全身性強皮症(指定難病51)
1. 全身性強皮症とは |
強皮症には全身性強皮症と限局性強皮症(※)があり、両者は全く異なる疾患ですので、この区別がまず重要です。限局性強皮症は皮膚のみの病気で、内臓を侵さない病気です。 一方、全身性強皮症は皮膚や内臓が硬くなる変化(硬化(※)あるいは線維化(※)といいます)が特徴です。 限局性強皮症の患者さんが、医師から単に「強皮症」とだけいわれて、全身性強皮症と間違えて不必要な心配をしていることがしばしばありますので注意が必要です。 次に大切な点は全身性強皮症の中でも病気の進行や内臓病変を起こす頻度は患者さんによって大きく異なるということです。患者さんによっては病気はほとんど進行しないことから、従来欧米で使われていた「進行性」全身性硬化症という病名の「進行性」という部分はこの病気には適切でないことから、今は使われなくなりました。 このように全身性強皮症の中でもいろいろなタイプ(病型といいます)があることがわかってきたことから、国際的には全身性強皮症を大きく2つに分ける病型分類が広く用いられています。 つまり、典型的な症状を示す「びまん皮膚硬化型全身性強皮症」と比較的軽症型の「限局皮膚硬化型全身性強皮症」に分けられています。 前者は発症より5~6年以内は進行することが多く、後者の軽症型では進行はほとんどないか、あるいはゆっくりです。この病型分類のどちらに当てはまるかによって、その後の病気の経過や内臓病変の合併についておおよそ推測ができるようになりました。 |
2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか |
本邦での全身性強皮症患者は2万人以上いると確認されています。 全身性強皮症はレイノー症状(※) から発症することが多いのですが、その中には皮膚硬化(※)がゆっくりとしか進行しない患者さんも多く、病気に気が付かなかったり、医療機関を受診しても診断されなかったりすることもしばしばあり、このような軽症型の全身性強皮症を含めると患者数は数倍以上になると推定されています。 |
3. この病気はどのような人に多いのですか |
男女比は1:12であり、30~50歳代の女性に多く見られます。ごく稀に小児期に発症することもあります。 |
4. この病気の原因はわかっているのですか |
全身性強皮症の病因は複雑であり、はっきりとはわかっていません。しかし、研究の進歩によって3つの異常が重要であることが明らかとなりました。その3つの異常とは(1)免疫異常( 自己抗体 を産生(後述します))、(2) 線維化 (線維芽細胞の活性化によって生じます)、(3)血管障害(その結果、レイノー症状や指先の潰瘍などが生じます)です。それぞれの異常についてはだんだんわかってきましたが、まだこの3つの異常がお互いにどの様に影響し合って全身性強皮症という病気になるのかがわかっていません。全身性強皮症の病因をジグソー・パズルに例えると、一つ一つのピースはだんだん集まってきましたが、まだいくつかの重要なピースが欠けていて、全体のジグソー・パズルが完成していない状態といえると思います。 |
5. この病気は遺伝するのですか |
全身性強皮症はいわゆる遺伝病ではなく、遺伝はしません。しかし、全身性強皮症にかかりやすいかどうかを決定する遺伝子(疾患感受性遺伝子といいます)は存在すると考えられています。これら疾患感受性遺伝子は一個ではなく、多数存在し、一つだけをもっていても全身性強皮症にはなりません。多数ある疾患感受性遺伝子のセットを一人の人が、たまたまもっていると全身性強皮症になりやすいと考えられますが、それでもまだ不十分です。これら疾患感受性遺伝子に加えて、生まれてからの環境なども全身性強皮症の発症に複雑に関与すると考えられています。 |
6. この病気ではどのような症状がおきますか |
|
7. この病気にはどのような治療法がありますか |
現在のところ、全身性強皮症を完全によくする薬剤はありません。しかし、あきらめないで下さい。最近の進歩によって、ある程度の効果を期待できる治療法は開発されてきました。特に発症から5~6年以内の「びまん型全身性強皮症」では治療の効果が最も期待できます。代表的な治療法として、(1)ステロイド少量内服(皮膚硬化に対して)、(2)リツキシマブ(皮膚硬化に対して)、(3)シクロホスファミド(間質性肺疾患に対して)、(4)マルチキナーゼ阻害薬(間質性肺疾患に対して)(5)プロトンポンプ阻害薬(逆流性食道炎に対して)、(6)プロスタサイクリン(血管病変に対して)、(7)ACE阻害薬(強皮症腎クリーゼに対して)、(8)エンドセリン受容体拮抗薬( 肺高血圧 症、手指潰瘍の予防に対して)などが挙げられます。一方、前述した「限局皮膚硬化型全身性強皮症」では皮膚硬化の範囲も狭く、重い内臓病変もないため、症状を抑える治療法(対症療法)が主体となります。現在、研究班では全国の患者さんができるだけ早く、一番効果が期待できる治療が受けられるように、内臓各臓器ごとの重症度分類を作成し、その重症度に従って最も適切と考える治療の選択肢を示した「全身性強皮症の診断基準・重症度分類・診療ガイドライン」を公表しています。(強皮症研究会議のホームページで見ることができます。) |
8. この病気はどういう経過をたどるのですか |
全身性強皮症の経過を予測するとき、典型的な症状を示す「びまん皮膚硬化型全身性強皮症」と比較的軽症型の「限局皮膚硬化型全身性強皮症」が役に立ちます。「びまん皮膚硬化型全身性強皮症」では発症5~6年以内に皮膚硬化の進行および内臓病変が出現してきます。不思議なことですが、発症5~6年を過ぎると、皮膚は徐々に柔らかくなってきます。つまり、皮膚硬化は自然に良くなるのです。しかし、内臓病変は元にはもどりません。ですから、発症5~6年以内で、できるだけ早期に治療を開始して、内臓病変の合併や進行をできるだけ抑えることが極めて重要なのです。一方、「限局皮膚硬化型全身性強皮症」ではその皮膚硬化の進行はないか、あってもごくゆっくりです。また、例外を除いて 重篤 な内臓病変を合併することはありませんので、生命に関して心配する必要はありません。 では、この「びまん皮膚硬化型全身性強皮症」と「限局皮膚硬化型全身性強皮症」を区別する最も大切な目印は何でしょうか?それは自己抗体の種類です。自己抗体とは自分の細胞に向けられた抗体です。全身性強皮症では抗セントロメア抗体(※)、抗トポイソメラーゼI(Scl-70)抗体(※)、抗U1RNP抗体(※)、抗RNAポリメラーゼ抗体(※)などが検出されます。抗トポイソメラーゼI(Scl-70)抗体や抗RNAポリメラーゼ抗体は「びまん皮膚硬化型全身性強皮症」の目印であり、一方、抗セントロメア抗体は「限局皮膚硬化型全身性強皮症」の目印となります。 |
※印に関する詳しい内容を参照する(PDFファイル) |
9. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。 |
該当する病名はありません。 |
10. この病気に関する資料・関連リンク |
強皮症研究会議のホームページ |
(公財)難病医学研究財団
- MT-0551の全身性強皮症患者を対象とした第3相試験(プラセボを対照薬とした二重盲検比較試験)
- 全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(SSc-ILD)を有する成人患者を対象としたベリムマブ皮下投与の有効性及び安全性を評価する第 II/III 相、ランダム化、二重盲検、プラセボ対照、並行群間試験
研究班名 | 強皮症・皮膚線維化疾患の診断基準・重症度分類・診療ガイドライン・疾患レジストリに関する研究班 研究班名簿 研究班ホームページ |
---|---|
情報更新日 | 令和4年12月(名簿更新:令和6年6月) |