シャルコー・マリー・トゥース病(指定難病10)
しゃるこーまりーとぅーすびょう
(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)
「シャルコー・マリー・トゥース病(Charcot-Marie-Tooth病:CMT)」とはどのような病気ですか
- 1886年にCharcot,Marie、Toothの3人によって報告された最も頻度の高い主に遺伝子変異による末梢神経疾患の総称です。CMTの中核症状は、末梢神経障害による四肢遠位部優位の筋力低下や感覚低下などです。遺伝子変異の種類にもよりますが、基本的に男女差はありません。CMTは、通常0歳~20歳頃までに発症しますが、50〜60歳にも発症のピークがあります。
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原因はなんですか
- 80種類上の原因遺伝子が明らかになっています。末梢神経にかかわる遺伝子の変異により、末梢神経に機能異常をきたして発症します。細かなメカニズムは、はっきりしていないことも多いです。
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診断はどのようにするのですか
- CMTの診断は、問診、神経学的診察、電気生理学的検査、遺伝子検査で行われます。問診と神経学的診察でCMTが疑われた場合には、末梢神経の働きを調べる神経伝導検査を行います。必要に応じて、針筋電図検査、神経超音波検査、神経生検(足のくるぶしのところにある腓腹神経の生検です)なども行います。神経超音波検査は痛くありませんが、神経伝導検査、針筋電図検査、神経生検は痛みを伴います。これらの検査で異常が見られた場合には、遺伝子検査にて確定診断となります。遺伝子検査は採血検査のみで実施できます。PMP22遺伝子のFISH法という検査は健康保険が適用されますが、他の遺伝子検査は大学の研究室での解析になります。
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この病気は遺伝するのですか
- CMTの遺伝様式には、常染色体顕性遺伝(優性遺伝)(両親のどちらかに症状があって、だいたい50%の確率で子供に遺伝するもの)、常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)(両親には症状がなくても子供に発症することがあるもの)、X染色体性遺伝(X染色体上の遺伝子の変異で発症するもの)などがあり、遺伝子が関係していても、親から子供に必ず遺伝するわけではないことに注意する必要があります。CMTの特徴は、「遺伝的多様性」と言われています。「遺伝的多様性」とは、異なる遺伝子の変異によって、類似の神経症状が出現するということです。つまり、遺伝子Aの変異でも、遺伝子Bの変異でも、区別がつきにくい同じような手足の筋力低下、足の変形、感覚障害というCMTに共通した症状が出現するということです。逆に、同じ遺伝子の変異でも異なる症状を示す場合もあります。多くの原因がありますが、その中でもっとも多いのがPMP22というタンパク質をコードしている遺伝子の変異です。CMTの約40%の患者さんは、この遺伝子の変異であることが知られています(CMT1A型と言います)。
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この病気にはどのような治療法がありますか
- 現時点ではCMTに明確に効果があると科学的に証明された治療はありません。CMTのモデル動物では、オナプリストンという抗ホルモン剤や、ビタミンB12、クルクミンなどの治療効果が報告されていますが、現時点ではこれらの薬剤のヒトでの安全性や臨床効果については十分検討されていません。最近、CMT1Aに対するアスコルビン酸投与試験がわが国と欧米で行われました。CMT1Aのモデル動物では有効性が見られたので期待されましたが、いずれの試験でもCMT1Aに対するアスコルビン酸の有効性は証明されませんでした。遺伝子変異の種類が多いので、すべてのCMTに共通する治療は難しいのですが、遺伝子に直接影響を与える遺伝子治療薬が開発されつつあります。CMTの約0.5%に治療薬がすでにあるATTRvアミロイドーシスの方がいることがわかってきています。将来の遺伝子治療に向けて、遺伝子診断をしておくことも重要な時代になってきました。また、CMTに対しての歩行リハビリテーションとしてHAL医療用下肢タイプによる「歩行運動処置(ロボットスーツによるもの)」が2016年から保険適用になっています。歩行機能を改善する効果が得られています(現時点では同機器が導入された医療機関での使用に限られています)。
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この病気はどういう経過をたどるのですか
- CMTの経過については、原因となっている遺伝子変異の種類や本人の体質や生活習慣によって異なりますが、一般的には筋力低下、感覚障害が緩徐に進行していきます。急に悪くなる時にはほかの病気が加わっている可能性があります。厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業CMT研究班(CMT研究班)の調査では、多くの方は生涯自力歩行または杖歩行が可能ですが、車椅子を使用される方は約20%、寝たきりになる方は1%とされています。
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