バッド・キアリ症候群(指定難病91)

ばっどきありしょうこうぐん
 

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○ 概要
 
1.概要  
バッド・キアリ症候群とは、肝静脈の主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄により門脈圧亢進症に至る症候群をいう。本邦では両者を合併している病態が多い。重症度に応じ易出血性食道・胃静脈瘤、異所性静脈瘤、門脈圧亢進症性胃腸症、腹水、肝性脳症、出血傾向、脾腫、貧血、肝機能障害、下腿浮腫、下肢静脈瘤、胸腹壁の上行性皮下静脈怒張などの症候を示す。多くは発症時期が不明で慢性の経過(アジアに多い)をとり、うっ血性肝硬変に至ることもあるが、急性閉塞や狭窄により急性症状を呈する場合(欧米に多い)も見られる。アジアでは下大静脈の閉塞が多く、欧米では肝静脈閉塞が多い。分類として、原発性バッド・キアリ症候群と続発性バッド・キアリ症候群とがある。病状が進行すると肝細胞癌を合併することがある。肝静脈末梢枝の非血栓性閉塞により生じる静脈閉塞性疾患(veno‐occlusive disease)とは区別される。
 
2.原因
本症の病因は明らかでない例が66%と多く、中でも我が国では肝部下大静脈膜様閉塞例が中村らの報告では85%と多い。肝部下大静脈の膜様閉塞や肝静脈起始部の限局した狭窄や閉塞例は、アジア、アフリカ地域で多く、欧米では少ない。原発性バッド・キアリ症候群の病因は未だ不明であるが、血栓、血管形成異常、血液凝固異常、骨髄増殖性疾患の関与が言われている。続発性バッド・キアリ症候群をきたすものとしては肝腫瘍などがある。
本症の発生は、先天的血管形成異常説が考えられてきたが、最近では、本症の発症が中高年以降で多いことや、膜様構造や肝静脈起始部の狭窄や閉塞が血栓とその器質化によってその発生が説明できることから後天的な血栓説も考えられている。
これに対して欧米においては、肝静脈閉塞の多くは基礎疾患を有することが多く、Mitchelは70%と報告している。基礎疾患としては、血液疾患(真性多血症、発作性夜間血色素尿症、骨髄線維症)、経口避妊剤の使用、妊娠出産、腹腔内感染、血管炎(ベーチェット病、全身性エリテマトーデス)、血液凝固異常(antithrombinⅢ欠損症、protein C欠損症)などの血栓を生じやすい疾患に多い。
 
3.症状
発症形式により急性型と慢性型に分けられる。急性型は一般に予後不良であり、腹痛、嘔吐、急速な肝腫大及び腹水にて発症し、1~4週間で肝不全により死の転帰をたどる重篤な疾患であるが、本邦では極めて稀である。一方、慢性型は80%を占め、多くの場合は無症状に発症し、次第に下腿浮腫、腹水、腹壁皮下静脈怒張、食道・胃静脈瘤を認める。
 
4.治療法
肝静脈閉塞や門脈圧亢進による症状を改善することが治療目標となる。肝静脈主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞ないし狭窄に対しては臨床症状、閉塞・狭窄の病態に対応して、カテーテルによる開通術や拡張術、ステント留置あるいは閉塞・狭窄を直接解除する手術、又は閉塞・狭窄部上下の大静脈のシャント手術などを選択する。急性症例で、肝静脈末梢まで血栓閉塞している際には、肝切離し、切離面-右心房吻合術も選択肢となる。肝不全例に対しては、肝移植術を考慮する。また、門脈圧亢進による症状が主である症例に対しては食道胃静脈瘤に対する治療を行う。
 
5.予後
発症形式により急性型と慢性型に分けられる。 急性型は一般に予後不良であり、腹痛、嘔吐、急速な肝腫大及び腹水にて発症し、1~4週で肝不全により死の転帰をとる重篤な疾患であるが、本邦では極めて稀である。一方、慢性型は約80%を占め、多くの場合は無症状に発症し、次第に下腿浮腫、腹水、腹壁皮下静脈怒張、食道・胃静脈瘤を認める。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
208人
2.発病の機構
不明
3.効果的な治療方法
未確立(門脈圧亢進に対する対症療法が主となる)
4.長期の療養
必要(進行性に下腿浮腫、腹水、腹壁皮下静脈怒張をきたす)
5.診断基準
あり
6.重症度分類
門脈血行異常症の診断と治療のガイドライン2018年改訂版(2018年)におけるバッド・キアリ症候群重症度分類の重症度Ⅲ度以上を対象とする。
 
○ 情報提供元
「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究班」 
 研究代表者  帝京大学医学部内科学講座  主任教授  田中 篤 
 同研究班  門脈血行異常症分科会・分科会長 久留米大学先端癌治療研究センター 客員教授 鹿毛政義 
日本肝臓学会 
 当該疾病担当者  帝京大学医学部内科学講座  教授  田中 篤
日本門脈圧亢進症学会
 当該疾病担当者  東京女子医科大学足立医療センター検査科光学診療部  准教授 古市好宏
 
 
<診断基準>
1 主要項目
(1) 一般検査所見
① 血液検査:一つ以上の有形成分の減少を示す(骨髄像では幼若細胞の相対的増加を伴うことが多 い)。
② 肝機能検査:正常から高度異常まで重症になるに従い障害度が変化する。
③ 内視鏡検査:しばしば上部消化管の静脈瘤を認める。門脈圧亢進症性胃腸症や十二指腸、胆管周囲、下部消化管などにいわゆる異所性静脈瘤を認めることがある。
(2) 画像検査所見
① 超音波、CT、MRI、腹腔鏡検査
1. 肝静脈主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄が認められる。超音波ドプラ検査では肝静脈主幹や肝部下大静脈の逆流ないし乱流がみられることがあり、また肝静脈血流波形は平坦化あるいは欠如することがある。
2. 門脈本幹、肝内門脈枝は開存している。
3. 脾腫を認める。
4. 肝臓のうっ血性腫大を認める。特に尾状葉の腫大が著しい。 肝硬変に至れば、肝萎縮となることもある。
② 下大静脈、肝静脈造影および圧測定
肝静脈主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄を認める。肝部下大静脈閉塞の形態は膜様閉塞から広範な閉塞まで各種存在する。また同時に上行腰静脈、奇静脈、半奇静脈などの側副血行路が造影されることが多い。著明な肝静脈枝相互間吻合を認める。肝部下大静脈圧は上昇し、肝静脈圧や閉塞肝静脈圧も上昇する。
(3) 病理検査所見
① 肝臓の肉眼所見:急性期のうっ血性肝腫大、慢性うっ血に伴う肝線維化、肝実質の脱落と再生、進行するとうっ血性肝硬変の所見を呈する。
② 肝臓の組織所見:急性のうっ血では、肝小葉中心帯の類洞の拡張が見られ、うっ血が高度の場合には中心帯に壊死が生じる。うっ血が持続すると、肝小葉の逆転像(門脈域が中央に位置し肝細胞集団がうっ血帯で囲まれた像)や中心帯領域に線維化が生じ、慢性うっ血性変化が見られる。さらに線維化が進行すると、主に中心帯を連結する架橋性線維化が見られ、線維性隔壁を形成し肝硬変の所見を呈する。
(4) 診断
 主に画像検査所見を参考に確定診断を得る。二次性バッド・キアリ症候群については原因疾患を明らかにする。
2 指定難病の対象範囲
指定難病の対象は、主に画像検査所見において、肝静脈の主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄を認め、門脈圧亢進症所見を有する症例とし、二次性のものは除外する。
3 参考事項
肝静脈の主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄により門脈圧亢進症に至る症候群をいう。重症度に応じ易出血性食道・胃静脈瘤、異所性静脈瘤、門脈圧亢進症性胃症、腹水、出血傾向、脾腫、貧血、肝機能障害、下腿浮腫、下肢静脈瘤、胸腹壁の上行性皮下静脈怒張などの症候を示す。多くは慢性の経過をとるが、急性閉塞や狭窄も起こり得る。
原因の明らかでない一次性バッド・キアリ症候群と原因の明らかな二次性バッド・キアリ症候群とがある。二次性バッド・キアリ症候群の原因として肝癌、転移性肝腫瘍、うっ血性心疾患などがある。
 
 
<重症度分類>
門脈血行異常症の診断と治療のガイドライン(2013年)におけるバッド・キアリ症候群重症度分類
重症度Ⅲ度以上を対象とする。
 
重症度Ⅰ:診断可能だが、所見は認めない。
重症度Ⅱ:所見を認めるものの、治療を要しない。

重症度Ⅲ:所見を認め、治療を要する。
重症度Ⅳ:身体活動が制限され、介護も含めた治療を要する。
重症度Ⅴ:肝不全ないしは消化管出血を認め、集中治療を要する。
 
(付記)
1.食道・胃・異所性静脈瘤
(+):静脈瘤を認めるが、易出血性ではない。
(++):易出血性静脈瘤を認めるが、出血の既往がないもの。易出血性食道・胃静脈瘤とは「食道・胃静脈瘤内視鏡所見記載基準(日本門脈圧亢進症学会)「門脈圧亢進症取り扱い規約(第3版、2013年)」に基づき、F2以上のもの、またはF因子に関係なく発赤所見を認めるもの。異所性静脈瘤の場合もこれに準じる。
(+++):易出血性静脈瘤を認め、出血の既往を有するもの。異所性静脈瘤の場合もこれに準じる。
2.門脈圧亢進所見
(+):門脈圧亢進症性胃腸症、腹水、出血傾向、脾腫、貧血のうち一つもしくは複数認めるが、治療を必要としない。
(++):上記所見のうち、治療を必要とするものを一つもしくは複数認める。
3.身体活動制限
(+):当該3疾患による身体活動制限はあるが歩行や身の回りのことはでき、日中の50%以上は起居している。
(++):当該3疾患による身体活動制限のため介助を必要とし、日中の50%以上就床している。
4.消化管出血
(+):現在、活動性もしくは治療抵抗性の消化管出血を認める。
5.肝不全
(+):肝不全の徴候は、血清総ビリルビン値3mg/dl以上で肝性昏睡度(日本肝臓学会昏睡度分類、第12回犬山シンポジウム、1981)Ⅱ度以上を目安とする。
6.異所性静脈瘤とは、門脈領域の中で食道・胃静脈瘤以外の部位、主として上・下腸間膜静脈領域に生じる静脈瘤をいう。すなわち胆管・十二指腸・空腸・回腸・結腸・直腸静脈瘤、及び痔などである。
7.門脈亢進症性胃腸症は、組織学的には、粘膜層・粘膜下層の血管の拡張・浮腫が主体であり、門脈圧亢進症性胃症と門脈圧亢進症性腸症に分類できる。門脈圧亢進症性胃症では、門脈圧亢進に伴う胃体上部を中心とした胃粘膜のモザイク様の浮腫性変化、点・斑状発赤、粘膜出血を呈する。門脈圧亢進症性腸症では、門脈圧亢進に伴う腸管粘膜に静脈瘤性病変と粘膜血管性病変を呈する。
 
表1

因子/重症度

食道・胃・異所性静脈瘤

++

+++

+++

門脈圧亢進所見

++

++

++

身体活動制限

++

++

消化管出血

肝不全

※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態で、直近6ヵ月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要な者については、医療費助成の対象とする。
 

情報提供者
研究班名 難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和6年6月)