できる治療法はない。)
4.  長期の療養
必要(進行性で、後遺症期になると永続的な高度平衡障害と高度難聴が持続する。)
5.  診断基準
あり(日本めまい平衡医学会作成の診断基準あり。)
6.  重症度分類
重症度分類3項目の全てが4点以上を対象とする。
 
○ 情報提供元
「難治性聴覚障害に関する調査研究班」
研究代表者 信州大学医学部人工聴覚器学講座 特任教授 宇佐美真一
 
 
<診断基準>
Definiteを対象とする。
 
日本めまい平衡医学会作成の診断基準
 
A.症状
1.片耳又は両耳が高度難聴ないし全聾。
2.難聴発症より数年~数十年経過した後に、発作性の回転性めまい(時に浮動性)を反復する。めまいは誘因なく発症し、持続時間は10分程度から数時間程度。数秒~数十秒程度のきわめて短いめまいや頭位によって誘発されるめまいが主徴の場合は遅発性内リンパ水腫とは診断できない。嘔気・嘔吐を伴うことが多い。めまい発作の頻度は週数回の高頻度から年数回程度まで多様であるが、1日に複数回の場合は遅発性内リンパ水腫とは診断できない。
3.めまい発作に伴って聴覚症状が変動しない。
4.第VIII脳神経以外の神経症状がない。
 
B.検査所見
1.純音聴力検査において片耳又は両耳が高度感音難聴ないし全聾を認める。
2.平衡機能検査において難聴耳に半規管麻痺を認める。
3.平衡機能検査においてめまい発作に関連して水平性又は水平回旋混合性眼振や体平衡障害などの内耳前庭障害の所見を認める。
4.神経学的検査においてめまいに関連する第VIII脳神経以外の障害を認めない。
5.耳鼻咽喉科学的検査、純音聴力検査、平衡機能検査、神経学的検査、画像検査、生化学的検査などにより、遅発性内リンパ水腫と同様の難聴を伴うめまいを呈する中耳炎性内耳炎によるめまい、外リンパ瘻、内耳梅毒、聴神経腫瘍、神経血管圧迫症候群などの内耳・後迷路性めまい疾患、小脳、脳幹を中心とした中枢性めまい疾患など、原因既知のめまい疾患を除外する。具体的には、耳鼻咽喉科学的検査で中耳炎を認め画像検査で中耳炎による内耳瘻孔を認める場合(中耳炎性内耳炎によるめまい)、中耳貯留液に外リンパ特異蛋白CTPが陽性の場合(外リンパ瘻)、生化学的検査で梅毒反応が陽性の場合(内耳梅毒)、画像検査で小脳橋角部の異常を認める場合(聴神経腫瘍、神経血管圧迫症候群)、画像検査で小脳・脳幹に異常を認める場合(中枢性めまい疾患)には遅発性内リンパ水腫とは診断できない。
 
C.鑑別診断
耳鼻咽喉科学的検査、純音聴力検査、平衡機能検査、神経学的検査、画像検査、生化学的検査などにより中耳炎性内耳炎によるめまい、外リンパ瘻、内耳梅毒、聴神経腫瘍、神経血管圧迫症候群などの内耳・後迷路性めまい疾患、小脳、脳幹を中心とした中枢性めまい疾患など原因既知のめまい疾患を除外した上で、めまいを伴う突発性難聴、メニエール病、良性発作性頭位めまい症、前庭神経炎を鑑別する。めまいを伴う突発性難聴は、高度難聴の発症とともにめまいが発症するが、めまい発作を反復しない点で遅発性内リンパ水腫と鑑別される。メニエール病はめまい発作に伴って聴覚症状が変動する点から遅発性内リンパ水腫と鑑別される。良性発作性頭位めまい症は頭位によって誘発される数秒~数十秒程度のきわめて短いめまいである点、めまいに伴って聴覚症状が変動しない点から遅発性内リンパ水腫と鑑別される。前庭神経炎はめまい発作を反復しない点、めまい発作に伴って聴覚症状が変動しない点から遅発性内リンパ水腫と鑑別される。
 
<診断のカテゴリー>
Definite:A.症状の4項目+B.検査所見の1~4を満たしC.鑑別すべき疾患を除外したもの。
Probable:A.症状の4項目+B.検査所見の1、4を満たすが2と3を満たさずC.鑑別すべき疾患を除外したもの。
 
<重症度分類>
重症度分類3項目の全てが4点以上を対象とする。

A:平衡障害・日常生活の障害
0点:正常
1点:日常活動が時に制限される(可逆性の平衡障害)。
2点:日常活動がしばしば制限される(不可逆性の軽度平衡障害)。
3点:日常活動が常に制限される(不可逆性の高度平衡障害)。
4点:日常活動が常に制限され、暗所での起立や歩行が困難(不可逆性の両側性高度平衡障害)。
注:不可逆性の両側性高度平衡障害とは、平衡機能検査で両側の半規管麻痺を認める場合。

B:聴覚障害
0点:正常
1点:可逆的(低音部に限局した難聴)
2点:不可逆的(高音部の不可逆性難聴)
3点:高度進行(中等度以上の不可逆性難聴)
4点:両側性高度進行(中等度以上の両側性不可逆性難聴)
注:中等度以上の両側性不可逆性難聴とは、純音聴力検査で平均聴力が両側40dB以上で40dB未満に改善しない場合。

C:病態の進行度
0点:生活指導のみで経過観察を行う。
1点:可逆性病変に対して保存的治療を必要とする。
2点:保存的治療によっても不可逆性病変が進行する。
3点:保存的治療に抵抗して不可逆性病変が高度に進行し、侵襲性のある治療を検討する。
4点:不可逆性病変が高度に進行して後遺症を認める。

※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

令和6年4月1日

  • 日本めまい平衡医学会ホームページ「診療ガイドライン等」
    http://www.memai.jp/
情報提供者
研究班名 難治性聴覚障害に関する調査研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和6年6月)